数多くのアーティストのプロデュースワークやDJとしてアンダーグラウンドに活動する中で培われた音楽的教養。2006年のデビュー以降、常に革新的に、そして常に音楽を楽しみながら前へ突き進んできたMetronomy。パンデミックの渦中で制作が進められた最新作『Small World』は一体バンドにとってどのような意味を持つのか。作品の核に迫るべく、バンドのファウンダーでありフロントマン、Joseph Mountへ独占インタビューを敢行した。
Interview & Text by Hayato Kajihara
Header Photo by Alex Lambert
「音楽でいつも楽しいのは、トレンドが循環するところ」
――最新アルバムについてお聞きする前に、昨年リリースされたEP『Posse, Vol. 1』は数多くの新人アーティストとのコラボレーション作品で、そのラインナップに大変驚かされました。長きにわたるキャリアのなかで、ここまでまとまったコラボレーション作品は今までなかったですよね。このEPの制作に至ったきっかけなどを教えてください。
Joseph:実はアルバム(『Small World』)を作った後にできたもので、アルバムよりも自発的で共作感のある作品を作りたかったんです。私は歳をとってきましたが、未だに新しい音楽や若いアーティストたちと一緒に何かを作ることに興奮します。若い世代の音楽に足を踏み入れるのが楽しいんです。
――Metronomyから見て“今”のUKシーンは特に興味深い点は?
Joseph:音楽でいつも楽しいのは、トレンドが循環するところだと思います。若者たちが昔の音楽を発掘して、その音楽からの影響に自分たちの新しいアイデンティティを落とし込み、新たなサウンドが誕生する。今のUK音楽を聴いていると、自分が十代だった頃を思い出します。
――『Volume 1』ということで、今後もこのようなコラボレーションは続けていく予定なのでしょうか。
Joseph:その通りです。それがそもそものアイディアでした。今はまだ忙し過ぎて着手できていませんが、新しいアーティストを発見するのにはすごくいいプロジェクトだと思うので、『Volume 2』は絶対に作りたいし、願わくばその先も作り続けていきたいです。
――次の作品ではどのようなことに挑戦してみたいですか?
Joseph:やってみたいのは、ヨーロッパとか日本のアーティストも起用すること。“UKすぎない”、もっと色々なスタイルをフィーチャーした作品が作れたらいいなと。
Sorry:近年盛り上がりをみせるUKインディ・ロック・シーンを牽引し、2020年にリリースした1stアルバム『925』はNMEとDIYをはじめとした数多くのメディアで高評価を獲得。
Pinty:サウスロンドンを拠点に活動するMC、DJ。過去の作品ではKing KruleがDJ JD Sports名義でプロデュース参加するなど、現行UKジャズ・シーンとの交流も厚い。
「地球上のみんなが同じ気持ちになっている」
――最新アルバム『Small World』についてお伺いします。まず、「Hold MeTonight」でゲスト・ボーカルにPorridge RadioのDana Margolinが参加していますが、どのような経緯でコラボに至ったのでしょうか。
Joseph:ラジオでPorridge Radioを初めて聴いて、そこでDanaのことを知りました。「Hold Me Tonight」を作っていたときに、このトラックに新しい声が入ったら最高だろうなって思って。そこでマネージャーがDanaを推薦してくれました。Danaが返してくれたレコーディング音源は曲の終わりに捻りがあって、自分が考えていたエンディングとは全く違う、すごくクールなものでした。サプライズはいつだって嬉しいし、コラボの醍醐味のひとつだと思います。特にボーカルはそう。そのアーティストの個性が曲の中ですごく活きてきます。彼らは、私にはないものを曲にもたらしてくれます。
――全体として、ミニマルなセットで私たちの回りの“小さな世界”を歌った作品となっているなかで、先行トラックの「It’s good to be back」が醸し出す、突き抜けた明るさやポップネスは一際異彩を放っています。この曲をリード・シングルに持ってきたのはなぜですか?
