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INTERVIEW | Tilly Birds


「予想外を期待する」──タイの3人組・チリバが語る、国外ツアーで得たもの

2024.10.15

タイの3人組オルタナティブポップバンド・Tilly Birdsが10月1日(火)に最新シングル“Retro-39”をリリースした。

今年日本で初のライブを開催したほか、韓国や台湾、香港、インドネシア、オーストラリアなどタイ国外での活動も本格化。また、4月発表の“White Pills”に続き、最新シングル“Retro-39”も英詞で綴られており、世界を見据えた3人の気概が感じられる。今回は日本でも「チリバ」の愛称で支持を得ている3人にライター/ジャーナリストの竹田ダニエルがインタビュー。最新シングル“Retro-39”、そして国外でのツアーやライブについて語ってもらった。(編集部)

Interview & Text by Daniel Takeda
Photo by バンド提供

2024年5月 東京・渋谷WWW X公演の様子


――新曲“Retro-39”のリリース、おめでとうございます! 日本では熱心なファンがたくさんいるようで、見ている側としても盛り上がります。リリース記念のInstagramライブでメンバーが日本語を少し話したときに日本のファンが大興奮していたのも最高だったし、新曲もすでにとても愛されているみたいですね! ちなみに日本のTilly Birdsファンはタイ料理屋さんでTilly Birdsの曲を爆音でかける会を開催しているみたいですよ(笑)。

Billy:えーすごい!

――このインタビューを通して、Tilly Birdsのファンがもっと新曲のこと、メンバーのことについて知るきっかけになればと思います。この曲は今までの楽曲のスタイルとは少し違っていて、よりポップなサウンドに寄っていて、なおかつ全編英語ですよね。どんな楽曲制作プロセスでしたか?

Billy:僕にとって、そしてバンド全体にとっても、この曲を作ることは一種の安息感や開放感がありました。みんなで楽しみながら「ハッピーな音楽」を作るっていう、普段あんまりやらないことでもありました。久しぶりにそういう空間に戻って、その気持ちをみんなともシェアすることができてすごく気持ちよかったです。

Billy(Gt.)

――Spotifyなどでトップソングになっているバラード曲とはまた少し違う雰囲気ですよね。昔からのファンは驚くかもしれないけど、いい意味でのサプライズになるんじゃないでしょうか。

Milo:うん、いい意味での驚きだといいな。

――“Retro 39”に影響を与えた人生経験や、音楽的なインスピレーションについて教えてください。

Billy:いろいろありますが、特にこの曲を作るとき、いわゆるわかりやすくて聴きやすいビートに僕はハマっていて。例えば、Caroline Polachekのヒット曲“So Hot You’re Hurting My Feelings”みたいな。その軽やかなムードを自分たちなりに探求してみようという話になって、最終的には楽曲のインスピレーションにもなりました。

Third:僕は曲を書くとき、いつも個人的な経験や僕自身が共鳴したようなことからインスピレーションを得ています。このアルバムの曲のいくつかも、僕が経験したことや友人、仲間から聞いた話を反映してる。Tilly Birdsの作曲スタイルは、ずっとこう。「リアルなストーリー」が中心にあって、リスナーにもそこに共感していると思います。

――英語の歌詞はより幅広いリスナー、特に日本のファンにも共感しやすいと思います。英語で書くことは、今後の展望に関連した意識的な選択だったのでしょうか?

Third:活動の初期には英語で曲を書いていたのですが、ここしばらくはタイ語に切り替えてリリースをしてました。そして、今はまた英語に戻すべきタイミングだなと思ったんです。

Third(Vo.)

――今年一番楽しかった出来事や思い出は何ですか?

Billy:僕らとしては、新しい音楽をしばらくリリースしていないにも関わらず、とにかくひたすらツアーをすることで「おもしろさ」を維持できたと思いました。初めての日本でのライブを含め、タイ以外での国でもたくさんの「初めてのライブ」を実現させました。台湾、オーストラリア……英詞のアルバムをリリースしてなくてもこれだけのツアーをできたこと、それ自体が結構すごいことなんじゃないかな。とにかく、次に出す英詞アルバムやコラボがどんな未来を運んでくれるのか、楽しみで仕方がないです。

台湾のフェス『浮現祭 Emerge Fest』での様子

――ツアーを通して何か学んだことはありますか? ツアーでは新しい文化に触れることで新たな発見があったり、新たな自分の側面に気づくなど、いろいろな経験をすると思います。たくさんの新しい場所を訪れたので、ぜひお聞きしたいです。

Billy:ああ、おもしろい質問ですね。Miloはどう思う?

