FEATURE

INTERVIEW / シトナユイ


初のEPであり大学の卒業制作、『MUSEUM』で見出した自身の特性

2023.03.07

音大在学中からアーティスト活動を始動させ、今春卒業を控える新鋭、シトナユイ。

2021年にDJ HASEBEがリリースしたシングル「Crying Over Moonlight」にフィーチャーされて以降、自身名義では多様なサウンド、ジャンル感を横断するようなシングルを発表。そのスタイルは、まるで自らで課したお題に挑戦していくような、音楽的な探究心に溢れているようにも感じられた。そんな彼女が2月末にリリースした最新シングル「MUSEUM」は、大学の卒業制作として作ったという1st EPからの先行曲にして表題曲。ファンキーなバンド・サウンドで彩られたトラックに、ラップ調のフロウも取り入れた、表現力豊かなシトナユイのボーカル。またしても自身の印象を塗り替えていくようなフレッシュな1曲となっている。

今回の単独インタビューでは彼女のこれまでの足取りを改めて振り返ると同時に、EP制作で得た発見や今後のヴィジョンについてなど、じっくりと話を訊いた。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by 遥南碧


アーティストとしての成長とアイデンティティの確立

――在学中からアーティスト活動がスタートしてからおよそ2年。この期間、音楽に対する意識やスタンスは変化しましたか?

シトナユイ:元々は作曲家を目指して大学に入ったので、人前に出たりすることは想像もしていなくて。でも、いざライブをやったり自分名義の作品をリリースしてみたらすごく楽しくて。アーティストとして発信することの魅力に気づけたことが一番大きな変化だと思います。最初はそれこそ手探りで、アーティストとしての実感もあまりなかったのですが、活動を続けていくうちに徐々に自覚が芽生えてきたんじゃないかなと。

――そういった変化には、何か大きな転機や転換点などはありましたか?

シトナユイ:活動のスタートがDJ HASEBEさんとのコラボだったので、それが大き過ぎて。最初は本当に何がなんだかわからない状態でした。そこから色々な方に手伝ってもらいながらシングルをリリースしてきて、今回ついにEPも発表できるということで、最近になって色々と実感することが多いです。

シトナユイ:あとは曲作りのスタイルが変わったことも大きいですね。EPではこれまでやったことのなかったバンド・サウンドにも挑戦していて。知り合いのミュージシャンに楽器を弾いてもらったり、手伝ってくれる方が増えていくにつれて自分の意識も変わってきました。

――それまでは全て打ち込みで作っていたのでしょうか? 例えば、2021年末にリリースされたシングル「LOVE AS HELL」などはロックの要素も取り入れていますよね。

シトナユイ:基本的にはDTMで打ち込んでますね。「LOVE AS HELL」はギターだけ私が弾いているんですけど、“ロックを知らない人が手探りでロックを作った”っていう感じの曲です。

――大学の授業だけでなく、自身名義の作品を作るようになってから聴く音楽などは変わりましたか?

シトナユイ:だいぶ変わりましたね。私はいわゆるJ-POPと呼ばれるような音楽をあまり聴いてこなかったんですけど、大学に入ってからは分析というか、勉強する感じで聴くようになって。そこからアーティスト活動を始めてからは、ただの勉強ではなく純粋に好きで聴く日本のアーティストさんが増えました。最初はひとりで曲を作ってひとりで歌うようなアーティストさんに惹かれることが多くて。それこそDinoJr.さんがめっちゃ好きで、それをプロフィールに書いたことが、今の事務所のスタッフさんに興味を持ってもらえたきっかけのひとつだったんです。

――そうだったんですね。

シトナユイ:そこからDinoJr.さんが仲良くされているアーティストさんなどの曲を聴くようになって、今はKroiやBREIMENなどバンドばかり聴いています。

――DinoJr.さんの音楽にはどのようにして出会ったのでしょうか。

シトナユイ:うちの大学でネオソウル・ブームみたいなのがあって。Tom Mischがすごく流行ったときに、みんなそういう音楽を聴いてて、私もその流れで色々聴いたんですけど、そこでギタリストの磯貝一樹さんを知って、磯貝さんがサポートしているということでDinoJr.さんの作品にも辿り着きました。

――なるほど。DinoJr.さんにしろKroiやBREIMENにしろ、ブラックなフィーリングが漂うサウンドに惹かれるんですね。

シトナユイ:そうですね。ジャズ、ソウル、ファンク、R&B、ヒップホップなど、いわゆるアフリカン・アメリカン・ミュージックがルーツにあったり、特にジャズの香りが漂ってくるものに惹かれることが多いです。

――先ほど、分析や勉強という意識でJ-POPを聴くようになったとおっしゃっていましたが、そのなかで気づいたことはありますか?

