メジャー・デビュー作になった1stアルバム『FRIENDS』からおよそ1年半。Avec AvecとSeihoからなるポップ・ユニット、Sugar’s Campaignが待望の新作『ママゴト』を提げ帰還した。
「家族」をテーマに掲げて発表された本作は、先行配信された2曲だけを聴くと、前作以上にポップに振りきれた作品だと思うかもしれない。90年代J-POP、いわゆる”ビーイング系”と呼ばれるようなアーティストの楽曲を強烈に想起させる井上苑子をボーカルに迎えた「ママゴト」は確かに笑ってしまうくらいのポップさを発揮しているが、かといって全編このテイストでアルバムが進行していくわけではなく、もちろん前作で顕著だったモータウンなどのブラック・ミュージックを下地とした、いわゆるシティ・ポップ的な楽曲から、ヴェイパー・ウェイヴ〜フューチャー・ファンクとも同じ空気感を感じさせる曲もありつつ、非常に振り幅の広いサウンドを展開している。
今回、このような一見バラエティに富んだ作品が、どのようにしてそれぞれ「家族」というテーマに帰結しているのか、そしてそもそも「家族」というテーマに込められた意味とは何なのかを訊くべく、Avec Avecと、学生時代から共にバンドを組んできたというボーカルのアキオの2名にインタビューを敢行した。
残念ながらスケジュールの関係でSeihoは不在のままに行われた本インタビューだが、「家族」や「人工知能」、「猿」、「都会と田舎」など目まぐるしく主題が変わりながらも、しかし全てが一本の線で繋がる彼らの話には、彼らの2ndアルバム『ママゴト』の背景や世界観をより深く読み取るためのヒントがたくさん隠されているはずだ。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Yuma Yamada
(L→R:アキオ、Avec Avec)
ーまず基本的なことなのですが、前作リリース時のインタビューでは制作の役割分担について、基本的にはAvec Avecさんが脚本、Seihoさんが演出のような形だとおしゃっていましたが、その役割分担は今作において変化はありましたでしょうか?
Avec Avec:基本的な部分はほとんど変わっていないですね。ぼくが曲を作っていて、Seihoがビジュアル面とかあるいはテーマの設定に繋がる話とかを膨らませるっていう感じやったんですけど、今回作り方的には一個特殊なところがあるんです。横浜の方に一軒家を借りて、2人で2週間ぐらいの合宿をしたんですよ。そこに機材を持ち込んで製作するみたいな。だから、結構そこでテーマの部分を2人で話し合って詰めるっていうことは結構多かったですね。
ーSugar’s CampaignはAvec Avecさんが大学時代から組んでたバンドから地続きとなっているユニットですよね。前作には大学時代からの曲も収録されていましたが、今作収録楽曲は全て前作リリース後から一気に書き始められたものなのでしょうか?
Avec Avec:そうですね、まっさらな状態から新しくテーマを2人で話し合って作りました。ただ「いたみどめ」だけは前作の「ネトカノ」「ホリデイ」と同様にSeihoが入る前に作った曲なんですけど、このタイミングで何故かしっくりきたので今回収録することになりました。あと、合宿ではSeihoと一緒に生活してたんで、そこでまあ色々料理を食べたりとか、そういうことが結構あって。
ーSNSなどにUPされる写真を見ていると、Seihoさんはすごく料理に凝ってるようでしたね。
Avec Avec:そうなんですよ、Seihoがあの時すごい色々料理作ってて。なんかフランス料理のコースに出てくるような、お皿にチョンとだけ乗ってるようなやつとか(笑)。結局、そういうことからの影響みたいなのもあったりして。
Sugar's Campaign CAMP day 12 Morning pic.twitter.com/a6sbr46xzY
— Seiho (@seiho777) 2015年11月22日
ー以前Sugar’s Campaignは劇団のようなモノで、ゲスト・ボーカルのアキオさんやmomoさん、学生時代からのメンバーだった小川リョウスケさんなども含めてSugar’s Campaignだと語っていたと思うのですが、実際に今作の楽曲を練り上げていく際、どういった距離感で、どのような役割で進行していたのでしょうか?
Avec Avec:基本的には前作からそこまでの変化はないです。ただ、今回はmomoちゃんもアキオも合宿に呼んで、話し合ったりもしたし、一緒にご飯も食ったりして。まx、基本的には全員でシュガーズ、みたいな意識が強いですね、ぼくらの場合は。
ーテーマとかもみなさんでしっかり共有しているのでしょうか?
