力強さと艷やかな色気を併せ持つボーカルに、ビンテージな質感ながらもどこか風通しのいいサウンド──台湾拠点のソウル/ファンクアーティスト、Yufuの1stアルバム『Heal Me Good』は日常を忘れさせるような陶酔感あふれる一作だ。
Yufuは過去にはサイケ〜ガレージロックバンド・Crocodelia(鱷魚迷幻)のリーダーを務めており、同バンドでは日本発の3人組・KuunaticとのスプリットEPのリリースや東京でのライブも行うなど、国内外からの注目を集めた。その後YUFU & The Velvet Impressionism名義での活動に移行。60’〜70’s音楽への憧憬はそのままに、よりルーツに忠実であろうとするようなサウンドを奏でる同バンドでは、2020年に1stアルバム『Is It Vain To Be Awake?』を発表している。
2つのバンドを経て、2025年1月についにソロ名義での初のアルバム『Heal Me Good』をリリースしたYufu。あふれんばかりのソウルミュージックへの愛と、ビンテージサウンドへの追求心が詰まった本作の制作背景や経緯を紐解くべく、Spincoasterではメールインタビューを敢行。Yufuはその音楽同様に実直な性格が伝わってくるかのような言葉を返してくれた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Translation by Fumie Kikuchi
Photo by Fumie Kikuchi
「自分の心の内にあるものを表現するのに最良の音楽」──ソウルミュージックに魅了される理由
――ソロ名義での初のアルバム『Heal Me Good』について伺う前に、あなたのここまでの歩み、音楽キャリアについてお聞きしたいです。過去のバンドやプロジェクトでもサウンドスタイルはそれぞれ異なるものの、一貫して60〜70年代の主にアメリカ音楽への憧憬が感じられます。こういったヴィンテージなサウンドに惹かれるようになったのはいつ頃からなのでしょう? 何かきっかけなどがあったのであれば教えて下さい。
Yufu:私の両親は英語教育にとても厳しく、幼少期から英語の曲、特に60年台のドゥーワップや70年台のソウルミュージックを聴いて育ちました。家で英語以外の曲を聴くことは禁止されていました。家にはたくさんのビンテージソングのコンピレーションがあり、ベッドの枕の真上にあるCDプレーヤーで夜寝る前に必ず聴いていました。それでBen E. King、The Spinners、The Platters、Barry WhiteやMarvin Gayeなどの素晴らしいソウルシンガーを知ることができました。
中学生の頃、レコードショップからもらったCDでB.B. KingやElvis Presleyを知って夢中になりましたが、ソウルミュージックが僕の人生からなくなることはありませんでした。
――過去に組んでいたCrocodelia、YUFU & The Velvet Impressionismといったバンドで、あなたが目指していたものサウンド、リファレンスとしていた時代感などを教えてもらえますか?
Yufu:台湾でソウルミュージックを聴いている人が周りに誰もいなかったことと、学生時代はもっとブルースを聴いていたこともあって、まずブルースロックバンドを始めて、ドゥーワップとあらゆるロックを演奏していました。後に60年代のサイケデリックロックを知り、それがバンドのサウンドの中心になっていきました。


――複数のバンド活動を経て、改めてソロ名義での活動をスタートさせた経緯を教えて下さい。
Yufu:プライベートな時間でソウルミュージックはよく歌っていましたが、本格的に人前で歌うには敷居が高いと常に感じていました。しかしCOVID-19のパンデミックが始まって、家で過ごす時間が増えてから、ソウルミュージックが自分の心の内にあるものを表現するのに最良の音楽だと気づきました。だから、もう思い切ってやるしかないなと。
――ソロ名義での初リリースはEP『To My Penpal』(2021年)でしょうか。今振り返って、この作品はあなたにとってどのような作品になったと言えるでしょうか。
Yufu:このEPも誇りに思っています。でも、本当はソウルミュージックには欠かせない弦楽器、管楽器をもっと使いたかったのですが、制作当時は資金がなくて。それと、まだアメリカのクラッシックソウルサウンドを作る自信がなかったので、このEPではどちらかというとフレンチソウルのスタイルを取り入れています。自分のサイケデリックロックのバックグラウンドも活かして、プログレッシブ要素もあるフレンチソウル、70年台後半のサウンドに仕上げました。今ストリーミングサービスやBandcampから取り下げているのは、資金が貯まったらもっとたくさんの楽器を使って再録音したいと考えているからです。
コロナ禍以降の苦悩と、それを癒やす自身の音楽
――『To My Penpal』から今作『Heal Me Good』まで、(間にスタジオライブセッション『Yufu on CINEMAPHONIC』のリリースを挟みつつ)およそ3年半という期間が空きました。この期間はミュージシャンとしてのあなたにとって、どのような期間だったのでしょうか?
