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INTERVIEW / Say Sue Me


韓国・釜山発、イギリス経由で世界へ羽ばたくSay Sue Me。バンドのルーツ、韓国音楽事情など、パーソナルな部分に迫る

2019.05.15

韓国・釜山出身の4人組バンド、Say Sue Me。Pavementなどの90年代USインディ勢を想起させるサウンドを主軸に、サーフ・ミュージックの趣も感じさせる音楽性が評価され、イギリスのレーベル〈Damnably Records〉と契約。2年連続でヨーロッパ・ツアーを開催し、欧州やアジア諸外国で注目を集める彼女らだが、日本ではまだ詳しいインタビュー記事がほとんど出回っていない。

そこで今回、彼女らをより深く知るため、音楽ルーツ、韓国の音楽事情、今注目している音楽などを訊くインタビューを敢行した。

Interview & Text by Yugo Hiragino
Photo by Nanami Miyamoto

[L→R:Kim Chang-won(Dr.)Ha Jae-young(Ba.) Choi Su-mi(Vo. / Gt.)Kim Byungkyu(Gt.)]


釜山はメタル・シーンが熱い街

――まずは皆さん、それぞれどんな音楽を聴いてきたか教えてください。

Su-mi:ボーカルのChoi Su-mi(チェ・スミ/최수미)です。小さい頃は韓国の一般的な子供と同じく、親と一緒にカヨ(歌謡=韓国のポップス)を聴いてました。中学生の頃にRadioheadを知ったのをきっかけにブリットポップを聴くようになって、そこからUK・USのロックを聴きはじめて、結局自分が一番好きだと思えたのがUSインディ。Yo La Tengo、Pavementとか。

Byungkyu:ギターのKim Byungkyu(キム・ビョンギュ/김병규)といいます。僕もYo La Tengoは大好きです。あと、Seamっていうアメリカのバンドも、韓国系のメンバーがいることもあってよく聴いていました。

Chang-won:ドラムのKim Chang-won(キム・チャンウォン/김병규)です。中学の頃、Rage Against the Machineなんかのラップ・メタルを聴くようになって、学校の友達とバンド活動を始めました。

Jae-young:ベースのHa Jae-young(ハ・ジェヨン/하재영)です。僕は元々メタルやブリットポップを聴いていたけど、PavementをキッカケにUSインディを聴くようになりました。

――皆さんの音楽性について、PavementなどのUSインディを引き合いに出す人は少なくないと思いますが、やはりその辺りは共通しているんですね。

Byungkyu:そうですね。本当に運よく似たような趣味の人たちと出会えたって感じです。

――日本でそういったポップスではない海外の音楽を探すのってそれなりに苦労が伴うものだったのですが、皆さんはどうでしたか?

Su-mi:私たちも同じような状況だったと思います。でも、韓国はITが盛んなので、インターネットの発達とともに徐々に探しやすくなっていったかな。

Byungkyu:よくないことですけど、違法ダウンロードを使ってる人は少なくなかったですね。Napsterや、似たようなファイル共有サービスを使ったり。あとは、音楽好きが集まる掲示板で情報交換したり。

――諸々懐かしい……本当に日本と変わらないですね。学校にはそういう音楽の趣味を共有できる友達はいましたか?

Su-mi:多かったわけではないですね。同級生は大体みんなカヨを聴いてたし、カヨ以外を聴いているとしてもメタルが多かった。

――メタルなんですね! 韓国でメタルが流行っていた時期だったんでしょうか。

Su-mi:時代っていうより地域性ですね。釜山ってメタルの盛んな土地なんです。私たちみたいな好みの人は本当に少数派だった。

Byungkyu:Say Sue Meを始める前、僕とJae-youngでバンドをやっていたんですけど、その頃は自分たち以外にUSインディっぽい雰囲気のバンドを地元で見ませんでしたね。いつもメタルやパンク系のバンドと一緒にライブに出てたな……。

――興味深いです。ちなみに、地元出身の代表的なメタル・パンク色の強いバンドをいくつか挙げてもらえますか?

Su-mi:PIA、Rainy Sunとか。PIAはかなりキャリアの長いバンドなんですけど、つい最近、年内での解散が決まってしまって。残念です。

Jae-young:元々Geniusというパンク・バンドをやっているKim Ildu(キム・イルドゥ)っていうSSWがいて、その人の音楽もいいですよ。

――ありがとうございます。皆さんにはメタルの影響はあまり感じませんが、釜山のバンドであることが音楽性に影響しているところはあると思いますか?

Jae-young:そうですね、僕たちの音にはサーフっぽい部分がありますけど、特に好んでサーフ・ミュージックを聴いてきたメンバーはいないんですよ。釜山は海沿いの土地なんですが、そのことが影響している部分があるのかもしれないとは思います。


あえて正攻法でない音作り

――ここからはより具体的に皆さん自身の音楽性について伺います。まずは音について。リヴァーブの音が印象的ですが、音色についてはどんなことを意識していますか?

Byungkyu:サーフ・ミュージックというジャンルを代表するエフェクターとしてはやはりスプリング・リヴァーブが挙げられると思います。僕らも使っていて、詳しくは言いませんが、あえて正攻法でない使い方をしてるところがあるんです。

――おお、もう少しだけ聞いていいですか?

