東京を拠点に活躍する“キング・オブ・モダン・ディスコ”、T-GROOVEことYuki “T-GROOVE” Takahashiが、初の国内正規デビュー作となるニュー・アルバム『COSMIC CRUSH -T-GROOVE Alternate Mixes Vol.1』を、3月6日(水)にリリースした。
欧州圏を中心に高い評価を獲得する、最高峰のディスコ・プロデューサー/リミキサーのひとりとも言えるT-GROOVEは、UKソウル・チャート1位を獲得した初の日本人リミキサーとしても話題を集めた。これまでにオリジナル・アルバム2枚、リミックス・アルバム、ワークス集など、そのほとんどがフランス名門のブギー・レーベル〈Diggy Down Recordz〉を通じて逆輸入リリースされ、いずれも国内外でベストセラーを記録。さらに英BBC音楽番組でのエアプレイを筆頭に、ベテランDJからのフックアップ、和モノ系コンピレーション・アルバムの選曲監修を務めるなど、T-GROOVEの名は着実に広がりつつある。
そんな目まぐるしい活躍を続けるT-GROOVEとは、いったい何者なのか。なぜ東京にいながら世界に羽ばたき、作品が逆輸入されるようになったのか。原点となった音楽体験から、クリエイターとしての挫折、そしてカムアップから今後の展望まで、「ディスコ考古学者」とも称される彼の素性に迫ってみた。
Interview & Text by Takato Ishikawa, Takazumi Hosaka
Photo by DAMO [Kana Fukuda]
早熟なリスナー遍歴からDTMを始めるまで
――国内デビュー盤となる『COSMIC CRUSH -T-GROOVE Alternate Mixes Vol.1』のリリースおめでとうございます。本作の話に入る前に、まずはT-GROOVEさんのパーソナルな面についてお聞きしたいと思います。地元が青森県八戸市で、小さい頃からご両親の影響を受けながら音楽を聴いていたとのことですが、その時はどのように新しい音楽を掘っていたのでしょうか。
T-GROOVE:親もレコードとかカセットテープを買う方だったんですけど、自分は結構ラジオを聴いてたんですよ。近くに三沢基地があって、米軍基地用の放送から色々なヒット曲が流れてきて。Gloria EstefanとかWhitney Houstonとか。で、大体何時くらいになると音楽が流れてくるぞっていうのがわかってくるので、それに合わせてラジオの前で待機して。カセットテープに録音したりして何回も聴いてましたね。あと隣のご近所さんに、当時たぶん中学生ぐらいの、10歳くらい離れた洋楽好きのお兄さんが住んでいて。Hi-NRG(※1)とか、今でいうユーロ・ビートだったり、映画『トップガン』(原題:Top Gun)のサントラやらTiffany(※2)とか、そういう音楽を録音したカセットテープをもらって、よく聴いていましたね。なので、その頃から洋楽ばっかり聴いていました。
※1:80年代初期に流行したディスコ・ミュージックのサブ・ジャンル。
※2:Tiffany(ティファニー)。米カリフォルニア州出身のシンガー。86年デビュー。代表曲は「I Think We’re Alone Now」「Could’ve Been」など。
――当時、ご近所のお兄さん以外にも、洋楽というかユーロビート、Hi-NRGなどを聴いていた、共有できた人は身近にいましたか?
T-GROOVE:いや、いなかったと思いますね。うちの親と隣のお兄さんという狭いコミュニティ内だけで。だから、いざ幼稚園とか小学校に行ったら誰とも話が合わなくて。みんなは音楽聴いていたとしても、「どんぐりころころ」とか、そんな曲ばっかりですし(笑)。あとはアニ・メソングとかですね。『ドラゴンボール』とかが流行っていたから。そういうのを聴くのが普通ですよね(笑)。でも、当時から僕はみんなと聴く音楽がズレてたから、学校の教室でMadonnaを流して、みんな引いちゃう、みたいな(笑)。そんな子供でしたね。
――小中高と歳を経るにつれて、ご自身の音楽リスナー遍歴は変わっていきましたか?
