FEATURE

Special Interview / Seiho (talk about “apostrophy”)


「イカ」や「生け花」、「CG」が展示されるという奇怪なイベント、"apostrophy"の実態に迫る……!

2016.01.25

“イカと生け花を展示するクラブ・イベント”を東京で開催……? そしてその首謀者はあのSeiho……?という頭の中でクエスチョン・マークが大行進するかのような情報が先週駆け巡った。それがこの既に大阪では3回も行われていながら、その情報が未だほとんどネット上に載っていない正体不明のイベント、”apostrophy”だという。
Seihoといえば、昨年フジロックにも出演した、現在日本のビート・ミュージックにおける最重要人物であり、以前には”INNIT“というイベントにも関わっていたわけで、そんな彼が立ち上げたパーティーなのだからきっとまた一筋縄ではいかないような内容になっているに違いない……!
しかし、今回が東京での初開催ということで、大阪近郊在住ではない方々にとってはやはり謎すぎるこのイベントの正体に迫るべく、急遽その首謀者Seihoへのインタビューを敢行!
これを読めばイベントの全貌がわか……る……?……いや、わからないかもしれません。そもそも噛み砕いたり理解しようとするという行為自体が間違っているのかと思うような、そんなインタビューになりました(なってしまいました)。……感じてください!

Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Nahoko Suzuki
Location:Spincoaster Music Bar


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—今回東京で初開催となる”apostrophy”ですが、まずはあまり情報がネットにも出ていなく、未だ謎が多いこのイベントがスタートした経緯から教えてもらえますか?

なんでしょうね……なんかこう……ぼくが”いちから何かを立ち上げる”ことが好きっていうのが一番大きくて。レーベル(Day Tripper Records)もそうだし、前にやってた”INNIT”っていうイベントもそう。あの時みたいにこう……なんていうのかな、上手く循環していた状況っていうのをまた作りたいなっていうのが、名目としてまずあって。
あとは……昨年、一昨年とあまりぼくのなかでは前に進む時期じゃなくて、どっちかというと観察する時期だったというか。

ー一歩引いて、客観的な視線で俯瞰していた?

そうですね。もうちょっと周りを見渡す時期だったというか……。何かずっと考えてたり、哲学の時期みたいなのに入ってたんですよ(笑)。
そういうモードだったので、何か自分のことよりも他人のことを考えていたというか。例えば今よりも2011年から2013年くらいの時期だったら、ぼくの周りの同世代とか、それこそインターネットっていう言葉はあまり使いたくないけど、そういうのでフワッと繋がっている人たちの間で共有できていたものがあったと思うんです。なんていうか、”Twitterのタイムラインが今よりもみんなのものだった時代”みたいな、そういう感覚が薄っすらとあったんですよ(笑)。
で、そこから時間が経つとともに、そういう感覚がなくなり、逆に個に帰っていくというか、自分の本当に好きなものとか自分が本当にやりたいことだけを求めて、自分が本当に仲のいい人たちとだけつるむようになったんです。そういう時に、なんていうか……”小さい思い出”みたいなものを積み重ねたいって思うようになったんですよ。
“apostrophy”は主要となっているメンバーがMatsumaeっていう映像とか作ってくれてるやつと、アスパラファラ神っていうDJで、全員同級生なんですよ。普通に普段から飯食いに行ったりイベント遊びに行ったりするような仲の。で、他のメンバーはどっちかというと後輩というか、ぼくらよりも下の世代なんです。Paperkraftくんが大阪で、Analskiくんが神戸。

—それは……例えば”INNIT”でやっていたようなイベントでの体験、思い出よりももっと小さい規模のものを作りたかったということなのでしょうか?

“INNIT”でやっていたことって、もっとアーティスト・シップというかミュージシャン・シップに則った上でやっていたというか、そういう感じなんですよね。世代とかも関係なく、みんなで集まって面白いことができたらいいよね、みたいな。でも”apostrophy”は……

—もっとパーソナルな集団にしたい、と?

そうですね。もっと全然パーソナル。「あの時一緒に釣り行ったみんな」みたいな(笑)。
そのくらいまでの感覚にして、そういった思い出を言語化せずに、パーティーに昇華していくみたいな、そういう気持ちからスタートしたんだと思います。
……なんかめっちゃ複雑な話になってしもうたな(笑)。

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—イベントを立ち上げた際、そういう構想というか狙いのようなものを他のメンバーとはどのようにして共有していたのでしょうか?

