INTERVIEW

Tina Moon

未だ謎多き新鋭に初インタビュー。苦悩や挫折を経て、再び音楽に希望を見出したTina Moonのストーリー

ミステリアスなビジュアルと変幻自在な音楽性で注目を集める新鋭シンガー、Tina Moonが1st EP『mishmash』を12月8日(水)にリリースした。

今年8月より4ヶ月連続でリリースしたシングルに、2曲の新曲を加えた本作は、アコースティックかつ幽玄なサウンドから、ファンク、R&B、ダンサブルなエレクトロニック・ナンバーまで、まさに『mishmash』(=ごちゃまぜ、寄せ集め)というタイトルが相応しいカラフルな作品に仕上がっている。また多彩なサウンドを乗りこなすセンスや高い歌唱力だけでなく、ときにシリアスに心象風景を描いたと思えば、ときには軽快な言葉遊びで翻弄する、その作詞家としての才能も目を見張るものがある。

そんな高いポテンシャルと未知数の可能性を感じさせるTina Moonにインタビューを敢行。自身のバックグラウンドからルーツ、ここまでの足取りを語ってもらった。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Official


音楽一家で育ったTina Moonのルーツ

――Tina Moonさんが最初に音楽に興味を持ったのはいつ頃、どのようなことがきっかけだったのでしょうか。

Tina Moon:音楽が大好きな家族の元で育ったので、気づいたら音楽に触れているような環境でした。家ではソウルやR&Bなどが常にかかっていましたし、特におばあちゃんはシャンソンが大好きなんですけど、2〜3歳くらいの頃にはおばあちゃんと一緒に「オー・シャンゼリゼ」をフランス語で歌いながら踊っていた記憶があります。小学校に上がってからはアニソンやボカロにもハマりましたし、TVから流れてくるJ-POPにも触れるようになりました。海外の音楽を自発的に聴くようになったのは、スマホを買ってもらってからで、ネットで海外のヒット曲――Maroon 5やBeyoncéなども聴いて、シンプルに「すごい……!」って衝撃を受けました。でも、それから色々と自分で調べて聴いていくと、「あ、これ家でかかってたやつだ」っていうことも多くて。

――小さい頃の思い出と繋がったと。

Tina Moon:はい。特に印象深いのはPrinceで。母が大好きで、家には昔からレコードがあったんです。ちょっと失礼な話なんですけど、子供の頃はそのジャケットが怖くて。胸毛が見えているし、何なんだこの人は……っていう感じだったんです。でも、自分で色々な音楽を聴いていくうちにPrinceの魅力にも気づいて。そうしたらそのジャケットもめちゃくちゃカッコよく見えてくるんですよね。

――すごくよくわかります。では、シンガーとして、ミュージシャンとしての現在の自分を形作っているアーティスト、作品をいくつか挙げるとするなら?

Tina Moon:ひとつは三浦大知さん。スマホをゲットしてから色々な音楽をディグっていくなかですごくハマりました。同じ日本人なのに、こんなにカッコいい人がいるんだって。あと、言葉にできないような感情をとても綺麗な日本語詞と歌で表現しているなと感じた玉置浩二さん。そして最後は私の人生のスター、Bruno Marsです。

――とても振れ幅があるようですが、どこか納得するような並びでもあります。特に、Tina Moonさんの作品における日本語での詩的な表現は、玉置浩二さんとリンクする部分もあるのかなと。

Tina Moon:ありがとうございます。比べられるのは恐れ多いですけど。こんなに美しい日本語で歌う人って他にはいないんじゃないかって、初めて聴いたときに衝撃を受けたんですよね。

――Tina Moonさんが音楽活動を始めるまでの経緯についても教えて下さい。

Tina Moon:小さい頃からずっと歌ってはいたんですけど、人前で歌うようになったのは、高校の軽音楽部に入ってからですね。最初は好きな曲をいっぱいカバーしていました。Michael JacksonやBruno Mars、あとはBlack Sabbathなども歌いましたね。Bruno MarsがライブでやっていたNirvanaとMichael Jacksonのマッシュアップなども真似したりして。

