特別対談

hime(lyrical school)× valknee 前編

『OK!!!!!』でコラボ果たしたリリスク × valknee。グループいちのヒップホップ愛好家であるhimeとの対談で紐解く「アイドル」「ギャル」論

去る4月22日、ヒップホップ・アイドル・ユニット、lyrical schoolのキャリア初となるEP『OK!!!!!』がリリースされた。収録曲「HOMETENOBIRU」の作詞を担当したのは、ギャルいリリックと骨太なビートで注目を集めるラッパー・valknee。

本稿ではlyrical schoolきってのヒップホップ・ヘッズであるhimeを迎え、valkneeと共に楽曲制作の裏側、また2人から見た「アイドル」と「ギャル」について語ってもらった。

Interview & Text by ヒラギノ游ゴ
Photo by 遥南碧


ホワイト企業に転職して曲が書きづらくなった

――valkneeさんは会社員、himeさんは大学生ですよね。新型ウイルス禍の影響で外出が制限されている状況が続いていますが、どのようにお過ごしでしたか?

valknee:私は4月の頭から会社がリモートワークになりました。出退勤の時間が省けるぶん余裕ができたので、「TOKYO DRIFT FREESTYLE」に参加したり、Zoomgalsを主宰したり、けっこうがっつり制作してました。

※映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』のテーマ曲・TERIYAKI BOYZ「TOKYO DRIFT」を国内外のラッパーがビート・ジャックする企画。発起人は〈88rising〉のラッパー、Rich Brian

※Zoom/valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ:valkneeの呼びかけによって集まった6名のフィメール・ラッパーが各々の自粛期間をマイク・リレーし話題を呼んだ

hime:リリスクも「TOKYO DRIFT FREESTYLE」やりましたよ。あと、メンバーそれぞれが家で撮影した動画を使ってリモート・ライブをやったり、これまでと変わらないくらい活発に動いてました。プライベートでいうと、私も4月から大学の授業がリモートに切り替わって、機械音痴なのでちょっと苦戦しましたね。先生に指されて答えたのに、喋り終わってからミュートになってたのに気づいたりとか(笑)。

※4月10日に公開された『lyrical school REMOTE FREE LIVE vol.1』。メンバーが自宅から撮影した動画をつなぎ合わせ、計10曲を披露

※lyrical schoolによる「TOKYO DRIFT FREESTYLE」

――最近はお2人のように、仕事や学業と並行して音楽活動をしている人が珍しくなくなってきた印象があります。valkneeさんはお仕事で経験したことをラップしていますよね。

valknee:「SWIPE UP BITCH」ですね。以前いた会社でインフルエンサー・マーケティングに関わる仕事をしていて、その頃に感じた日々の怒りを基に作った曲です。今は転職して職場環境が格段によくなったので、怒りをベースにした曲が作りづらくなってて。逆にちょっと困ってますね(笑)。

※社会人として破綻している、ステマに加担するなどの粗悪な行動が目立つ一部のインフルエンサーに対するvalkneeの怒りが込められた曲。

valknee:なので、今はその怒りをヒップホップシーンの方へ向けてみているんですが、そうすると今度は「私のほうがいい曲作れるのになんでこいつが売れてんだ」みたいな曲ばっかりになっちゃって(笑)。これはいかんなと思って、新しい作り方を模索してるところですね。


2PacからのHilcrhyme、モー娘。からのPUNPEE

――お2人共に現場に足を運んでここ数年の国内ヒップホップ・シーンの動向を見てきたかと思うんですが、お二方のルーツから伺っていきたいと思います。まず、一番最初に自分で買ったCDって覚えてますか?

valknee:私は『ベスト!モーニング娘。1』です。同世代の人はこれが初めてっていう人かなり多いんじゃないかな。ハロプロはその後もずっと好きですね。

hime:自分で買った中で一番古いのはDJ松永さんの『サーカス・メロディー』だったと思います。ただ、その前から両親が車や家でかける音楽を聴いて育ったというのはあります。

――ご両親も相当ヒップホップ好きだったとか。

hime:そうですね、お父さんのアメ車のカーステでは2Pacなんかのギャングスタ・ラップばっかり聴いてて、中学に入るくらいまでは日本語ラップは全然知らなかったんです。でもあるとき母がHilcrhymeにハマって。ライブについて行ったらめっちゃかっこよくて、そこから私も日本語ラップにハマっていったんです。