Yufu:この3年半で、3回音楽を辞めようと思いました。パンデミックが始まって、自分の音楽キャリアがどうにも進まず、多くの災難も降り掛かってきました。自分のホームスタジオを作ろうと車庫を改造したのですが、後々近隣から苦情がきてスタジオは1年足らずで辞めざるを得ず、金銭的困難に直面しました。
また、高速道路で交通事故に遭い、身体的にも精神的に追い詰められて、食欲が全くなくなってしまった時期もあります。エンターテイメントの盛んな台北に住んでいないことも原因で、自分が住んでいるところでは音楽イベントはほとんど開催されていないので、取り残されているような感覚にもなりました。それでも家族の支えがあって、最終的にはなんとか乗り越え、アルバムを作ることができました。
――今作『Heal Me Good』がオランダのレーベル〈Zip Records〉からリリースされることになった経緯を教えて下さい。
Yufu:The Pulitzersというオランダのバンドが元々好きで、よく聴いていました。60年代、70年代のサウンドを再現している素晴らしいインストバンドです。それでオランダのソウルミュージックシーンが盛んなことを知り、また彼らのレーベルが〈Zip Records〉であることを知り、連絡を取ってみました。幸いレーベルが僕の音楽を気に入ってくれて、リリースに至りました。
――「ソウル黄金期」のサウンド感や、「クラシックソウルの楽しい時間」を作り出すにあたって特に意識した点、もしくは苦労した点などを教えて下さい。
Yufu:最も意識したのは、自分がビンテージソウルミュージックを作る準備ができているかどうか、でした。ソウル音楽と文化への愛から、やるからには中途半端にやりたくありませんでした。またアジア人としてソウルミュージックをやるのは、文化的に受け入れられるのかどうかも心配でした。音楽を作ること、歌うこと、ミックスをすること自体はとても楽しい作業でした。1968年から75年の好きなレコードをたくさん聴いてインスピレーションをたくさん受けました。
……ひとつ不満というか難点をあげるとすれば、やはりひとりぼっちであるということでした。台湾にはビンテージソウルミュージックを演奏しているアーティストがいないため、プロダクションに関して話をできる人が誰もいないんです。
――アルバムの制作に際してリファレンスにした作品などがあれば教えて下さい。
Yufu:このアルバムは1974年のサウンドに特化しています。その時代のワウペダル、フェイザーにサイケデリックな音、それらが大好きなんです。特に参考にした作品はないのですが、このアルバム制作にかかった2年間、Gwen McCrae、Timmy Thomas、Tyrone Davis、Little Beaver、Willie Hutch、Curtis Mayfieldをたくさん聴いていました。
――今作は広義での愛──ネガティブな側面も含めた──をモチーフにした楽曲が大部分を占めているように感じました。こういった方向性はサウンドから自然と導き出されたものなのでしょうか?
Yufu:ソウルミュージックの好きなところは、70年代のアーティストはみんな愛について歌っていても、それぞれのテーマと存在感を持っているところです。例えばBarry Whiteと言えば無限の愛、ロマンティックな求愛のイメージ。Curtis Mayfieldは社会運動やブラックパワーを歌っていて、ディスコスタイルのレアグルーブといえばGwen McCrae、といったようにそれぞれスタイルがあります。なので自分のアプローチを考えた時に、サイケデリックサウンドのバックグラウンドを活かして、愛とドラッグ、薬を組み合わせることで自分のスタイルが際立つと思ったんです。
――その一方で、1曲目“Are You Elevated?”に関しては少し内容が異なるような気がします。個人的には現代社会に対する疑問を投げかけているように感じました。この楽曲はどのように生まれたのでしょうか?
Yufu:メッセージを持った歌が好きなのですが、説くよりも問題を提示する方法が好きです。“Are You Elavated?”では処方されたものも含み、現代社会の薬の濫用を指摘した内容になっています。アンチドラッグのような曲ですが、人工的な薬物を使わなくてもハイになる方法はある、それは例えば愛とか。そういった考えからできた曲です。
――アルバム収録曲から、あなた自身が特に思い入れ深い楽曲を挙げるとしたら?
