離婚伝説というユニット? バンド? をご存知だろうか。
今年発表した2曲のシングルとMVでじわじわと注目を集め、年明け1月にはCDシングル『愛が一層メロウ』のリリースも決定。洒脱なサウンド・プロダクションと非凡なソングライティング・センス、そしてMVを含めたビジュアル面も独自の美的感覚が貫かれている。
果たして、彼らは一体何者なのだろうか。まだまだライブの本数も少なく、オンライン上でキャッチできる情報も乏しい彼らにインタビューを敢行。その結成の経緯からバックボーンを探ることに。
ちなみに、そのインパクト大な名前はMarvin Gayeが1978年発表にした、パートナーとの離婚にまつわる私小説的アルバム『Here My Dear』の邦題に由来する。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by 柴本雄太(STACKS)
ぬるっと始まった離婚伝説
――おふたりはどのように出会ったんですか?
別府:職場が一緒だったんです。出会ってからはかれこれもう5年くらい経ってるかな?
松田:そうだね。それ以前からお互い別々で音楽活動をしていました。
別府:離婚伝説の結成はたまたまというか、成り行きっていう感じなんですよね。
松田:コロナの影響で仕事が暇になった時期があって、それくらいの頃にオリジナル楽曲のデモをお互い送り合うっていう遊びみたいなのが始まったんです。それが去年の冬くらいでしたね。
――デモはDTMを使った宅録で?
別府:最初はギターの弾き語りみたいな感じでしたね。僕自身、パソコンを一度も持ったことがないアナログ人間だったんです。離婚伝説の制作にパソコンが導入されてからはスピード感がめっちゃ上がって。テクノロジーってすごいなって思いましたね(笑)。
――ユニット、バンドっぽく固まってきたタイミングというのはありますか?
別府:本当にぬるっと始まったんで、正確な結成時期が自分たちでもわからないんです。ただ、この“離婚伝説”っていう名前自体は僕が昔からひとりで温めていたアイディアで。いつかバンドを組んだら使いたいなと思っていたんです。(原題である)“Here My Dear”とも迷ったんですけど、やっぱり“離婚伝説”の方がインパクトあるなと。
――おふたりの音楽的ルーツやバックグラウンドについても教えてもらいたいのですが、別府さんはビートルズ(The Beatles)の存在が大きかったそうですね。
別府:そうですね。もちろんそれだけではないんですけど、結局そこに行き着くというか。一番わかりやすいので、ルーツと聞かれるといつもビートルズって答えてます。
――それ以外に転機となったアーティストや作品を挙げるとすると?
別府:大きかったのは中学生のときに出会ったレッチリ(Red Hot Chili Peppers)とRadioheadですね。楽器を始めるきっかけにもなったし、Radioheadからエレクトロニックな音楽にも興味を持って。さらにレッチリからロックの系譜を辿ってビートルズを聴くようになり、ソウルやブルース、ジャズにも手を出すようになって……っていう。かなり正統派な音楽リスナーだと思います。
――もちろんバンドも組んだり?
