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FEATURE | Meg Bonus


野本慶の「気まま」な音楽の正体。メジャーデビュー控えるMeg Bonusのこれまでの歩み

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2026.11.07

Text by Ikkei Kazama
Photo by Hayato Watanabe

「給料(ボーナス)でメグミルク買えたらいいな」という雑感がMeg Bonusの由来らしい。その日が胸のすくような快晴だったら、もしくは簡単なお喋りもままならないほどの土砂降りだったら、心持ちも多少は変わっていて、乳製品メーカーの社名を自身の音楽プロジェクトに取り込むことは無かったのかもしれない。ただ、当時10代の野本慶は、そうした。

このように、Meg Bonusはとても気ままだ。一聴すると精巧な造りで、ファルセットからは繊細な印象さえ受けるかもしれない。参照される膨大な固有名詞──James Blake、Bon Iver、Jamie xx、Porter Robinson、black midi、Quadeca、池田亮司、ヨルシカ etc……──と出力される立体感のある電子音は時に冷ややかに響き、ポストヒューマン的な感触すら抱かせるかもしれない。「弱冠〇〇歳の〜」というキャッチコピーで紹介されるアーティストに期待されるのは、得てしてそういった外部性/周縁性だったりするものだ。

もちろんMeg Bonusにその向きがないわけではない。しかし、このプロジェクトにおいて上記の諸要素に先立って表出しているのは、素朴な感性でもって導かれる身体性だ。生来、気ままで、無邪気。卑近な言い方をするならば、どこか「悪ガキ」っぽい。土の上を裸足で駆けるようにハーシュノイズを愉しみ、メロディは大海を跳ね回るイルカのように艶やかで優美だ。その運動を反復可能な形で保存するために、ここでようやく音楽作品が必要とされる。

Meg Bonusは2024年10月に初となる作品集『18PERSONAL』を、明くる2025年の4月にはフルアルバム『New,man』を世に放つ。10代の集大成として位置付けられた『New,man』の頃には、すでにシグネイチャーのようなサウンドが外皮を帯びて鎮座していた。野本が自身の音楽遍歴を語ったインタビューにもあるように、King Gnuをはじめとした2010年代後半のJ-POPの変革期が彼の原体験であり、ゴスペル、ソウルからノーウェーブまで雑多に詰め込んだ『New,man』は、以降の数年間を反映した感性のスケッチとして聴くことができるはずだ。

『New,man』の約半年後に発表されたEP『LOSS』ではより過激な形で身体の気ままさがアウトプットされる。Stevie Wonder“Sir Duke”のフレーズが引かれた陽気なソウルチューンからグリッチに塗れた“scum(((((((”、TNGHTもかくやという伸縮自在なハードテクノ“banpaq”、有機的なアンビエント“波音”とキャラクターの異なったインストナンバーがドロップされ、壮大なピアノバラードの“足跡”に繋がる構成。急流ながらも破綻のないジェットコースターのように、当時野本が傾倒していたサウンドのいくつかが点描されていく。

また『LOSS』では、Spliceのサンプルを中心とした制作から、ミュージシャンと共にスタジオワークを追求する体制へと舵が切られた。バンドにおいてリーダーのような役割を果たし、野本が信頼を寄せるベーシストの高橋佳輝とのタッグもこの時期から始まった。

そしてMeg Bonusというプロジェクトは、ポストプロダクションをはじめとした音楽作品に関わる諸要素の全てを統御することによってクオリティコントロールを図るというアイデアに行き着く。野本はそれを「サウンドデザイン」と呼んだ。

野本:今回のEPで佳輝さんにデザインを頼んだのにも通じているというか、音楽をデザインするという考え方をみんなにも知ってほしいんですよね。日本の文化はデザインに目を向けていないと思うし、その現状に対して少しでも良い影響を与えたいと思って意図的に「デザイン」という言葉を使っています。

――それは「アート」という言葉と対置させた場合の「デザイン」という概念に対して理解が足りていない、という認識ですか?

