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REPORT / HOMEWORK ROOM


Uztama、yanagamiyuki、テレマビ、uku kasaiら出演 『HOMEWORK PROGRAM』によるリアル・イベントをレポート

2022.12.21

Text by namahoge
Photo:主催提供

12月16日(日)、東京・表参道WALL&WALLで開催された『HOMEWORK PROGRAM』。これまでに荘子it、Tomggg、4s4ki、さよひめぼうなどが出演したライブ配信番組のリアル・イベント第2弾として、約2年ぶりに“謎の部屋”が開かれた。

出演者はライブ・アクトにMEZZ、Telematic Visions、uku kasai、Uztama、またDJ陣にtomad、Quarta330、yanagamiyuki。大雑把にいってみれば、前者はパンデミック以降に頭角をあらわした新世代、後者は2010年代よりインターネットを舞台に活躍してきた先輩世代である。

ところで、“謎の部屋”とは一体何か? これは主催者自らが述べる形容であるが、例えば過去の配信を参照してみると、ソファとテーブルがセットされ、ラップトップにMIDIコントローラーといった“トラックメイカーの部屋”というコンセプトが前景に現れている。有観客で行われた以下の『HOMEWORK SESSION』では、ウ山あまねがソファに寝そべりながら歌うパフォーマンスも披露されている。

しかし今回の配信では、ライブ音声が流れてくるのみという、“謎の部屋”からの“音漏れ”的な演出が行われた。また、会場もWALL&WALLのソリッドな空間をそのままに、プライベートな部屋を装うセットは用意されていない。部屋という像は抽象化され、物質性を失った……そう解釈すべきなのだろうか?

ともかく、“謎の部屋”の“謎”は据え置いて、肝心のアーティストたちを見ていこう。ここではライブ・アクトの4名を中心に、そのパフォーマンスに注目していく。


MEZZ

はじめに登場したのは新鋭ラッパー/シンガーのMEZZ。バックDJにはダンサー活動でも知られるプロデューサー・Dr.Payを引き連れ、まずはふたりの共作『Dr.MEZZ』より「freestyle1」を披露。ダークで重心の低いビートの上を、クリームのような質感の声が乗る。

2曲目は、MEZZが一躍注目されるきっかけとなった「Gyal Drill」。彼女の魅力はフレッシュなビートと歌唱的なフロウだ。《最後のキスもたばこのflavor》とリスペクトを隠さないように、ゼロ年代のディーヴァを彷彿とさせる存在感でこのヒット曲も歌いきった。

続いて「Secret System」、「Lisa」。MCでは一体感を求めるように「もっと前に来て」と呼びかけ、よりビート感の強い「Money from the dirt」などを披露した。

“トラックメイカーの部屋”という従来のイベント・コンセプトから逸れるようなブッキングであったが、筆者がたしかに感じたのは、プライベートな親密の空間だった。それはゼロ年代流のフロウのせいか、奔放なビート・チョイスのせいか、音楽視聴の主たる現場・ベッドルームでSpotifyをザッピングする体験を想起したからかもしれない。

同時に、私たちは高まっていく会場の温度も共有していた。時刻はまだ18時。MEZZの上々なバイブスで宵の口を滑り出した。


Telematic Visions

出演前のTelematic Visionsに声をかけると「今日はこれで音を抜いたり足したりします」と見せてくれたのが、KORG nanoKontrol2。こう言ってはなんだが、オモチャのようなサイズのMIDIコントローラーを携えて壇上へと向かっていった。

ライブ・セットは秋にリリースした『town without sky』を中心に組み立てられた、ミニマルでピュアなループ・ミュージック。現役高校生だというTelematic Visionsだが、そのプロダクトは硬派だ。WALL&WALLの硬質な空間に、粒だった断片的なサウンドが差し込まれ、シーケンスの束にまとめられていく。

前半の盛り上がりは「magical stick」の浮遊感あるシンセのループに極まった。老練のプロデューサーのようにMIDIコントローラーを弄んでいると思えば、突拍子もなく飛び込むキックに油断ができない──無邪気な音あそびのようにも見えた。