Tina Moon:軽音部に入ってからはそれまで以上に広く、色々な音楽を聴くようになったんですけど、その結果、改めて自分はR&Bやソウル、ファンクが好きなんだって気づきました。

――バンドでオリジナル曲などはやらなかったのでしょうか。

Tina Moon:オリジナル曲もやっていました。高校生向けのバンドの大会がありまして、そのために選りすぐりのメンバーが集ったバンドにも所属していて。自分にとっての初の作曲もそのバンドの作品だったんですけど、当時は勝手に軽音楽部を代表しているような気持ちになっていて、絶対に賞を取らなければという気持ちで作っていました。言ってしまえば自分の中から出てきたものではなくて、いい子ちゃんのフリをした曲を書いていたんです。今振り返ってみれば、すごくよくないことだと思うんですけど、当時はすごくプレッシャーを感じていて。

――なるほど。

Tina Moon:結局、優勝することはできないまま卒業することになってしまい、もちろん大会へ向けて組んだバンドも解散となって。これからは自分のために曲を作ろうって思ったんですけど、それまで他人の評価ばかりを気にして作曲していたので、作曲自体がトラウマになってしまい、最初は中々上手くいきませんでした。そんな中でも、なんとか完成させてSoundCloudにUPしたのがH.E.R.の「Best Part ft. Daniel Caesar」のカバーと、電気も消して布団を被ってハミングを録ったアンビエント的な曲で。どちらもiPhoneの「GarageBand」(作曲アプリ)で作りました。

――その曲を作っていたときは、大会へ向けての曲作りとは全く異なる精神状態でしたか?

Tina Moon:そうですね。とにかく自分を癒そうと思って、自分の好きなメロディや音を詰め込みました。誰も聴いてくれないだろうと思ってたし、この先音楽を続けていくこともないと思っていたので。


トラウマを払拭するきっかけとなった「Kawaki」

――では、そこからどのようにしてTina Moonとしてのプロジェクトに繋がったのでしょうか。

Tina Moon:今お話した、SoundCloudへUPした楽曲を今サポートしてくれてるスタッフさんが聴いてくれて、連絡をもらいました。それからこれまでの全曲のアレンジを手がけてもらっているGimgigamさんを繋いでもらって、今に至ります。最初は当たり前ですけど全然自分に自信がなくて、「こんな感じの曲を作ってみたんですけど、どうでしょうか? ……ダメですよね?」っていう感じで、傷つかないようにしていたんですけど、Gimgigamさんもスタッフさんも「いいじゃん」って言ってくれて。それから徐々に音楽活動に対してポジティブな気持ちを抱くことができました。

――そうやって最初に作り上げたのが、1stシングルでありEPのオープナー・トラックとなる「Kawaki」なのでしょうか。

Tina Moon:そうです。大体リリースした順に曲を作っていて。「Kawaki」は最初、終始Aメロのような浮遊感漂うサウンドだったんですけど、この曲は負の感情を表現しているので、これじゃダメだなって思って。Gimgigamさんのアドバイスでファジーなギターなどを取り入れたダークなパートも入れて。悲しさを表す繊細な部分と、怒りを表現する部分をわかりやすく組み合わせてみました。私にとってはとても大切な曲です。

――「Kawaki」はネガティブな感情を美しく形にした曲だなと感じましたが、こういった感情を“乾き(Thirsty)”と表現するのが素晴らしいなと思いました。

Tina Moon:嬉しいです。その当時の私は何をやっても満たされない気持ちがあって。満たされているときは、本当に些細なことでもポジティブに捉えられるし、幸せを感じられると思うんですけど、逆に沈んでいるときは青い空を見るのも嫌だし、子供が外で楽しそうに遊んでいる姿さえも目に入れたくない。自分がそんな状態になっていることに驚いたので、そのときの感情を書き殴るようにして歌詞ができ上がりました。

――「Kawaki」を完成させたことによって、自分の中で何か変化は起きましたか?

