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INTERVIEW | TOKYO ALTER MUSIC AWARD


オルタナティブミュージックに焦点を当てる新たなアワードが設立。その狙い、意義とは

2024.10.17

「TOKYO ALTER MUSIC」と称する団体が新たなアワードを立ち上げる。

同団体のメンバーにはOvallやKan Sanoなどを擁するレーベル/プロダクション〈origami PRODUCTIONS〉の代表・対馬芳昭。同じくレーベル〈Namy&〉を主宰しAmPmを筆頭に多数のアーティストを輩出/サポートし、自身もDJとして活動する高波由多加。元Spotify Japan Artist & Label Marketing Managerであり、現在は自身が立ち上げた株式会社arneで音楽専業のデータ分析・デジタルプロモーション・マーケティングなどを行う松島功。そして株式会社Spincoaster代表・音楽フェス『MIND TRAVEL』主催の林潤の4名が名を連ねている。

「日本国内におけるオルタナティブミュージックの普及と支援、ミュージシャンのサポート、オルタナティブミュージックシーンの活性化、およびアーティストのアジアを起点としたグローバルでの活動を支援すること」を目的に掲げた同団体の狙いを紐解くべく、4名にインタビューを実施。アワード立ち上げの背景、そしてその先に見据えている展望について語ってもらった。

なお、同アワードの受賞式は10月26日(土)に東京・新宿東急歌舞伎町タワーにて開催される『MIND TRAVEL』の中で行われ、その様子は後日ソーシャルメディア上での発信が予定されている。

Interview & Text by Takazumi Hosaka


全員が抱いていた問題意識と課題

――このアワードを立ち上げるに至った経緯を教えて下さい。

高波:今年の1月に開催された『Music Lane Festival Okinawa』(以下、Music Lane)にて対馬さん、林さんとお会いして、お話していた中で、みなさんそれぞれインディペンデントな国内アーティストをいかに世界へと発信するか、届けるか、ということを考えているなと感じました。予てより私も同様のことを考え、ひとりで色々と試行錯誤してきたのですが、志の近い人たちで手を組んで動いた方がいいんじゃないかって、そのとき直感的に感じたんです。

おふたり(対馬、林)に加えて、松島さんはいつも私の足りない部分をサポートして頂いていたので、4人で組んで何かできないか、沖縄から帰ってきて意見交換の場を設けました。

:『Music Lane』にはアジアを中心に海外からも多数のアーティストが出演していて、アピールの場として素晴らしいなと感じています。ただ、その一方で、インディペンデントなアーティストが自費で海外へ行くハードルの高さや、海外での活動に際して、それぞれの事務所やチームが持っているであろう情報があまり共有されていないんじゃないか、とも感じていて。国内での活動は点でもいいかもしれませんが、海外に打って出る際はある程度束になって勝負していかないといけないよなと。

対馬:個人的に『Music Lane』は本当に素晴らしいショーケース/フェスティバルだと思うんですけど、野田さん(野田隆司。『Music Lane Festival Okinawa』創設者)が孤軍奮闘しているようにも感じていて。他の国だと、それこそ公的な機関が主導していたり、もっと繋がりがあるような気がするんです。

■参考記事:【INTERVIEW】音楽の街・沖縄が目指すシーンの活性化


『Music Lane Festival 2024』オープニングパーティの様子

対馬:日本の音楽マーケットって、数字だけで見ると世界と比べてもとても大きい。ただ、その大きさゆえ、横との繋がりがなくても成立してしまうんですよね。一方でアジアの国々なんかは国内の音楽関係者がユナイトして、団体で各国を回って情報交換などをしている。そういった状況の中で、自社や自分のチームだけで成長していくのではなく、もっとお互いに情報共有して、日本もアジアの音楽シーンに入っていかないとダメだよねと。こういった話を林さん、Namyさん(高波)と沖縄でして、「そうだよね」で済ますのではなく、具体的になにかやってみないかということで、東京で集まって。そこで松島さんにもジョインしてもらったという流れでした。

――松島さんも同じような問題意識を以前からお持ちだったのでしょうか。

松島:そうですね。私は今年の『Music Lane』には参加できなかったのですが、過去には登壇させてもらったこともあり、今みなさんがおっしゃっていたような話もすぐに頷けました。今ってSpotifyやApple Musicといったプラットフォームで配信すれば、少なからず海外の人にも届くというか、100%日本国内でしか聴かれてませんっていうアーティストってたぶんいないと思うんです。小規模のインディペンデントアーティストでも少なからず海外の方に聴かれている。

そうやってある程度平等にチャンスがあるなかで、あとは何かちょっとしたきっかけさえあれば、どんどん海外へ進出するアーティストが出てくると思っていて。そのきっかけのひとつとして、アジアを中心とした海外の音楽関係者との繋がりやアピールの場を提供して、いろいろな事例を作り出すことができたらなと。