――――2Pac育ちからのHilcrhyme……! valkneeさんはどういった経緯でヒップホップと出会ったのでしょうか。

valknee:ちゃんとを聴くようになったのは大学に入ってからです。その頃にPUNPEEさんの『Movie On The Sunday』がリリースされて、いわゆる文化系ラップみたいなものが出始めたときでしたね。今までラップに感じていた硬派なイメージと違ったのがおもしろくて。

――なるほど、当時はどのように音楽をディグっていましたか?

valknee:その頃はTSUTAYAでバイトしてたので、情報は仕入れやすかったですね。最初はバンドやアイドルのCDを借りていたのが、途中からそこにヒップホップも加わるようになりました。あとはTBSラジオの『タマフル』(宇多丸のウィークエンド・シャッフル)は大きかったですね。当時はヒップホップと同時並行でKARAや少女時代も聴いていたので、ヒップホップと並列でアイドルの音楽も扱う宇多丸さんのスタンスがかなり刺さって、影響を受けてると思います。どっちの音楽もかっこいいものなんだって思えたんですよね。

――お2人とも、メディアで大きく紹介されていないようなラッパーやグループにも早い段階から注目していると思うんですが、どういう風に見つけているんでしょうか?

valknee:私は音楽に詳しい人のインスタのストーリーが多いですね。あと、イベントの現場で「この子やばいよ」って教えてくれるおじさんたちがいるんですよ(笑)。あとはやっぱりイベントで目当ての人と、対バンしてる人がよかったってことも多い。

hime:私もイベントで直接パフォーマンスを観て好きになることが圧倒的に多いですね。有名なラッパーの前座で出てきたグループが実力だけで一気に場を温める状況が本当に好きなんですよね。逆に人が教えてくれるものを聴いてみるってことがあんまりなくて。よくプロデューサーのキム(ヤスヒロ)さんがLINEグループにおすすめを送ってくれるんですけど、私、実はほとんど聴いてない(笑)。

――徹底した現場主義ですね。

hime:そうですね、自分の目で見ていいなって思えないとだめなんですよね。


ボースティング × エンパワメントの可能性

――リリスクのEP『OK!!!!!』に収録されている「HOMETENOBIRU」で、valkneeさんは作詞を担当されました。このリリックでは、valkneeさんが元々持っていた女性へのエンパワメント志向が、ヒップホップ伝統のセルフ・ボースティングという手法と絶妙にマッチしています。この意外な相性のよさに驚いたというか、ひとつの発明だと感じました。

valknee:そうですね、まずボースティングをめちゃくちゃ入れようというのを最初に決めていたんです。そのうえで“アイドルとして”どうボースティングしていくか、というのがテーマで、いろいろと試行錯誤して最終的に「私かわいい」「私えらい」を連呼する内容になりました。

――エンパワメントというと、社会的抑圧に対してNOを突きつけていくアプローチが注目を集めますが、この曲のように女性たちの“自己肯定感を上げる”というアプローチもまた、ひとつのエンパワメントの形として実に理にかなったものです。

valknee:リファレンスとしては、℃-uteの「ほめられ伸び子のテーマ曲」という曲や、元モーニング娘。の道重さゆみさんが自分で“私は世界一かわいい”と暗示をかけてから仕事に行くという話から着想を得たんです。

――ルーツであるアイドルから着想を得たんですね。

valknee:道重さんは同期の中で全然目立てなくて、立ち位置も後ろの方だった頃からこの暗示で自分を奮い立たせていたんです。後になってそのキャラクターがバラエティ番組なんかでもフィーチャーされるようになり、成り上がっていったというストーリーがあって。あとは、「褒めて伸びる」というのがアイドルとファンの関係ともリンクするなるなと思っている部分もあります。リリスクだけでなくアイドル全体を上げるボースティングになったらいいなと。

――今までのリリスクにはないタイプのリリックだったと思いますが、himeさんは受け取ったときどう感じられましたか?

hime:嬉しかったです。やっぱり色々と挑戦していきたいし、こういうことって曲にしてもらわないと言えないことだったりもするし、ちょっと恥ずかしいぐらいのほうがライブで映えるだろうなとも思いました。

――valkneeさんはレコーディングの際フロウのディレクションもされたとのことですが、リリスクのメンバーにはどのように指示を出されたんでしょうか。

valknee:himeちゃんには「Tohjiのあの曲みたいに!」みたいな注文の仕方をしてました(笑)。himeちゃん以外のリリスクのみんなは現行のヒップホップを熱心に聴いてるわけではないので、「もっと自信ありげに!」みたいな感じでふわっとしちゃいましたね。そこは反省点。

hime:あの指示の出し方、とてもイメージしやすかったです!

