新潟拠点の3ピース・バンド、E.sceneが初の自主企画『Found me』を3月6日(日)に東京・新宿MARZにて開催した。
イベント開催の数日前にリリースされた最新EPタイトルをそのまま冠した本公演には、Bialystocksを迎えてツーマン公演として開催。感染対策のため、当然ながら歓声などはNG。2バンドの演奏が黙々と展開されながら、そこには静かなる――そして確かな熱量を有した――グルーヴが生まれていたように感じた。本稿ではそんな注目の新鋭2組が共演を繰り広げた一夜の様子をお届けする。
Text by Takazumi Hosaka
Photo by fukumaru
一番手のBialystocksは、映画監督でもある甫木元空(Vo. / Gt.)と他アーティストのサポートやジャズ・シーンでも活躍する菊池剛(Key.)による2人組。今回はサポートにベース、ドラム、ギターを迎えたバンド編成で登場し、甫木元の伸びやかな歌声が印象的な「花束」からライブはスタート。控えめなバンド・サウンドの上で、瑞々しい鍵盤の音色が鮮やかな色彩を放つ。続いて間髪入れずに「光のあと」へ。軽快なリズムで牽引しつつ、終盤へ向けて徐々に熱を帯びていくバンド・サウンドで一気に会場を掌握する。
すでにギア全開のような演奏とは打って変わり、MCでは甫木元がE.sceneへの感謝も述べつつ、どこか緊張しているような面持ちも。しかし、「次の曲は2人だけでやります」と言い、披露された「フーテン」ではいぶし銀なロマンティシズムを展開。一度演奏に入るとまるで別人かのように切り替わる。
ロカビリー〜アメリカーナ・テイスト漂う「Emptyman」、情感たっぷりに歌い上げる「またたき」、スタジオ音源よりも数倍エモーショナルな「Winter」などを立て続けにパフォーマンス。2度目のMCでは「今日はお洒落な感じなのかなと思っていたのですが、みなさん優しくて安心しました」と話す甫木元に対して、「お洒落じゃないってことではないですよ」と菊池がサポート。会場の笑いを誘った。
泣きのギター・ソロも炸裂する「Over Now」からラストスパート。郷愁を刺激する「ごはん」を経て、最後はファルセットでキャッチーなメロディを歌う人気曲「Nevermore」。彼らの誠実な人間性が表出したかのような、実直なステージであった。
2. 光のあと
3. フーテン
4. Emptyman
5. またたき
6. Winter
7. I Don’t Have A Pen
8. Over Now
9. ごはん
10. Nevermore
転換を挟み、E.sceneが登場。ボーカル・真琴の簡素な挨拶を挟み、「Circle」で幕を開ける。広いステージには3人だけ。元ダンサーというバックグラウンドも持つ真琴の自然体ながら揺蕩うように歌う姿は観る者を魅了する。弱冠20歳のドラマー・Yoshinaoの、タイトにビートを刻みながらも時折絶妙な揺らぎも感じさせるドラム、そしてバンドのメイン・ソングライターでもあるCHIPPIの存在感溢れるグルーヴィーなベースと、同期で鳴らされる上モノ。余白を残しつつも、それぞれが絡み合い、しなやかなアンサンブルを展開していく。
圧倒的なパフォーマンスから一点、MCでは真琴がBialystocksへの感謝を述べつつ、「今はこういう時代だからみなさんピリピリしてしまったり、心が傷ついてしまったりすることもあると思うんですけど、Bialystocksさんのライブを観て、すごく傷が癒やされるというか。本当に必要な音楽だなと改めて思いました」と語る。Bialystocks同様、こちらも丁寧に、どこまでも実直に話す姿が印象的であった。
彼らの名を一躍知らしめた1曲でもある「いいじゃん」では、真琴はMCの姿とは別人かのようなソウルフルな歌唱を披露。シンプルながらも随所で耳を引くフレーズやキメを入れる演奏陣も素晴らしい。重心の低いグルーヴで攻める「traffic signal」、タメの効いたリズムでゆったりと歌い上げる「Cozy」と、そこからシームレスに繋がる「Clever」。EPとは逆の曲順だが、この2曲の流れは特に素晴らしく、オーディエンスの耳目を惹きつけて離さない。
コンタクトレンズを初めて買ったこと、そしてじっくりと準備をして作り上げたライブで、オーディエンスの顔を恐れることなく見れるようになったという真琴が、「臆病だった頃の自分が書いた曲です」と前置きをして披露されたのは「意識」。2018年に結成され、わずか1年でフジロックのルーキー・ステージへ出演を果たしたE.sceneは、様々な物事が停滞せざるを得ないコロナ禍を経て、最新EP『Found me』で確固たる自分たちを見つけることができた。そしてそれは自信に満ち溢れた今回のライブ・パフォーマンスへと結実したのだろう。その堂々たる姿は、筆者が2019年の冬に同会場で観た頃の姿よりひと回りもふた回りも逞しく感じられた。
本編最後に用意されたのは、『Found me』のなかでも屈指のキャッチーさを誇る「Dizzy」。繰り返される《寝ても覚めても待つのは自分でしょ/毎日不安を一つとっても眩暈がして/朝を求めて這うのよ》というラインには、決して安直な解決や楽観的なメッセージを歌うのではなく、日々のなかで悩み、もがきながらも1歩ずつ着実に歩みを進めてきた彼らの姿勢が表れているようにも思える。開放的なメロディは聴く者の背中を押すような、ポジティブなヴァイブスに溢れていた。
アンコールでは『Found me』より「Bye」をプレイ。気の利いた選曲だ。真琴はシンセを弾きながら、平熱感漂うメロディを歌い、セッションから生まれたという話の通り、CHIPPI & Yoshinaoはインスト・パートでもオーディエンスを魅了。およそ1時間ほどのセットに幕を下ろした。
真面目で誠実。音楽と真摯に向き合う2組による、愛に溢れた一夜であった。
2. forgotten sun
3. About me
4. いいじゃん
5. traffic signal
6. Cozy
7. Clever
8. 意識
9. 3
10. Dizzy
[Encore]
11. Bye
【イベント情報】
『Found me』
日時:2022年3月6日(日) OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京・新宿MARZ
出演:
E.scene
Bialystocks
【リリース情報】
E.scene 『Found me』
Release Date:2022.03.02 (Wed.)
Label:bament
Tracklist:
1. About me
2. Circle
3. Bye
4. Clever
5. Cozy
6. Dizzy