――なるほど。

高波:個人的な経験として、2017年にAmPmが世界で聴かれるようになったときに、あまりリアルな出会いや繋がりを重視しなかったことが、プロジェクトの前進を妨げてしまったんじゃないかという反省点もあって。その一方で、最近アジアを飛び回っていて、現地で繋がったフェスのオーガナイザーや関係者の方たちに日本のアーティストの曲を聴かせて、「お、いいじゃん」ってなると、政治的な部分もすっ飛ばして純粋な好意で呼んでもらえることもあって。もちろん今はアップカミングなアーティストが出る小さいステージがメインですけど、こういった活動を個人ではなくみなさんの力を借りて行えれば、何かいい流れが作れるんじゃないかなって思いました。

アジアは特に人口が増え続けていますし、若い音楽リスナーも多いので、日本だとニッチなジャンルでも広く受け入れられるかもしれない。そうすることで、「自身が信じる音楽を作り続けていいんだ」とアーティストに思ってもらえるんじゃないかなと。そしてそういったアーティストが増えていけば、国内のシーンにとってもプラスに作用すると思うんです。

――実際に高波さんがサポートしているアーティストも、国外でのライブの機会が増えてきていますよね。

高波:そうですね。昨年、タイのフェスにTina Moonが出演したり、MuchaMuchaMもマレーシアの大きいイベントに呼んでもらえたり。自社でマネージメントしていなくても、自分が手がけるコライト企画に参加してもらったアーティストには、積極的に海外進出のお手伝いをさせてもらっています。

対馬:日本は人口が減り続けているので、いずれは海外に進出していかないと立ち行かなくなるっていうのは、音楽業界全体でぼんやりと共有されていることだと思うんです。

それに加えて、個人的に小さい頃からずっと海外の音楽を聴いて育ってきたし、異国の音楽以外の文化に触れるのも大好きで。自分のレーベルから発表している音楽を世界中の人に聴いてもらいたいっていう欲求は、レーベル創設時から当たり前に抱いてきたものなんです。そしてそれは今も変わっていません。


Tina Moonがタイの『Longlay Beach Life Festival』に出演した際の様子


MuchaMuchaMがマレーシアを訪れた際の様子。後日、ボルネオ島で開催されたイベント『WAK presents HOME & AWAY』に出演した。


東京からオルタナティブなアーティストを発信

――国内アーティストの海外進出を促したり、海外との橋渡しを目的に掲げるのであれば、それこそ『Music Lane』のようなショーケース、『BiKN』のようなフェスの開催といった手段もあると思うのですが、「アワードの立ち上げ」に至ったのはなぜなのでしょう。

松島:最初は基金みたいなものを立ち上げ、何組かのアーティストをサポートさせてもらう、といった話も出たかと思うのですが、「アワードの立ち上げ」というアイデアは対馬さんが提案してくれたんでしたっけ?

対馬:一気に風呂敷を広げて、絵に描いた餅になってしまうのは嫌だなと思いまして。具体的な施策を考えていくうちに、そういったアイデアに辿り着いた気がします。

:アワードを立ち上げて、国内の優れたアーティストを表彰しつつ、同時にアジア部門も設けることで、海外の音楽関係者やリスナーにもアプローチできる、注目してもらえるんじゃないか、という流れだったように記憶しています。

去年、台湾の『金音創作奨(Golden Indie Music Awards)』(以下、GIMA)に取材で参加したのですが、台湾ではメジャー/メインストリーム寄りのアワードで、「台湾のグラミー賞」とも呼ばれる『金曲奨(Golden Melody Awards)』と、インディペンデント向けの『GIMA』がもあるんですね。日本ではそういったインディ寄りのアワードというと、後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が立ち上げた『APPLE VINEGAR -Music Award-』くらいしかないんじゃないかなって。

■参考記事:【REPORT】第14回 金音創作奨(Golden Indie Music Awards)


『第14回 金音創作奨』授賞式の様子。映像内でパフォーマンスしている鶴The CraneはSIRUPとのコラボでも話題に。

:『GIMA』は政府文化部が主催していながらも、あまり忖度といったものは感じず、純粋に作品のクオリティや創造性を重要視しているように感じられて。その日本版のようなものができないか、といった話もしました。あとは音楽じゃないですけど、宝島社の『このマンガがすごい!』なども参考にさせてもらいつつ。メインストリームではないオルタナティブなアーティストを、東京から発信するということで『TOKYO ALTER MUSIC』というタイトルになりました。

対馬:あと、個人的にはコロナ禍のときに自己資金でドネーションを立ち上げて、生活の危機が迫っている音楽関係者に個人資金を分配させてもらったんですけど、そこで用意した金額の半分は「未来の音楽シーンのため」に使いたかったんです。その使い道についてもずっと考えていたんですけど、このタイミングで、この人たちとの企画ならベストな使い方なのかなと思いました。

■参考記事:音楽関係者に向けたドネーション(寄付)「White Teeth Donation」を立ち上げました。(note)