T-GROOVE:そうですね、そこは僕の中でも浮き沈みがあって。小学校1、2年生ぐらいまでは洋楽の流行りをすごく追っていて。でも、その後、小学校2、3年生ぐらいからは、周りの同級生との話題についていくために、当時流行っていたJ-POPも聴くようになった感じはありますね。「ガラガラヘビがやってくる」(とんねるず)とか。
――小学校1、2年生ぐらいから洋楽を聴いていたのもビックリですが、そもそも自ら新しい音楽をディグるというのが特殊ですよね。
T-GROOVE:はい、かなり特殊だったと思います(笑)。しかも聴いていたのがMadonna、Michael Jackson、Whitney Houstonとかで。それが当然だと思ってたんですよね(笑)。
――最初にディスコを認識した作品はMadonnaだと伺いました。実際に、初めて聴いた時の印象は覚えていますか?
T-GROOVE:はい、覚えています。Madonnaの「Angel」と「Over and Over」という曲がすごい好きで。よく親がドライブに連れていってくれるので、その車内で聴いて「すごく気持ちいいな〜」みたいな感覚が自分の中にあったみたいで。あと、今言われて気づいたんですけど、「ドライブ中に聴いて気持ちいい音楽」というのが、僕の中でたぶん重要な判断基準だったんだろうなと。高速道路とかをドライブしている時に、気持ちよく聴けるノリのいい音楽となってくると、自然とダンス・ミュージックに行き着く。まぁ、その時はダンス・ミュージックっていうもの自体全くわかってなかったんですけど、そういうテンポのいい曲が好きだったんでしょうね。
――車で聴いていて気持ちいい音楽というと、T-GROOVEさんの今の作品にも通ずるポイントと言えるかもしれませんね。
T-GROOVE:確かに通じてますね。僕の作るアルバムって、クラブでも流せるような作品になっていると思うんですけど、それとは別に自分の部屋だったり車の中とか、それこそ高速道路とかを走ってる時に流しても気持ちいいような曲になってると思うんです。それは、やっぱり今お話したような自分の原体験に紐付いていて、自然とそういう作りになっているんだと思います。長時間ドライブしながら聴いていても、眠気を誘わないというか(笑)。
――ちなみに、そもそも音楽自体を意識的に聴き始めたのはいつごろか覚えていますか。
T-GROOVE:意識したのは本当に早くて。物心がついた3歳の時にはもうMadonnaを聴いていたんですよ。
――3歳!?(笑)
T-GROOVE:はい。Madonnaのテープを車の中で聴いているというのが、僕の一番古い記憶なんです。
――とんでもなく早熟ですね。では、ディスコやクラブ・ミュージックというものを意識したのはいつ頃からなのでしょうか?
T-GROOVE:クラブを意識したのはわりと遅いかもしれないです。高校卒業する頃にトランスにハマって、その頃から初めてクラブというものを意識しましたね。
――実際にクラブに出向いたりは?
T-GROOVE:だいたい2000年くらいから、トランスとかテクノ、ファンクがかかるようなクラブに遊びに行くようになりました。どこのハコだったかはよく覚えてないんですけど、当時は大きいハコが今よりもいっぱいあって。そういうところに友達とみんなで行って「わー!」ってはしゃいだり(笑)。19歳から22歳ぐらいまではそういう時期でしたね。Tiësto(※3)とか、Ferry Corsten、System F(※4)とかが流行っていた時期ですかね。
※3:Tiësto(ティエスト)。1969年生まれ、オランダ出身のレジェンドDJ/リミキサー。
※4:Ferry Corsten(フェリー・コーステン a.k.a. System F)。1973年生まれ、オランダ出身のトップDJ/リミキサー/プロデューサー。
――高校卒業後は、音響技術専門学校に進学するために上京されます。在学当時から宅録で音楽を作っていたということですが、そのキッカケを教えてもらえますか?
T-GROOVE:キッカケはたぶん、小学校2、3年生ぐらいだったはずなんですよ。
――また、めちゃくちゃ早いですね(笑)。
T-GROOVE:ハハハ(笑)。もちろん、コードとか鍵盤とか、何もわかってなかったですけど、当時家にアコギがあったんですよ。で、カセットデッキが2台あって、アコギを適当にジャカジャカ弾いて、妹に適当な歌を歌わせて。それを録音しているうちに曲ができる、みたいな。さらに追加録音したくなったときはデッキ同士をくっつけてテープを流して録音して、後ろでまた弾いてオーバー・ダビングする(笑)。そういうことをやっていたのが宅録の始まりだったんです。
――なるほど。そこから専門学校時代はDTMで?