野本:というより、音そのもののデザインの話でもあるし、インスタレーション的に物事を考える視点におけるデザイン性の話でもあるというか。例えば……ボン・イヴェールの演奏って、意外とコピーできるんですよ。アコギのサウンドにしたって、全然難しくない。だけど俯瞰して見ると全く違うものに仕上がっているというか。コピバンしようと思えば絶対に出来るけど、絶対に同じ作品を作ることは出来ないんです。

※20歳の奇才 野本慶が掲げる“サウンド・デザイン”とは? ──Meg Bonus 2ndEP「LOSS」の魅力に迫る(OTOTOY)より引用

「サウンドデザイン」という概念の鮮やかな実践となったのは2ndアルバム『TO THE YOU (ME) I MET BEFORE』だ。ビートの制約から解き放たれ、メロディの躍動がアルバムにおいて何よりも優先される本作は、Meg Bonusのしなやかなセンスを前景へと押し出した。Bon Iver『22, A Million』のデジタルクワイヤ“715 – CR∑∑KS”から影響を受けたというのも頷ける。ストリングスを用いて、自身のみの「公園の砂場」を42分のランニングタイムで瑞々しく構築していく一作だ。

Meg Bonus Photo by Hayato Watanabe
Photo by Hayato Watanabe

『TO THE YOU (ME) I MET BEFORE』のリリースライブは大手町三井ホールにて行われた。バンドを率いて、一連の巨大な音の波を構築する様。ライブハウスのスケールでは到底抑え込むことができないほど異様なショーには、アーティストとしての私性がありありと滲んでいた。その後に野口文とのツーマンライブという形でMoN Takanawaにて開催された『SWAN』では、アルバムの楽曲がシームレスに溶け合う。この時点において、「ソウル/R&B由来の生々しい歌唱法 × メロディの動きを強調するビート感の希薄なトラック」という黄金の方程式が完成していた。

おそらく、外部から見たMeg Bonus像が組み上げられていくのと、同等もしくはそれ以上の速度で、野本も自らの身体の使い方を理解していったのであろう。現時点での最新作となるEP『3 Songs + 4 Instrumentals』ではより微細な音に気が配られ、その「運動神経」が研ぎ澄まされている。例えば“Ⅱ”ではピアノと歌を基調とした楽曲の主部があり、その外殻として立体的な電子音が脳をぐるりと取り囲むように響く。森のさざめきとマッチを擦る音から始まり、文字通り延焼するように展開していく“Ⅲ”など、歌のない小品においても「サウンドデザイン」のアイデアから射出された情景描写が徹底されている。

野本慶という人は正直で、自らの問題意識を衒いなく提出することができる。『TO THE YOU (ME) I MET BEFORE』のリリース時にインタビューした際、質問の嵐を止めて「このアルバム、聴いててどう思います?」と尋ねてきたときの、ハイライトのない瞳が忘れられない。一切の迷いがない口ぶりで、素朴に会話を楽しむというスタンスこそが、Meg Bonusの核に据えられているのだなと、瞬時に気づかされた。その明晰さはこれからも発揮され、野本自身に望外の天啓を呼び込むのであろう。メジャーレーベルの良心と言う他ない、〈IRORI Records〉といった気品ある汽船に乗り込み、広大な探索はなおも続いていく。

Meg Bonus
Meg Bonus

【リリース情報】

Meg Bonus『3 Songs + 4 Instrumentals』
Meg Bonus『3 Songs + 4 Instrumentals』
Release Date:2026.10.21 (Wed.)
Label:Meg Bonus
Tracklist:
1. Ⅰ
2. Ⅱ
3. Ⅲ
4. Ⅳ
5. Ⅴ
6. Ⅵ
7. Ⅶ

■配信リンク

■Meg Bonus オフィシャルサイト


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