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REPORT | 夢回糸島 Dream Return to Itoshima


文化や言語を越えたコライト企画で生まれた縁、そこから紡がれた物語

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2025.03.24

Text by Yuki Kawasaki
Photo by Hinato Nishitani

2023年9月、福岡・糸島にて開催されたコライトキャンプ『Co-Write DAY 2023』。そのときに生まれた楽曲のリリースを記念するイベント『夢回糸島 – Dream Return to Itoshima – 』が、台北と東京で開催。台北では先んじて2月に台北月見ル君想フB1で、東京公演は青山月見ル君想フで3月6日(木)に行われた。

このキャンプを通じて、台湾のラッパー/シンガー/マルチ奏者・VUIZE(王鍾惟)と、日本のSSW/プロデューサー・Ai Kakihiraがシングルを2曲発表。言葉の壁を感じながらも、“RHAN”と“超機車的機車人 ~Super Auto-bike~”を生み出した。

“RHAN”とはすなわち「縁」のことだが、まさしくその言葉の意味通り、音楽を介した確かな繋がりが2人を台北と東京へ導いた。今回のリリースパーティに際し、2人のほかにオープニングアクトとしてHUGEN、DJとしてカルロスまーちゃん、bisshi、Ben Inuiの3名がラインナップ。また、香演出をフレグランスアーティストのfragrance monaが務めた。

さらにライブの合間には『Co-Write DAY 2023』の後日談としてトークイベント、並びにショートドキュメンタリーの上映が行われた。


「通訳がいたらこれほど純粋な音楽はできなかったかもしれない」

オープニングDJのbisshiが、静かに開幕を演出するアンビエントを紡いだ。かつてPAELLASなどのメンバーとして活躍した彼は、現在ベーシストとしてだけでなくエンジニアやプロデューサーとしても辣腕を振るっている。空間的なサウンドがフロアに響き渡るなか、オーディエンスが続々と集まってきた。

そしてライブアクトとして口火を切ったHUGEN。トラックメーカー/ボーカルのTPを中心とした4人組バンドは、極めて土着的なサウンドを鳴らす。ポストクラシカル/エレクトロニカ的なニュアンスの中に、垣間見える日本の原風景。その上“MAYA”の由来はTPの娘の名前に由来する。“RHAN”や“超機車的機車人 ~Super Auto-bike~”がそうであるように、HUGENが織り成す音楽もまた、日常に根差しており、血が通っている。

“桜源郷”は祭りがモチーフとして登場するが、オーセンティックなサックスとベースの上で鼓(つづみ)や和太鼓のふち打ちがまぶされている。ローカルカルチャーにとことん根差した今回のイベントにおいて、彼ら以上にオープニングアクトとして適任のアーティストはちょっと想像がつかない。それほど素晴らしいパフォーマンスだった。

HUGENの出番のすぐあとに、VuizeとAi Kakihira、ショートドキュメンタリーのディレクターを務めたSven Liu、さらには『Co-Write DAY 2023』の仕掛け人である高波由多加(NAMY)がトークセッションを展開。事のいきさつと、制作背景が語られた。

『Co-Write DAY 2023』とは、アジア圏のアーティストと日本のアーティストが糸島で共同生活を送り、楽曲を共作するというものだ。そこで抜擢されたうちの一組が、Vuize(台湾)とAi Kakihira(日本)である。

Ai Kakihiraは「私は英語が全然話せないので、最初は不安しかなかった」と明かす。それでもVuizeと高波の2人がそれを払拭してくれたようだ。Vuizeもまた「最初はどうやって曲を作るべきか全然わからなかった」と語っているが、共に時間を過ごすうちに段々イメージが湧いてきたという。

その様子を間近で見ていたSven Liuは「スタジオで顔を突き合わせるだけでなく、色んなことをしました。海に行ったり、地元の人と交流したり。そこで体験したことをVuizeとAiちゃんが曲にして、私が映像を撮りました」と振り返る。

関係者の想像を上回るほど、このプロジェクトは遠くまで羽ばたいている。2月の台北公演のほかにも、現地でのライブ出演が決まっているようだ。高波は「僕もここまでは想定していなかった。何か起こればいいなぐらいに思ってたけど、僕が想像していたこと以上のことが2人の周りで起きている」と興奮気味に語る。

楽曲について触れられたときに印象的だったのは、むしろ非言語的なコミュニケーションが功を奏したという点だ。Ai Kakihiraが「音と感覚を頼りにコミュニケーションを取るしかなかった」と述べ、「通訳が朝から晩まで面倒を見てくれるような環境だったら、完成した音楽にはなってないと思う。少なくとも“RHAN”はできてなかったはず」と明かした。

Vuizeも「通訳がいたらこれほど純粋な音楽はできなかったかもしれないですね。そういった試行錯誤を通じてコミュニケーションを取りながら制作できることは、音楽を生み出す側として最高の経験でした」と強く同意する。

そしてこのトークセッションの答え合わせをするように、ドキュメンタリーが上映された。いや、証拠映像といったほうが正しいかもしれない。本当に四苦八苦しながら意思疎通を図ろうとする2人の姿が克明に描かれており、糸島で過ごした序盤などは画面越しに焦りが伝わってきた。