Avec Avec:そうですね、特にmomoちゃんとかは作詞もしてくれたし。小川くんもそうなんですけど、ぼくらの考えてることとかを逐一伝えたり話し合ったりしていましたね。
ーなるほど。では、おそらく既に何度も同じ質問を受けているとは思うのですが、今作のテーマが「家族」になった経緯を教えて頂けますか?
Avec Avec:実は結構色々な角度からの話になるんです。一つはぼくらが前のアルバムを出してからのことなんですけど、結構周囲の状況とか音楽の状況とか、もっと大きいことも色々含めて、「一つの正しいゴールがあって、そこにみんなで向かっていく」みたいな周りの状況が多くなってきて。そういうのに対してちょっと違和感というかちょっとノレないなっていうのがあったんですよね。例えばなんか、シティポップとかフューチャーベースとか、そういう言葉が先行しちゃってそれに合わせて作られた音楽が増えたりして、もちろん好きな曲もたくさんあるんですけど、音楽ってもうちょっと偶然の部分が多くを占めるべきやと思ってるんですよ。音楽が先にあるというか、「こういう風な音楽を作ろう」って言って2人で集まるっていうのではなく、「2人で集まって、偶然できたもの」みたいな方が大事なんじゃないかなって思ってるんですよ。そういう音楽の方が、結果として後々残っていくんじゃないかなって。……で、そういう部分で家族って実はすごい同じような側面があると思ったんですね。
Avec Avec:前の作品は結構あるあるネタというか、「これってあるよね〜」とか、「こういうのって共感できるよね」みたいな、そういう共感の仕組みみたいなのが結構好きで、そういうのをテーマとしていた部分もあるんですよ。「これってあの時代っぽいよね」とか、なんとなくの雰囲気とかを共有するというか。でも、なんかそういうのがぼくらのモード的に違ってきて。策略的に「これとこれを足したら今っぽい」とか「この音はシュガーズっぽい」とかを計算するのはぼく達すごく得意なんですが、今回はそういうのをあまり考えずもうちょっと真面目に、あんまり奇を衒わずにポップスを、ポップミュージックを作ってみようっていう思いがあって。そういうところと「家族」っていうモノが繋がって。「家族」ってあるあるネタとはちょっと違うじゃないですか、みんな持ってるけど、絶対自分らにしかないモノっていう。で、それやから「家族」をテーマにしたっていうのと、偶然っていう問題がすごい繋がってきたんですよね。
例えば音楽とかでもすごい機能性が重視されるっていうか、すごいアクチュアルな音楽が大事みたいな空気になっているような気がして。「今、盛り上がる」とか、「今、みんなで一つになる」とか、さっき言ったみたいなゴールっていうのに繋がるんですけど。別にそういうのもぼくらは全然悪いと思わへんし、大事やと思うんです。例えばぼくらもライブでどう盛り上がるかとか、そういうことはすごい考えるんですけど、これバランスの問題なんですよね。そっちに寄りすぎちゃうと、長く聴ける、長く残っていける音楽っていうモノがちょっと減っちゃうかな、みたいな気持ちがあって。そういう文脈の上で、間違ってバグのように偶然生まれちゃうモノっていうのがすごい大事なことのように思えてきたんですよね。で、それって例えば子供にも同じようなことが言えるなって。偶然生まれちゃうっていうのと、遺伝子の問題になるんですけど、遺伝子って進化の過程において間違うから残っていけるっていう側面があるじゃないですか。なので、ゴールを決めて、そこに向かっていくっていうのとは違うことを今回やってみようかなって。
ー最初の方におっしゃっていたシティポップとかフューチャーベースはどこかに向かっているというか、作為的なジャンルということでしょうか?
