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(sic)boy, KM『CHAOS TAPE』

ふたりが描き出すカオティックな街、東京。1年に渡るコラボレーションの集大成的アルバム試聴会レポート & 全曲解説

(sic)boyとプロデューサー/DJのKMによるコラボ・アルバム『CHAOS TAPE』が10月28日(水)にリリースされた。その前日には東京・南新宿に位置するSpincoaster Music Barにてオンライン全曲試聴が開催。当日はアルバムに客演参加しているJUBEE(CreativeDrugStore)、vividboooyも駆けつけ、視聴者のコメントにもリアルタイムで答えつつ、生配信ならではのインタラクティブなストリーミング・パーティとなった。

本稿では、当日の本人たちの会話や様子をお伝えしつつ、(sic)boyとKMによるおよそ1年にも渡るコラボーレーションの集大成的作品『CHAOS TAPE』の全貌を紐解く。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Hideya Ishima


(sic)boy、KMが抱くそれぞれの“東京”。カオスなアルバム『CHAOS TAPE』制作背景

アルバムの試聴に入る前のトークでは、本作のテーマやコンセプトについて言及。「色々な感情や言葉が混ざった、まさに“カオス”な作品なったと思います」という(sic)boyのコメントに、KMは「僕が東京のクラブで吸収してきた要素をそのまま詰め込んだ作品になったと思います。そういう意味ではサウンド的にも“カオス”な作品と言えるんじゃないかと」と付け足す。また、この1年でのふたりの関係性の変化については、「あまり変わってないんじゃないですかね」という(sic)boyに対し、KMはvividboooyが参加した「Heaven’s Drive」以降、(sic)boyがより自信を持つようになったこと、そして制作のスピードも格段に上がったことを指摘。KM曰く「アルバムを仕上げた翌日には新曲のデモを送ってくるくらい」、現在の(sic)boyは創作意欲に満ち溢れているという。

コロナ禍での動きについて聞くと、「ライブができないからこそ、制作に時間をより多く割けるようになりました。その分、KMさんは大変そうでしたけど(笑)」「(リリック面での)インプットでいうと、確かに外に出れなかったり、人に会えない状況ではあったんですけど、僕は昔からの考えや、これからの自分についてを曲に叩き込むという感じで作っていたので、そこまで大きな変化や影響はなかったですね。ひたすらリリックを書き続けていました」とかたる(sic)boyに対して、KMやゲストらから「真面目だね(笑)」との言葉が投げられる。

また、今年2月にリリースされたEP『(sic)’s sense』の制作とほぼ地続きのような状態で取り掛かったという今作『CHAOS TAPE』のコンセプトやテーマについては、「<眠たい街>、<冷たい街>といった単語が頻出してくるんですけど、僕らの中での“東京”というものが大きな要素になっていて。作っている時は意識していなかったんですけど、改めて聴き返すと、それがテーマみたいなものになっているのかなと」(KM)と回答。ここからいよいよアルバムの全曲試聴が始まる。

  1. HELL YEAH

アルバムのオープナー・チューンとなるのは“まさにグランジ”なささくれ立ったギターが牽引する「HELL YEAH」。作品の幕開けに相応しいエネルギーと勢いを感じさせる1曲だ。トータル1分半という尺も実に潔い。また、上音は確かにロックな要素が目立つが、重心の低いキックの鳴りはフロア・ユースな仕上がりとなっている。

(sic)boyも「デモは1年半くらい前からできていて。自分でも気に入っていたので、これはしっかり仕上げたいなと思っていました。自分の中でもやりたかった“ロック感”みたいなものが出せたかなと思います。逆にアルバムの最後に持ってきてもいいくらい、自信のある曲です」とコメント。

