Text by Tomohiro Ogawa
Live Photo by Victor Nomoto
今年2月8日、Zepp Hanedaで行われたNulbarichのライブ『The Roller Skating Tour ’24 EXTRA』。この日、主役のNulbarichに先立って、ひとりのシンガーソングライターがステージに立った。デニムの上下に身を包み、心なしか緊張の面持ちで現れた彼女の名前はREJAY(リジェ)。彼女はその前日である2月7日にNulbarich・JQのプロデュースでデビューしたばかり、このZepp Hanedaが初のライブだった。
筆者もほぼ予備知識なしでそのパフォーマンスを目撃することとなったのだが──彼女がアカペラでSuzanne Vegaの“Tom’s Diner”を歌い始めた瞬間、その存在感と求心力に一気に引き込まれた。ライブ前のざわついたフロアを一気に自身の世界観に引き込んだその歌ははっきりと才能を感じさせるもので、たった2曲、時間にして10分ほどのステージながら、そこには大きな可能性が光り輝いていた。
REJAYは北海道・ニセコ生まれ、オーストラリア人の父と日本人の母をもつ18歳だ。父親の影響もあって幼少期からThe Beatlesをはじめさまざまな音楽に親しんで育った彼女は、早くから作詞作曲を始め、YouTubeにもカバー動画をアップするようになった。その動画に目を止めたのが、彼女をプロデュースすることになるJQ。彼は一目見てその才能を見抜き、SNSのダイレクトメッセージでコンタクトを取ったという。
かくしてREJAYはJQのもとで楽曲制作をスタートさせ、今年2月、配信シングル“Too Late”でデビューを果たす。同シングルはJ-WAVE「TOKIO HOT 100」で16位にチャートイン、Spotifyでも公式プレイリストにピックアップされるなど新人ながら注目を集め、REJAYの名前は耳の早いリスナーの間で広がっていくこととなった。
柔らかさのなかにも芯の強さを感じさせる歌声、ローファイでウォームなサウンド。曲調は多彩ながらも、REJAYの音楽を形作るものには通底するものがある。幼い頃から洋楽を聴いて育ってきた彼女ならではのメロディセンスやリズム感も、まるで昔から知っていたかのような懐かしさを感じさせる。たとえるなら、リビングルームのソファに座って旧友と気の置けない会話を交わすような親密さ。その手触りや音楽的なスタイル、そして佇まいから、彼女のことをベッドルームポップの歌姫・Clairoに重ねる声もある。個人的には、そのナイーヴさと強靭さが同居するムードには、Billie Eilishを感じたりもする。
いずれにしろ、まるで日本の音楽シーン云々とはあらかじめ切り離されたところからポンと飛び出してきたようなREJAYのありかたは、とてもユニークで新鮮に映る。
デビューから早10ヶ月。そのあいだ、彼女はEP『18』を3月に、そして配信シングル“Mean to Be”を8月にリリース。コンスタントに活動を続けてきた。そして11月29日にリリースされたのが、最新曲“Back to You”だ。
ギターと歌で印象的に始まるこの曲は、これまでの彼女の楽曲同様ローファイな質感を残しながらも、今まで以上にレアな音像のなかで彼女の歌声をより近くに感じることのできる楽曲となっている。デッドなドラムと柔らかなベース、そしてシンプルにコードを奏でるギター。必要最小限の音が、滑らかで穏やかなボーカルを引き立てる。ハスキーなハイトーンを効果的に取り入れたメロディもとてもエモーショナルだ。
これまでの楽曲がREJAYというアーティストを文字通り「プロデュース」していくというベクトルのものだったとするなら、この“Back to You”はむしろREJAYをどんどん裸にしていくような、とても素朴で、その素朴さゆえに耳にこびりつくような1曲なのである。切ない片思いをストレートに歌った歌詞も、まるでつぶやくように言葉を重ねていく歌い方も、18歳の彼女の等身大の心を投影しているようでとても胸に迫る。まだまだ未知数のアーティストだが、この曲を聴いているとREJAYという人の姿形がはっきりと見えてくるような感覚になるのだ。
デビューから1年足らず、もちろん彼女のアーティストとしてのキャリアは始まったばかりで、ここからどんなふうに変貌を遂げていくのかはわからない。だがここまでリリースされてきた楽曲を聴く限り、彼女は曲を作り歌うことで成長していくシンガーソングライターなのだと思う。REJAY自身がREJAYとは何か、その魅力とは何なのかを少しずつ掴んでいく、そんなプロセスのなかで、“Back to You”はひとつのターニングポイントになる曲なのかもしれない。
【リリース情報】
REJAY 『Back to You』
Release Date:2024.11.29 (Wed.)
Label:Rainbow Entertainment
Tracklist:
1. Back to You
■REJAY:X(Twitter) / Instagram