別府:はい。ただ、曲を作って発表してっていう感じでバンド活動していたのは高校までで、大学を卒業した後はサポート・ギタリストしてギターを弾いたりしていました。
――他のインタビューではどついたるねんの存在も大きかったと語られていました。
別府:国内のバンドももちろん好きで色々なライブに足を運んでたんですけど、何ていうんだろう……どついたるねんが一番楽しそうだったんですよね。実際、観てる僕もめちゃめちゃ楽しかったですし。彼らのライブを観て、就活をやめました(笑)。
実はどついたるねんの元メンバーのCoffさんには離婚伝説の作品でベースを弾いてもらっていて。Coffさんがソロ活動を開始したときに、何の繋がりもないただのファンだったんですけど、唐突に「ギターを弾かせてくれませんか」ってDMを送ったんです。それで実際にライブに参加させてもらいました。何ていうか、そういうところも好きなんですよね。こんなわけわからないやつにギターを弾かせてくれたりする懐の深さというか。
――では、松田さんのルーツについても教えて下さい。なんでも幼少期にピアノをやっていたとか。
松田:短い期間ですけど、3年間くらい習っていました。ホールなんかで弾く機会もあったりして人前で演奏を披露することができたのはすごくいい経験でしたし、ピアノに触れたことが音楽に興味を持つきっかけにもなりました。
あと、中学のときにブラック・ミュージックが好きな従兄弟にヒップホップを教えてもらって、そこから独学でDJを始めたのも大きかったですね。バトルDJに憧れていたのでYouTubeでHow To動画を観てスクラッチの練習ばかりしてました。
ヒップホップの入りはSnoop Doggや2Pacなど王道のウェッサイで、特にGファンクが好きでしたね。そこを入り口に幅広くブラック・ミュージックを聴くようになって。中でも70〜80年代のR&B/ソウルのメロウな楽曲はたまらなく好きですね。
――歌うことについてはいつ頃から興味を持ったのでしょうか。
松田:それこそ小さい頃から歌うこと自体は大好きでした。上京してからボーカル・グループに誘われて何度かライブで歌わせてもらう機会があったんですけど、その頃から歌や作曲に夢中になっていきました。あと大きかったのは、学生時代のStevie Wonderとの出会いですね。ミュージシャンとして、ボーカリストとして強い憧れを抱きましたね。いつか「Ribbon in the Sky」を一緒に歌いたいです。
曲作りのプロセスと、バンドに対する想い
――今年8月に1stシングル「愛が一層メロウ」をリリースしましたが、そこに至る経緯というのは?
別府:本格的にバンドをやったこともなかったので、楽曲の配信の仕方もわからなくて。とりあえず「愛が一層メロウ」のMVだけ公開するかっていう感じでした。そしたらありがたいことに「配信してほしい」っていう声を多く頂いたので、その2ヶ月後くらいにようやくリリースできて。
――初のMVとは思えないほどのクオリティだなと感じました。元々映像には精通していたのですか?
別府:シンプルに映画がめちゃくちゃ好きなので、映像にはこだわりたくて。制作には最近STACKSっていうクルーを結成した、学生時代からの友人たちの力を借りています。彼らも元々バンドをやってたり、サポートで楽器を弾いたりしていたんですけど、コロナ禍であまり活動できなくなった時期に新しく映像の仕事もするようになっていて。現役のミュージシャンであり友達でもあるので、曖昧な指示でも意図を汲んでくれてとても助かっています。あと2人とも何よりとっても人柄がいい。信頼しています。
――彼らのサポートあってのクオリティだったと。MVは物語風な作品となっていますが、ああいった内容はどうやって練っていったんですか?
別府:僕らは音楽も映像もゼロからイチを作り出している感覚はあまりなくて。映像だったら「あの映画のあのシーンいいよね」「あのMVのあのカットが好き」っていうところから膨らませていきました。
松田:ただ、ストーリー自体はもちろん僕らで考えているので、早く考察してくれる人が出てきてコメントしてくれるといいね、なんて話してます(笑)。
別府:植木鉢を持っているシーンがあるじゃないですか、あそこから構想を練っていきました。植木鉢って言ったらやっぱり、最後爆発して植木を地に返さないとって。予算の都合上、爆発はできなかったんですけど(笑)
――おふたりのファッションも独特ですごく絵になりますよね。
松田:シンプルにああいう70’sファッションが好きっていうのもあるんですけど、一応MV内の設定として作業員というか廃品回収業者的な役を演じていて。そこに合わせる形であの格好になりました。
別府:作業着っていうアイディアもあったけど、あまりにも地味過ぎて(笑)。
――順序が逆転してしまいましたが、そもそも「愛が一層メロウ」はどのようにして生まれた曲なのでしょうか。
別府:僕がギターのリフを持ってきて、そこから色々と試行錯誤して完成に至りました。
松田:メロディは僕が考えて、二転三転してあの形に収まったという感じで。
別府:最初からあのサビのリズム感はあって、そこに当てはまる言葉をたくさん書き出して、一番イケてるやつを選びました。たぶん8案くらいは出しましたね。
――日本語詞に対するこだわりはありますか?