周りもぼくも、そいういう想いは……言ってしまえば回を重ねる毎にわかってきたんだと思います。
たぶん1回目は、周りからもぼくの立ち位置からでも、ぼくが大きいステージで(ライブを)やることが増えて、好きなことがなかなかできなくなった状況っていうのを打開したいがために開催したっていうイメージが強いです。
大阪やし、メンバーもみんな仲間やし、この日だけはいつものライブ・セットとは違ったセットを披露できるっていう場を作りたかったていう。

—なるほど。では客観的な特徴として、”apostrophy”は視覚というかビジュアル面での打ち出し方に大きな力を注いでいますよね。そういったアイディアというか考えはどこからきたのでしょう?

それもすごいパーソナルなことなんですけど、ひとつはさっき言ったMatsumaeくんが会社員やめて映像作家になるって突然言い出して、「マジか!?」ってみんながバリビビったっていう(笑)。
昔から映像とか好きだしそういうのやりたいっていうのは聞いてたけど、もっと段階踏むと思ってたんですよ。
で、そういう話を聞いたので、じゃあ彼を(イベントに)交えたいなと思って。

—Matsumaeさんが作り出すビジュアルに対して、イメージやコンセプト、方向性などを共有していく方法や過程について教えてもらえますか?

そこが一番思い出の部分に関わってきてて、1回目はちょっとそういうのが残ってたりするんですけど、例えば「OPN(One Ohtrix Point Never)っぽい感じがいいよね」とか、「Seapunkっぽいものってあそことあそことあそこを組みわせたらいけるよね」みたいな共有意識が以前はあったんですよ。Matsumaeくんとかファラ神、アスパラと喋ってても、音楽に関してはそういうところ共有しているし、それこそ「Night Slugs系のビート感でこういう上ネタがちょっとあそこに入ったらいいよね」みたいな、そういう共通の感覚で話せる時代があったんですよ。でもなんかそれがぼくらの中では昨年くらいからパッツリなくなってて。なんかそういうこと話しててもあまり意味ないし、なんていうか前向きじゃないなっていう思いも強くて。「音楽は組み合わせじゃない」とまでは言えへんけど、そんなことよりも、もっと自分たちのもっとパーソナルな共有物を集めていく方がいいなぁ、みたいな。……言葉にすると難しくなっていくんすけどね(笑)。

—具体的な話でいうと、Matsumaeさんの作り出すヴィジュアルに対して、何か意見というか指示を出すというようなことはあるのでしょうか?

それはもちろんです。ぼくがコントロール・フリークみたいなところがあるので、Matsumaeくんは大分ぼくに寄せてくれている部分も大きいと思います。でも、ぼくからしたら……Matsumaeくんと一緒にホームセンター行って、「このネジ、ヤバイな」とかそういう話になって、次の日になったらネジのモデリングが出来上がってて「……いいなぁ、これ」みたいな。そういう感じなんですけどね(笑)。
その、本当に個人のやっていることを延長させているっていう気持ちが大きいんです。例えば音楽でいうと「生楽器のこういうタイコ入ってるのヤバイ」ってなっても、その文脈をそのまま追いかけるのではなくて、自分たちでそれを解釈していく作業。民族音楽だったりトロピカルな感じだったりにしても、それは一種の大喜利のお題というか、もっと小さい範囲で共有していくみたいな、そういうことをしたかったんです。

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—例えばツルっとした質感のビジュアルからは、やはりどうしても先ほどもおっしゃっていたOPNとか、PC Musicっぽさみたいなのを感じてしまうんですが、そういったものは、例えば“apostrophy”内ではどういう風に解釈されているのでしょうか?

たぶん、そういうOPNっぽさとか、PC Musicっぽさみたいなのって、”apostrophy”にとっては全然重要じゃないんですよ。そういうのはぼくら”apostrophy”内での解釈と、世間での解釈を折り合いつけていく時に使われているテクスチュアなだけであって、現状ああいうツルッとした質感みたいなのって、実はすでに”apostrophy”内では「ちょっと古いよね」ってなってて。それよりはなんていうかこう少し毛羽立ってる……布団とか毛布、毛皮とか、あとは石みたいなもっとザラッとした質感みたいな方に惹かれつつあるんです。でもそれってあくまでテクスチュアというか、音楽でいう808の音を使ったりとか、Jersey Clubのベッドが軋む音を使ったりするのとあまり変わらなくて。根本的に言いたいことっていうのは、もっとパーソナルなことなんですよ。「”apostrophy”のメンバーでやったこと」っていうが重要というか。

—魚や醤油、ネジとか身近なものを使った表現というのは、以前インタビューさせて頂いた時におっしゃっていたCo Laの影響が大きいのかなとも思ったのですが、どうでしょう?