  2. Set me free feat.JUBEE

続いてはJUBEEが参加した1曲。こちらもミクスチャー色の強いナンバーだが、より攻撃的なサウンドを展開。JUBEEのアグレッシブなフロウと(sic)boyのアンセミックなフックの対比も秀逸だ。KMはトラックについて「それこそリンプ(Limp Bizkit)やリンキン(Linkin Park)など、90’sのミクスチャー・ロックって感じだよね。808(Rolandのドラムマシン「TR-808」)の音とこういうミクスチャーを合わせた曲ってたぶんこれまでにないと思っていて」。

また、JUBEEの参加については(sic)boyが次のように説明する。「僕が先にフックを書いて、東京でカマしていきたいみたいなニュアンスをお伝えして。それにJUBEEくんが返してくれた感じです」「それこそ僕らの世代だとあまり90年代のミクスチャー・ロックを聴いている人も多くないんですけど、自分としてはすごく大事にしている部分で。それを今のシーンで体現している人っていったらJUBEEくんかなと思って」。

なお、終盤<body or 精神 which is stronger/body or 精神 oh god>とシャウトするカオティックなパートは、レコーディング時に急遽生まれたのだという。「無くても成立してたけど、JUBEEくんとレコーディングしているうちに気持ちよくなってきて」と(sic)boy。JUBEEは「レコーディングの時は70%くらいしかできてなかったけど、そこからふたりでセッション的に100%までもっていきました。楽しかったですね」と、それぞれレコーディングについて振り返った。

  3. BAKEMON(DEATH RAVE)

「デモの段階では全然違う感じで、それをKMさんに投げた」((sic)boy)という「BAKEMON(DEATH RAVE)」は、全体的にファジーに歪んだサウンドが耳を貫く1曲。どこかスタジアム・ロックのようなスケールの大きさも感じさせる。

サウンドについては「Marilyn Mansonの“The Beautiful People”みたいなビート感はもともとあって。それをそのままやるのではおもしろくないので、レイヴ感を足してみたりしました。これはぶっちゃけ『Rave Racers』(JUBEE主宰のレイヴ・ミュージック・プロジェクト)だったり、レイヴのリヴァイバルに影響を受けていると思います」「シド((sic)boy)のボーカルがラウドな感じだったので、それに引っ張られる感じでサウンドもダーティなものにしましした」とKMが語る。

また、自身を“バケモノ”と宣言するリリックについては、(sic)boyが「僕はラッパーでもロッカーでもなく、おどろおどろしい異物的な存在でいたいなと思って。“バケモノ”ってすごくいい言葉だなって思ったんです」とコメント。徐々に注目を集めていく中で、より自身の立ち位置の特殊さに気づいたのだという。

  4. 眠くない街

冒頭に語った通りアルバム全体を通しての核になる「眠くない街」というワードをタイトルに冠した本楽曲について、(sic)boyは「“眠らない街”じゃなくて“眠くない街”。そういう質感やニュアンスを僕のボーカルだったり、KMさんのトラックから感じてもらいたいです」と語る。

KMは「ちょっとレイドバックした、現行のウェッサイ的なサウンドを意識しました。普通に好きで聴いているDJ Mustardのスタイルを入れてみました」「サウンドは思いっきりUSなんですけど、シドのボーカルがポップでキャッチーなので、それが合わさると不思議な感じになるというか。少しシティ・ポップっぽさもある。アルバム全体を通して、普通だったらありえないような組み合わせに挑戦するっていう試みを行っています」と、今作の制作における核についても言及していた。

  5. Heaven’s Drive feat.vividboooy

7月に先行リリースされ、仲間たちが大勢出演するMVでも話題も呼んだ「Heaven’s Drive」は、試聴会にもゲスト参加してくれたvividboooyを客演に迎えた1曲。ふたりの出会いは東京・恵比寿Baticaでのイベント。それ以前からvividboooyの作品をチェックしていたという(sic)boyは、初対面でいきなり「一緒に曲やりましょう」とvividboooyにもちかけたのだという。