別府:やっぱり第一言語なので、日本語で歌いたいなっていう気持ちはあります。
――この曲を最初のリリースにしたというのは、やはり手応えがあったから?
松田:いや、そうでもないよね?
別府:あえて出すならこれかなっていう程度ですね。
松田:僕らの中では「めちゃめちゃキャッチーな曲ができた!」っていう感覚はなかったんです。
別府:思ってたのと反応が違ったよね。なんなら激シブ・ソングくらいに思ってました(笑)。でも、発表したらみなさんから「キャッチー」とか「口ずさみたくなる」って言ってもらえて。やっぱりリフレインって強いんだなと。
松田:色々と作ってた中で、リリースするなら「愛が一層メロウ」と「メルヘンを捨てないで」の2曲かなっていうのはずっと思ってて、それを順番に発表した感じですね。
――「愛が一層メロウ」は映画『シルバーロード』の作中サウンドトラックとしても使用されたそうですが、これはどのような経緯で?
別府:ミックスしてくれたマツオカヒロタカさんという方が本職は作曲家で、『シルバーロード』の劇伴を担当していたんです。それで使ってくれたっていう感じですね。幸運にも監督さんも気に入ってもらえたみたいで。
【お知らせ】
この度、沖縄国際映画祭にて上映予定の
西村翼監督作品『シルバーロード』に離婚伝説として初楽曲
『愛が一層メロウ』が
作品中サウンドトラックとして決定しました。この機会に是非映画と一緒にお楽しみください。@oimf_official #島ぜんぶでおーきな祭#沖縄国際映画祭 pic.twitter.com/U0Q8bLMLjx
— 離婚伝説 (@rkndnsts) April 9, 2022
――では、「メルヘンを捨てないで」についても教えて下さい。最初の種はどこから?
松田:「メルヘン〜」はサビからスタートだよね。別府が弾き語りのような感じでデモを作って、そこから2人で膨らませていきました。テーマみたいなものは最初からなんとなく浮かんでいて。
別府:タイトルそのままメルヘンチックな曲を作りたかったんですよね。現実なのかファンタジーなのかわからないような世界観というか。この曲は歌詞が固まるのも早かったよね。僕らの場合、いつも歌詞が最後まで決まらないんですけど。
松田:歌詞に関しては、普段から思い浮かんだワードやフレーズを書き留めるようにしていて、そこから持ってくることも結構ありますね。
――デモやテーマが見えていた中で、サウンドはどのように構築していったんですか?
別府:うーん……頭の中に……。
松田:最初から頭の中で鳴ってたよね。
別府:そう。調子こいてるみたいに思われそうで言いたくなかったんですけど(笑)。
――(笑)。
別府:メロディ聴いたときにアレンジとかサウンド感も浮かんでくるので、そこに近づけていくっていう感じですね。
――先ほどCoffさんがベースで参加しているとおっしゃっていましたが、レコーディングの工程はどのように進めているのでしょうか。
別府:基本的には宅録で、僕らが作ったデモを元に弾いたり叩いたりしてもらいました。僕らの意図を汲んでもらいつつ、ある程度はそのプレイヤーそれぞれの色も出してもらって。やっぱり色々な人を巻き込んでいきたいという思いもあるので。
――でも、メンバーを増やそうとは思わない?