Joseph:この曲がアルバムの中で一番みんなと歓迎しているように聴こえる作品だと思ったからです。あとは音的に変わっているところもおもしろいと思ったし、とにかくタイトルが最初のトラックとして相応しいと思って(笑)。曲の内容は、家という家族のもとに戻ってきたことを嬉しく思うことについて書かれていますが、“バンドが戻ってきたぞ!”という意味でも成り立つと思いました。
――アルバムでのこの曲はどのような立ち位置にあると考えていますか?
Joseph:今回のアルバムは、アコースティックでオーガニックなサウンドが前面に出ていてミニマル。だけどこの曲は、アコースティックでオーガニックな演奏をしつつ、ドラムマシンやシークエンスを取り入れたりもしているし、アルバムの中でもエクスペリメンタルな作品に仕上がっていると思う。この曲にはオープンでハッピーなフィーリングを持たせたかったんだ。そう思えたのは、曲を書いていたのがロックダウンの最中で、家族と一緒に家にいれたことが嬉しかったからだと思う。
―“小さな世界”を意味するアルバム・タイトルにコメられた意味は?
Joseph:タイトルの意味は、私たちがアルバムを作っているときにいた世界。ツアーもしていなかったし、私の世界は家と家族だけでした。私がここ数年でよく思っていたのは、“地球上のみんなが同じ気持ちになっている”ということ。仕事もそうだし、生活もそうだし、みんなが同じ出来事に直面し、同じ経験をシェアしているような感覚だったんです。『Small World』というタイトルには、そういった意味も含まれています。
――今回の作品には、コロナ禍を通して感じた静けさや寂しさが落とし込まれているようですね。
Joseph:アルバム制作中は、パンデミックのなかでも最悪な時期でした。私自身のパンデミックの過ごし方はポジティブでしたが、友人たちや自分の両親たちにとってはそうじゃなかった。みんなすごく孤立していて、寂しかったと思います。作品にはポジティブな部分だけでなく、パンデミックがもたらしたあらゆる側面が反映されています。今回は歌詞を使ってそういったことを表現したかったんです。例えば、「Life and Death」の歌詞にはその悲しみが映し出されています。
「距離をとって聴くような音楽」
――これからの予定で決まっていることや願望があれば教えてください。
Joseph:またライブとツアーを始めたいと思っています。今のところ3月からツアーを開催する予定なので、日本でもショーがしたいです。今はとにかく、ツアーができる状況になることを祈るのみですね。今後の展望としては、インスト・アルバムを作りたいと考えています。さっきあれだけ歌詞にこだわりたいとか言っておきながら(笑)。アンビエントだけど、どこかアンビエントじゃないインスト・アルバムを作ってみたいんです。あとは、もちろん『Posse Volume 2』にも着手していきたいです。
――なぜインストなんでしょう?
Joseph:私はバックグラウンド的な音楽も好きなので、そういう“距離をとって聴くような音楽“を作ってみたいんです。“直接的ではない”というアイディアがおもしろいなと。
――リスナーにアルバムをどのように楽しんでもらいたいですか? また、最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
Joseph:今回のアルバムはあまり長くないので、ヘッドホンを使ってもいいし、いいスピーカーを通してでもいいし、とにかく座ってアルバム全体を最初から最後まで一度通して聴いてみてほしいです。そのあとは自分の好きに聴いていいので(笑)。
あと、昨日たまたま「日本では次いつショーをやるんだ?」って聞かれたので、日本のことを考えていたところだったんです。いい思い出が読みがってきたので、また日本に行くのが待ちきれません。前回のショーはすごく盛り上がったし、本当に楽しかったので。なるべく早く戻れるようにしたいです。
――ありがとうございました!
Joseph:こちらこそ、ありがとうございました。またね。
【リリース情報】
Metronomy 『Small World』
Release Date:2022.02.18 (Fri.)
Label:Because Music
Tracklist:
1. Life and Death
2. Things will be fine
3. It’s good to be back
4. Loneliness on the run
5. Love Factory
6. I lost my mind
7. Right on time
8. Hold me tonight
9. I have seen enough