すでに多くの人が魅了されているだろう。Nulbarich and Sunny名義でリリースされた新曲、“Lucky (feat.UMI)”がうっとりするような出来栄えである。
本楽曲は「『ポケットモンスター』シリーズのゲームサウンドをもとに、新しい音楽を世に届ける」というコンセプトで立ち上げられたプロジェクト『Pokémon Music Collective』から生まれた音楽で、昨年imaseやポルカドットスティングレイらが参加したことでも話題になったシリーズの最新曲である(本楽曲を含む全6曲入りの完全生産限定LPも発売中)。
Nulbarichのソングライター兼リーダーであるJQと、国内外のトップアーティストのプロデュースを手がけてきたSunny(fka. Sunny Boy)がタッグを組み、ボーカルにはLAを拠点に活動しているSSW・UMIをフィーチャー。ポケモンセンターのBGMを土台にしながらも、3人のオリジナリティがよく発揮されているのがポイントだ。心に潤いを与えるようなまろやかな音色と、UMIとJQのハーモニーが魅力的で、癒しと活力を同時に与えてくれるような楽曲である。
今回のインタビューではJQとSunnyのふたりを招き、LAにいるUMIにもオンライン参加してもらった。三者三様のポケモンの思い出から、このコラボが実現した経緯と制作背景、さらにはNulbarichの活動休止についても話を訊いた。
Text by Ryutaro Kuroda
Photo by KOBA
3人それぞれのポケモンの思い出
――それぞれポケモンにはどんな思い出がありますか? 一番好きなポケモンと一緒に教えてください。
Sunny:ポケモンは小学校のときから全シリーズやってきてまして、一番好きなのはミュウツーです。単純にカッコいいですし、初めてやったのが『ポケットモンスター 赤』なので、最後に辿り着いた先にいるミュウツーが衝撃的でした。あと、映画『ミュウツーの逆襲』もすごい思い出に残っています。
――当時、友人ともポケモンで遊んでましたか?
Sunny:もうそれしかやってなかったです。ゲームボーイだったので通信ケーブルを繋いで交換したり対戦したり。みんなで集まって『ポケモンスタジアム』(Nintendo 64専用ソフト)で遊ぶことも多かったです。
UMI:私も小さいときからポケモンで遊んでました。最初に遊んだのはニンテンドーDSの『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』かな。日本に行く度にDSを持って、新幹線に乗りながら妹と一緒に遊んだり、思い出がいっぱいあります。一番好きなポケモンはポッチャマ。私は青が一番好きな色だし、目がすごくかわいいと思う。
――学校でも流行ってましたか?
UMI:流行ってました。特に『ポケモン GO』はすごかったですね。みんな学校をサボってポケモンを探しに行ったり、夏休みは友だちで集まって一緒に遊ぶこともよくありました。あと、小学校のときに図書館でポケモンのサウンドトラックのCDを借りたんですけど、妹と一緒にそのサウンドトラックにダンスを付けて、ふたりで家族の前でパフォーマンスした思い出があります。夏休みの間ずっと妹とダンスを作ってました。
――JQさんはどうですか?
JQ:僕もSunnyと同世代なので、やっぱり『ポケットモンスター 赤・緑』の最初の3匹、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメですね。兄弟と一緒に“ポケモン言えるかな?”を、九九を覚えるみたいに歌ってたのが1番思い出に残っているかな。
――“Lucky”のMVにはJQさんをイメージした登場人物が現れます。彼のパートナーポケモン・ドラパルトはお好きですか?
JQ:曲者ですからね(笑)。選んでもらったときにはすごく僕っぽさを感じました。
Sunny:合ってますよね。
JQ:うん、なんか一筋縄ではいかない感じというか。見抜かれてんなあって感じがしました(笑)。(ドラパルトは)僕にとってすごく優秀なポケモンなので、支えにもなってる感じです。MVのストーリーも素晴らしいので、ぜひ映像を見ていただきたいですね。あのMVに自分にインスパイアされたキャラクターが出ることが──
Sunny:嬉しいですよね。
JQ:本当に。あのMVをエイトビット化して、ゲームボーイでプレイしたいです。
――“Lucky”はSunnyさんとJQさんで作られていますが、どういう経緯でおふたりで取り組むことになったんですか。
Sunny:このプロジェクト自体には何年か前にお声がけいただきまして。関係者の方がNulbarichを好きだったり、実は僕とJQが15〜16年の付き合いなこともあり、ぜひご一緒したいねっていう流れから始まりました。
JQ:Sunnyとは元々クルーメイトで、一緒に音楽をやってたタイミングがあるんです。
――それはNulbarich結成前のことですか?