Tina Moon:この曲を作ったことで、曲作りが怖くなくなりました。もちろん未だに自信はないし、まだまだだなって思いますけど、初めて自分の曲を評価してくれた気がして、モチベーションはとても上がりました。

――2ndシングルであり、EPの2曲目「PaBodance」は「Kawaki」から一転、4つ打ちを軸としたダンサブルなトラックが印象的です。この曲はどのようにして生まれてきたのでしょうか。

Tina Moon:「パボ(파보)」は韓国語で「おバカさん」という意味なんですけど、私がよく観ていた韓国ドラマで「パボちゃん」っていうセリフがよく出てきて。その語感の可愛さに惹かれたので、この言葉を使用したいなと思ったんです。曲もたまたまデモ段階でキャッチーでポップな感じになったので、「〜Dance」という曲にしたいなと思って、その2つをくっつけました。

制作時期がちょうど夏前くらいだったので、サウンド的には少し軽快なテイストになっているのと、当時めっちゃハマっていた『ストレンジャー・シングス』のオープニングのSFチックなシンセも入れてみました。

――軽快なサウンドとは裏腹に、リリックにはネガティブな感情が出ていますよね。

Tina Moon:小さい頃って、誰しもバカにされたり見下されたことってあると思うんです。それはすごく悔しいことで、この曲では絶対に許さないし、これからも忘れないで生きていくぞっていう強気な内容を歌っています。スマートな大人になんてならないぞっていう感じ。


「やりたいことを全部やってみる」――多様なサウンド/ジャンルに挑戦したEP

――EPの3曲目に収録されている「Chicken Street」は、アフロ・ビート〜ダンスホール的なトライバルなナンバーです。

Tina Moon:この曲だけはちょっと制作プロセスが違っていて、「こんな感じの曲を作りたい」ってGimgigamさんにお伝えしたら、「こういうトラックがあるんだけど」って提案してくれて、それを使用させてもらった形です。もともとGimgigamさんが得意なトライバルなテイストに、私はラップ調のボーカルで乗ってみて。Gimgigamさんのトラックが強くて、生半可なメロディじゃ太刀打ちできなくて、歌入れやメロディ・ラインを作るのはとても大変でした。歌詞は言葉遊びメインで、他の曲とは違った感じになっていると思います。

――続く「selfish」はストリングスも取り入れたバラード調のナンバーです。EP全体の流れとしても一区切りつくような、そんな印象を受けました。

Tina Moon:今回のEPは全曲バラバラのジャンルにしようと思っていたんです。私にとっては初めてのまとまった作品になるので、やりたいことを全部やってみようと。この曲は「バラードを書こう」っていう気持ちと、自分が昔書き留めていた言葉がリンクして生まれました。そこには「誰に対しても優しくある、っていうのは難しい」という内容が綴られていて、当時の自分は相当悩んでいたみたいなんですけど、この曲の歌詞はそれに対する今の私からのアンサーみたいな内容になっています。そんなことで悩まなくていいんだよって、自分に対して書いた曲なんですけど、聴く人によっては大事な人へ向けた曲という風にも捉えてくれて。自分としてはそういう歌詞が書けたことを嬉しく思います。

――「プロジェクト3」、「CHOCOLATe sugar」は共に軽快かつポップな楽曲です。「プロジェクト3」に関してはスクラッチ音も入れたりと、どこか懐かしい、90年代〜2000年代くらいのR&Bのようなテイストもあります。

Tina Moon:さっきの話とも被るんですけど、今回のEPは色々なジャンル、サウンド感に挑戦しようと思っていたので、「プロジェクト3」は今おっしゃったような年代の音楽をリファレンスにしています。もちろん愛とリスペクトを持って。歌詞にはネガティブな感情も出ているんですけど、そういったものはすべて《世の中のせいにしちゃえよ》っていう、ぶっきらぼうな曲ですね(笑)。