それでも日にちを重ねるごとに表情も晴れやかになり、Vuizeの饒舌ぶりも加速。「僕はこのプロジェクトが上手く行くと確信している」とまで語る姿も。

ドキュメンタリーの最終盤、Vuizeは高波に「僕らが曲を作れなかったらどうするつもりだったんですか?」と聞くシーンは忘れられない。同氏はこの問いに対し、「仕方ないよ。英語でなんて言うんだっけ? ……That’s life!」と答えた。

映像はそこで終わっている。


映画のハッピーエンド、あるいは地元のお祭り最終日のような多幸感

2人目のDJはカルロスまーちゃん。ひたすらにInner Scienceの楽曲がプレイされ、色彩豊かな電子音の世界へ客席を誘った。2024年にリリースされたアルバム『LUSTER』の楽曲が多かった気がするが、本作も有機的な手触りのインストゥルメンタルミュージックである。土の匂いがするというか、どこか生物的なアンビエントミュージックはInner Scienceこと西村尚美がこれまで作り続けてきた世界観のようにも感じられる。カルロスまーちゃんの選曲にも、この日のコンセプトがしっかりあったのではないだろうか。

そしていよいよVuizeが壇上へ姿を見せる。「おしゃべりが好き」と自認する彼は、楽曲を歌いながらステージMCで自身のルーツなどを語った。いわく、「自分は客家(ハッカ)系台湾人」だと明かす。漢民族の一支流である彼らには、独自の言語と習慣があるという。

舞台の上を練り歩きながら、Vuizeは私たちに教えてくれた。「台北には来たことがある? 東京と同じ大都市だけど、すごくケオティックな街だよ」「客家語に『承蒙(シンモン)』という言葉がある。日本語でいう『ありがとう』って意味なんだ。ぜひ今日はそれを覚えて帰ってほしい」。

この日披露された“Inception”はまさしく自身のアイデンティティにフォーカスしながら、聴く人をエンパワーメントする楽曲だ。穏やかな口調でフロアと対話を試みるときとは打って変わって、鬼気迫るフロウを披露した。英語と客家語で語られるのは、「人生なんてただのゲームだ。とっととダイスを振れ!」という真摯なメッセージだ。

ライブアクトのラストを飾るのは、この日の主役のひとり。Ai Kakihiraがステージに現れ、ハウシーでロマンティックな音像を紡いでゆく。“Ameagari no I Miss You Pt.2 (雨上がりの I Miss You Pt.2)”はパーカッションが心地よく、“Kiteretsu”はオリエンタルなヴァイブスでオーディエンスをめくるめくサイケデリアへと連れて行った。

どこかエスニックな雰囲気のある月見ル君想フと親和性が高く、このイベントのクライマックスを演出するアーティストとしてふさわしいパフォーマンスだった。

いよいよVuizeとの「コライト」楽曲が披露されるとき、改めてAi Kakihiraが制作背景を振り返る。「(キャンプの)初日は本当に絶望的だった。何もできず壊滅的だったんですけど、翌朝Vuizeが窓を開けて『(緑に囲まれているスタジオの環境を指して)FKJみたいだ!』と言ったんですよ。そこで何かつかめた気がしました」。そうして演奏されたのは、どこまでも優しい響きを持つ“RHAN”。明滅するブリープ音は、さながら言語を補完するモールス信号のようだった。

もうひとつの汗と涙の結晶“超機車的機車人 ~Super Auto-bike~”も披露され、台北の日常におけるアイコン的存在のバイクをモチーフにしながら、我々の心象をグイグイ引っ張ってゆく。映画のハッピーエンドのような、あるいは地元のお祭りの最終日のような多幸感があった。

そして正真正銘ラストバッター、Ben InuiがDJブースに登場。かつてPEARL CENTERのソングライター/ボーカリストとして活躍したイヌイシュンによるアンビエントフォーク/インディフォークプロジェクトが、冷たいビートで本公演に幕を引いた。

この日のDJ陣はそれぞれ共通するテーマを持っていたのではないかと推察できるほど、アンビエントのニュアンスが通底していたように感じる。それがまた、個性豊かなローカルカルチャーを引き立てていた。

気付けばもう夜は深まっていた。日本と台湾の2人の才能によって生み出された物語は、ひとつの大団円として決着した。強調しておくべきは、このナラティブはまだ途上だということだ。続いてのシーズンに期待したい。


【イベント情報】


『夢回糸島 – Dream Return to Itoshima -』
日程:2025年3月6日(木)
会場:東京・青山月見ル君想フ
出演:
[LIVE]
Vuize 王鍾惟 From Taiwan
Ai Kakihira

[OPENING ACT]
HUGEN

[DJ]
カルロスまーちゃん
bisshi
Ben Inui

[上映]
《RHAN》By Sven Liu

[FRAGRANCE]
mona

主催:Co-Write DAY / AZIAFLY
制作:kokicik

■Co-Write DAY:Instagram / Facebook / YouTube


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