Avec Avec:そうじゃない人もめっちゃ多いんですけど、その言葉が出ちゃったせいでそういう人らが増えていくのも仕方がないかな、みたいな。
でもそういうのはどんどん技術も上がっていって、ウェルメイドになっていくし、すごい良いんですよね。でも、その反面似たようなモノが大量に生まれてきちゃうと思うんです。
さっき言ったみたいに、そういうものじゃない、全然違うところから突然変異的に間違って生まれちゃったモノの方が実はすごいポップスなんじゃないかなって。例えばもっと言うと、ギターの歪みもそういうことだと思うし、808(Roland TR-808:ドラムマシンの名機)の音とかも元々正しい使い方じゃない使い方で一気に広まったっていうのもあるし。
だから、残っていくっていうか、50年後とかにどう聴かれるかみたいなことを考えたら、間違いをどう起こすかみたいなところが大事なのかなぁって。何か、最近はあまりにも周囲の状況が間違いを許さない感じがしていて、そういうのにはちょっとぼくらは馴染めないかなぁって。
ーそういったテーマを最初に聞かされたときアキオさんはどう思われましたか?
アキオ:そうですね、基本的にこのSugar’s Campaignの、ゆうたら僕は劇団員に当たると思うんですけど、タクマ(Avec Avec)とSeihoの2人がこういう風に思ってる、こういう風にやりたいのかな、っていうのはあんまり意識しない方が良いのかなってぼくは思っていて。あと、ぼくはセルフ・プロデュースというか、自分でこういう風に味を出していこうとか、そういうことを考えるのはあんまり得意じゃない方なんですね。そのこと自体もSeihoもタクマもよくわかってるんで、特にライブに関しては本当に自由に、自然体でやらせてもらってますね。ただ、レコーディングの時は基本的にタクマが「こういう風に歌って」ってすごいしっかりディレクションをしてくれるんですよ。よく言われるのが、「ライブの時は100%の力で歌ってもいいけど、レコーディングでは半分以下の10%ぐらいの力で歌って」ってことで。自分が歌った感覚で「あれ? いまちょっとミスったかな?」ぐらいのテイクが採用されたりとか、そういうことが結構多いんですよね。そこは今回の制作の時もそうだったし、前回の『FRIENDS』の時も同じやったんで。
ーあまりボーカルらしさを出さないというか。
Avec Avec:そうですね。ボーカルらしさっていうか、そういうのが結構あまりにも強すぎると主観的すぎる曲になっちゃうっていうのがあって、そういうのはあんまりぼくらが望んでいることではないのっていうのもあるし、バランスの問題でもありますね。
ー曲で言うと、どの曲とどの曲が出来た辺りで、このテーマが見えてきたのでしょうか?
Avec Avec:最初から家族をテーマにっていうのはなんとなく決まっていて。さっき言ったのは、作っていく中でSeihoと話しながら「そういうことか」みたいに後から気付いてきた部分で。最初は単純に、前の作品がどちらかっていうと架空の物語というか、幻想みたいなモノをテーマにしていたので、今回はもうちょっと、もう少しだけリアルに寄せたかったというか。ぼくら自身も当事者になれる問題ってなった時に、「家族」っていうのは既に自分にもいるし、この先の未来、新たにできるかもしれへんっていう意味で、これはなんとなく良いテーマなのかなあって思って2人で決めたんですよ。
そこから曲を作り始めたんですけど、合宿で作ってたので、曲を作るだけじゃなく、まあ一緒にご飯とかも食べるじゃないですか。そういう時とかにもすっごい話していて。「家族とはなにか?」みたいなことを。そういう感じで「家族」というテーマが同時進行的に生まれていった、みたいな感じですね。
ー今回のアルバムに対してのセルフ・ライナーノーツを読ませてもらったんですが、最近Seihoさんが別のインタビューやライブ時のMCで話していた内容ととてもリンクする部分があるなと思っていて。例えば「Happy End」はAI(人工知能)が過去形で「ぼくらが家族だったのは素晴らしい世界だった」と語りかけるような世界観だそうですが、これはSeihoさんが新作のリリースに際して様々なインタビューで語っていた、人間がいなくなっても機械やAIによってそれまで通り維持され続ける未来ーーディストピアというか、そういったものに通ずるな、と。
Avec Avec:ぼくとSeihoは普段プライベートではそんな会わないんですけど、ライブとかで会った時とか、一緒に移動する時に前々からそういう話をずっとしていて。なので、お互いがその時その時で興味のあるトピックについては結構共有できているんですよ。例えばぼくは今すごい人工知能に興味があるんです。で、この話はすごい良い話があって、「レストラン-熱帯猿-」の猿と人工知能の話が結びついてくるんです。”ポスト・ヒューマン”っていう学問というか概念があって、「人間と人間以外の違いは何か」っていうテーマなんですけど、人工知能の発展を考える時にもそれはすごく重要で。例えばフレーム問題とかいろいろあるんですが、それを考える時に人間だけで考えていても仕方がないから一個前、「猿」ですね。その猿と人間と人工知能3つを一緒に考えよう、みたいな学問なんですけど、それが結構ぼくらにとっても重要な話に繋がるんです。あの、ぼくらみたいにPC主体で音楽を作ってると、人工知能のヤバさみたいなのをものすごく実感するんですよね。例えばDTMソフトとか今すごい進歩していて、これはすごい初歩的なことなんですけどコードとかも選んでスタンプみたいにピッて貼れるんですよ。
ースタンプみたいに?