そして終盤、「2005 (Telematic Visions Hi-Speed Love Romance / Letter to the 05 remix)」で最高潮を迎える。この曲はTelematic Visionsが敬愛する某氏の別名義・dj newtownの公式リミックスだ。唐突に放り込まれるブレイクビーツ、あるいは抜け落ちるビート。おそらく会場の誰よりも若いTelematic Visionsに、フロアは翻弄される。同氏の音あそびに巻き込まれるようにして、抽象的なレベルの“謎の部屋”に同居する体験がそこにあった。


uku kasai

今回のパーティの直前にアルバム『coldsmokestar』をリリースしたuku kasaiは、正体不明な音像のトラックにウィスパー・ボイスで歌うSSW。実のところDJフロアを観ていて彼女のライブ・アクトに遅れた筆者は、その道すがら、フロアに響くサブベースの音量の尋常でない様を聞いた(おそらく「秘密を」のドロップだった)。

uku kasaiは歌う間、うつむき気味に小さく揺れるのみだ。裏腹に、「april」のIDM的な小刻みなウワモノの物量。過剰なサウンドの濁流を、さも当然かのように佇むuku kasaiの姿は、異様な重圧を放っているようにも見える。

シンセを組み合わせてつくっているというアブストラクトな音像は、美とグロの狭間を彷徨うような仕上がりでフロアに届けられる。縦にも横にもノることが戸惑われる気もしたが、その困惑こそがuku kasaiの作り上げる音空間の魅力だろう。

最後に披露した「WHITECUBE」の奇妙なボーカル(Ableton Liveに内蔵される声ネタだと過去のインタビューで答えている)も、困惑という陶酔を醸す。今回の“謎の部屋”において最も“謎”を提示したアーティストだったといえよう。


Uztama

SSW・Uztamaのステージはどよめきから始まった。TVアニメ『ARIA The ANIMATION』よりオープニング・テーマ「ウンディーネ」が流れた時、筆者の周りの30代の友人がソワソワし始めたのだ(今回のイベントの年齢層は幅広かったように思う)。

UztamaはSoundCloud出身の新鋭アーティストであるが、彼のバックボーンには長らく続けたバンド活動があった。誤解を恐れずにいえば、ロキノン系のリリシズムと音楽性をベッドルームに持ち込んで、実験的なエレクトロニック・ミュージックと融合させたようなプロダクトなのである。

素朴に歌い上げるボーカル・ワークと過剰な電子音のドロップは3曲目の「陽炎」でも披露される。なんといっても、Uztamaのユニークな点は“歌い上げる”ことにあるだろう。彼のトラックはビートではなく演奏なのであり、その意味でロックの血筋を引いているのだといえる(実際に彼のインスピレーションの多くはGalileo Galileiにあるという)。

ロックもクラブ・ミュージックもエクスペリメンタルも同一平面に押し込めて、ポップに昇華するという方法論は、終盤に披露した「青色の夢のなかで」に顕著だ。朴訥に歌い上げる主メロの背景にはダンス・ミュージックの文法で組まれたトラックがあり、そしてハイパーポップ的なピッチアップ・ボイスが後を追う。このようにジャンルを特定しようとする記述すらも無意味なように思える、そんな“謎”を披露したのがUztamaであった。


“謎の部屋”とはなんだったのか

DJ陣についても軽く言及しておきたい。今イベントの幕を切ったtomadはアブストラクトなベース・ミュージックから徐々に輪郭を定めていくようなプレイを、Qaruta330はR&Bにはじまり宵を彩り、yanagamiyukiはドラムンベースから4つ打ちでビートを刻んだ(最後にTelematic VisionsとのB2Bも行われたそうだが、残念なことに筆者は観れなかった)。

おおまかにいって、インターネットを中心に活躍するアーティストらにとって、あるいはパンデミック以降のわたしたちにとって、多くの場合、現場とはベッドルームを指すことになる。もはやベッドルーム・ミュージックという言葉の有効性がほとんど失われたように思われるのは、それがスタンダードになったからである。

ベッドルーム──それは最も親密で、最も世界に開かれている、孤独な情報過多だ。このアンビバレンスを端的に切り取ったものが、今回の“謎の部屋”だったように筆者は思う。


【イベント情報】


『HOMEWORK ROOM』
日時:2022年12月16日(金) OPEN / START 17:30
会場:表参道WALL&WALL
出演:
[LIVE]
MEZZ
Telematic Visions
uku kasai
Uztama

[DJ]
Quarta330
tomad
yanagamiyuki

公演詳細


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