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INTERVIEW / Wolf Alice


英国のシーンを代表する存在へと成長したWolf Alice。待望の来日公演を成功させたばかりの彼らを直撃!

2017.11.01

――「Shit, shit, shit」という大絶叫、ウルフカットのヘアスタイルにオール・ブラックで決めて狼ならぬ吠えるように歌うEllie Rowsellに、ロック・ミュージシャンとしての貫禄と自信が伺える。そして、オーディエンスからは「Ellie! Ellie! Ellie!」の掛け声がひっきりなしに続くその景色には、2年前のインタビューで会ったときに感じたイノセントな少女のような雰囲気はなくなっていた……。

2017年10月23日、WWW Xには新世代のロック・スターを一目見ようと多くのインディ・ファンが詰めかけていた。デビュー・アルバム『My Love is Cool』でグラミー賞にノミネートされ、また数々の著名な賞を受賞したWolf Aliceが2年ぶりのセカンド・アルバム『Vision of Life』を提げた東京公演を行った。

メンバーがステージに颯爽と登場し、新譜のオープニング・ソングである「Heavenword」の轟音から幕が開いた。友人の死を哀悼したという本楽曲は、実に穏やかでピースフル。一方で、「Yuk Foo」では淡々とした演奏でありながらも怒りのエナジーがぶち撒けられる。赤いライトが彼女たちのエモーションを表現しているようだった。そして、若かりし頃の甘酸っぱくてこそばゆい恋を想起させるラブ・ソング「Don’t Delete The Kisses」では果てしなく甘い世界へ。最後は彼女たちの原点であるデビュー・シングル「Fluffy」で観客を沸かせ、そしてアンコールではロマンチックなティーン・ポップ「Blush」、ヘビィでパワフルなロック・アンセム「Giant Peach」で一気に終焉まで駆け抜けた。

その熱狂のライブの数時間前、バンドの要であるEllie RowsellとドラマーのJoel Ameyに話を訊くことができた。まだ10代〜20代前半に書かれた楽曲群のコレクション的作品であった前作と比較すると、新作『Vision of Life』には大人へと成長した彼女たちの経験――哀しみ、怒り、そしてロマンス、が詰まっているという。今までのガレージ・ロック、パンク・スピリットを受け継ぐWolf Alice節も健在ではあるが、「Heavenword」や「Don’t Delete The Kisses」といったシューゲイザーの影響が伺える曲から「Beautifully Unconventional」で見せたクラシカルでポップなナンバーまで、サウンド的にも前作より幅が広がり成熟した作品となっている。

しかし、大人になったとはいえ今だに彼女たちは、何かについて――それは本作で語られるパーソナルな体験だけでなく不安定な世界や理不尽な世の中へ対して――フラストレーションを感じているようでもある。Wolf Aliceというバンドの裏側にある彼女たちの人生観を探ってみた。

Interview & Text by Aoi Kurihara
Live Photo by Takayuki Okada
Other Photo by Takazui Hosaka


――昨日Joelのツイッターを見たところ、台風だからチルアウトすると呟いてましたが、今日は快晴でよかったですね。久しぶりの東京ですが、すでにどこかへ出かけたりしましたか?

Joel:昨日実は地下鉄に乗っていくつか知っているお店には行ってみたよ!でもすっごく濡れちゃったよ!(笑)今日みたいな天気だったらもっと楽しかったのにね。

――ちなみに、Wolf Aliceには「Storms」という曲がありますよね。台風にかけて今夜の公演でプレイしたり?

