日英ハーフで数々の賞を受賞し、現行のダンス・ミュージック/クラブ・カルチャーを先導する絶対エース、Maya Jane Coles。Nocturnal SunshineやCAYAMなど、別名義での活動も積極的に行っており、いずれの作品も素晴らしい完成度を誇っている。フロア・ライクなダンス・ミュージックからアブストラクトなエレクトロニックまで、その多様性と制作スピードには驚かされるばかりだ。
近年ではクラブ・カルチャーのみならず、「Mixmag」の表紙も飾ったABSOLUTE.をいち早く見出し、自身もクィアなパーティでヘッドライナーとして抜擢されるなど、LGBTQIA界隈でも絶大な影響力を持つ。Beatportとの共同プロジェクト『PRIDE 2020: HE.SHE.THEY』に参加するなど、度々シーンのアイコンとして取り上げられる。
そんな彼女が、自身のディスコグラフィーで最もフロア・コンシャスなアルバム『Night Creature』を発表した。本作は再開され始めているクラブ・シーンへのラブレターのような作品でありながら、クィアのプライドも表明されている。その意味では、集大成的な意味合いもあるだろう。今回のインタビューでは彼女の現在地とともに本作の背後にある様々な意匠について語られた。
Interview & Text by Yuki Kawasaki (Mixmag Japan)
Photo by Maya Jane Coles (Official)
「パンデミックがこのアルバムに影響していることは間違いない」
――『Night Creature』、素晴らしいアルバムです。個人的に、あなたが今までにリリースしたアルバムの中で最も好みかもしれません。そして、LP単位では最もフロアに意識が向いた作品だと感じました。プレスリリースを拝読してもそういった意図が読み取れますが、本作の制作にパンデミックは関係していますか?
Maya Jane Coles(以下、Maya):そう言っていただけると、とても嬉しいです。私にとっても、これまでのアルバムの中で最も気に入っている作品でもあります。リリースを重ねるごとに自分のテクニカルな能力は向上していますし、作曲や作詞の面でも常に向上していると思います。だからこのアルバムは、自分の最高の状態を表せています。
また、このアルバムが最もフロア向けの作品であることについては、パンデミックが影響していることは間違いありません。通常、絶え間なくツアーをしているときは、常にクラブにいてDJをして、ヘビーなハウスやテクノに囲まれているので、私のアルバムはそれらから逃れるためのダウンテンポなものが多いです。でも、パンデミック下では全く違う状況でした。私は、そのような環境が本当に恋しかったのです。そして、スペースが与えられたら、もう一度ダンス・フロア指向の音楽を作りたいと思ったんです。
――特に先行リリースされた3曲「Night Creature」、「Survival Mode」、「Need」は、あなたのエイリアス・プロジェクト、CAYAMを思わせるテクスチャーです。CAYAMとしても近年は積極的に活動してらっしゃいますが、本作にその名義から引き継がれている部分はありますか?
Maya:私の別名のサウンドがMJCの作品に入り込んでいると言えますし、その逆もまたしかりです。結局のところ、彼らは私自身の延長線上にあり、私の脳の様々な部分を利用しているだけなので、全てのプロジェクトには共通点があります。私のミックス・ダウンは経験を重ねるごとによくなっているので、それも私のサウンドに大きな影響を与えています。以前は上手くできなかったことや、正しい方法で実行できなかったことが、今はずっと上手になっています。
Maya Jane Coles / Night Creature
「超安っぽいものを手がけようとは思わない」
――「What They Say」以降、あなたはポップ・ミュージック・シーンからも大いに支持されています。『Night Creature』はクラブ・アルバムであると同時に、メジャー・シーンでも広く聴かれる可能性を感じました。特にKarin Parkを起用した「Light」は、アンダーグラウンドなダンス・ミュージックのマナーからは飛び出している印象を受けます。実際、今のあなたは“クラブの外側”への訴求をどう考えていますか?
Maya:「What They Say」がリリースされてからの数年、ポップ・シーンでどれほど受け入れられたか、信じられなかったです。この曲は私のサウンドを明確に定義するような曲ではありませんでしたが、私に多くの扉を開いてくれました。この曲がもたらした機会にはいつも感謝しています。
『Night Creature』には確かにポップな面がありますね。私のMJCのアルバムは全てそうだと思います。例えば『Comfort』では、「Everything」、「Buring Bright」、「When I’m in Love」などの曲が私にとってはポップな曲です。そういう曲を作るのが昔から好きなんです。私はエッジの効いたポップスと呼んでいます。なぜなら、超安っぽいものを手がけようとは思わないから。私は強制的ではなく、顔に出過ぎていない控えめなポップスといったものが好きです。実は11月にリリースされるStingのニュー・アルバムのために、彼と一緒に曲を作ったところです。これは、私のキャリアの中でとてもクールな瞬間でした。
Maya Jane Coles / Light (feat. Karin Park)
――もう10年ほどあなたの音楽を聴き続けていますが、MJCの曲はカッティング・エッジだと感じます。LP/EPがリリースされる度にその多彩なプロダクションに驚くのですが、今までにディープ・ハウス(またはテクノ)の専門家を目指そうと考えたことはありますか? 多くのプロデューサーが“自分のジャンル”に固執する中、あなたは一度もそうしたことがないように思います。
Maya:ひとつのジャンルに特化したいと思ったことはありません。色々な音楽を楽しみたいと思っているので、ひとつのことだけをやっていたら、すぐに飽きてしまうでしょうね。挑戦が足りないのです。特定のジャンルを得意とするためには、そのジャンルに深く入り込み、スタイルを正しく理解し、本物の方法で実行する必要があります。
ですから、複数のジャンルでそれを実現するには、すべてを楽しみ、すべてを理解しなければなりません。私は常にあらゆるものを聴いていますし、様々な分野や時代の音楽からインスピレーションを受けているので、色々な方向から実験してみたくなるのです。私のiTunesやSpotifyのプレイリストは全く狂っていますよ。でも、最終的には私の音楽がそれぞれのジャンルになることを願っています。
――DJに関してはどうですか? 実はこのインタビューの話をいただいたとき、ちょうどあなたのミックス・アルバム『DJ-Kicks: Maya Jane Coles』(2012年)を聴いていました。今のあなたがミックス・アルバムを制作するとして、『Night Creature』のようなアッパーでフロア・ライクな内容になると思いますか?