T-GROOVE:はい。その時はちょうどCubase(※5)を買ったばかりだったので、それをメインに使用していましたね。
※5:音楽制作ソフトの1つ。
――当時は今よりもDTMに手を出すハードルが高かったのではないでしょうか?
T-GROOVE:確かに、ハードルはすごい高かったですね。それまでは、当時かろうじてドリームキャストとかプレステで、音楽制作ソフトがあって、それで遊びながら作曲してましたね。『音楽ツクール』(※6)とか(笑)。そこからCubaseに乗り換えた時は本当に難しかったです。
※6:ゲーム機やPC用の音楽制作ソフト。96年頃から発売されているゲーム制作ソフト『ツクール』のひとつ。また、ドリームキャストで使用できる作曲ソフトは『お・と・い・れ』(1999年発売)。
T-GROOVE:地元の八戸市には、DTMとかコンピューターで音楽を作るような仲間はなかなかいなくて。ちょろちょろっとバンドとかをやってる人がいるくらい。知識もないし、インターネットがないから情報もなかなか入らない。なので、DTMとかシンセサイザーに本格的に手を出したのは、東京に出てきてからですね。楽器屋を回ったり専門学校で教えてもらったり。
迷走、休止を経て再始動。「自己満足じゃない音楽」へ
――そこから少し話が飛ぶかもしれませんが、音楽活動を一時休止していた時期もあったそうですね。なんでも、ディスコが世間で流行ってないことに気づいたのがその理由のひとつだとか。その期間は、具体的にどのような状況だったのか教えてもらえますか?
T-GROOVE:その頃は普通に働いてました。結構自分の中でも迷走していた時期で、本当はディスコがやりたいんですけど、いわゆるスタンダートなディスコ・ミュージックというものは世間に受け入れられにくい。じゃあハウスにしたらどうかな、テクノにしたらどうかな、トランスにしたら、J-POPにしたら、っていう感じで色々やったんですけど。まあほとんど受け入れられなかったというか、的を絞れていなかった。どういう風に、誰に聴かせたらいいのか、それがわからなくて。24歳ぐらいの時に「音楽は趣味に留めておこうかな」と思って、本格的な活動は辞めました。
――普通に働きながらも、音楽のインプットだけは続けていた?
T-GROOVE:そうなんです。音楽を作るのは辞めたんですけど、インプットという面ではさらに積極的になっていって。稼いだ給料をレコード、CDに注ぎ込んで。色々なレコードを集めるようになって。それこそディスコのレコードをがっつり収集し始めたがその頃からなんです。2004年、2005年くらいですかね。それでブログ(※7)を始めて。あと、ちょろちょろっとDJもやり始めたりして。
※7:「DISCO 45・・・7インチ・シングル発掘の旅」。70年代から80年代にかけて制作されたDISCO、SOUL、FUNKのダンサブルな7インチ・シングルを紹介するブログ。
――ユーロビートやトランス、ハウス、さらにはオンタイムのポップスまで、様々な音楽を聴いてきたうえで、再度ディスコに辿り着く。自身のルーツに回帰してきたような感覚はありましたか?