Byungkyu:定石としてよく知られている順番とは一部逆の繋ぎ方をしているんです。それによって、少し汚れたようなサウンドになっていると思います。僕らのやっている繋ぎ方を見て「違うでしょ」って指摘されることもあるんですけど、結局正しいとか間違ってるとかっていう話ではないと思ってるので。自分たちはこれがいいと思ってやってるって感じですね。

――なるほど。では続いて歌詞について。野暮な質問ですが、歌詞の内容は実体験を元にすることが多いですか? あるいは空想がメインだったり、映画や小説などから影響を受けたりすることが多いのか。

Su-mi:突き詰めると結局自分の感じたことばかり歌っているのかもしれません。ゼロから想像して書いたことだって言いたくなることもあるけど、いろいろひっくるめて結局自分のことなんじゃないかなって。

――例えば「One Question」(恋人の浮気相手への罵詈雑言が並べ立てられた曲)なんかは、聴いて衝撃を受けた人は多いと思うんですが。

Su-mi:「One Question」は、実はカバーなんです。元々はさっき名前が出たKim Ilduさんがやっていたパンク・バンド(Genius)の曲で。

――そうなんだ!

Su-mi:私自身、あの曲の中にある攻撃性・暴力性みたいなものに興味を惹かれてカバーしたんですけど、最近なんだか怖くなってきて、しばらくライブではやってないですね。

――なるほど(笑)。また、Say Sue Meの歌詞は基本的に英語ですが、英語圏での活動を意識している部分ってあるんでしょうか。

Su-mi:歌詞は韓国語で書くのが難しかったから英語で書いているだけなんです。韓国語だとなんだか上手く書けなくて。それに、バンドをはじめた頃は今みたいに海外でライブをやるなんて考えたこともなかったので、目標を立ててそれに向けて計画を練る、ということは本当にやってきてないですね。

――海外に出るようになって、自分たちのスタンスやスタイルに変化がもたらされたと感じることはありますか?

Su-mi:体調にはより気を遣うようにはなりました。でも、それ以外は特にないですね。

――そうなんですね。BTSやBLACKPINKなどのK-POP、そして〈88rising〉が広く知られるようになって以降、アジアという括りで注目を浴びることも増えたかと思います。そういったことについてどう思いますか?

Su-mi:いい変化だとは思っています。多様な人たちがいて、多様な音楽がある、という本来自然なことが、今までよりもフラットに受け止められるようになってきていると思っています。でも自分たちのやることは変わらないです。


ボーカル・Su-miが今夢中なバンド

――ではちょっと気分転換に、最近聴いたおすすめの音楽を教えてください。

Byungkyu:最近だとMitskiを聴いてます。

Chang-won:Jacco Gardner。オランダのサイケ・ポップの人ですね。

Jae-young:Drinking Boys and Girls Choir。僕らと同じロンドンの〈Damnably Records〉と最近契約したばかりのスケート・パンク・バンドです。

――わあスケート・パンク……久しぶりにスケパンの新人バンド知りました。嬉しい。

Su-mi:(笑)。今回のツアーでは、彼らと一緒にイギリスを回るんですよ。彼らは釜山じゃなくて、韓国第3の都市・大邱(テグ)出身です。

――なるほど。では最後にSu-miさんのおすすめを教えてください。

Su-mi:私のおすすめは……The Beths。

一同:(笑)。

――ニュージーランドのインディ・バンドですね。……なぜ笑いが?

Byungkyu:最近Su-miはそればっかりなんですよ。

Jae-young:この間“SXSW”で共演した時に仲良くなったんです。Su-miはその前から彼らのことを知ってたみたいですけど、知り合ってますます好きになったみたいで。

Su-mi:(日本語で)好きになった……。

Byungkyu:しょっちゅうThe Bethsの話してるんですよ。

Chang-won:だから、僕らとしては「もうわかったよ」って感じで(笑)。

――かわいい(笑)。では最後に今後の計画やチャレンジしようと思っていることがあれば教えてください。

Su-mi:まず、4月中旬からのヨーロッパ・ツアーを無事に終わらせたいです。前回は無事じゃなかったので……。

――何があったか聞いていいですか……?

Su-mi:イタリアで車上荒らしに……。

Byungkyu:結構な額のお金を盗られたし、精神的にもかなりえぐられて、相当トラウマなんです。

――ごめんなさい、そんなこと言わせてしまって……。

Su-mi:4月のヨーロッパ・ツアーから帰ってきてからも、韓国でフェスやツアーに出る予定があります。で、9月くらいにまたヨーロッパ・ツアーに出るんですけど、その前にシングルが……出せたらいいなって感じです。あとは秋に東南アジアのほうも回ります。

――盛りだくさんですね!

Su-mi:日本にもまた来たいです。

――ありがとうございます。待ってます!


【リリース情報】

Say Sue Me 『Where We Were Together』
Release Date:2018.06.20 (Wed.)
Label:Tugboat Records Inc.
Cat.No.:TUGR-060
Price:¥2,400 + Tax
Tracklist:
1. Let It Begin
2. But l Like You
3. Old Town
4. Ours
5. Funny And Cute
6. I Just Wanna Dance
7. B Lover
8. After Falling Asleep
9. Here
10. About The Courage To Become Somebody’s Past
11. Coming To The End

※解説、歌詞、対訳付き

リリース詳細


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