――でも、そういった考え方はきっと昔のTina Moonさんからは出てこなかったものですよね。先ほどの話にもあったように、バンドの大会で優勝できなかったことを自分のせいだと責任を感じていたり。そこから考えると、とてもポジティブな変化と言えるのかなと。 

Tina Moon:確かに。“世の中”っていう漠然としたものに責任転嫁すれば、誰も傷つかないし、自分を下げずに済みますしね。これは自己肯定感ちょい上げソングです(笑)。

――ちなみに、この意味深なタイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか。

Tina Moon:これは本当に意味がなくて。DTMソフトで作業してたら「プロジェクト3」っていうのが目に入ったので、そのまま付けちゃいました。自分の中で新しい心境になったということを、“新しいプロジェクト”という風に表現できるかなと。あと、これは後付けなのですが、純粋に何も考えずに音楽を楽しんでいた時期を“プロジェクト1”として、バンド活動で少し落ちてしまった時期が“プロジェクト2”、そこからTina Moonとしてスタートを切った今が“プロジェクト3”と呼べるのかなって。

――なるほど。ラストに位置する「CHOCOLATe sugar」はファンキーかつグルーヴィーなナンバーで。リリックは「PaBodance」にも通ずる強気な雰囲気を感じさせます。

Tina Moon:「CHOCOLATe sugar」はEPのリード曲となるように意識して作った曲です。この曲はメロディから作ったのですが、後からGimgigamさんがブリブリのベース・ラインを作ってくれて。私は画像や写真から歌詞の着想を得ることもあるのですが、この曲はたまたま検索して見つけた女性が傷ついた人を抱きしめている画像にインスパイアされて。誰かに傷つけられていたり、抑圧されていたり、窮屈な想いを感じているような人に対して、投げかけるような内容にしようと思ったんです。もっと自分勝手になっていいんだよって。

――Tina Moonさんのこれまでの話を踏まえた上で聴くと、より説得力の増す楽曲だなと思いました。Tina Moonさんも息苦しい環境などから脱して、今は自分勝手にやりたいことをやれる環境にいるわけですもんね。

Tina Moon:そうですね。私と同世代の方たちにも投げかけたいです。自分が何が好きで、何がやりたいのかわからないっていう人も多いと思うので。


「他の誰かの人生や気持ちを前向きにすることができたら」

――1st EPが完成した今、これからの活動についてはどのように考えていますか?

Tina Moon:もっともっと色々な人に私の作品を聴いてもらいたいし、そのために私のことを知ってもらいたい。ライブもやりたいですし、もっと色々なサウンドにも挑戦してみたいです。私はファッションも大好きなので、音楽だけじゃなく、総合的なアーティストとしての表現を突き詰めていければなと思います。

――音楽面では具体的にどのようなことを考えていますか?

Tina Moon:色々なトラックメイカーさんとも組んでみたいですし、バンド・サウンドも取り入れてみたいなと考えています。

――では、大きな夢や目標はありますか?

Tina Moon:一番欲しているのは……やっぱり共感なんですかね。私も他の人の曲で救われたと感じたように、私の音楽が他の誰かの人生や気持ちを前向きにすることができたら、それ以上に嬉しいことはないですよね。

――最後に、今のTina Moonさんが高校時代の思い悩んでいた自分にメッセージを投げるとしたら?

Tina Moon:まず、今悩んでいることは大概は大したことないんだよっていうこと。でも、そこで悩んで苦しんだことは決して無駄にはならないよって言ってあげたいです。そういう時期があったからこそ、人の痛みがわかるようになったと思うし、自分で言うのも何だけど、素敵な人になれたんじゃないかなって。だから、「そのままでいいんだよ」って言ってあげたいですね。


【リリース情報】

Tina Moon 『mishmash』
Release Date:2021.12.08 (Wed.)
Label:FUKINOTO
Tracklist:
1. Kawaki
2. PaBodance
3. Chicken Street
4. selfish
5. プロジェクト3
6. CHOCOLATe sugar

■Tina Moon:Twitter / Instagram

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