「(コロナ禍で)自分は結構メンタルをやられてしまったので、今年にしか書けない曲を書こうと思いました」(vividboooy)、「でも、前向きな曲になりました」(KM)との言葉通り、<自分らで未来を変えていくシナリオ/We can stand up 2020 仕組まれている緊急事態>といった耳に残るフレーズは、まさに今の世相を反映したフレーズだ。

  6. Pink Vomit Interlude

アルバム構成上の繋ぎをより自然な流れにするために制作したという「Pink Vomit Interlude」は、「Heaven’s Drive」のスクリュー版とも言える1曲。収録されているのは1分程の尺だが、実際はフル尺でリミックスしているのだという。普段、自身のDJセットにエクスクルーシブのリミックス/エディットを忍ばせることも少なくないKMだけに、この音源もどこかで披露されるかもしれない。

  7. Pink Vomit feat.LEX

「LEXとは意外と付き合いが長くて。ここ最近、彼もめちゃくちゃカマしているので、おれも頑張ろうと思いました。KMさんも彼のトラックを手がけていたりするので、そういう繋がりもあって」と、盟友との邂逅について言及する(sic)boy。アルバムの中で最もストレートなトラップ的アプローチが伺える本作だが、「LEXのラップを活かしたかった」(KM)と制作背景を明かす。バンガーなナンバーでありながら、フルートの音色やLEXのファルセットでのラップなど、異色な世界観を演出。こちらもフロアでかかればガラッと場の空気を変えてしまいそうな求心力を有した1曲だ。

また曲名についてJUBEEが質問すると、「“Pink Vomit”、つまり“ピンクのゲロ”。お酒を飲み過ぎて辛いなと思った時に書いた曲です(笑)。二日酔いでダウンしている時に聴いてもらえるといいかもしれません(笑)」と、(sic)boyによる笑いを誘う一幕も。

  8. Ghost of You

視聴者から寄せられた「聴いて街を歩いているだけで主人公になれる」というコメントについて「まさにピッタリ。MVもそんな感じですよね」とvividboooy。キャッチーなメロディが牽引する、(sic)boy節とも言うべき本楽曲だが、KMは、「Heaven’s Drive」とは逆のアプローチを狙ったという。

「わざとキックやスネアを薄くして、ローファイなバンド感を演出しました。ギターは僕と、間奏部分ではシドが弾いたものも使っています」とKMが語る通り、メロコア・バンドさながらのパンキッシュなナンバーとなっている。

メロディックかつ自然な形で韻を踏む(sic)boyのリリック・センスもさることながら、<生きるためにこもる秘密基地/いつのまにか love は believe に>、<説教したがりの馬鹿が多い 多い …>など、尖ったラインも非常に印象的だ。

  9. U&(dead)I

アルバム『CHAOS TAPE』はここからメロウなパートが続く。「U&(dead)I」はvividboooyが名を挙げたBryson Tillerのようなトラップ・ソウルとの親和性も感じさせる1曲。しかし、ここでもこのコンビは一筋縄ではいかない。「最初はトーンダウンさせたエモ(・トラップ)、そのまま808を入れただけだと普通のエモになってしまうので、後半にエレクトロニックな要素を追加しました」(KM)。どこかHudson MohawkeやRustieのような〈Lucky Me〉勢を感じさせるようなエキセントリックなエフェクトと、(sic)boyのシャウトが加わることにより強固なオリジナリティが表出する。アルバムの流れにおいても重要な曲のように感じた。

  10. 走馬灯

アルバムの中で一番最後にできた曲だという「走馬灯」は、次に控える「Kill this feat.Only U」に繋がるビート・アプローチ、そしてリリックにトライした楽曲だという。また、メロディックなフックとの対比も気持ちいい、韻の固いヴァースについては、自身のルーツのひとつでもある日本語ラップの要素をしっかりと落とし込んでいる。KM曰く、(suc)boyは楽曲でもコラボを果たしている盟友・Salvador Maniらと共にフリースタイルのスキルを磨いていた時期もあったらしく、異色な組み合わせで成り立っている(sic)boyのバックグラウンドの一側面が垣間見れる1曲と言えるだろう。