T-GROOVE:根底の部分では、ずっとディスコだったんです。中学1年生ぐらいのときに、Donna Summerのレコードを聴いて、ディスコ・ミュージックというものが自分の感覚にすごい合っていることに気づいて。ChicのCDを聴いて「“Dance, Dance, Dance”とか、すごいカッコいいじゃん」と思ってクレジット見たら、Nile Rodgers、Bernerd Edwarsとか書いてあって。「Nile Rodgersってどこかで見たな」って思ったら、自分の好きなMadonna『Like a Virgin』(1984年)のプロデューサーだったっていうのがわかった時、運命を感じたんですよ。それまで、好きな音楽=ノリのいい曲だというのが感覚としてあったんですけど、そこで、自分が何が好きなのかがはっきりわかった。
T-GROOVE:話は戻るんですけど。小学校2年生の時に洋楽への熱がちょっと冷めて、J-POPを聴くようになったという話をしましたよね。その時って1990年くらいだったんですけど、ちょうど音楽的にディスコ・ミュージックに変わって、テクノ、ハウス的なサウンドが台頭してくる、変遷の時期だったんです。ラジオから流れてくる音楽が変わってきた、サウンドの質感みたいなものが変わってきて、当時の僕はそれをあまり好意的に受け止められなかった。それまでの人力感が薄くなった感じがしていて。その決定的だったのが、Madonna『Erotica』(1992年)っていうアルバムだったんです。あれを聴いて、自分の求める音楽は今は流行らないんだなって思って、そこで一気に熱が冷めちゃったんです。そこで改めて自分は何が好きなのかっていう部分に向き合い、最終的にChicと出会ったことで、「あ、自分はディスコ・ミュージックというものが好きなんだ」ってことに気付かされたんです。それまでも、根底にはずっとディスコがあったんでしょうけど、改めて認識したというか。
――T-GROOVEさんが音楽制作を少しずつ再開していったのが2011年頃。キッカケはインディ・バンドをやっていた友人からの依頼だったらしいですね。
T-GROOVE:はい。それ以前に僕が作っていた音楽って、ある意味自己満足の音楽だったんですよ。結局、自分が好きなものを作っているだけ。その時に、SSWの友達から「アレンジとか作曲を手伝ってくれ」って言われたので、自分が曲を作って歌ってもらったんですけど、全く合わなかったんですよね。そこで、どうすれば彼を引き立てるための音楽が作れるのか、ということを追求し始めて。音楽制作において、自分の価値基準だけじゃなく、聴き手がどう受け止めるかを初めて意識しました。人に聴かせられる音楽、自己満足じゃない音楽というものを追求するようになった、まさにターニング・ポイントですね。
――なるほど。ターゲットみたいなものを絞って、ちゃんと目的をもった音楽制作みたいな部分を学べたと。
T-GROOVE:そうですね。そこから某大手の作家事務所に所属して、しばらくはJ-POPシーンで楽曲提供をやるようになって。そこで人々が求めてる音楽とはどういうものなのか、どういう音楽が聴きやすいのか、どういう展開がいいのか。FUNKY MONKEY BABYSさん、ORANGE RANGEさんとか、人気のあるアーティストさんの作品を教えてもらって、勉強していました。今振り返ってみると、下積み修行みたいなことをやっていましたね。。
――そこから、Robert Ouimet(※8)さんのフックアップを経て、Daft Pank「Get Lucky」(2013年)のブレイクがT-GROOVEさんの活動における大きな転換点になったかと思います。その当時の状況をお聞きしてもいいですか。
T-GROOVE:作家事務所時代にコンペに落ちまくって、また自分が作るべき音楽っていうものがわからなくなっちゃったんですよ。それで「本当はJ-POPじゃなくて、ディスコとかが好きだったのに、なんで作らないんだ?」っていう気持ちになって。それで、さっき話したSSWの事務所の社長に「自分の好きな音楽を作って、自費で出版しちゃえばいいじゃん」って言われて。なるほどなと。確かに今の時代なら簡単に自主リリースできるので、好きな音楽を自費で出して、それが鳴かず飛ばずだったらもうスッパリ辞めようって考えたんです。それが確か29歳の時。30歳になるし、キリもいいなと。それがちょうど、Daft Pankの「Get Lucky」が流行った2013年の暮れだったんですよ。
※8:Robert Ouimet(ロバート・ウィメット)。カナダ・モントリオール出身。ディスコ黎明期より活動するベテランDJ。通称・モントリオールのディスコ・ゴッドファーザー。
T-GROOVE:それで、いざリリースして。一応、レコード会社とかにも送ったんですが、やっぱり日本のレコード会社からは全く反応がなくて。だけど、Robert OuimetさんがSoundCloudにコメントをくれて。「Awesome! この曲は素晴らしい!」って。それから海外の、ヨーロッパの人たちからガーッとコメントがくるようになって、再生回数も上がりました。当初自分が自主リリースした作品は日本国内でしか買えなくて、Robertさんから「それじゃ絶対にダメだ。海外でも買えるようにしよう」って言ってくれて。そこからレコード会社を紹介するっていう話の中で出会ったのが、Tom Glide(※9)さん。