Avec Avec:そう。例えばCmのスタンプをピッてやったら、ピアノ・ロールにCmがバーンって出てくるんですよ。あと、例えばネットで「Michael Jackson MIDI」って調べたら、MIDIがマルっとダウンロードできてそれをピアノロールに突っ込んだらもうメロディーがビーンって勝手に出てくるんですよ。それぐらいはまあ結構何年も前からあったし、今となっては普通のことなんですけど、これが例えば
すごいAIが現れて、そういうビッグデータを全部仕入れて自動的に「〇〇みたいな曲」って入力しただけでバーって生成できるような時代になったら、もうおれらがやってるこの作業に意味あるんかって思ってくるんですよ!
“らしい”コード進行もソフトシンセの音色も、そのデータ自体をコピーされたら同じ音がそのまんま音圧とかも一緒で他の人も使えるわけで。これは”Avec Avecぽい音”と思っている音も、その根幹を分析したらそれ自体はそのまんまコピーできるし、「あれ?」みたいな。じゃあ、”ぼくっぽさ”って一体何なのかって考えた時に、ここで猿の問題が出てくるんですよね、猿の問題が。
アキオ:もう最近この猿の話ばっかりで……(笑)。
Avec Avec:いや、猿は本当にすごくて! 猿は本当すごいんすよ! あの、例えばぼくらはクロマニヨン人なんですよね、クロマニヨン人の子孫。ぼくもアキオもみんなも。で、その前はネアンデルタール人っていう原始人がいたんですけど、ネアンデルタール人は絶滅しちゃうんです。そしてクロマニヨン人が生き残ったっていうのがこのぼくらの世界なんです。でも、そんな突然消えるように絶滅しちゃったわけじゃなくて、やっぱりクロマニヨン人とネアンデルタール人が一緒に生きてた時代っていうのも何万年かあるんですよね。じゃあなんでネアンデルタール人は滅んでしまったのかっていうと……。
ー言葉でしたっけ?
Avec Avec:え!? その話知ってます?
ーこの前渋谷WWWで行われたSeihoさんのリリパのMCでこの話をしていたので、やっぱり繋がってるなと思ったんですよ。
Avec Avec:そうなんですよ。これは言語の起源、歌の起源の話で、クロマニヨン人は個体間の意思疎通のツールとして会話を会得したのに対して、ネアンデルタール人は歌うことを生み出したんですよね。で、クロマニヨン人はその言語によって大きく発展していったみたいなんですけど、でも果たしてそれは進化なのか、みたいな。それに対してネアンデルタール人は歌でコミュニケーションしてたみたいなんですよね。なんか例えば「痛い」とか「嬉しい」とか「悲しい」とかも言葉にしちゃったらそれだけなんですけど、でも歌には言語化で排除された複雑な情報とかそのまんまの思いを伝えられる、みたいな。言語ってデジタル的なものだから、他の部分を排除しちゃうんですよ。「嬉しい」っていう言葉には、例えばその「嬉しい」に悲しさみたいなものも含まれていたのだとしても、それを全部排除しちゃう。でも、歌ってその部分も含まれるからそのまんまでコミュニケーションができるのかなって。
そういうのが結構大事で、それはさっき言った一個のゴールに向かっていく話にも繋がるんですけど、ウェルメイドな技術とか合理的なルールとかが優先されて、そうじゃない部分が最近は忘れ去られてしまってる傾向みたいなのがあるなって思って。だから猿の話と人工知能が全部結びつくんですよ。そういう話をずっとしてました(笑)。
ー余談なんですけど、Seihoさんはリリパでその話をした後、初めて2足歩行をしたクロマニヨン人の気持ちが気になっているという話になっていましたが……(笑)。
Avec Avec:それはもう、ここ最近のあいつの鉄板ギャグです(笑)。
ーそうなんですね(笑)。では、すごい乱暴に噛み砕いた言い方をしてしまうと、「正解が一つしかなくて、それを目指していくのとはまた違うもの」を目指したのが本作ということですよね。