Maya:アルバムと同様に、私のDJスタイルも常に進化しています。なので、私が今プレイしているものは、サウンド的には2012年当時と同じエッセンスを持っているかもしれませんが、時間の経過とともに確実に成長し、変化しています。私のミックスは、いつもその時に聴いている音楽や、その時にプレイしていたライブの種類によって決まります。また、CAYAMとしてDJセットをすることもありますが、これはさらに(クラブ・ミュージック方面に)レベルアップしたものなので、MJCのライブでプレイする内容にも影響を与えていると思います。
CAYAM aka Maya Jane Coles DJ set – The Residency w/ Maya Jane Coles – Alias: CAYAM | @Beatport Live
――あなたは今や、LGBTQIにおけるアイコンでもあります。いち早くABSOLUTE.を見出し、fabricで行われるクィア・パーティにも出演している。本作においてもClaudia KaneやLie Ningが参加していますが、ご自身で何か役割を自覚されている部分はあるのでしょうか?
Maya:そんな風に感じてもらえると嬉しいです。LGBTQIのアイコンと呼ばれることは、私にとって大きな意味があります。その世界の一員として、クィア/インターセクショナルなアーティストたちと一緒に仕事をすることは重要なことです。私は世界で最も多様性に富んだ都市のひとつであるロンドンで育ったので、私の音楽がそのように反映されることも重要なことなのです。
私が若い頃は、特に私が夢中になっていた音楽シーンにおいて、クールなクィアや女性から影響を受けたことはあまりなかったように思います。ですから、私が若い人たちのお手本になれるというのは、本当に特別なことです。
Maya Jane Coles / Hypnotised (feat. Lie Ning)
日本との文化的、精神的な繋がり
――アートワークについてもお話を聞かせてください。ビジュアルとしてもクィアの世界観は特筆すべきですが、もうひとつ重要なのは、あなたがアートワークで本作ほど日本を感じさせた例は過去にないという点だと思います。「Run to You」と「True Love to the Grave」のMVでは『Kill Bill』がインスピレーションになったと聞きましたが、なぜ今のタイミングで日本趣味を採用したのでしょうか? ちなみに私はアートワーク含めて大変クールだと感じています。
Maya:文化的には、私はイギリス人であると同時に日本人でもあります。母の母国語が日本語だったので、私自身も日本語を流暢に話すことができますし、子供の頃は毎年夏になると母の出身地である大阪に行っていました。家での料理はいつも日本食だったり。なので、私にとってとても大切な部分です。
しかし、4年前に母が亡くなってからは、日本語をほとんど使わなくなりました。また、Covidによる制限のために2年近く大阪に行くことができなかったので、自分のアートや音楽を通して、その面をもっと取り入れることが、特に重要な時期だと感じました。これはある意味、双方の助けにもなり、最終的にその方向に持っていけたことを嬉しく思います。プロジェクトとしての完成度が高く、より自分らしくなったと感じています。「Run to You」と「True Love to the grave」のビデオについてですが、『Kill Bill』は子供の頃に最も好きだった映画のひとつなので、それに敬意を表しつつ、LGBTQIに焦点を当てたものを作るのはとてもエキサイティングなことでした。
Maya Jane Coles / Run to You (feat. Claudia Kane)
Maya Jane Coles / True Love to the Grave (feat. Claudia Kane)
――2019年に渋谷のSOUND MUSEUM VISIONで行われたカウントダウン・パーティ以来、私はあなたのDJをフロアで聴いていません。私以外の日本のファンも次回のギグを楽しみにしていると思います。最後に、あなたが次の来日で期待していることがあれば教えて下さい。
Maya:これほど長くに渡って日本に戻れなかったのは、実のところ私の人生の中でも最長期間だと思います。日本が恋しくてたまりません。できるだけ早く日本に戻れることを願っています。私にとっては、食べ物、ファッション、カワいい隠れた深夜のバーや居酒屋、そして日本語を話して頭の別の部分を使うことができることなどが魅力です。長い間、日本を訪れることができないと、文化から切り離されたように感じてしまいがちです。実際に行ってみると、いつも刺激を受け、エネルギーに満ち溢れていますから。
【リリース情報】
Maya Jane Coles 『Night Creatures』
Release Date:2021.10.29 (Fri.)
Label:I/AM/ME / BMG
Tracklist:
01. Night Creature
02. True Love To The Grave feat. Claudia Kane
03. N31
04. Run To You feat. Claudia Kane
05. Die Hard
06. Devil’s Dance
07. Hypnotised feat. Lie Ning
08. Show Me Love feat. Claudia Kane
09. Monday Mood
10. Survival Mode
11. Got Me feat. Julia Stone
12. Need
13. Come With Me feat. Claudia Kane
14. Light feat. Karin Park
15. Slooow Jam
16. Ending