Co Laですか……そうですね、やっぱりCo Laの影響はでかいかもしれないっすね。

—ビジュアルの展示は一回目から行っているのでしょうか?

そうですね。一回目は、女性のネイルで使うスカルプってあるんですけど、あれをめっちゃ固めて塔みたいにしました。それを作って、二人で眺めて……「ヤバイなぁ」みたいな(笑)。

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—ちなみに、イベント名の由来っていうのはどこからきてるんでしょうか。本来のスペルはapostropheですよね。

そうです。最初”trophy”だったんですよ。だから語尾がyになったままで。でも”trophy”だと検索にも引っかかりづらいし……でもやっぱり”trophy”に引っ掛けたいしっていう(笑)。

—そもそも”trophy”という単語にこだわるようになったのはなぜなのでしょう?

それもすごい些細なことなんですけど、後づけだったら何個か意味を付けられるんです。例えば、オブジェ的なものの象徴でもあるし、純粋に”勝つ”みたいなことも表している。そういう”勝ちに行く”みたいな気持ちも結構ぼくら持っていて。なんか、抑えたり、「程よくする」みたいなのがあまりにも多かったので、逆にぼくらは「勝負しにいく」みたいな。
こういう風に後から考えればいっぱい意味はつけられるんですけど……実は最初はそうじゃなくて、「トロフィー、ヤバイな」みたいな。「形、ヤバない?」っていう感じの方が大きいかもしれないです(笑)。

—これまでの前例として、Seihoさんのライブだけでなく”apostrophy”の他のメンバーのDJプレイも、その他のイベントでのプレイとは内容やスタイルが異なったものになっているのでしょうか?

基本的にはそういう感じになっていると思うんですけど、2015年っていうのもあるし、”apostrophy”の意味みたいなものもあるし、たぶん全員悩みながらやってるなっていう方が大きいと思いますけど(笑)。
今まで4回大阪でやってきて、音楽面でいうとすごく未完成で、誰々はよかったけど、誰々はすごくダメだったみたいなことが起こるんですよ。なんていうか、みんな適応力が高すぎて、前のDJが盛り上げたらその後はしっかり波を作るように動くし、それがプレイの良し悪しを生んでしまうんでしょうね。
前回からメンバーのアイディアで、タイムテーブル上ぼくの順番を決めないことにしたんですよ。DJのタイムテーブルは一応発表されているし、出演者としてぼくもクレジットされてるけど、ぼくがライブするのは、ぼくがやりたくなった時、みたいな(笑)。
極論ぼくがやりたくならなかったら、もうその日はライブしなくてもいいっていう(笑)。
そうすることによって、誰かが全体の波を作っても、更地になるわけじゃないけど、ぼくが突発的に乱入するので、全員がそれぞれピークを目指せるっていうか。
たぶん今回の東京での”apostrophy”も、ぼくの位置は決めないと思います。

—今回の東京開催にあたって、Licaxxxさんをこのイベントに加えようと思った狙いなどを教えてもらえますか?

なんかそれも単純に、”思い出”の話になるんですよね。ぼくの中で2010年から2013年くらいまでは、”自分たちで頑張ってしおりを作って、大きな海外旅行に行く”みたいな、そんな期間だったんですよ。で、2013年くらいの段階で、たぶんぼくら旅行行けたんですよ。それこそDay Tripper Recordsでいうと、レーベル所属のアーティスト全員でショウ・ケースっていう形でSonarSound Tokyo 2013に出れたし。ぼくのアルバム(『ABSTRAKT SEX』)のリリパに、その時ぼくが好きだった人たちにほぼ全員出演してもらえたりとか。そういったことにより、ぼくらの旅行っていうのが一回そこで終わったんだと思うんですよね。で、2014年と2015年って、それが終わった余韻に浸っていただけっていうか、(旅行に)行けて楽しかったし、そこがゴールじゃなかったっていうのもわかったので、次はどこに行こうか考えていた時期というか。なので、2016年からはまた”しおり作り”をして、2020年くらいに向けての旅行の計画を立てていく、みたいな。で、そうなった時に、旅行行くならやっぱり女の子欲しいなっていう感じです。やっぱりしおり作りの係の中に女の子ひとりは欲しいじゃないですか(笑)。

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—東京でやるにあたって、集客だったり告知する際の手助けをしてもらおうという考えはなかったのでしょうか?