Avec Avec:そうですね、というよりも自分たちでひとつの正解を設定しちゃうのはよくない、みたいな。
ーなるほど、これが正解かどうかなんてどうでもいいけど、とりあえず作ってみると。
Avec Avec:そう、とりあえず音を出す。その音を出すことが大事、みたいな。Seihoがモジュール・シンセとかを好きなんもたぶんそういうことやし、偶然どう音が反応するかとか、そういうバグのようなものが大事だと思ってたりもします。
ー本作はそのようなテーマの元に作られたものでありながら、今作は奇を衒わない素直なポップになっていますよね。そういったテーマとこのサウンドが個人的にはなかなか結びつかないというか。ちょっとこう不思議に思うところもあります。
Avec Avec:なるほど。例えば前作の『FRIENDS』は、それこそウェルメイドな技術とか自分たちの言語的なルールを重要視してすごく策略的に作った作品なんですね。あるいは既視感とか。だから、ぼくらにとっては奇を衒わず素直であることがある種いちばん偶然にバグを起こせることになるんです。ぼくらはそのあたりが逆になってるから結構ややこしくて。
ーあるあるというのは共感ですよね? あるあるではないというのは、共感を得ないというか。
Avec Avec:そうですそうです。そこを最初に設定しないというか。だから今回「ママゴト」とかもそうなんですけど、最初に曲を作った後にゲスト・ボーカルを誰にするか決めたし、改めて聴いたら「ちょっとこれ90年代のJ−POPぽいなぁ」とかそういうのはあるんですけど、作ってる段階ではこれっぽいのを目指そうとかを決めずに、とりあえず「家族」ってテーマだけで曲を作ったっていうのが大きいですね。
ーその「ママゴト」が父子家庭の目線で描かれているのに、女性ヴォーカルを入れているのはなぜなんでしょうか?
Avec Avec:これはどっちかっていうとSugar’s Campaignの前からのテーマで、男性の歌詞は女性が歌って女性の歌詞は男性が歌いたいなっていうのがあって。なんていうか「創作感」というか「逆転感」みたいなのは前々から思ってたんですよね。前のアルバムのテーマでいうと、「男と女」「子供と大人」っていうのがテーマで、それに80年代のシティポップとかニューミュージック的な部分がぼくらの年代的なノスタルジーとも結びついてピッタリハマったってだけで。
ーなるほど。では、井上苑子さんをヴォーカルに起用した経緯を教えてもらえますか?
Avec Avec:これは「ママゴト」ができたときに、単純に「女性ヴォーカルで、しかも若い女の子がいい」ってなったんです。歌詞の内容的にもお父さんと娘の歌なので。で、ぼくらの思い描いていた娘の設定にピッタリだったのが苑子ちゃんだったっていうことです。年齢的にも歌声的も。
ー今回は「家族」がテーマということで、合宿中に結構それぞれの「家族」についてお話されたと思うんですが、お二人はどういった家庭でしたか?
Avec Avec:ぼくはどうやろ。普通の家庭ではあるんですけど、音楽がすごい好きだったんでその影響はすごい受けてますね。ぼくの父親はずっとバンドをやってて、ブルースとかサザン・ロックとかがすごい好きでした。Allman Brothersとか。
で、母親はUSENで働いてたので、USENにあるレコードをダビングしたやつが家にいっぱいあったんですよ。70年代の海外のポップスとか、ウエストコースト・ロックとかですね。
あとはAORとか、当時流行ってたやつとか、Beach Boysとかも聴いてましたね。あとJ-POPでいうと母親が久保田利伸さんをすごい好きだったので、子供の頃ずっと久保田利伸さんがかかってましたね。
ーすごい音楽的に充実した家庭ですね(笑)。では、アキオさんはどういった家庭でしたか?
