去る4月22日、ヒップホップ・アイドル・ユニット、lyrical schoolの新作EP『OK!!!!!』がリリースされた。収録曲「HOMETENOBIRU」の作詞を担当したのは、ギャルいリリックと骨太なビートで注目を集めるラッパー・valknee。
楽曲制作の裏側や2人の考える「アイドル」「ギャル」について訊いた前編に続いて、後編ではラッパーをアイドルに例えて考察するという2人の、独特なヒップホップの楽しみ方を訊くと共に、それぞれの属するグループ/サークルや緩やかな連帯擁するメンバーとの関係性について掘り下げていく。
Interview & Text by ヒラギノ游ゴ
Photo by 遥南碧
ヒップホップ・ヘッズ2人の注目ラッパー
――リリスクはアイドルとヒップホップを横断する特殊な立ち位置にあるグループですが、ヒップホップ・シーンの中で親近感を覚える存在はいますか?
hime:中々いないのですが、例えばKANDYTOWNからはインスピレーションを受けてます。メンバーがそれぞれ俳優とか服屋さんとか、音楽以外の活動をしていますが、集まったときにそれが個性として強みになってるじゃないですか? リリスクも同じように、ラジオ番組を持ってる子がいたり、ダンスレッスンをしてる子がいたり、リリスク以外の場所でそれぞれやっていることがある。個人でも強いけれど、リリスクとして集まったときに最強になる、というのが理想形だなって思うんです。
――valkneeさんで言えば、直近でコラボしたZoomgalsの面々との関係性はどのようなものでしょうか?
valknee:私、Zoomgalsに対しては仲間というよりもいいライバル関係みたいな意識があるんですよ。メンバー同士でライバル意識を持ったグループが好きだというのもあるんですけど。Zoomgalsのメンバーとはそもそもの考え方や向いてるベクトルが少しずつ違って、まったく一枚岩だと思ってないんです。
これまでフィーチャリングをやってこなかったのも、方向性の違う相手同士で組むことへの迷いが大きな要因でした。でも、この新型ウイルス禍の状況を受けて、この際だから大人数まとめてやっちゃえという感じでああなりました。そういう経緯なので、あのメンバーとはまだまだこれからだなって感じがしてます。
他人のバースにかぶせる夢が叶った喜びを全力で表現するZoomgals#710オンラインgoodvibrations
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投げ銭もまだまだ受付中https://t.co/DjKMq5nBG8 pic.twitter.com/Fm41cbuYBp— あっこゴリラ🦍AKKOGORILLA (@akko_happy_b) July 10, 2020
※編集部註:このインタビューの後に実施されたZoomgalsによる配信ライブは格別の熱気を放つものになり、まさにこの取材でvalkneeが語った“これから”の進展を期待させるものだった。
――Zoomgals以外で近いものを感じる人はいますか?
valknee:アティチュードの面で身近に感じるのはharuru犬love dog天使さん。置かれている状況も似ていてシンパシーを感じています。あと、単純に大好きなのはYENTOWNのMONYPETZJNKMN。アイドルでもそうなんですが、SNSの使い方ひとつとってもブランディングというか、きっちりパッケージングされているのが好きなんですよね。この2組はその点でプロフェッショナルだなって思うし、とても参考になる。
――himeさんはというと、過去のどのインタビューでもほぼ必ずCreepy Nutsの名前を挙げています。
hime:そうなんですよ。中学生ぐらいから追ってて、ライブにお客さんが私ともう1〜2人しかいないみたいな頃から観てました。それこそ一番最初に買ったCDがDJ松永さんだったり、元々コッペパン(※)が大好きだったり、お2人が別々に活動していたときから追っていて。そんなふたりがCreepy Nutsを結成したときは、「こんな最強のタッグがあっていいのか!?」って感じでした。
※R-指定が同郷ラッパー・KOPERUと共に2012年まで活動していた音楽ユニット
――今注目している人やグループはありますか?