シトナユイ:構成や展開の面でいうと、昔よりもかなり複雑な曲が増えてきたと思います。それでいて、サビでの盛り上がりをしっかりと作るところもJ-POPらしいポイントですよね。欧米のポップスだとサビがどこだかわからないような曲も少なくないですし、展開もシンプルなものが多い。

今回、自分のEPではその“わかりやすいサビ”を意識したり、歌詞も英語でごまかすのではなく、日本語らしい響きを活かすような書き方に挑戦しました。Kroiなどの曲を聴くと、シグネチャー・サウンドというか、そのサビの一音を聴いただけで、「あ、この人たちの曲だ」ってわかるんですよね。私がこれまでリリースしてきた曲って本当にバラバラで、そういった個性が見えにくかったと思うので、今回の作品では自分ならではの要素を追求しようと思いました。

――それこそ2年ほど前に取材させていただいたとき、ご自身のアーティスト像やイメージをこれから固めていきたいとおっしゃっていました。それが徐々に見えてきたという感覚はありますか?

シトナユイ:色々なジャンルやサウンドに挑戦したいっていう気持ちは変わらずあるのですが、私が表現したいものもなんとなく見えてきた気がするし、シトナユイというアーティストに対して求められているものも少しずつ固まってきたような感覚はあります。

――それは言ってしまえば“シトナユイらしさ”っていうことになると思うのですが、もう少し具体的に言語化することはできますか?

シトナユイ:うーん……「カッコいい」の一言に尽きるのかなって思います。クオリティの高いオケ、アレンジ、グルーヴなどなど、ひとりで作ってるとは思えないような作品を作っていきたいですね。

――ちなみに大学の最後の1年間はどのようなことを学んでいたのでしょうか。

シトナユイ:劇音楽とオーケストラのアレンジなどを勉強していました。あとはジャズ科の授業も受けて、ジャズならではの理論や色々な楽器ならではの音の積み上げ方、コード進行などを学べば、自分の作品でもより壮大な世界観を描けるんじゃないかなと思って。その一環でジャズ・ドラムも習いました。実際に自分でも叩いてみないと、打ち込みで作った音源を叩いてもらうときに、「これ、腕が4本ないと無理だよ」って言われたりするので(笑)。

――なるほど(笑)。確かに去年リリースの「With」や「image」はジャジーなテイストがあります。

シトナユイ:はい。自分の興味がジャズに向いていたので。

――そこから、EPからの先行シングル「MUSEUM」ではガラッと印象が変わった気がします。

シトナユイ:ポップなものを作ろうと思ったんです。今までもポップな作品を作っていたつもりなんですけど、周囲の人からは「全然ポップじゃない」って言われることが多くて(笑)。せっかくの卒業制作なので、今回は思い切って振り切ってみようかなと。

――他のインタビューでもおっしゃっていましたが、やはり周囲の人たちからの反応や意見を気にすることが多いそうですね。

シトナユイ:めっちゃ気にします。デモができたら大学の同級生や同い年の友だちに毎回聴いてもらって、反応がよかった曲を仕上げていくことが多いですね。いつも聴いてもらうメンバーにはミュージシャンもいれば全く音楽をやらない人もいて、「暇なときに聴いてみて」って言って音源を投げたり、「こういう曲弾いてくれる人いない?」って言ってプレイヤーを紹介してもらったりしています。


「色々な人間のエゴをみせる美術館」

――EP『MUSEUM』について、“アート作品からの目線で描く”というコンセプトはどのようにして浮かんできたのでしょうか。

シトナユイ:あの……ego apartmentっていうバンドが大好きで(笑)。“エゴのアパート”という意味の名前もカッコいいなと思って、そこから影響を受けた部分もあります。私、めっちゃミーハーなんですよ。(ego apartmentの)Dynaくんとは何度かコミュニケーションとったりする機会もあるんですけど、普通にファンっていう(笑)。