別府:思わないですね……。大人が4人も5人も集まったら、普通は上手くいかないですよ(笑)。バンドって本当に奇跡みたいな存在なんだってことをみんなに知ってもらいたいですね。
――なるほど。
別府:僕も何度もバンドを組もうとしたんですけど、1曲作る前に空中分解したりすることもあって。
松田:それぞれ価値観も違う中で、お互いの意見を尊重しつつも舵を取っていかなければいけない……やっぱりバンドってめちゃめちゃ大変ですよね。実は僕も前のバンドが解散したとき、「自分にバンドは向いてない。これからはひとりでやっていく」って心に決めていたんです。それでDTMの勉強を始めたんですけど、ひとりで作っていくなかで離婚伝説へと繋がっていき、「別府と2人ならやっていけそうだな」と思って今に至ります。
「楽しく音楽を作ることが一番の本質」
――離婚伝説はビジュアル面での見せ方にもこだわっているように感じたのですが、その点はいかがですか?
別府:そこはもちろんこだわっていますね。単純にバンドだったら人数が多いからアー写も引きで撮るじゃないですか、でも2人だったらもっと自由に遊べるんですよね。
松田:2人ってだけでもインパクトありますし。曲やMVを出す度にイメージを刷新できたら嬉しいですね。
――8月末には離婚伝説として初のライブを行っていますよね。6人編成で行われたようですが、レコーディングのメンバーとほぼ一緒ですか?
別府:レコーディング時とは全員違うと思いますね。そのメンバーもみんな友だちです。基本的に僕らは全部友だちに助けられてます(笑)。
松田:協力してくれる皆んなに感謝やね。初ライブはもちろん楽しかったんですけど、リリースしてない曲も含めて、ライブとしてはまだまだ課題が多いなという感じでしたね。
別府:今後はもっとアレンジや演奏を詰めて、お客さんにより楽しんでもらえるようなライブにしたいですね。
――離婚伝説として、今後何か計画していることはありますか?
松田:曲の断片やアイディアは溜まっているので、それを完成させて、リリースしていければいいなと。あとはライブも続々と決まっているので、満足のいくパフォーマンスができるよう頑張ります。
別府:MVに関してもアイディアはたくさんありますし、音楽とは関係ないショート・フィルムとかも作ってみたいですね。
――音楽的にトライしてみたいことはありますか? 例えば環境のいいスタジオでレコーディングしたり、色々な楽器を取り入れたりなど。
松田:それも曲によりけりかなと。
別府:宅録自体がよくないことだとは思ってないんですよね。
松田:むしろ現時点でリリースしている2曲に関しては、宅録の質感が最適だったなと今でも思うので。
別府:DTMって、ある意味この時代のスタンダードな手法じゃないですか。だから何年、何十年か後に聴き返すと、これが今の時代の音として聴こえるんじゃないかなって思うんですよね。
――なるほど。では最後に、他にやってみたいこと、もしくは夢や目標などがあれば教えてください。
別府:鎌倉にスタジオ付きのログハウスを建てて……。
松田:大きい犬と小さい猫も飼って……。
別府:浜辺を散歩して、帰ってきてコーヒーでも淹れて……ゆっくり暮らしたい(笑)。
ーー(笑)。
松田:活動していくからには、もちろん色々な人に聴いてもらいたいし、大きくなっていきたいという気持ちでやっていますが、何よりも楽しく音楽を作ることが一番の本質だと思っています。
別府:真面目なことを言うと、映像を作ってくれたり演奏してくれている友人、仲間たちと一緒に大きくなっていきたいですね。そっちの方がいい作品が作れる気がしていますし、これまでの恩も返したい。とにかく僕らは周りの方たちに生かされているので、常に感謝の気持ちは忘れないでいたいですね。
松田:これからも頼ることばかりだと思いますがよろしくお願いします。そしていつも聴いてくれているリスナー、ライブに足を運んでくれる皆にも感謝ですね。いつもたくさんの元気をもらっています。あと、最後にひとつ具体的な夢を挙げるとするならば、いつかYOASOBIの幾田りらさんにお逢いしたいです。好きです。
別府:また言ってる(笑)。
【リリース情報】
離婚伝説 『愛が一層メロウ』
Release Date:2023.01.18 (Wed.)
Tracklist:
1. 愛が一層メロウ
2. メルヘンを捨てないで
3. スパンコールの女