アキオ:ぼくはいわゆる普通のサラリーマンの家庭に生まれて。姉が二人いるんですけど、二人ともピアノをやってて歌うのがすごい好きやったんで、その影響でぼくも歌う、みたいな。でぼくは洋楽とかを小学生の頃にほぼ聴いてませんでした。ほとんどJ−POPばっかりで、まぁウルフルズとかMISIAとか、ほんとにボーカルというか、「うたを聴く」って感じでしたね。
それで高校に入ってから初めてAvec Avecと出会ってバンドを組むことになり、「おまえぜんぜん音楽知らんな」って感じでいろいろ教えてもらいました。
ー今作のテーマとなった「家族」というのは、ドラマに出てくるような理想的な家族像を思い描いていたのでしょうか? それともみんなのパーソナルな家族像をそれぞれ持ってきたり?
Avec Avec:ぼくが最初に言ったのはあまり湿っぽくならないようにしようってことで。そういう意味でドラマっぽい感じにはなったと思います。どっちかっていうと幸せな家族をつくろうと。現実の家族とは全然違うかもしれへんけど、そういうのをフィクションで考えることによって、自分の家族のことについても改めて考えさせられるっていうのを目指そうと。だからあんまりそこまでリアルな方には寄せてはいないですね。
ー「1987」はSeihoさんが解説でヴェイパーウェイブな曲と書いてありましたが、Avec-Avecさんが以前から好きだとおっしゃっていたNeon Indianが昨年リリースした新作も、ヴェイパー寄りだったというか、どこかジャンクな印象の作品で、「1987」ともどこか共鳴するものを感じました。あの新作は聴かれましたか?
Avec Avec:確かに! あの作品もすごい好きです。あの、ぼくはヴェイパーウェイブっていうか基本的にサイバー・パンクがすごい好きなんですよ。映画とかもそうで、SFのボロボロの未来とかがすごい好きで。
このアルバムも「いつかの夢から連れ出して」以降から結構サイバーパンクっぽいなって後から聴いて思ってて。AIの問題もそうやけどそういう世界観っていうのはけっこう出したいなって思ってて。
あとは単純にあの時代の、80年代の感じが好きやったっていうのもあって。そういう意味でヴェイパーウェイブもすごい好きですね。”ああ、あの感じ”みたいな。よくヴェイパーウェーブって批評性があると思われたり、皮肉で作ってるって思われてるとけど、あれそんなことなくて、みんな好きやからやってるってことなんですよね、たぶん。ぼくも結構そういう部分があったり。
ー何かのカウンターとかではなくて、ただあのサウンドが本当に好きでやってるだけっていう。
Avec Avec:そうですね。単純に「好き」っていう気持ちが強くて作ってるみたいなところが大きいと思います、本質的には。
ーなるほど。では、今作ではmomoさんや小川リョウスケさんがリリックを書いた曲も多くありますが、そういった際はAvec AvecさんやSeihoさんはどの程度ディレクションしているのでしょうか?
Avec Avec:momoちゃんの場合は、ぼくがまず適当に英語っぽく仮歌を入れて渡すんですよ。「ラララ〜」っていうよりかはニセ英語みたいなのを録って送ったら、momoちゃんがそれを空耳的に日本語に置き換えてくれるんですよ、それもすっごい上手く。その前にぼくがこの曲はこういうテーマで、こういう風に思ってるんやって伝えたら、そのテーマを汲みとってすごい上手に日本語にしてくれるんです。「ポテサラ」とかには特にそれがすごいよく現れていると思いますね。
小川くんの場合は、もうちょっと音よりかはストーリーとか抽象的な世界観が小川くんの特徴なので、あまり音は重視しなくていいっていうのは伝えてますね。なんていうか、普段は気にも留めないなんてことのない言葉を、すっごい綺麗に聴かせてくれるっていうのが小川くんの歌詞の特徴なんですよね。それは「SWEET HOME」とかにすごい出てると思います。
ーちなみに「こうきたか!」みたいな驚きなどはありましたか? 「このテーマでこうくるのか」、みたいな。
Avec Avec:でも、ぼくらもう付き合いがすっごい長いんで、大体わかってくれるんですよね。
ー阿吽の呼吸みたいな。
Avec Avec:そう、阿吽の呼吸みたいな。ぼくの言ってることわかってくれるし、常に一番理想のやつが返ってくるし。
ーSugar’s Campaignは聴いてもらう人のシュチュエーションを気にしていると前作のインタビューでおっしゃってたと思うんですけど、今作の聴き方に対してベストなシュチュエーションなどは?