――(笑)。

シトナユイ:向こうがアパートなら、こっちは美術館にしようかなって(笑)。(表題曲の)「MUSEUM」の一番最後で、《Your ego in the MUSEUM(あなたのエゴは美術館に飾られている)》って歌っているんですけど、EPを通して色々な人間のエゴをみせるっていうコンセプトが見えてから、EPの制作に入りました。

――コンセプトから決めていったんですね。

シトナユイ:そうですね。コンセプトと収録曲のタイトルを先に考えて、制作に関しても歌詞から先に書いていきました。ハマらないところは後で直せばいいなって思って。それを見ながらサウンド感やジャンルをイメージしていきました。

――そういった制作方法は初めてですか?

シトナユイ:初めてですね。ただ、卒業制作の一環なので、授業で毎週制作過程を提出しなければいけなくて、アイディアが生まれなくてもとにかく進めるしかないっていう感じだったんです。最初にDTM上でワンコーラスだけ作って、提出して、そこからアレンジし直したりして全体を組んでいって、最後にバンド・メンバーに渡して弾いてもらいました。

――表題曲「MUSEUM」のリリックは皮肉が効いているというか、世間や社会に対する怒りともとれる感情も読み取れます。これはシトナさんが日頃から感じていることなのでしょうか。

シトナユイ:私が感じていることというより、どちらかというと“同世代の人たちはこう感じてるんじゃないかな”っていう感じです。《Fakeと知らず群がる観客》というラインとかは、SNSやネットでソースもわからない情報が拡散されたりする、今の社会で起きていることをそのまま綴っていて。サビでも《名も無い作品を飾り/肩書きを見て判断する/ミュージアム》というのもそういった世間に対しての投げやりな感情を歌っている。

――そういった感情、空気感は同世代で共通しているものだと。

シトナユイ:私の周りではそうなんじゃないかなって。アートワークでもこういう時代感を表現したくて、仮面が溶けているようなグラフィックにしました。顔が見えない人たちの意見を見たり読んだりして一喜一憂する。嫌だなと思いつつも、今どきSNSやネットを使わずに生きるなんてほぼ不可能じゃないですか。

――ここ数年のコロナ禍においてはなおさらですよね。

シトナユイ:アーティスト活動においても大事なツールですし。とはいえ、私は他の人よりは見ない方で、スタッフさんからも「もっとSNS更新したら?」って言われてるんですけど(笑)。でも、友人の中にはそういったものに依存気味な人もいて、そういう人たちから聞いた話を元に、想像を膨らませて書いています。

――そこはある種、シトナさんの職業作家的な側面も出ている気がしますね。

シトナユイ:はい。めっちゃ出てると思います。

――サウンド面はいかがでしょうか。どういったイメージでトラックを組んでいきましたか?

シトナユイ:やっぱりタイトルが「MUSEUM = 美術館」なので、楽器や歌が入り乱れるような感じにしたいなと思って。四方八方から音が飛んでくるような、そんなイメージで組んでいきました。

――バンドでレコーディングしたことによって、DTM上で作っていたデモからどのように変化しましたか?

シトナユイ:やっぱり自分で打ち込んだ音と、ちゃんとスキルのある人が弾いてくれた楽器の生音だと熱量が全然違うなと思いました。大げさかもしれませんが、曲に生命が吹き込まれたような、そんな感覚を受けましたね。

――レコーディングはスタジオで?