  11. Kill this feat.Only U

Only Uは(sic)boyがラップを始めた時からの旧友・Yung sticky womの後輩にあたる存在で、こちらも旧知の仲だという。Only Uの<ここまでの道のりはもう 簡単にいかない事ばっかで Oh/たまに死にたくなる夜も たまに覚めたくない夢を見る>というラインには(sic)boyも強く共感し、感動したことを明かす。なお、Only Uのヴァースでは自身の楽曲「TOO GIRLY」からのサンプリングも見受けられる。

アルバムのリリースと同時に公開された同曲のMVでは、学校やそれに類する社会からの疎外感も描かれているようで、まさにそんな“はぐれ者”であったであろう両者が音楽を通じて出会い、共に階段を駆け上がってきたことを考えると、KMのアンセミックなトラックは余計に感動的に響く。

  12. Akuma Emoji

アルバムの最後を締め括るのは、4月に先行リリースされた「Akuma Emoji」。これまたアンセミックなスタジアム・ロックの要素も感じさせる1曲だが、終盤には(sic)boyのシャウトと共にガバのような展開に。JUBEEの「Atari Teenage Riotみたいですよね」との指摘に、KMは肯定しながら「狙ってというよりかは、こういう音楽を自然に聴いてきた世代なので、それを隠していないだけというか。ヒップホップ・シーンでやろうとした人もいなかったので」と語る。

わずか2分弱。駆け抜けるような性急なロック・ナンバーで幕を閉じる。実に潔い終わり方だ。明確な意味は定義されていないが、ある世代、コミュニティにおいてはある種の共通言語のように使われている絵文字をタイトルにするセンスや、<9 tails fox クラマナルトウズマキ>といった遊び心溢れるリリックも(sic)boyという人間性を物語っているようだ。なお、言うまでもなく、配信中は大量の悪魔の絵文字がコメント欄に投稿されていた。

CD版にはKMによる同曲のエレクトロ・パンクなリミックス「Akuma Emoji (KM Back to 2002 Remix)」も収録されているので、こちらもぜひチェックを。


カオスな景色のその先へ

ヒップホップからエモ、ハードコア、ベース・ミュージックなどが入り乱れるまさにカオスな作風ながら、同時に一貫としたカラーや空気感を擁する本作。改めてフルレングスの作品を通して聴くことで、共に出自はヒップホップ、ラップ・シーンながらも、常に異質な存在感を放ち続けたふたりが作り出した空間。ふたりの居場所のようなものが感じられた。そこに浮かぶのは眠くない街、東京を舞台にふたりが描き出したカオスな景色。しかし、早くも新曲を書き始めているという(sic)boy、そしてKMは、決して現在地点に安住することはなく、これからも道なき道を進んでいくことだろう。これからも刺激的な作品を届けてくれるであろう両者の同行に、今後も注目したい。

なお、試聴会は(sic)boyの誕生日を祝うサプライズで幕を閉じた。DJのsathiも登場し、(sic)boyの人懐っこいキャラクターと、愛されぶりの片鱗も覗かせていた。


【リリース情報】

(sic)boy, KM 『CHAOS TAPE』
Release Date:2020.10.28 (Wed.)
Label:add. some labels
Tracklist:
1. HELL YEAH
2. Set me free feat.JUBEE
3. BAKEMON(DEATH RAVE)
4. 眠くない街
5. Heaven’s Drive feat.vividboooy
6. Pink Vomit Interlude
7. Pink Vomit feat.LEX
8. Ghost of You
9. U&(dead)I
10. 走馬灯
11. Kill this feat.Only U
12. Akuma Emoji
13. Akuma Emoji (KM Back to 2002 Remix) ※CD限定

■(sic)boy:Twitter / Instagram / SoundCloud

KM オフィシャル・サイト

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