JQ:全然前です。Sunnyもまだ曲すら作ってない頃で、だからカッコつけて「クルー」とか言ってますけど、仲間内みたいな感じですね。でも、途中でSunnyがプロデューサーになるということで、それぞれの道に進むことになったんです。それで今回、久々に一緒に曲を作ることができた。
――素敵な再会ですね。
Sunny:嬉しいですねぇ。
JQ:(Sunnyが)ドッカーン!って売れちゃったから。
Sunny:いやいや、逆ですよ(笑)。でも、もう兄弟みたいな感じなので、ブランクがあっても当時と全く変わらず曲が作れて嬉しかったです。
――制作はどのようなところからスタートしたのでしょうか。
Sunny:(ポケモンの)どの音源を使うかJQと話し合い、ポケモンセンターの音源がいいんじゃないかってことになって。ポケモンセンターは冒険から戻ってくる場所だから、温かみがある癒し系の曲にしたい、だったら女性のアーティストに参加してもらおうっていう話になり、イメージにぴったりだったUMIさんにオファーさせていただきました。トップラインは「SURF Music」というプラットフォームでコンペを開いて、応募してもらったアイディアを使用しています。
――コンペを開いたんですね。
JQ:ポケモンセンターのメロディをサンプリングして、ちょっとエディットしてループさせるだけっていうのも芸がないなと思って。あのメロディに歌詞を乗せられたらいいよね、みたいな話をしていたんです。ただ、最初は許可が降りるかわからなかったので、とりあえずサンプリングしてふたりでインストを作って、共作者を探すためにコンペを開きました。そしたらポケモンセンターのメロディに歌詞を乗っけてきた人がいて。「同じこと考えてる人いるじゃん!」って(笑)。
Sunny:フランス人作家のJean Castelという方だったんですけど、「やっぱこれだよね!」って思いましたね。そこから歌詞は僕らがイメージしてたものに近づけたかったので、LAでレコーディングするときに作詞家のRose Tanさんを加えて3人で仕上げました。それをUMIさんにお投げしたんですけど、もう素晴らしい歌声で想像以上のものが届いてきて。UMIさんのテンションに合わせてやっぱり録り直したいなっていうことになって(笑)、日本でもレコーディングし直した部分もあります。
人生とロールプレイングゲームは似ている
――UMIさんはオファーが来たとき、どんな感想を持ちましたか?
UMI:めちゃくちゃ嬉しかったです。家族のみんなに、「ポケモンの曲を歌うことになったよ!」ってメッセージを送りましたね。私がこの曲を聴いたときに一番最初に思ったのは、車の中で聴きたいなってことでした。窓を開けて、風を感じて、どこかに行くときに聴きたい曲。カリフォルニアは山とか海が近くてアドベンチャーみたいなエネルギーがあるから、私も“Lucky”を聴きながら運転してビーチまで行って、「この曲いいな」って感じました。
――“Lucky”のサウンドに解放感があった?
UMI:音楽って本当に自分の気持ちを変えられるパワーがあると思う。この曲を聴く度に、なにか楽しいことをしたいな、どこかに行きたいなって私は思います。そういう曲を作るのが私はすごく好きだし、この曲を送ってもらってとても嬉しかったですね。UMIにすごく合ってると思います。
――歌からもポジティブなヴァイブスが伝わってきますね。
UMI:そうですね。この曲は音も歌詞もすごくポジティブだと思います。ワクワクする気持ちをみんなに感じてほしいです。毎日していることとは少し異なるアドベンチャーをしたり、そういう新しくて楽しい経験をすることも大事な癒しだと思います。
――ポケモンには素晴らしいBGMがたくさんありますが、なぜ最初にポケモンセンターの音を使おうと思ったんですか?