※9:Tom Glide(トム・グライド)。イギリス出身のリミキサー。
――その、Robert Ouimetさんが反応してくれたのは、別の名前で出した曲ですよね。
T-GROOVE:そうですね、T-GROOVEではなかったです。この名前になったのはそのちょっと後ですね。その時はThe Sophisticated Funkっていう名前だったかな? その名義でリリースして。それがあれよあれよと評価されて。Tom Glideさんのレーベルのコンピレーションに参加させてもらったら、イギリスでそこそこヒットして。その年のUKソウル・チャートのトップ10には入ったと思うんですよね。
――その後、2014年に発表したリミックス、Tom Glide feat Shylah Vaughn「Soul Life (T-GROOVE Philly Soul Mix)」ではUKソウル・チャート1位を獲得し、大きな話題を集めました。
T-GROOVE:そうなんですよ。これも本当に偶然で。The Sophisticated Funkでの楽曲がヒットして、Tom Glideさんに「第2弾もやりたいです」っていう話をしてたんですけど、なかなか音沙汰がなかったんですよ。そしたらある日突然「自分の曲のリミックスをやってくれ」っていう依頼がきて。これは本当にビックリしました。それまで僕はオリジナル楽曲しか作ったことがなくて、リミックスは未体験だったんですよ。
T-GROOVE:いわゆるエンジニア的なミックスは全然できるんですけど、「リミックスやったことないんだけど」みたいな感じで(笑)。まあ、とりあえずやってみようって思って、それを引き受けたのが2014年のクリスマスです。リズムを自分の好きなように差し替えてみたり、アレンジし直してみたり、なんとなくコツみたいなものを掴み始めたのがその3日後の12月28日ぐらい。そしたら、Tomから「まだできないの?」って連絡きて、「えっ!」みたいな(笑)。「1月10日リリースだから早く提出して」って。「え、マジですか! ヤバい……」ってなって、そこから3時間くらいでガーッと仕上げて提出しました(笑)。なんとか1月10日リリースに間に合って。
――とんでもないスケジュール感ですね(笑)。
T-GROOVE:本当に(笑)。初のリミックスで、依頼頂いてから3日くらいでバーっと作ったものが1月10日にリリースされちゃうっていう(笑)。その時に、リミックスのタイトルをどうしようかなって考えてる時に、20歳くらいの時に友達とユニットを組んだ時に適当に付けた、T-GROOVEっていう名前を思い出して。リミックス自体はフィリー(ソウル)っぽい感じだったので、“T-GROOVE Philly Soul Mix”っていうタイトルで出そうって決めたんです。それからこの名義を使っています。
――それ以降、海外でのリリースを中心に次々と作品を発表されていきますよね。また、先述の通り、Daft Punk「Get Lucky」のヒットで、世界的なディスコ、ソウル、ファンク回帰の機運が高まりましたが、ご自身の活動には変化はありましたか?
T-GROOVE:そうなんですよね。自分の活動再開と、そのムーブメントがバッチリ重なった。それまで自分はソングライター、アレンジャーっていう認識だったんですけど、そこでいきなりリミキサーっていう肩書きでイギリス・デビューしてしまった。そしたらイギリスのDJ/プロデューサーからリミックスの依頼がドッとくるようになって。Daft Punkのヒットでディスコやファンクが流行ったと言っても、やっぱり当時に日本ではまだ対岸の火事というか、オンタイムで変化は感じられなくて。そもそもUKソウルっていうジャンル、シーンもあまり日本では注目されていなかったので、この当時はまだまだ日本で僕の存在は全然気づかれてなかったと思います。当時から「Soul Life」のリミックスに反応して、プッシュしてくれてた日本人はMANABOON(※10)くんと、林剛(RIN-GO)さんのお2人。
※10:MANABOON。1981年生まれのプロデューサー/コンポーザー/アレンジャー。三浦大知、清水翔太、加藤ミリヤなどの多くの楽曲を手がける。
――なるほど。小さい頃に夢中になったNile Rodgersが、「Get Lucky」によって再び広い層から陽の目を浴びることになった時は、流石に感慨深いものがあったのではないでしょうか?
T-GROOVE:いやー、興奮しましたね。「Nile Rodgersが復活した!」って。しかも、グラミーまで獲っちゃって。自分も結構刺激は受けましたね。「そうか、こういう音楽やってもいいんだな」って思ったんですよ。
――そこから2枚のアルバムと作品をたくさん公開して、今回ようやく日本国内正規デビュー作となる『COSMIC CRUSH -T-GROOVE Alternate Mixes Vol.1』がリリースされることになりました。本作にはこれまでのヒット曲が満遍なくコンパイルされている印象ですが、収録曲はどういった基準で選曲されたのでしょうか?
