FEATURE

藤原さくら 『SUPERMARKET』

多様な音楽家と作り上げた振り幅の広いサウンド、そして激変する世界ともリンクする詞世界を読み解く

藤原さくらが10月21日(水)に通算3作目となるニュー・アルバム『SUPERMARKET』をリリースした。

アルバムとしては2017年発表の『PLAY』よりおよそ3年ぶり、まさに待望のフル・アルバムと言えるだろう。mabanuaが手がけた表情の異なる2部作EP『green』『red』(どちらも2018年発表)を経て、藤原は2019年には今作収録の「Twilight」を冠した自身初となる全国20箇所を巡るライブハウス・ツアー『Twilight Tour 2019』を敢行。同ツアーには須田洋次郎(ミツメ)、渡辺将人(COME BACK MY DAUGHTERS)、猪爪東風(ayU tokiO)といった今作にも参加している手練ミュージシャンが参加。藤原自身も全編エレキ・ギターを持ち、エフェクターを踏み、パワフルな演奏を披露。既存曲に加えられた大幅なアレンジも話題となった。

また、昨年と今年の春に上演された劇団☆新感線39興行・春公演 いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』では舞台初出演を果たしたほか、アメリカへの短期渡航も経験するなど、音楽活動だけに留まらない非常に濃い期間を過ごしていたようだ。

今作『SUPERMARKET』は、まさにそのような体験が反映されたかのような、“スーパーマーケット”のようにバラエティに富んだ楽曲群が収録されている。先述の須田洋次郎、渡辺将人、猪爪東風らバンド・メンバーと作り上げた「Ami」は、まるでThe Strokesのようなタイトかつ直線的なリズムに小気味良いギター、そしてメロディアスなベース・ラインが合わさったインディ・ロックな1曲。他者とのすれ違いを嘆くようでもあり、また自分自身への問いかけとも取れる、吐き捨てるようなリリック、そして独特のショート・ディレイがかかった藤原のボーカルも新鮮な印象を受ける。

また、これまでにも冨田ラボのアルバムに収録された「Bite My Nails feat.藤原さくら」、椎名林檎トリビュート・アルバム収録「茜さす帰路照らされど・・」でコラボを果たしている冨田恵一は、先行シングル「Monster」と「コンクール」のアレンジ/プロデュースを担当。Pharrell Williams「Happy」をダークにしたような、軽快かつファンキーな「Monster」とは対象的に、「コンクール」ではシャンソンや昭和歌謡のような情感たっぷりな世界観を展開。これまでも曲により様々な表情を見せてきた藤原だが、この妖艶なボーカルには思わずドキッとさせられたファンも少なくないのではないだろうか。

藤原の妖艶な側面が見られる曲として、今作からは「spell on me」も挙げられる。すでに過去インタビューでの発言でも匂わせていた通り、大胆にジプシー・ジャズ的なサウンド、楽器構成を取り入れた一曲だが、自身のカラーにまとめ上げてしまうのは流石の一言。レコーディングに参加しているのは、昨年、野外フェスなどで共にステージに立ったYasei Collectiveの面々や別所和洋、そしてBimBomBam楽団の手島大輔、GENTLE FOREST JAZZBANDから大内満春、佐瀬悠輔。なお、作詞とコーラスではMichael Kanekoも参加している。

本作は初のコラボレーターとして澤部渡(スカート)、VaVaの参加も大きなトピックとして注目を集めた。澤部渡が編曲を務めた「ゆめのなか」は、哀愁漂うギターの音色を軸とした、シンプルな一曲。フックの効いたメロディ、日本語の響きを崩すことなく歌い上げる様は、まさにスカートにも通ずるエヴァーグリーンなポップスといった趣だ。

ラッパーのBIMやin-d、JUBEE、ビートメイカーのdooooなどを擁する〈CreativeDrugStore〉のメンバーであり、自身のソロ活動でも大きな注目を集めているVaVaがトラック、編曲を手がけた「生活」は、タイトル通り日常の何気ない風景を切り取ったかのようなリリックを、時にラップ調のフロウで歌い上げる一曲。しかし、繰り返す<代わり映えのない かけがえのない/同じだから見えるものもあった>といった一節には、コロナ禍以降の感情を投影することもできる。

<自炊なんて最初だけだし/思考キャパオーバー 片手でUber/パスポートの更新 なんてもう当分先>といったステイ・ホーム期のあるあるネタとも取れるラインを韻を踏みつつ歌い上げながら、<変わるものは変わってく 身を任せてユラユラ><仕方ない 回り始めた世界>と、変化を自然体で受け入れていく。<家で結んだLyrics/あの子の隣で いつのまにか重なっていったりして>と希望観測的なラインの後には<Easy come easy go>=得やすいものは失いやすいと、まるで自戒のような一節を忍ばせている辺りも藤原らしいポイントだ。