Milo:確実に「発見」ばっかりだったと思う! 僕たちは何年もタイの観客のために演奏してきて、それも最高の思い出でした。当時は英語の曲を演奏していたのに、タイの観客が集まってくれました。その後、タイ語の曲がきっかけで知名度が上がりましたが、他の国でも演奏するようにったら、タイの観客だけでなく、他の国の人々も僕たちの音楽を楽しんでくれた。さらに、彼らの多くはタイ文化にとても親しんでいて、驚くことに、タイ語を話せる人もいて。僕たちは英語で話す準備をしていたのに、結局タイ語で話すことが多くなった。それが本当に素晴らしかったですね。

今の時代は、他の国に行って演奏することが以前よりも簡単になったし、あんまりチャレンジングなことも少ないんじゃないかな。インターネットやオンライン決済、コンビニがあるので、他のことにも時間を割けます。僕たちとしてはライブに集中して、いいパフォーマンスをすることだけを考えることができるし、今のところとても上手くいってると思う。

Milo(Dr.)

――メンバー全員頷いてるけど、みんな同意しているみたいですね。

Billy:うん、彼が上手くまとめてくれたと思います。どの国も違うし、どの観客も違う。タイ国内ですら観客ごとに雰囲気が違う。グローバルなツアーに出ると、観客がどういう反応をするかなんて予想できないんです。だからこそ、何にでも対応できるようにしておくのが大切だと学びました。移動時間や様々な要素を考えると、「予想外を期待する」というのが僕たちが学んだことかな。

例えば、最近の広州でのライブでは、飛行機ではたった2時間の距離なのに、全体の移動全体には12時間もかかりました! まるで日本に行くみたいな感じ(笑)。ツアーをしていると、こういったこともおまけのように学んでいきます。

中国・広州 MAO LIVEHOUSEでの様子

Third:国内外のツアーで僕が学んだ一番大きな教訓は、どんな観客や状況でも、同じレベルのパフォーマンスを維持することです。観客がどういう反応をするか予測できないので、僕たちはいつでも万全な準備をしておかなければなりません。バンドとして、音楽として、パフォーマンスとして、基盤として、一貫性を保たなければならないんです。

Billy:Thirdはいつもどうやって準備しているんですか?

Third:ライブによっては現地の言葉を少し学んで、観客と繋がろうとすることもありますし、タイ語のフレーズを教えて一緒に盛り上がることもあります。でも、タイの観客に対しては、ステージで何を話すべきかまだ毎回模索しているかな。不思議なことに、海外のライブでは英語の方がタイ語よりも流暢に話せるような気がします。自分でも理由はわかりませんが(笑)。

――それはおもしろいですね! すごく興味深いです。タイのドラマとその主題歌のブームとの関連についてももっと聞きたいです。タイの音楽シーンとはファン層の重なりがありますよね。

Third:確かにタイのBLドラマは、僕たちが国外に進出する大きな鍵のひとつになっています。タイのBLドラマは、海外でもとても人気ですからね。

――リスナーの中にも、Tilly Birdsの音楽をその「主題歌」のようなサウンドと結びつけて考える人もいるかもしれませんが、Tilly Birdsの音楽は常に進化し、変化し続けていますよね。ファン層がどのように変わっていくか、あるいは広がっていくのか、楽しみですね。

Third:そうですね。ドラマから出会ってくれた方々は、僕たちの曲を1〜2曲しか知らないかもしれないけど、Tilly Birdsのライブに来てくれたら、実はもっとたくさんの世界観が待ち受けていることを知ってくれると思います。いろんなことが詰まってるし、サプライズもたくさんあります。いろんなタイプの曲がありますし、彼らにはただ聴いてもらいたいですね。無理やり好きにさせることはできないけど、僕たちはありのままの自分たちらしく演奏して、結果を待つだけです。


【リリース情報】


Tilly Birds 『Retro-39』
Release Date:2024.10.01 (Tue.)
Label:GMM Music Public Company Ltd.
Tracklist:
1. Retro-39

Tilly Birds オフィシャルサイト


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