T-GROOVE:今までフランスで2枚アルバムを出して、日本にはそれが輸入盤で入ってきていました。今回は初めて国内盤としてリリースされるので、日本全国の方々へ向けた自己紹介みたいな感じにした方がいいかなと。既存の人気曲を中心にセレクトしつつ、それでいて全体的にオリジナル・アルバムのように聴けるような作品に。そこで、既発のアルバム・バージョンと同じ音源にしたら自分自身がおもしろくないなと思い、全曲ミックスをやり直したり、バージョン違いを収録して。そこに新曲とボーナス・トラックを入れてまとめました。こんなアルバムを、メジャー/レーベルから出してるプロデューサー/リミキサーなんて、今の日本には絶対いないだろうと思って。
――資料によると、レベッカの『REMIX REBECCA』(※11)がお手本と言うか、インスパイア源になったそうですね。
T-GROOVE:はい。あの作品はFrancois Kevorkian(※12)のリミックスを加えたベスト盤的な作品なんですけど、ああいう感じでやりたいなと思って。何を隠そう、Madonnaの『Like a Virgin』と同時に聴いてたのが『REBECCA REMIX』で、実は僕のバイブルとも言える作品のひとつなんです。なので、これまでのベスト盤的作品を作るんだったら、ああいう感じにしたいと思っていて。曲のアレンジが丸々変わってるとかではなく、ちゃんとオリジナルの要素も残して、「原曲と全然アレンジと違うじゃん、ガッカリ!」にはならないような作品にしたかったんですよね。
※11:1987年にリリースされた、レベッカ初のリミックス・アルバム。リミックス・エンジニアのひとりに、Francois Kevorkianが担当。
※12:Francois Kevorkian(フランソワ・ケヴォーキアン)。1954年生まれ。フランス出身、NYを拠点に活動しているDJ/リミキサー/プロデューサー。ハウス・ミュージックの先駆者。
――しかし、普通はなかなか考えない、思いついたとしても実行しないアイディアですよね。単純にすごい手間をかけた作品になっている。
T-GROOVE:日本で初めて正式に、それもいきなりメジャーでリリースするアルバムが、全曲バージョン違いのリミックス。しかも、ロング・バージョンしか入ってないっていう(笑)。確かに自分でもなかなかチャレンジャーなことだな思います。仲良くして頂いているプロデューサーの松尾潔さんも「大英断だね」って言ってくれてました(笑)。
ただ、手間の話をすると、元々制作する過程で別バージョンとかがかなり生まれてるので、そのなかでいいバージョンをさらに整えていくっていう流れが基本だったんです。原型があったので、そんなにめちゃめちゃ大変だったというわけではないですね。ただ、このプロジェクトに向けて最初に作った新曲はアレンジで苦戦してしまって。そこで、ギタリストの原ゆうま君と一緒にアレンジをやろうと思って。原ゆうま君ってテクノやディスコじゃなくて、どっちかっていうとジャズ、フュージョンとか、そういうのが得意な人なんですけど、そんな彼に敢えて「一緒にテクノ・ディスコやろう」って言って(笑)。それでできたのが「Cosmic Crush (You’ve Got Me Falling In Love Again) feat. Laura Jackson」っていう曲なんですけど、自分でもよくできたと思っています。
――今回の作品に限らず、T-GROOVEさんの作品全体からクラシカルなディスコに対する愛情を感じつつも、音像――特にボトムの感触などは非常に現代的な音作りと言えると思います。そういったサウンド・プロダクションにおいて、ご自身で何か意識されていることはありますか。
T-GROOVE:自分で曲を作る時は、必ずデモをiPhoneとかに入れて、電車や車の中で聴くようにしています。街の風景や空気感に合うかどうか。空気感が合っていたら「これはたぶん、今っぽい音楽だから誰かしらには聴いてもらえるだろう」って。そういうのは意識しますね。やっぱり僕も現代に生きている人間なので、現代の空気感っていうのは少なからず浴びているはずで。それに合っている音楽を提供したいなとは思っています。それはインディーズ時代に経験から引き続き気にしていますね。
――今回のアルバムでは、リンドラムの音色やシンセベースを多用したそうですね。それらの音色、機材を導入した具体的な狙いがあれば教えてください。