JQ:たぶん、みんな知ってるじゃないですか。やっぱり帰る場所だし、冒険に疲れてセーブしに行く場所だから、どういう遊び方をしていても必ず聴く音ですよね。
――なるほど。
JQ:あと、僕たちの人生にも重なる部分があると思ったんですよね。外で仕事をして、社会に揉まれて疲れて帰ってきて、家で眠るみたいな。そういうみんなが必ず帰る場所っていうのが、ポケモンの中だとポケモンセンターになる。せっかくこういったチャンスをもらったんだから、ポケモンセンターのBGM以外ないんじゃないかなって僕の中では思いましたね。
――歌詞はNulbarichがこれまで発表してきた曲にも通ずるものがあると感じました。冒険に出ることと心安らぐ場所を作ることは、JQさんの人生観みたいなものが出ているのでしょうか。
JQ:僕も基本的にゲームは好きなので、自分の人生とロールプレイングゲームを重ねることが多いんですけど……なんだろう、ゲームを楽しんでることをリリックにすれば、自分の人生に重なるところがあるし、僕が日々感じてることを書けばゲームに通ずることもたくさんあると思うんです。そこは素直に書けば必ずリンクする部分があるのかなと。なので、特に意識したことはなかったかな。
――UMIさんに歌を入れてもらうとき、何かおふたりからオーダーしたことはありますか。
JQ:いや、何も言ってないよね?
Sunny:歌詞で伝わると思いましたし、UMIさんも素晴らしいアーティストなので、汲み取ってくれるだろうという信頼もあって、僕らから歌い方について言うことはなかったですね。やはりその方がコラボレーションの醍醐味があるし、UMIさんに自由に歌ってもらえるように余白を敢えて残しました。
JQ:もうUMIちゃんにやってもらえるだけで嬉しかったから。僕、Spotifyで去年1番聴いたアーティストがUMIちゃんなんです。
UMI:ええ! ありがとうございます。ソーハッピー!
Sunny:僕も“Sukidakara”という曲をラジオか何かで聴いたときからファンで、ずっとフォローしてました。
JQ:去年の『GREENROOM FESTIVAL』で一緒になって、初めて挨拶させてもらったんですけど、僕からしたら「ついに会える! 本物だ!」みたいな感じで(笑)。そうしたらUMIちゃんが置き手紙を書いてくれたんです。僕もLAに住んでるので、「タイミングが合ったら会おうね」みたいな内容で、その手紙はまだ持ってますよ。
UMI:よかったー!
JQ:だから僕得でしかないんですよね。去年1番聴いたアーティストとコラボレーションできて、久々の友だちと一緒に曲を作れて、しかもそれが大好きなポケモンのプロジェクトだという。
Sunny:本当に、最高ですね。
――UMIさんは制作中のコミュニケーションで印象的だったことはありますか?
UMI:制作中ではないんですけど、曲を作る前にJQさんと偶然違う国で会うことがいっぱいあって。タイで会ったときは「え? ここで!?」と思いました(笑)。
JQ:フェスが一緒だったんです。
UMI:私はショーをするときにはあまり考えないタイプで、「ただその日に歌う」という感じなんですよね。だから誰がその日にパフォーマンスをするというのも知らなくて、JQさんに会ったときは驚きました。しかもすごく可愛いジャケットを着ていて(笑)。それで次はどこで会うのかな〜と思ってたらポケモンのプロジェクトでコラボできた。いろんなところでJQさんと会えておもしろいなって思います。
――Nulbarichの曲は聴いていましたか?
UMI:聴いてました。『GREENROOM FESTIVAL』の前に紹介してもらって、そのフェスでショーを観て好きになりました。バンドもすごくいいし、プロダクションもおもしろくて。あと、私は観客との話し方を勉強しました。「こうやって日本語を使うんだ!」って。
JQ:僕、そのとき変なことを教えちゃって。その日のライブで最後の曲を締めるときに、バーン!ってやって「鬼は外!」って意味もなく言ったんですけど、それをUMIちゃんが観ていて、「“鬼は外”めっちゃおもしろかった」と言ってくれたんです。
UMI:すごくいい勉強になった。
JQ:いや、そこは忘れた方がいいなと思いながら、すごく喜んでくれたの覚えてますね(笑)。
――悪い友だちができちゃったと。
Sunny:(笑)。
JQ:そうですね。悪影響を与えかねない(笑)。
アーティストは冒険をしなければいけない
――“Lucky”は「アドベンチャーを感じる曲」という話もありましたが、音楽的な冒険心もこの曲のベースになっているように思います。
JQ:僕の場合、新しいスキルを身につけるとか、新しい楽器が弾けるようになるとか、日々自分が成長してることに喜びを感じることが音楽をやる上での一番のガソリンなんです。もちろんたくさんの人に聴いてもらいたいとか、今自分が思ってることを書くというのも大事なんですけど、ピアノが少し上達したり、出せなかった音を出せるようになったり、そういうことに一番のやりがいを感じています。
だから、ゲームのようにレベル上げをしたり、仲間と一緒に強くなっていったり、僕の人生もほとんどゲームと同じなんですよね。
――UMIさん、Sunnyさんはどういうときにミュージシャンとしてエネルギーを感じたり、強いモチベーションを抱きますか?