シトナユイ:全員同時にやったわけでないのですが、基本的には学校のスタジオでレコーディングしていきました。ひとりひとり、「ここは変えないで」とか「ここはアレンジしちゃっていいです」っていう感じでディレクションをして。


自身の展望、作曲家としての好奇心

――EPの他の曲についても、可能な限りでお聞きしたいです。それぞれのテーマやコンセプトなど、どのように考えて制作していったのでしょうか。

シトナユイ:「MUSEUM」から(制作が)スタートしたので、タイトルも全部“M”から始まるものにしようと思って。例えば「MANNERS」っていう曲では、マナーを身にまとえばこの世は生きていけるよっていうことを歌っていて。

――それも皮肉というか。

シトナユイ:ですね。マナーを身にまとうことで自分の本性を隠して、仮面を被って生きていく、みたいな。かなり暗いですよね(笑)。“MUSEUM(美術館)”ではマナーが必要ですし、“MUSEUM = 世間”と捉えた場合でも意味が通ずるというか。あと「METAVERSE」という曲ではそのまま仮想空間で生きたい願う人のことを歌っていたり。

――サウンド的にはバンド・サウンドで一貫しているんですか?

シトナユイ:「MUSEUM」と「METAVERSE」、あと「MonaLisa」という曲を同じメンバーで録音して、あとの2曲は私の打ち込みと、自分でギターを弾いてます。ダンス・ミュージックからトラップ、ロック、ボサノバ、ラテン調、モード・ジャズだったり、本当に全部バラバラで、似ているような曲は1曲もないと思います。

――大学の卒業制作ですし、そこで学んだものを全部詰め込んだというか。

シトナユイ:シンプルに私の好きなことを全部やってみたっていう感じですね。

――大学卒業、そして1st EPリリース後の活動についてはどう考えていますか?

シトナユイ:シトナユイとしての活動はもちろん、他のアーティストさんへの楽曲提供やプロデュースなどにも興味があって。フィーチャリングで誰かの作品に参加させてもらう機会があればそれもやりたいですし、自分の名義だけじゃなくて色々なことに挑戦していきたいです。

――最近はライブも積極的にやられているようですが、パフォーマンスについてはどうでしょう?

シトナユイ:今はPCで同期を流して、ギターを弾きながらひとりでやっているんですけど、しばらくはそのスタイルで続けると思います。でも、機会があればもちろんバンド・セットなど、他の人も巻き込んでライブしてみたいなと。

――今回、明確なコンセプトを設けてEPを制作したわけですが、シトナユイとしての今後の制作スタイルについてはどうお考えですか?

シトナユイ:コンセプトやテーマを見つけて制作するというスタイルが自分には合っているなと感じましたし、作っていてすごく楽しかったんです。なので、今後も何か作品の核になるようなものを見つけていきたいですね。私は自分の中から溢れ出るパッションとかを曲をにするっていうタイプではないと思うので。

あと、これまでのシトナユイはノレる曲だったり、雰囲気でカッコつけてる曲が多かったと思うのですが、一回ベタなバラードというか、歌のみで勝負するような曲も作ってみたいです。ピアノと歌だけでカッコいい曲は作れるのかっていうお題に挑戦してみたい。

――それこそ作曲家としての好奇心というか。最後に、長期的なヴィジョンや目標などは見えていますか?

シトナユイ:行くゆくは海外進出もしたくて。欧米というよりはまずはアジア、韓国や東南アジアなどの人たちが自分の曲をどういう風に聴いてくれるんだろうっていうことに興味があって。

――そういえば、SNSに台湾旅行の様子をUPしていましたね。

シトナユイ:そうなんです。すごく興味があって年始に旅行してきました。台湾って街を歩いてたらOfficial髭男dismが流れてきたり、CDショップに入ったらチャート上位を宇多田ヒカルさんや藤井風さんなど、ほとんど日本のアーティストが占めていたり、とにかく日本のカルチャーが人気で。私もそうなれたらいいなって。


【リリース情報】


シトナユイ 『MUSEUM』
Release Date:2023.03.15 (Wed.)
Label:Trigger Records
Tracklist:
01. MUSEUM
02. MonaLisa
03. METAVERSE
04. MANNERS
05. MELTDOWN

配信リンク


【イベント情報】


『MUSEUM』

日時:2023年3月22日(水) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京・下北沢BASEMENT BAR
料金:ADV. ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (各1D代別途)
出演:
シトナユイ
Mop of Head
doggie

==

日時:2023年3月23日(木) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪 NOON+CAFE
料金:ADV. ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (各1D代別途)
出演:
シトナユイ
Mop of Head
I’seowa

チケット詳細(e+)

■シトナユイ:Twitter / Instagram


Spincoaster SNS