T-GROOVE:1stアルバム『Move Your Body』が1981年の前半くらいみたいなイメージで作ったんですよ。当時は、生音にシンセサイザーがちょっと融合したぐらいのサウンドが流行りだったので。で、そこから1年後に今回のアルバムをリリースするってなったので、「現実の世界で1年経つから、今度は1982年の音にしよう」って思ったんです。1982年頃って、ちょうどリンドラムが出てき始めて、シンセサイザーが中心になってきた時期なんです。だから、そういった音色を取り入れてみたら、自分にとっても新鮮で。
だから、次作は今からどうしようって悩んでます(笑)。次は1983年の音をアップデートするのか、それとも一気に90年代にいっちゃうか。そういうことを考えたりしています(笑)。
国内シーンの変化と、未だ感じる海外との差異
――アルバムの話からズレてしまうかもしれないのですが、世界的なディスコ、ソウル、ファンク回帰の流れがあって、それにちょっと遅れていくように日本でもそういった音楽から影響を受けた、いわゆる“シティポップ”と呼ばれるようなサウンドが流行りました。それを受けて、現在では日本人の横ノリに対する苦手意識や、グルービーな音楽はあまり受け入れられない、といったような定説が変わりつつあると思います。そういった点について、T-GROOVEさんの見解をお聞きしたいです。
T-GROOVE:数年前までは僕もJ-POPを作っていた人間だったので、ある程度わかっているつもりなんですけど、J-POPって比較的“歌手”と“歌詞”に重きを置いているモノが多いんです。“誰が”、“どういうことを歌うか”が重要。あとはAメロ、Bメロ、サビでガッと盛り上がるような構成とか。そういうのがメインストリームだったんです。でも、Suchmosが人気出た辺りから、サウンド志向の音楽が流行り始めたような気がする。歌詞だけじゃなくて、全体的なサウンドを心地よく聴かせることのできるグルーヴィーなアーティスト/作品が流行り始めたんじゃないかと。たぶん、若い子がそういう趣向になってきたのが、昔のシティポップとかAORの再評価にも繋がっているんじゃないかなと。
――ディスコやソウルが大好きで、それを聴いて育ってきたT-GROOVEさんにとってはすごく嬉しい変化ですよね。
T-GROOVE:そうですね、そんなことはないだろうなと思いつつも、これがずっと続いてほしいって考えちゃいますね(笑)。今はわりとブラック・ミュージック的な要素が強い、オシャレというか、洗練された音楽が流行ってるじゃないですか。それこそAORっぽかったり。なので、今後はその揺り戻しで、たぶんまた荒々しい音楽が戻ってくるんじゃないかなっていう気はしてます。昔、渋谷系が流行った後、パンク・ロックが流行った気がするんです。Hi-STANDARDとか。だから、もしかしたら、またバンドが流行るんじゃないかと。僕、実はパンク・ロックも大好きなんです。
――そうなんですね。でも、もし予想通りにパンク・ロック、もしくはそれに代わる荒々しい音楽がトレンドとなったら、T-GROOVEさんはどのような作品を作ると思いますか?
T-GROOVE:そういう流れも全然大歓迎です。ディスコ・ミュージックというものはどんなジャンルにもミックスできると思うので、もしかしたら“ディスコ・ロック”、“ディスコ・パンク”をやるかもしれないですね。あまりにもイメージと異なるってなったら、シレッと別名義に変えるかもしれないですけど(笑)。
――それ、すごい聴いてみたいです(笑)。
T-GROOVE:もちろん今後もこのT-GROOVEっていう名義で活動しますけど、もしかしたらいきなり変名プロジェクトをやるかもしれない。ジャンルやテイストが変わる時に、名前もついでに変わってるかもしれないです。すでに、Golden Bridge(※13)とかがあるように、色々な名義で、色々なジャンルの音楽をやってみたいんですよね。
※13:Golden Bridge(ゴールデン・ブリッジ)。T-GROOVE、monologの日本人クリエイター2組によるユニット。
――日本を拠点としながらも、日本の外でも大きく活躍されているT-GROOVEさんから見て、日本と海外の音楽シーン、もしくは音楽業界の差異みたいなものは感じますか?