UMI:私の音楽は、自分が変わっていくときに作るものだと思います。やっぱり自分が変わると音楽も変わるし、それも冒険のひとつだと思う。そして自分の中で冒険をすると、音楽の冒険の仕方がもっとわかっていく。
――なるほど。
UMI:私が好きなのは、とても冒険をするアーティスト。みんながやったことのない音を見つけたり、みんなが言ったことのない言葉を使ったり、自分を一番出せているアーティストが好き。みんなと同じやり方をしても新しい曲は作れないので、そのためには冒険をしなきゃいけない。そういうことを思いながら私は曲を作っています。
Sunny:少し先に新しい挑戦があることでパッションが増えるというか、それは音楽も人生も同じだと思います。それが冒険であって、ポケモンと一緒でレベルアップしないと先に進めなかったりするけど、だからこそ楽しいって思えるんじゃないかな。海も深すぎると怖いし、浅すぎるとつまんない。ちょうど足がつくかつかないくらいの深さが1番ワクワクするじゃないですか。
――3人のクリエイティブの相性はバッチリですね。また新しい機会があれば嬉しいですね。
UMI:あったらいいですね。
Sunny:ぜひぜひ! また一緒に音楽作りましょう。
UMI:次に日本に行くときは、一緒にご飯食べて音楽作りましょう。
JQ:ヤバい! ぜひお願いします。
――最後に、Nulbarichの活動についても少しだけ聞かせてください。2024年末での活動休止が発表されましたが、この決断に至った背景を教えてもらえますでしょうか。
JQ:僕の中では終わりという感じではなくて、新たな挑戦をしていく準備だと思っています。それこそプロデュースワークも増えたし、バンドという形ではない表現の仕方もあるのかなって。奇跡的なのか、運命的なのか、いい感じにバンドメンバーも売れちゃって忙しくなってきたから、じゃあ次のステージに行くためにも今はNulbarichにフォーカスするより、みんなそれぞれ自分の人生に集中した方がいいんじゃないのかなって。
――なるほど。
JQ:それぞれが落ち着いたタイミングで再始動するのもいいと思うし、まだまだワクワクすることは考えています。……本当はね、(活動休止と)言わなくてもいいんじゃないかな、とも思うんですよ。
――そう思います。
JQ:気になる方もいると思うので、一応言っておこうかな、みたいな気持ちで発表したらすごい大事になっちゃって。
――今回の休止は、さらなる先へ進むためにポケモンセンターに寄るようなことなんですね。
JQ:そう。ここが一旦セーブポイントなのかなって。8年間365日Nulbarichに捧げてきたんで、知らず知らずのうちに僕自身も視野が狭くなってる部分もあると思っていて。先はまだまだ長いんで、いっぱい寄り道して視野を広げたいと思っています。
【リリース情報】
Nulbarich and Sunny 『Lucky (feat.UMI)』
Release Date:2024.05.24 (Fri.)
Tracklist:
01. Lucky (feat. UMI)
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V.A. 『Pokémon Music Collective』
Release Date:2024.05.24 (Fri.)
Label:Universal Music
Cat.No.:UIJE-9004
Price:¥5,280 (Tax in)
Tracklist:
A1. imase / うたう
A2. ENHYPEN / One and Only
A3. Michael Kaneko / 1999
B1. Matt Cab & BBY NABE & Charlu / LEVEL UP!
B2. ポルカドットスティングレイ / ゴーストダイブ
B3. Nulbarich & Sunny / Lucky (feat. UMI)
※生産限定盤LP
※カラーヴァイナル/シングルジャケット/2つ折りブックレット/歌詞付
※封入特典:Pokémon Music Collectiveロゴ入りポストカード(1枚)
℗ © 2024 Universal Music LLC.
℗ 2024 Pokémon, under exclusive license to Universal Music LLC
Published by Universal Music Publishing and Pokémon.
Pokémon image & game sound:
©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
TM, ®, and character names are trademarks of Nintendo.
【イベント情報】
『CLOSE A CHAPTER』
日時:2024年12月5日(木) OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京・日本武道館
※Nulbarich活動休止前の最後のワンマンライブ
■公演詳細
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