Joel:ハハハ! 実は昨日メンバーでその話になったんだけど、結局やらないことになったんだ(笑)。

――実は昨日、ちょうど日本で大きな選挙が行われていたのですが、昨年12月にはEllieの呼びかけでBands 4 Refugees(※欧州難民危機を救うための団体Help Refugeesから派生した若手インディ・バンドのチャリティ・グループ)の活動としてチャリティー・ショーを行ったり、Jeremy CorbynのYouTubeチャンネルで若者に向けて投票への呼びかけを行ったりと、Wolf Aliceは政治的な活動に積極的ですよね。イギリスでは音楽と政治は切り離せないものだと思いますか? 日本ではミュージシャンがそのような政治的活動をすることはあまり多くありません。

Ellie:イギリスでも状況は同じね。多くの人々から「お前らは音楽だけやってればいいんだ」と言われることがあるわ。でも、そういうこと言う人っていうのは、自分たちにとって都合の悪いことを言われるから、そしてそれが怖いから、という防衛反応なんじゃないかと思うの。自分たちにとってイタいことを言われるから、そういうのが嫌で攻撃に出るんだと思う。なので、そんなことをいちいち気にしないで、面の皮を厚くして堂々とするしかないわね。
でも、やっぱりまだまだこういうことは身近じゃないと思う。状況は変わってきていて、やればやるほど影響を与えられているとは思うけど。それに、政治的な活動が身近になってくるに連れて、それがちょっと悪い方向に向かっているなっていう部分もあるの。白か黒かはっきりさせなきゃいけないという両極端な部分はまさにそうだし、SNSでの発信、拡散が簡単にできてしまう点もそう。でも、自分たちの音楽を変えなくてもそういったSNSの場で語るということができるようになったのは、やっぱり大きいことだと思うわ。

――なるほど。それではミュージシャンとしてではなく、友人同士でカジュアルに政治的なトピックを話すのはどうでしょう? イギリスの若者の間では日常的なことだと言えますか?

Ellie:ノー。そこまでは話さないわね。本来なら学生の時に、そういう自国の政治についてきっちり勉強をしなきゃいけないはずなのに、そういったことを教えてくれる授業なんてなかったの。「新聞を読め!」っていう話もされない。だから、世の中で何が起きているのかさっぱりわからなかったわ。でも、最近になってイギリスでも状況が変わってきて、みんな危機感を感じるようになってきたの。単純に私たちが大人になったということもあるのかもしれないけど、以前よりも強く意識するようになっていったわ。あとはSNSの影響も大きいわね。今までは情報を得るための主要なメディアが限られていたけれど、最近ではTwitterなどを通して普通の人でも世の中で何が起きているのかがわかるようになった。だから、私たちが10代だった頃と比べてより政治が身近になったと思う。普通に友達との会話でもたまに出てくるくらいにはね。

Joel:確かに僕も友達と政治の話をすることはほとんどないな。学校ではそういう授業もあるっちゃあるけど、興味がある人だけ取るものだった。だから、僕はむしろ学校の授業よりも音楽を通じて知ることが多かった。当時は反ブッシュを掲げるパンクやハードコアの音楽がトレンドだったからね。特にGreen Dayの『American Idiot』とかね。僕にとっては、そういう音楽が世の中で何が起こっているのかや政治について興味を持つキッカケになったんだよね。とはいえ、その頃はあまり深く勉強したわけでもないから、自分は政治について語る資格はないんじゃないか、という思いもあった。でも、今は10代の頃に比べると付き合っている友達も違うし、世の中により詳しくわかっているという自負や自信もある。だからこそ、自分のわからないことを友達と話したりして、新たに知識を得るということもできるようになった。

――そういった世の中への違和感、怒り、フラストレーションがあなたたちの曲にも繋がってきますよね。特に「Yuk Foo」は怒りのエナジーを発散した一曲ですが、1番最近に感じた怒りは何でしょう?