VaVaが手がけたトラックは、タイトルの「生活」にぴったりな温もりと、一筋の哀愁を感じさせるもの。イントロで聴こえる生活環境音のようなサウンドもニクい演出だ。近年ネットを中心に需要の高まりを感じさせる、チル・ヒップホップとの親和性も見出すことができるが、チル・ヒップホップがBGM的に生活を彩るのに対し、「生活」のトラックは藤原のボーカルを引き立てる。終盤にはVaVaお得意のブラス・サウンドがより前面に出てくることによって、夕焼けのような憧憬が浮かび上がり、<こちらも Rolling days/シンプルな Everyday><いつになったら 会えることやら>と、軽くため息を吐きつつ、一日の終りを迎えるかのようだ。なお、中盤の<せっけんの匂いがすき>の後にフリースタイル的に入っている<すきー すきー>という声は、近年のヒップホップ/ラップ・ミュージックで多用されているスラング<skrt skrt>のモジり、パロディだと個人的に考えている。真相は定かではないので、いつか本人に聞いてみたいところ。

また、コロナ禍で激変してしまった我々の生活に思いを馳せると、アルバムの一曲目「Super good」も強く胸に響く。関口シンゴ擁するOvallの面々と作り上げた同曲は、冒頭から軽快なカッティング・ギターに引っ張られ、弾けるようなポップネスを展開するファンク・チューン。まさにアルバムのリード曲に相応しい求心力を湛えた一曲だが、そのリリックは楽観的なポジティブさではなく、<ほら、視点を変えてみて/捉え方次第でしょ><ちゃんと心の内側と向き合って/歌っていきたいの><どうか、悲しまないで/泣かなくていいよ/これから全部が上手くいくんだから>と、厳しい現状認識と、それでも前向きな姿勢を持つことの大切さを伝えるかのような意思が感じられる。もちろんインタビューしたわけではないので、この曲がコロナ禍のことについて言及しているかどうかはわからない。しかし、実際に2020年を生きる多くの人間の肩を押してくれるようなエネルギーを有していることは間違いないだろう。

アルバム『SUPERMARKET』の最後を締め括るのは、8月に行われた配信ライブ『配信音楽会 2020』にて、1曲目に披露された「楽園」。藤原ひとりで弾き語るシンプルなこの曲は、どこか音楽家としての人生について歌っているかのように感じられる。<辿り着いたって 楽園か?>――きっと、どこまでいっても天国なんてありはしない。<セイハロー 紡いでゆくのが/せめて つぐないになるように>――祈りにも似た言葉と共に幕を閉じる。彼女が今後、どのような物語を紡ぐのか、早くも次を期待してしまう気持ちを抑えつつ、今はこの何でも揃っているスーパーマーケットのような新作を繰り返し味わいたい。

Text by Takazumi Hosaka


【リリース情報】

藤原さくら 『SUPERMARKET』
Release Date:2020.10.21 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1.Super good
2.Ami
3.Waver
4.生活
5.コンクール
6.marionette
7.Right and light
8.Monster
9.spell on me
10.ゆめのなか
11.BPM
12.Twilight
13.楽園

●参加アレンジャー & プロデューサー
Ovall
関口シンゴ(Ovall)
mabanua(Ovall)
冨田恵一(冨田ラボ)
VaVa
澤部渡(スカート)
YAGI & RYOTA(SPECIAL OTHERS)

※順不同

●参加ミュージシャン
Shingo Suzuki(Ovall)
Michael Kaneko
須田洋次郎(ミツメ)
猪爪東風(ayU tokiO)
渡辺将人(COME BACK MY DAUGHTERS)
松下マサナオ(Yasei Collective)、
中西道彦(Yasei Collective)
斎藤拓郎(Yasei Collective)
別所和洋
秋田ゴールドマン(SOIL & “PIMP” SESSIONS)
H ZETT M(H ZETTRIO)
高桑圭(Curly Giraffe)
小林創
手島大輔(BimBomBam楽団)
大内満春(GENTLE FOREST JAZZBAND)
佐瀬悠輔(GENTLE FOREST JAZZBAND)
佐久間裕太
岩崎なおみ
佐藤優介
シマダボーイ
Meg
Hanah Spring
沖メイ

※順不同

【イベント情報】

『Sakura Fujiwara Live 2021 SUPERMARKET』
日時:2021年1月16日(土) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・中野サンプラザ
料金:全席指定 ¥5,500

※3歳以上はチケットが必要(2歳以下は入場不可)

チケット一般発売日:12月19日(土)AM10:00〜

[問]ホットスタッフ・プロモーション(03-5720-9999)

藤原さくら オフィシャル・サイト

Spincoaster

Spincoaster

Spincoaster(スピンコースター)は、独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介する音楽情報メディアです。