もちろんそれもあります。それもあるんですけど、なるべく大阪でやってたのと形を変えずにやりたいっていう思いが強くて。ぼくたちがこっちでイベントをやるにあたって、例えばどこどこの界隈に属してたり、どこどこの界隈っぽい人を呼んじゃうと、あまりにもリンクしちゃうっていうか。東京はシーンというか界隈みたいなのがすごい細分化されているから、ひとりでもそういうのを連想させる人を呼んじゃうと、「ああ、ああいうイベントの大阪でやってる版ね」って思われるんじゃないかって。Day Tripperやってた時も、それがなかったからよかったんですよ。東京にはなかったから。
東京にはこれくらいのサイズで、これくらいのことをできる場所がないんですよね、たぶん。もっと大きくなるか、もっと小さくなるかしか選択肢がなくて。今くらいの温度で、バランスをとってやる楽しさみたいなものを追求したいんですよ。
東京でやるにあたって、Licaxxxともうひとり誰か呼んじゃうと、たぶん界隈が紐付けられる。東京は界隈の最小単位がすごい小さいから、ふたりいるだけで文脈を読まれてしまうんですよ。だからこそなるべく多岐に渡って活躍していて、なおかつどこかの界隈っていうイメージがありそうでなさそうなっていう意味でLicaxxxは適任なんじゃないかなって。

—なるほど。では、そもそもこのイベントを東京でやろうってなった時の経緯を教えてもらえますか。

やっぱりCIRCUSが東京にできた(CIRCUS Tokyo)のが一番大きくて。心斎橋CIRCUSのトヨさんはすごいクレバーな人なんですけど、親身なってくれるっていうわけではないですけど、もうちょっとこう期待してくれながらも野放しにしてくれる部分と、上手く突っ込んで帳尻を合わせてくれる部分もあって……。

—さっきの界隈の話になるのですが、例えばこの”apostrophy”が東京で成功し、広く受け入れられるようになっていったとしたら、”apostrophy”自身が界隈のように機能してしまうかもしれませんよね。そういった点も含めて、このイベントの目指す場所というか、理想の姿っていうのを教えてもらえますか?

理想は……渋谷のギャルがいっぱいいることですね(笑)。
大阪でやってた時は、ぼくのフジロックでのライブを観てきた人たちとかが、全然わからず「えーなにこれー?」ってキャッキャしてたこともあったんですけど、それがいいなって。腕組んでオブジェ見て欲しいわけでもないし、腕組んでライブ観て欲しいわけでもないんです。何かこう……「わからない」が大量に蔓延している状況を作りたいっていうか。
なので、パーティーとしてはそこの部分はすごい気を使っていて、オブジェの意味とかオブジェの内容とか空間のデザインに関しても、ぼくらの中での哲学はすごいあって、ぼくらの美意識でガチガチに固めているんですけど、遊びに来るお客さんにそれは共有させたくないんです。そこに来た人たちには何か変わった建造物の中に入ったとか、変わった美術館に来たみたいな感じでいてほしいっていうか。頭を使うことを強要したくないんですよ。だから、ほんまに何も考えずに「イカやばーい」っていうギャルと、「いやイカっていうのは深い意味があって……」っていう男がふたり共存しているっていうのが理想の姿。

—そういう異質感というか、「わからない」状況というのは、イベントとして回数をこなすに連れて、どうしても薄れていってしまうと思うのですが、そういった状況をどうやって回避していこうと思っているのでしょうか?

ぼくの中ではこういう感覚を、2015年〜2020年くらいまでの5年間で、どこまで一般的なセンスにできるか、っていうか、そういう挑戦でもあるんですよ。魚とか生け花がライブ・ハウスとかに飾ってあったら「あ〜”apostrophy”っぽいよね」とか「Seihoっぽいよね」っていう風になっている世界を目指しているというか。だから刺激が薄れていってしまうとかっていうのは、実はぼくの中ではあまり大した問題ではなくて。音楽家とか写真家でも、最初は異質と言われていたものがスタンダードになってきた歴史ってあるじゃないですか、そういった感じを目指したいですね。

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apostrophy
2016.1/30(Sat)23:00~
at CIRCUS Tokyo
DOOR:2000yen
(25歳以下の方は1000yenで来場可能) *要身分証
[act]
Seiho
Licaxxx
Aspara
keita kawakami
paperkraft
Analski
Kiyoshi Matsumae

詳細
http://circus-tokyo.jp/events/apostrophy/

Time Table

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過去イベント告知ムービー

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