T-GROOVE:それはまだまだ感じますね。ただ、海外って多民族文化が多いじゃないですか。だから、どんなものでも受け入れやすいっていう土壌の違いはあるんじゃないかなって思います。どんな曲を作っても、誰かしらが受け入れてくれる。一方、日本ではちょっとズレたものを出すと、「これはウケないよ」って言って跳ね除けられることが多い。シャットアウトされちゃう。海外向けに作った音楽を、そのまま日本語詞に置き換えてJ-POPとして売り出そうとすると、「サビがない」って言われたりとか、そういう話を聞くと、海外との違いを感じますね。
音楽業界っていう意味で言うと、日本はわりと納品からリリースまで1ヶ月空けたり、そういうスケジュール管理がきっちりしてるんですけど、海外はアバウトなんですよね。そもそも納期というものがなくて、「なる早で」みたいな感じでお願いされて、1〜2週間くらい経つと催促がくるとか。だから迅速にやらないといけない。その代わり、動きが全部早いんです。僕のリリース作品量が多い理由もたぶんそこなんですよ。配信だったり、リリースのスパンが早くて、提出したらすぐにリリースされる。そこはやっぱり違いますね。日本の場合だと、「こういう作品をリリースしたい」って提案したら、そこからよくわからない会議にかけられたりして、1ヶ月後、3ヶ月後くらいようやく動き出す。でも、やろうってなった時にはそのブームが終わってしまっていたり。そういう話もよく聞きますね。
――では、最後にT-GROOVEさんが考える今後の展望や目標などがあれば教えてください。
T-GROOVE:目指しているもの……あわよくばグラミー賞が欲しいです(笑)。僕、飛行機が大っ嫌いなんですよ。だから海外とか行くのは嫌いなんですけど、グラミー賞がもらえるなら仕方なく飛行機乗ってアメリカ行きます(笑)。
――飛行機が苦手ということですが、そもそも日本よりも先に海外での人気、プロップスを獲得した時、海外を拠点にしようと考えなかったのでしょうか?
T-GROOVE:特にないですね。日本酒が大好きなので(笑)。海外でも日本酒は飲めるし、今はフランスでも日本酒ブームだって聞きますけど、流石に酒蔵はないでしょうし(笑)。今はインターネットで気軽に世界に繋がれるので、この時代に生まれてよかったなと本当に思ってます。昔だったら、海外の人たちと制作するなら向こうに行かなくちゃっていう状況だったんでしょうけど。今の時代は「飛行機苦手だし、ご飯とかも合わないだろうな」っていうワガママな自分でも、日本にいながら向こうの人たちと仕事ができる。いい時代ですよね(笑)。
【リリース情報】
T-GROOVE 『COSMIC CRUSH -T-GROOVE Alternate Mixes Vol.1』
Release Date:2019.03.06 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
Tracklist:
01. Cosmic Crush (You’ve Got Me Falling In Love Again) feat. Laura Jackson (New Song)
02. Move Your Body feat. B. Thompson (Previously Unreleased Extended Version)
03. Roller Skate feat. The Precious Lo’s(1st time on CD Extended Version)
04 Let’s Feel Good feat. Ania Garvey (Previously Unreleased Extended Version)
05. Get On The Floor feat. The Precious Lo’s (Previously Unreleased Alternate Mix)
06. Let Your Body Move feat. Enois Scroggins (Previously Unreleased Alternate Mix)
07. Everybody Dance (Gotta Get Up & Get Down Tonight) feat. Diane Marsh (Previously Unreleased Extended Version)
08. Anything feat. Winfree (Previously Unreleased Extended Version)
09. You’re The One feat. Alexis & Company (Previously Unreleased Extended Version)
10. Family feat. Jovan & Sammy (Previously Unreleased Alternate Mix)
11. Do You Feel The Same? feat. Leon Beal (Previously Unreleased Alternate Mix)
ALL THE TRACKS PRODUCED & MIXED BY YUKI “T-GROOVE” TAKAHASHI
-Bonus Tracks-
12. Star feat. Monday Michiru (T-Groove Remix) / Intial Talk
13. The Nesy Gang (T-Groove Remix) / Funky Bureau