valknee:よかった(笑)。


ギミックとしてのギャル

――valkneeさんは「ギャル」のモチーフを取り入れた表現をされています。道重さんの「かわいい」セルフ・ボースティングの話にも繋がるかと思うのですが、ギャルという記号には名乗る人の気持ちを高める力を感じます。

valknee:例えばkemioくんはBLACKPINKなんかを指して「こういうギャルになりたい」「こういうお姉さんたちみたいに私も強くなりたい」みたいなことを言いますよね。そういう捉え方にかなり共感するんです。なんというか、“ギャルを借りる”ことで、下駄を履かせてもらうというか。

――KISSにとっての悪魔や宇宙人のような、いわゆる「ギミック」に通じるところもあるのかなと思います。

valknee:そうですね、もっと強く、もっと自己主張して、もっと好きな格好や髪型をしていいよっていう“許しを得る”というか。そういう“ギャルの世界線に行く”ことで自分を高めているところがあると思います。だから“ギャルを借りる”ようになってからはライブがとてもやりやすくなりました。

――himeさんから見てギャルはどういったものでしょうか? ギャルのムーブメントが一旦収束した後の世代ですよね。

hime:そういえば、リリスクに入りたての頃の私はよくギャル扱いされてました。私だけ高校生で他のメンバーと7〜8歳年齢が離れていたんですけど、そのせいもあってか、握手会なんかで何気なく使っていた言葉に変な言い回しが多かったみたいで。ファンの人からギャルだって言われて、いつの間にかギャル担当になってたんですよ。そういう個人的な体験もあって、上の世代で言うギャルは割と見た目にも重きをおいていたと思うんですけど、私たち世代だと「マインドに棲んでるもの」というイメージですね。

――まさにギャル雑誌の金字塔『egg』編集長の赤荻瞳さんも同じことをおっしゃっていました。「ギャルはマインドだ」と。

hime:少し上の世代だとギャルかどうか見た目でわかりましたもんね。でも今ってギャルに程遠いような見た目の子ほどマインドがギャルみたいな場合が多くて、私の友達も控えめな子ほど「自分の中にギャルが住んでる」みたいなことを言うんですよ。自分では自分のことを特にギャルだと思っていなかったので、その頃はちょっと抵抗もあったんですが、最近はギャル=「かっこよくて強いもの」ってイメージがどんどん強くなっていて、世の中的にも段々と肯定的になってきたなって実感します。

※後編に続く


【リリース情報 】

lyrical school 『OK!!!!!』
Release Date:2020.04.22 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. OK!
作詞:ALI-KICK・大久保潤也(アナ) / 作曲:上田修平・大久保潤也(アナ) / 編曲:上田修平

2. HOMETENOBIRU
作詞:valknee / 作曲・編曲:ANTIC

3. Last Summer
作詞:木村好郎(Byebee) / 作曲・編曲:高橋コースケ

4. Dance The Night Away feat. Kick a Show
作詞:Kick a Show / 作曲・編曲:Sam is Ohm

5. Bring the noise
作詞:MCモニカ(Byebee)・泉水マサチェリー(Byebee) / 作曲・編曲:泉水マサチェリー(Byebee)

==

lyrical school 『PLAYBACK SUMMER』
Release Date:2020.07.29 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. 秒で終わる夏 (taken from the album 『BE KIND REWIND』) 
作詞:大久保潤也(アナ) / 作曲・編曲:上田修平

2. 夏休みのBABY (taken from the album 『WORLD’S END』)
作詞:大久保潤也(アナ) & 泉水マサチェリー(WEEKEND) / 作曲:泉水マサチェリー(WEEKEND)

3. 常夏リターン (taken from the album 『WORLD’S END』)
作詞:Bose(スチャダラパー) & かせきさいだぁ / 作曲:SHINCO(スチャダラパー) / 編曲:SHINCO(スチャダラパー)

4. Last Summer (taken from the EP 『OK!』)
作詞:木村好郎(Byebee) / 作曲・編曲:高橋コースケ

5. YOUNG LOVE (taken from the album 『BE KIND REWIND』) 
作詞:木村好郎(Byebee) / 作曲・編曲:坪光成樹 & 高橋コースケ

※配信限定

lyrical school オフィシャル・サイト

Spincoaster

Spincoaster

Spincoaster(スピンコースター)は、独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介する音楽情報メディアです。