Avec Avec:基本的にはそこまでこう聴いてほしいみたいなのはないので、自由に聴いてほしいですね。クラブで聴くのもいいし、車のなかで聴くのもいいし、ヘッドホンでもスピーカーでもいい。ただ、前のアルバムは頭から「ホリデイ」で始まって、「パラボラシャボンライン」で終わってもう一回「ホリデイ」に戻るって構造だったんですけど、今回はどっちかっていうと「ポテサラ」から始まって「ただいま。」で一回話が終わり、インタールードの「マリアージュ」からもっかい後半が始まるみたいな感じで最後の「SWEET HOME」でちゃんと終わる。前作みたいにその後にもう一回「ポテサラ」に戻るっていうよりかは、一回それで完結するっていう意識があるんです。「SWEET HOME」で終わって、一回現実に戻ってもらうという感じの。エンドレスで繰り返されるのではなく、一回通して聴いて、そこで噛み締めてもらいたいというか。もちろんその後何度でも繰り返して聴いて欲しいんですけど、形式的には頭に戻る構造にはなってないつもりです。
ーまさしく映画館に映画を観に行くというか、劇場に舞台演劇を観に行くというか。
Avec Avec:そうです。ぼくら今回、そういう一回性というモノを重視したいっていうのもあって。さっき言った偶然の話とも一緒なんですけど、偶然生まれるというのは、一回だけだから生まれることじゃないですか。子供とかもそうやし、音楽とかもそう。一回出して、で、出しちゃったから仕方がない、みたいな。そういうことにも繋がってきて、何か……「一回だけっていうのは切なくていいなぁ」って(笑)。
ーアルバムからちょっと一旦離れてしまうんですが、Sugar’s Campaignがそもそもメジャー・レーベルと契約したキッカケというのは、「20代だけでなくて、30代40代50代ぐらいの人たちにも届けるために、効率がいい方法を取った」っていう風におっしゃっていたと思うんですけど、1stアルバムをリリースし、遂に2ndアルバムもリリースされますが、その点についてこの1年半ほどでの実感はいかがですか?
Avec Avec:う〜ん、どうでしょう。
アキオ:どうなんですかね。
Avec Avec:やっぱり意外と年齢の高い方にも聴いてもらってるなってのはあります。でもこれはどうなんやろなぁ……、都会と田舎の問題もあるのかもしれないなって最近は思いますね。
ー製作に関しての予算とか、インディーでやってるときと比べてそういったところの恩恵はしっかり受けてますよね。
Avec Avec:それはもちろんです。今回は特にそうで、全部作った後にパラで書き出してサミングをしたんですよ。一回SSLのミキサー卓に通して、そこからもう一回2ミックスにして、それをマスタリングに持ってくって作業をビクタースタジオでやらせてもらって。だから今回は結構アナログ志向が強いんです。
ーそれは前作ではやっていなかった工程ですよね。
Avec Avec:そうですね。前作もやりたかったんですけど、やっぱりデジタルな質感の魅力っていうのもあったんで、前の作品は特に。だから、前回はやらなかったけど今回はちょっと一回やってみようかってことで、アナログっぽい質感を出してみました。
ーでは都会と田舎の違いというか、差というか、これは今後どうなっていくと思います?
Avec Avec:詳しく話すとちょっと政治的な話になってしまうので、あまりインタビューでは言いたくないんです(笑)。でも、音楽的なことでいうと、ギタリストの高中正義さんのエピソードでぼくがすごい好きな話があって。あの人すごい海とかビーチの曲を作るじゃないですか。でも、実は山奥に住んでたらしいんですよ。海の曲を作るために、敢えて山奥に住むっていう。それはなんでかっていうと、山奥にいれば海への憧れが強くなってきて、より海っぽい曲ができるっていうんですよ。だからぼくは都会の曲は田舎に住んでる人が作るし、田舎の曲は都会に住んでる人が作る、みたいな話も好きで。それぞれの憧れが産むっていう話はすごい好きなんです。
ーなるほど、現実とは少し違った景色という。
Avec Avec:そうです、そのフィクション性みたいなのって大事なんじゃないかなって。今回ぼくらは個人と都会というか、町や世界があったときに、その町の問題とか個人の問題とかあるいは世界の問題とかに対してはみんな結構意識的に悩んだり考えたりするんですけど、その中間に存在する「家族」の問題っていうのが結構忘れられがちだなって思ってたんですよ。自分と町、もしくは自分と社会っていう構図の中間の位置に、一番最初の社会として存在するものが「家族」じゃないですか。だから結構そこの問題って重要じゃないかなーって思ったりしますね。
ー近すぎるがゆえに、「家族」っていう団体、集まりを社会として認識しない人も多い気がします。
Avec Avec:そうですね。やっぱりぼくらの世代って個人主義が強いので、自分が世界をどう生きていくか、みたいな問題ばかりが取り沙汰されるなって思うんです。でも家族って……例えば、自分の親って自分自身では絶対に決めれないわけじゃないですか。そういう個人主義ではどうしようもできないものを引き受けるってことの大事さみたいなモノが、「家族」ってモノを考える時に出てきたんですよね。
ーでは、最後になってしまうのですが、Sugar’s Campaignの音楽を今後もメジャーでやって、もっともっと広い層に届けるためにはどうするべきだと思いますか?