――表彰する5部門はどのようにして設定したのでしょうか。

:アーティストとしての芯を持って、素晴らしい作品を残したり、パフォーマンスをしているアーティストであることは大前提に、今回はキャリアを問わずその年に大きな注目を集めたり、高い評価を受けたアーティストを選出させてもらうのが「Best Alter Artists」。そして比較的キャリアの浅いけど、これからに大きな期待を寄せるアーティストという枠として「Best Breakthrough Artists」。あとはさっきお話したように、日本から見たアジアという目線で、近年活躍目覚ましいアーティストを選出させてもらう「Best Alter Asian Artists」。この3つに加えて、残り2枠はアーティスト以外の方にもスポットを当てたいと思い、設定しました。

日本とアジアの音楽シーンに貢献し、架け橋のような活動をされている方を「Contribution to Asia」として、音楽にまつわるクリエイティブで印象的な作品や施策を行った人を「Best Creative」として表彰させてもらいます。

対馬:この5つの部門に関してはすごくスムーズに決まりましたよね。みなさんそれぞれの知見や問題意識を話し合いつつ、誰かひとりが引っ張っていったというより、全員の意見が反映されていると思います。

高波:当初はグラミーのようにかなり細かく部門分けするという意見も出たんですけど、最初はシンプルに、できるところから始めようということで、こういった部門分けになりました。

:まずはできるところからということで、今回は「Best Breakthrough Artists」のみ、アジア圏でのフェス出演やブッキングのサポート、渡航滞在に関する費用の一部を援助させてもらいます。今後はもっとそういった部分も増強していければなと。

対馬:ノミネーターの選出も全員で話し合いながら進めたんですけど、それぞれ自社で手がけている、サポートしている、もしくは利害関係にあるアーティストを自分から推薦することはなくて。それは誰から言い出したわけでもない、暗黙の了解でしたね。こういうことって、自分の損得感情は抜きにしてやらないとダメだと思っていて。そういった部分でもこのメンバーはベストだったなと感じています。


多様な繋がりを生み出すハブになることを目指して

――来年以降の展開はどのように考えていますか?

高波:まだまだやってみないとわからない部分だらけなので、あまり確かなことは言えないのですが、表彰者だけでなく、このアワードを交流のような場にできたらなと考えています。それこそ『Music Lane』の東京版のような感じになったら嬉しいですね。アジアからアーティストや関係者を招待して、情報交換をしたり、その前後ではライブも行われたりっていう流れになるのが理想かなと。

松島:ここで選出させてもらったアジアのアーティストの来日公演が増えたり、もしくは日本のアーティストの海外公演が決まったり、相互にいい流れが作れたら嬉しいですよね。そうすることでアーティスト同士の国境を越えたコライトやコラボもより活発になると思いますし。

対馬:このアワードは権威主義的なものにならず、国や年齢性別を問わず志を持った人に加わってもらい、発足した我々の想像を超えるような多様な場所にしたいんです。人と人でも、レーベルとオーガナイザーでも、何かと何かのハブになったらいいなと思っています。なので、アワードを継続的に運営していきながらも、そこから何かが派生していくことを強く願っています。

自分の仕事のスタンスと一緒なんですけど、「これをやったら、きっとこういう効果がある」とか考えるのではなく、とにかくやってみる。どう転がっていくか見た上で、その時々で次の判断をしたいというか。

:ハブになりたいという思いは本当にその通りで。表彰することが最終目的ではなくて、そこからのアウトプットが大事というか。今回は「Best Breakthrough Artists」に少額支援させてもらいますけど、今後はアジアのフェスに枠を設けてもらえるよう交渉したり、実際に次のステップへと繋がるような取り組みができればなと。

――近年、国内でも月見ル君想フやBIG ROMANTIC ENTERTAINMENTが手がける来日公演や、各種フェスにもアジアのアーティストの出演が増えてきています。このアワードはそういった流れにも合流するような印象を受けました。

対馬:『BiKN』には昨年、〈origami PRODUCTIONS〉からNenashiが出演させてもらったし、『SYNCHRONICITY』の潤くん(麻生潤)とも付き合いが長くて、彼が日本に招聘したフィリピンのバンド・UDD(Up Darma Down)とうちのOvallがコラボしたり、フィリピンに呼んでもらったりもしてくれて。僕らだけじゃなく、そうやって有機的に繋がった輪を今後も大きくしていけたらなと思います。

OvallとUDDのArmiによるコラボ曲“Transcend”(2019年)


【イベント情報】


『MIND TRAVEL 2024 – TOKYU KABUKICHO TOWER EDITION -』
日時:2024年10月26日(土)12:00〜23:00
会場:東京・新宿 東急歌舞伎町タワー(B2F – B4F ZEPP SHINJUKU、1F 野外エリア、17F SPACE WEST)
出演:
ADOY(from Korea)
Ace Hashimoto(from US)
?te (from Taiwan)
Billyrrom
BREIMEN
CHIANZ
FLUER
どんぐりず
HOME
luvis
mico piece (DANCE SESSION)
Sala
SIRUP
SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO)
VivaOla
w.a.u(DJ set) feat. MÖSHI & MK woop
YonYon
YOSA&TAAR

(AtoZ)

主催:Spincoaster inc. / TST inc.

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