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Mom / 祝日

アンビバレントな感情、ニュートラルな物語。最新作から読み解く、音楽家・Momの現在地

Text by Takazumi Hosaka

Apple新CM「Macの向こうから — 日本でつくる」に前作『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』収録の「あかるいみらい」が起用され、ストリーミング・チャートを賑わしているMomがニュー・シングル「祝日」を4月14日(水)にリリースした。

新曲のリリースは昨年7月にリリースした前作以来、およそ9ヶ月ぶり。個人的に、どちらかといえば多作なアーティストという印象を抱いていた(1stアルバム『PLAYGROUND』からおよそ半年で2ndアルバム『Detox』を発表。同作と3rdアルバムの間にはフォーク作品『赤羽ピンクムーン』をリリースしている)だけに、少々間が空いたような感覚だが、本作はその空白期間以上の進化を感じさせる傑作だ。

イントロもなく歌い出しと共に耳に入ってくるのは、「Boys and Girls」以来の2ステップ/UKガラージ的なダンサブルかつ軽快なトラック。初期のラップ調のフロウともフォーク作品とも異なる、メロディックな歌唱。上音にはギターやシンセ、ストリングに加え、多様な音――ボイス・サンプル、ピアノ、クラップ、瓶が割れたような音、木製のドアが軋むような音など――がパーカッションのように配置されている。まるでMPCに環境音を取り入れて作ったかのような印象も受けるが、聴き込めば聴き込むほどに、その緻密な構成に唸らされる。

こうしたサウンドについて、本人は次のように語っている。「よりシュッと引き締まったポップ・ミュージックを鳴らしたいという欲求がとりわけ強まっている感じがします。そうした意識の流れで自然と00年前後のR&Bやクラブ・ミュージックを通過したり、結果的に近いニュアンスに着地するきらいがあると思います」「個人的には疾走感のあるビートとアブストラクトな音の取り合わせにものすごく可能性を感じていて、それが現在進行形で推し進めているサウンド・アプローチのひとつだったりします」。この言葉通り、本作では確かに“シュッと引き締まったポップ・ミュージック”と、“疾走感のあるビートとアブストラクトな音の取り合わせ”という共存が難しそうな組合わせを実現させている。

1stヴァース(Aメロ)、2ndヴァース(Bメロ)、フック(サビ)という簡潔な構成や、ほぼ3分ジャストというコンパクトなポップ・ミュージック。しかし、一聴した際の耳馴染みの良さとは裏腹に、いくつもの隠し味を見つけ出すことができる奥行きの深さも擁している。また、“アブストラクトな音”という点では、以前インタビューで「喰らった」と語っていたJPEGMAFIAや、Bon Iverの近作との接点も見出すことができる。さらに言うなれば、本稿執筆にあたり投げかけたいくつかの質問では、最近魅了された作品にGenesis Owusuの『Smiling with No Teeth』を挙げ、「オルタナティブという言葉を雑に使ってしまいたくなるような痺れる音楽でした」とコメントを寄せてくれた。同作のジャンルごった煮なカオティックな様相は、確かに「祝日」の上音ともリンクするのかもしれない。

リリックの方はどうだろうか。「どの曲も基本は言葉を主体にしているので、最初に置くフレーズとその聞こえ方はフックと同じくらい注力するポイントです」と語る通り、<最後の一個だったお菓子を/口の中で確かめる/もっと早く気付けたら/切れ切れの意識のやり場も探せたのに>という抽象的な一節から始まる本作には、肯定とも否定とも取れない、もしくはどちらも共存するようなアンビバレントな感情が漂っているように思える。

2ndヴァースの<団地の落書きが/文明の外へと僕を連れ出した>というラインには、在りし日に自分を変えたであろうロック、ヒップホップ(もしくは音楽や芸術そのものかもしれない)のおかげで、新たな景色が見えたこと。しかし、<土地も人も木々も活字も溶け合って/甚くとんでもない発見をした気になるけど>と前置きをしながらも、<結局テレビも好きだし/無機質の繋がりも悪くない>と一周したかのような感覚。そして<知性のかたちも流動するものさ>と吐き捨てる。達観というか、諦念。そんなイメージを抱いてしまう。

「自分の暮らしを満遍なく覆っている秩序の存在にはたと気づいてしまって、いわく言いがたい不安感を覚えつつもそのさまにどこか安堵してしまっているようなイメージの歌です。特別ではない、あくまでニュートラルな物語を意識して“祝日”と冠しました」。どこか切ないムードを感じずにはいられないが、これがMomにとっての“ニュートラル”なのだろう。<クラスメイトみたいに話を逸らし続ける祝日>という詩的なラインは、リリシストとしての洗練を感じずにはいられない。

「コロナ禍によって変わったのはどちらかといえばアウトプットの部分だと思います」。元々アクティブに外出するタイプではなかったMomにとって、昨年から続く外出自粛などによる影響はあまりなかったという。しかし、埼玉から東京・世田谷への引っ越し、そしてそれに伴う環境の変化は別だ。「人の醸す空気感とか、道の狭さとか、匂いの違いに日々影響されている感覚があります」。“クラフト・ヒップホップ”という惹句と共に注目を集めた1stアルバムからおよそ2年半。急速的に進化/深化を遂げるMomの創作活動は、果たしてこれからどこへ向かうのか。そのヒントとなりそうな本人の言葉で本稿を締めくくりたい。「土地と音楽について考えることが最近多くて、ふらふら歩きながらFishmansの世田谷三部作を延々と聴いたりしています」。


【リリース情報】

Mom 『祝日』
Release Date:2021.04.14 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. 祝日

Music & Lyrics:Mom

Mom オフィシャル・サイト

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