Avec Avec:これも最初のテーマに帰結してしまうんですけど、やっぱり何が正しいかを決めずにやっていったほうがいいんじゃないかなって最近は思うようになってきて。
ーその時々でおもしろいと思うことをやっていくというか。
Avec Avec:そうですね。アクチュアルなこととかを考えずに。難しいんですけどね。周りの状況にあまり振り回されずに、バランスを見ていきたいですね。あと、「多くの人」とか「幅広い層」っていうのをみんな横軸で考え過ぎだと思うんです。今出して、10万人とか100万人にバーンって届くっていうよりかは、今10人しか聴いてないけど、例えばそれが100年聴き続けられたらそれだけ重くなるじゃないですか。だから、そういう「多くの人へ届けたい」っていう気持ちを、最近ではどっちかっていうと縦軸の方で考えたいなって思ってて。どうやったら50年後の若い子が不意に聴いて、「いいな」って思ってもらえるのかとかを考えたりしてます。
ー眼から鱗がおちるようなすごいアーティストとしてカッコいい考え方だと思います。ただ、職業ミュージシャンとしては難しい部分も出てくるだろうなという思いもありますが……。
Avec Avec:そうなんですよね。長くやり続けるには横軸を広げることが重要な時期もあると思うし、だから、全部そういうのもバランスなんですよね(笑)。ぼくはどっちかというと勝負事が苦手なので、そういった判断はやっぱりSeihoに助けられている部分が大きいと思っています。いつも。
【リリース情報】
Sugar’s Campaign 『ママゴト』
Release Date:2016.08.10(Wed)
Label:SPEEDSTAR RECORDS
Cat.No.:VICL-64603
Price:¥2,500 + Tax
Tracklist:
01.ポテサラ
02.ママゴト
03.週末のクリスタル
04.いたみどめ
05.ただいま。
06.マリアージュ
07.いつかの夢から連れだして
08.HAPPY END
09.1987
10.レストラン-熱帯夜-
11.SWEET HOME
【イベント情報】
Sugar’s Campaign セカンドアルバム『ママゴト』 リリース記念 インストア・イベント開催決定!
★タワーレコード梅田NU茶屋町店
イベント内容:スペシャルトーク&ミニミニライブ
<※CD購入者にはジャケットサインもアリ!>
日時:2016年8月20日(土) 13:00スタート(集合時間 12:30)
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店イベントスペース
★タワーレコード新宿店
イベント内容:スペシャルトーク&ミニミニライブ
<※CD購入者にはジャケットサインもアリ!>
日時 : 2016年8月21日(日) 21:00スタート(集合時間 20:30)
場所 : タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
※各会場の参加方法等、詳細はSugar’s Campaign『ママゴト』ビクターページにてご参照ください。
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Information/A024926.html
Sugar’s Campaign 単独公演 “あしたの食卓”
■大阪公演
日時:2016年8月25日(木)
会場:大阪・サンホール
開場/開演:OPEN18:30/START19:30
料金:前売り¥3000/当日¥3500税込(1drink代 別途600円必要となります)
問い合わせ:大阪サンホール 06-6213- 7077
■東京公演
日時:2016年8月26日(金)
会場:東京・代官山ユニット
開場/開演:OPEN18:30/START19:30
料金:前売り ¥3000/当日¥3500税込(1drink代 別途500円)
問い合わせ:代官山ユニット03-5459- 8630
※チケット発売中