hime:最近はずっとNormcore BoyzとSound’s Deliっていうグループを推してます。2組ともけっこう人数がいるのに誰も霞んでないのがすごくいいんですよね。ちゃんと現代っぽいことをやりつつも、現行のラッパーの誰にも似てないし、メンバーそれぞれの個性がぶつかってない。MVでわちゃわちゃしてる感じもかわいいんですよ。
hime:あと、GADOROくんのワンマンの前座に出ていて知ったNATUKILLAS。その日のオーディエンスはみんなGADORO待ちみたいな感じで、NATUKILLASのパフォーマンスが始まっても携帯いじったりしてて嫌な感じだったんですけど、すぐにかっこよさに気づいてみんな携帯しまって聴きはじめて。痛快でしたね。あと、フェスで観たGang Ageさんもよかった。
valknee:イベント現場にいる音楽詳しいおじさんから教えてもらったYamieZimmerくんです。あと、YENTOWNを好きになったきっかけでもあるんですけど、2016年頃にやっていた『田中面舞踏会』っていうイベントに出ていた面々はずっと大好きです。今思えばものすごく豪華な面々が出てて、BAD HOP、KOHH、MONYPETZJNKMN、G.RINA、Cherry Brown、PUNPEE、ECDとか。復活してくれないかなってずっと思ってます。
BAD HOPをモー娘。メンバーで例えると
hime:例えばさっきのNormcore Boyzを聴いてるときに「このメンバーはうちで言うとこの子」みたいな感じで、リリスクのメンバーを別グループのメンバーに照らし合わせて遊ぶのにはまってるんですよ。
valknee:あははは、それメンバーに通じるの?
hime:誰にも通じないです!「minanはOSAMIっぽいんだよな」とか、新曲の音源をもらったら「ここはNormcoreだったらYoung Daluに歌ってもらいたいけど、うちだったらyuuかな」とか言うんですけど、全然通じない。
valknee:びっくりしたんですけど、私も似たようなことをやったことがあって。ハロプロのJuice=JuiceをKANDYTOWNに例えたり、2014年頃のモーニング娘。をラッパーに例えたりしたのをブログに書いたことがあるんですよ。その中で「工藤遥ちゃんはSKY-HIさん」って書いたらSKY-HIさん本人から「工藤さんを応援します」ってリプライが来た(笑)。
――(笑)。himeさんから見て、リリスクのメンバーはそれぞれどんな人物でしょう?
hime:risanoはライブで一番動いてくれる切り込み隊長的なポジションで、その運動量を支えるスキルもある。あとは英語が話せるので、ステージを降りてもコミュニケーションでみんなを楽しませてくれます。yuuは歌がうまいことをよく知ってもらってるんですけど、実はラップのレベルも高い。そこにもっと注目してほしいな。yuuはどっちも高いレベルでできるなかなか珍しい存在なのかなって思います。minanさんはやっぱり一番オーラがありますね。risanoとは対照的で動き回ったりしないんですけど、それでも存在感がある。経験値もあるので歌もラップも言うことなしで、いてくれると安心できる存在ですね。hinakoはリリスクの中で一番アイドルをやってくれてる子。実は今一番グループとしてのバランスを取ってくれているのはhinakoだと思うんです。今のリリスクって以前に比べてとラップ色が強いので、アイドル・グループとしてはちょっとぐらついてしまいかねないバランスで。hinakoがいてくれるから“ヒップホップ・アイドル”って言えてる部分は大いにあると思います。
――ヒップホップ・クルーではなく、あくまでアイドルであるというスタンスですね。ご自身はグループの中でどういった立ち位置だと思っていますか?
hime:私は普段からラップを聴いてて、ライブにも人一倍足を運んでるので、その中で感じたことを研究したり、プロデューサーに提案したりしながら、自分たちのライブに落とし込む係ですね。後はメンバーそれぞれに対して「これ聴いたら吸収できるものあるだろうな」ってものを見つけたらそれぞれに曲を送りつけたり。
――メンバーにヒップホップの話をしても伝わらない、みたいなフラストレーションが溜まることはないですか?
hime:逆に今みたいな状態が一番いいと思うんです。同じグループの中でみんなが同じものを聴いてたら全然おもしろくならないと思うんですよ。例えばhinakoってディズニーが大好きで、自分のラジオ番組でもパレードのサントラを流したりしてて。最初はそれがすごすぎるなと思ったんですよ(笑)。自分の中に全くない感覚だったし、ラップのグループなのになんでだろうって。でも、実はそれが個性として活きるんですよね。hinakoがディズニー・リゾートのパレードでよくやられている動きをライブで取り入れているのを見て、「あ、これいいじゃん!」って思えたんですよ。
2人の過ごす2020年の夏
――新型ウイルス禍によって世界的に不自由な状態が続く中、夏が来てしまいました。夏らしいことがどれだけできるのかまだわからない状況ですが、お2人のおすすめの夏の曲を教えていただきたいです。
valknee:私、夏のアンセムっていうとリリスクの曲ばっかり思い浮かびます。
hime:えーー! ありがとうございます!