Ellie:確かに、今の政治や世の中の状況についてはフラストレーションが溜まっているわ。怒りが込み上げてくるようなものもある。でも、不思議とそれが音楽や自分の作る作品にとっての原動力にはならないのよね。そういったフラストレーションは私たちの音楽には反映されないの。当然フラストレーションを感じて「何か発言しなきゃ、何か活動しなきゃ、何か助けなきゃ」という思いに駆られることはあるわ。でも、それについて曲を書いたり絵を描いたり、あるいは文章を書いたりていうのには繋がらないわね。じゃあ自分が作品を作る時に繋がるフラストレーションていうのは一体何なのかっていうと、それはやっぱり自分のパーソナルなことね。人間関係だったり、誰かに対してすっごくムカついたとか、そういう経験なの。

――この曲は「若い女性でいることについて、特定の期待をされること」から着想を得たと聞きました。これは音楽の世界で感じたフラストレーションなのでしょうか?

Ellie:多くのバンドをやっている女性が、女性としての扱われ方に不満を持っていると思うの。女性へ期待されることに対するフラストレーションというのはあると思うんだけど、実のところ私はそのフラストレーションについてて多くは知らない。これに関して言うと、若い女性として何か期待されると言うよりも、女性ミュージシャンとしてどう見られているかっていう不満がちょっとあるの。パンクなバンドをやるにあたって、私がシャイな見た目、あまりパンクっぽくないって言われることに対してちょっとムッとしていて。そういう気持ちをブチまけたという感じ。そういう一見怖くなさそうに見える私にだって、フラストレーションはあるのよ。別にそれを証明するために曲を書いたわけではないけど、結果的にそうなったわね。

――その一方で、「Beautifully Unconventional」のMVはマリリン・モンロー、つまりセックス・シンボルのような格好をしていて、それが意外というか、アイロニックな演出方法なのかなと思いました。

Ellie:あのMVでは1950年代の雰囲気を出したかったの。それに際して、私の髪型をどうにかしなきゃってことで、ウィッグを用意してもらったらたまたまあれだったのよ(笑)。
なので、マリリン・モンローを意識していたわけではないの。それに、今の私だって十分にセックス・シンボルよ(笑)。……なんて冗談はさておき、あの曲の感じからちょっとヴィンテージな雰囲気をもたせたかったの。MVって作るのに時間も労力もかかるし、いざ作ってみたら思ってたのと違うなっていうこともある。だから、自分たちのパフォーマンス映像で済ましてしまうことが多いんだけど、たまにはこういった趣向を凝らしたMVを作ってみようかっていうことでできたのがあのMVね。

――『Vision of Life』にはエマ・クラインの『The Girls』(※「シャロン・テート事件」を題材にした青春小説。2016年出版)から影響を受けた曲もあるそうですね(「Formidable Cool」)。また、Wolf Aliceというバンド名もアンジェラ・カーターの小説が由来となっていると聞きました。他に、Wolf Aliceの音楽性に影響を与えた小説はありますか?

Ellie:そうね、確かに音楽を作る上で、歌詞については小説からインスパイアされていることが多いわね。ただ、本だけでなく映画からも影響を受けているわ。それに、伝記とかも読むわね。映画だと『乙女の祈り』(原題:『Heavenly Creatures』)や『レイジング・ブル』(原題:『Raging Bull』)のセリフから歌詞のインスパイアを受けたわ。シェイクスピアの『テンペスト』か何かの作品のセリフから引用した歌詞もあるわ。あ、これって言っていいのかしら? シェイクスピアはもうみんな知ってるから大丈夫よね(笑)。
気に入ったフレーズとかを書き留めておくっていうのは、歌詞を考えるのにいい方法なのよ。そして最終的には、自分の頭からふっと歌詞が湧いてくるわ。

――話は変わりますが、先ほどGreen Dayの話が出てきましたが、ちょうど1ヶ月前にGreen Dayの「Good Riddance (Time Of Your Life)」のカバーをしていましたよね。アメリカのパンクからも影響を受けていると思いますか?