Yufu:一番好きな曲は“Heal Me Good”です。この曲は他のどの曲よりも先に書いた曲なのですが、どういったプロダクションにするか一番迷った曲で、結局一番最後に完成した曲になりました。でも時間をかけて試行錯誤したことで今までにやったことのないアプローチができて、ミックスしていて一番楽しい曲になりました。
Yufu:次に好きなのは“In Search of A Cure”で、この曲は自分自身に歌った曲です。過去3年の自分の苦悩を癒すために作ったような曲で、最も個人的な歌です。
「永遠にソウルミュージックの生徒でいる」
――音楽だけでなく、ファッション、建築、家具など、ヴィンテージなカルチャーを愛していると伺いました。それはさまざまな物事の速度が加速する近代社会に抗いたいという気持ちがあるからなのでしょうか。
Yufu:子どもの頃から手塚治虫の大ファンで、特に『ブラックジャック』を何度も読みました。元々は父親が僕に医者になって欲しいが故に無理やり読まされていたのですが、読むうちに『ブラックジャック』に登場するキャラクター、ファッション、そしてその時代の哲学にすっかり心を奪われました。懐かしいものを美化しているのかもしれませんが、それは人間がよくすることだと思います。
個人的に、過去に留まるのは悪いことだとは思っていなくて、自分は前世ではそこに存在していたんだ考えるのが好きです。なので前世で遂げられなかったミッションを今世で遂げに来たのかなと。1950年代から70年代のミッドセンチュリーはとてもユニークな時代だと思います。ファストフードやファストファッション、ファストなものが少なかった時代。だから人々が作り出した作品や美学はとても凝っていて、それにとても魅力を感じます。
――日本から見ていて、近年の台湾のインディペンデントな音楽シーンが活気があるように感じます。あなたの目からみた台湾のシーンはいかがでしょうか。
Yufu:ヒップホップとインディロックシーンは活気があって、台湾で率先しているシーンです。でも、他の国に比べると多様性が少ないように感じます。他国からは台湾の有名なアーティストや新しいアーティストの名前を聞くかもしれませんが、国内だとフェスティバルなどに出演しているのは毎回ほとんど同じアーティストです。
今は数バンドいますが、僕がサイケデリックロックバンドを始めた頃は他にはいませんでした。今後台湾の音楽シーンがもっと多様化していくことを祈っています。
――先日、日本に滞在していたようですね。どういったところを訪れましたか? どこか気に入った場所は?
Yufu:僕は日本の音楽シーンを訪ねるのが大好きです。今回たくさんのノーザンソウルシーンの人々に出会って、神戸が大好きになりました。香川県の高松市でラジオをやっているJimmie Soulさんの番組にもお邪魔しました。Jimmieさんは世界中のソウルミュージックアーティストを紹介している人で、このような人がアジアにいることで、とても心強く思います。
https://t.co/HIFOFhEeKp@bsrmag_official さんのWeb版に
のソウルマン @Yufu_groovin さんのインタビューを掲載してもらっております
#ジミソラジオ では紹介しきれなかった部分をフォローしてもらっております!皆さまぜひお読みくださいませ
@diskunion_soul さんでアルバムは買えますよ
— Jimmie Soul (@Jimmie_Soul) March 12, 2025
――ソロアーティストとして、今後の展望を教えて下さい。
Yufu:目標はずっとソウルミュージックを歌い演奏すること。永遠にソウルミュージックの生徒でいること。いつか人をインスパイアできるようになること。この素晴らしい──それなのに過小評価されている──音楽ジャンルを讃えて、シーンをもっと世界中に広げていくこと。いつか日本でもライブがしたいです。もうすでに日本には多くのソウルミュージックファンがいることは知っているので!
【リリース情報】
Yufu 『Honey If You’re Extra / Heal Me Good』
Release Date:2025.06.18 (Wed.)
Label:Kissing Fish Records
Tracklist:
A1. Honey If You’re Extra
B1. Heal Me Good
Distributed by diskunion / Kissing Fish Records
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Yufu 『Heal Me Good』
Release Date:2025.01.24 (Fri.)*
Label:Zip Records
Tracklist:
1. Are You Elevated?
2. 2nd Dose of Love
3. 3rd Dose of Your Mystic Drug
4. Heal Me Good
5. Searchin’ For Some Lovin’
6. I Got A Taste of My Own Medicine
7. Honey If You’re Extra
8. Envy and Jealousy
9. When?
10. In Search of A Cure
Produced and mixed by Yufu
Mastered by Doug Krebs
*台湾では1月3日(金)リリース