valknee:「そりゃ夏だ!」はもちろん、「サマーファンデーション」「夏休みのBABY」「FRESH!!!」も全部好きで、毎年カラオケで歌ってます。アイドルで毎年夏曲出すグループって実はあんまりいないんですけど、リリスクはやってくれてますよね。
hime:うちら冬でも夏曲出すんですよ。一年中夏曲歌ってる。
valknee:(笑)。あとはKOWICHIの「ファンデーション」も好きで、一番はAwichの「Remember feat. YOUNG JUJU」ですね。TOP 1はそれ以降更新されてないかもしれないです。
hime:私もKOWICHIめっちゃ好き! でも中学生の頃、家で歌ってたら母に「KOWICHIは聴いちゃだめ」って怒られた。
valknee:リリックが子供向けではないもんね(笑)。
hime:私は夏になったらRIRI、KEIJU、小袋成彬の「Summertime」が聴きたいですね。
――ありがとうございます。それでは最後の質問ですが、今後の活動について、今のイレギュラーな状況も踏まえて伺いたいです。
valknee:さっきも話にありましたが、別々で活動していても強いけど集まると最強、という形態をZoomgalsのメンバーともやっていけたらいいなと思ってます。ラッパーだけじゃなく、例えばデザイナーや映像作家など、色々な女の子たちと流動的なクルーとして活動できたら最高。いつかはまとまった作品も出せたらいいですね。
今後に関して言うと、私は配信ライブにあんまり意欲がないというか、それよりは制作に時間を使っちゃう方なので、しばらくは曲作りに力を入れていきたいなと思っています。あと、配信ライブはそこまで熱心じゃないけど、ポッドキャストはやってるので、そっちで配信ならではなことをやっていけたらと思います。
hime:私はもっと色々な方とコラボしていきたいです。今回のEPに参加していただいたKick a Showさんやvalkneeさんのように今後もリリスクと化学反応が起きる人たちと一緒にやっていければなって思います。
あと、今の状況が始まる前は毎週末のようにライブをやっていたので、それができなくなってからライブの貴重さを痛感していて。次ライブをやるとなったら、今までみたいに曲をこなすだけじゃなくて、新しい演出に挑戦できたら嬉しいです。
今はリモートになっちゃいますけど、リモートでどんなことができるのかだんだんわかってきたので、そちらはそちらで創意工夫しつつ、リアルのイベントはより工夫が必要になるのかなと思っていて。今まで意識を向けてこなかった「リアルならでは」みたいな部分について考えるきっかけになっています。
【リリース情報 】
lyrical school 『OK!!!!!』
Release Date:2020.04.22 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. OK!
作詞:ALI-KICK・大久保潤也(アナ) / 作曲:上田修平・大久保潤也(アナ) / 編曲:上田修平
2. HOMETENOBIRU
作詞:valknee / 作曲・編曲:ANTIC
3. Last Summer
作詞:木村好郎(Byebee) / 作曲・編曲:高橋コースケ
4. Dance The Night Away feat. Kick a Show
作詞:Kick a Show / 作曲・編曲:Sam is Ohm
5. Bring the noise
作詞:MCモニカ(Byebee)・泉水マサチェリー(Byebee) / 作曲・編曲:泉水マサチェリー(Byebee)
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lyrical school 『PLAYBACK SUMMER』
Release Date:2020.07.29 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
1. 秒で終わる夏 (taken from the album 『BE KIND REWIND』)
作詞:大久保潤也(アナ) / 作曲・編曲:上田修平
2. 夏休みのBABY (taken from the album 『WORLD’S END』)
作詞:大久保潤也(アナ) & 泉水マサチェリー(WEEKEND) / 作曲:泉水マサチェリー(WEEKEND)
3. 常夏リターン (taken from the album 『WORLD’S END』)
作詞:Bose(スチャダラパー) & かせきさいだぁ / 作曲:SHINCO(スチャダラパー) / 編曲:SHINCO(スチャダラパー)
4. Last Summer (taken from the EP 『OK!』)
作詞:木村好郎(Byebee) / 作曲・編曲:高橋コースケ
5. YOUNG LOVE (taken from the album 『BE KIND REWIND』)
作詞:木村好郎(Byebee) / 作曲・編曲:坪光成樹 & 高橋コースケ
※配信限定