Joel:単純に、僕がティーンの頃に流行っていたから、彼らのような音楽と共に成長してきたという自覚はあるね。家でもそういった音楽がかかっていたから、彼らのことを見つけるのは早かった。そして、Green Dayのメンバーがインタビューなどで名前を挙げるバンドとかをチェックしたりもした。うん、彼らは僕にとって大きな影響源だったと言えるね。彼らの世界観は、当時の僕にとってはとてもロマンチックでエキサイティングなものだったんだ。アメリカのティーンが熱狂していて大きなムーブメントになっていたしね。僕が成長するにあたって重要なバンドだったよ。

――なるほど。また、Ellieも最近Britny SpearsのツイートをRTしたり、だいぶ昔ですがKaty Perryのカバーもしていましたよね。そう言ったいわゆるビルボードのヒットチャート上位にいるポップ・ミュージックからも影響を受けていたりしますか?

Ellie:そうね、そういった音楽も聴いて育ったわ。あとはP!NKとかね。ポップ・ミュージックは好きだし、私たちはポップ・ミュージックからの影響を受けていると思うわ。ただし、それはいいポップソングという意味でね。”バッド”なポップ・ソングはあまり聴かないけれど、ポップ・カルチャーを魅力的に感じてはいるわよ。

――先日、JoelはTwitterでSt. Vincentの『Masseduction』やSuperfood『Bambino』ついてコメントしてましたが、他に最近のお気に入りのアルバムはありますか?

Joel:Superfoodの新譜は本当に最高だね。みんなチェックすべきだよ。彼らもまだ若いイギリスのバンドなんだけどね、素晴らしいよ。あとはKing Kruleの『The OOZ』も好きだね。

Ellie:Big Thiefのアルバム『Capacity』もお気に入りだわ。

Joel:あとは少し前だけど、Perfume Geniusの新作『No Shape』もすごく興味深い作品だった。よかったよ。

――あなたたちも十分まだ若いですが、UKではさらに若いジェネレーションのバンドが出てきていますよね。今気になる若手のミュージシャンを教えてください。

Joel:Superfoodはマストだね。

Ellie:友達でEPを出したばっかりなんだけど、Jelani Blackmanがお気に入りね。すごくおもしろい音楽よ。あとは4ピースのグランジ・バンド、Sorryもお気に入り。彼らはまだミックステープしか出してないけど。それからPixxも好き。最近1stアルバムをリリースしたわ。あと、The Magic Gangもドリーミーなポップで素晴らしいわ。

――これはTheoの発言なのですが、2年前にインタビューした際、「Arctic Monkeysのような英国を代表するバンドになりたい」と語っていました。すでにあなたたちは若いジェネレーションの中で代表格であり、その地点に達しつつあるのではと私は感じています。そんなあなたたちが今掲げる野望やヴィジョンを教えてください。

Joel:そうだね、個人的にはまた次のレコードを制作して、日本にまた来て、大きなショーをやりたいと思っている。世界中で色々な人と繋がれるのはすごいことだよね。新しいレコードを持ってステージで演奏してっていう今の出来事がまだまだ今後も続くようにしたい。

Ellie:同じね。でも、よりクリエイティブに、自由に自分の時間を使いたいかな。曲についてのビデオのアイディアがあったけど、ずっと実現できてなくて、お金と時間があったらもっと音楽以外のクリエイティブなことをやりたいなと思っているわ。


【リリース情報】

Wolf Alice 『Visions Of A Life』
Release Date:2017.09.29 (Fri.) 世界同時発売
Label:Dirty Hit / Hostess
Price:¥2,400 + Tax
Tracklist:
1. Heavenward
2. Yuk Foo
3. Beautifully Unconventional
4. Don’t Delete The Kisses
5. Planet Hunter
6. Sky Musings
7. Formidable Cool
8. Space & Time
9. Sadboy
10. St. Purple & Green
11. After The Zero Hour
12. Visions Of A Life
13. Heavenward (demo) *日本盤ボーナストラック
14. Sadboy (demo) *日本盤ボーナストラック

日本盤はボーナストラック2曲、歌詞対訳、ライナー ノーツ付


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