INTERVIEW

For Tracy Hyde

「青春は逃れられぬ呪縛」――ブルーにこんがらがった感情を揺さぶり続けるフォトハイ。彼らが"青春"にこだわり続けるその理由とは

多くの人たちにとって青春時代と音楽は切っても切り離せないほどに強く、深い関係にあると思う。青春時代によく聴いた音楽を大人になってふと耳にした時、当時の風景や感情が蘇ったり、その時、好きだった人のことを思い出したりもする。また、青春時代を描く映画や小説に触れた時に、当時自分が大切に聴いていた音楽が頭の中に流れ始める……なんていうこともあるのではないだろうか。

For Tracy Hydeはその青春時代と音楽の関係性をどこまでも美しく描こうとしたバンドである。この度12月2日にリリースした待望の1stアルバム『Film Bleu』は、”彼らが過ごした青春”と”彼が憧れた青春”、その両方が詰め込まれているアルバムだ。前者の青春が彼らのサウンドを構成し、後者の青春がメロディと言葉を紡いだと言ってもよいだろう。

青春をテーマに音楽を作るミュージシャンは星の数ほどいれど、この作品はその中でも群を抜いて青く、叙情的で、機知に富んでいる。メンバー・チェンジを経て、ようやく一つの完成形にたどり着いたFor Tracy Hydeが掲げる「21世紀のTeenage Symphony for God(神に捧げるティーンエイジ・シンフォニー)」とは一体何を意味するのか。シューゲイザー、ネオアコ、J-POP、アニソン……といった彼らのルーツと、このアルバムに込められた想いを訊いてみた。

Interview by Kohei Nojima
Photo by Takazumi Hosaka

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L→R:Mav.(Bass)夏bot(Guitar)eureka(Vocal)まーしーさん(Drum)U-1(Guitar)


—まずはこれまでの活動を軽く振り返りたいと思うのですが、For Tracy Hydeは2012年に夏botさんの宅録プロジェクトとして活動がスタートしていますよね。当初はどういった方向性を目指していたのでしょうか?

夏bot:宅録で活動していたと言っても、最初からバンド編成でやることを想定していたので、バンド・サウンド寄りの音楽を作っていたんです。その時目指していたのはGalileo Galileiみたいな、海外のインディー・ロックと日本語詞でやる日本のロックの良さを融合していくというか、そういう方向性を目指していました。
一方で、80〜90年代のUKのシューゲイザーだったり、マッドチェスターとか、あの辺りの音楽もすごく好きだったので、ちょっと前に国内のバンドで流行ったような高速4つ打ちとかではなくて、16ビートで踊らせるみたいな、そういうことを意識していましたね。

—そこから2014年4月にラブリーサマーちゃんが加入し、今のFor Tracy Hydeの原型ができあがりました。それまでは夏botさんがボーカルを担当していましたが、やはり女性ボーカルを入れたいという考えは前々からあったのでしょうか?

夏bot:そうですね。私は元々自分であんまり歌いたくないというか、ボーカルが自分以外に誰もいないので仕方なく歌っていたっていうところが大きくて。将来的には絶対女性ボーカルで音楽をやりたいという思いはずっとありましたね。

—ラブリーサマーちゃん在籍時には2枚のEPをリリースし、話題にもなりましたよね。

夏bot:確かに今までにないくらいビックネームな方々が反応を示して下さっていたんですけど、自分たちにとっては全然現実感が湧かなかったというか。今、振り返ってもあれは何だったんだろうな……っていうくらいの気持ちなんですよね(笑)。

—夢だったんじゃないかって(笑)。

夏bot:はい。「そっか、そういうこともあるんか」っていう感じで。

—その後2015年5月にラブリーサマーちゃんが脱退。そのポストに新たに抜擢されたのがeurekaさんというわけですが、新たなボーカリストを探すにあたって、どんな条件というか、どのようなイメージを抱いていたのでしょうか?

夏bot:……何かあんまり本人が目の前にいる状態で言うのもあれなんですけど、見た目のよろしい方を入れたいという気持ちがありまして(笑)。

―すごい大事なことですよね(笑)。

夏bot:それこそ「歌唱力は二の次で、見た目を大事にしよう」くらいのつもりで、Facebookにいる女性の友達を全員片っ端から見ていって、ピンときたのがeurekaなんです。彼女はFacebookで好きな音楽にRadioheadとPredawnを挙げていて、音楽の趣味おもろいやんって思ったのと、見ての通りのルックスだったので。あと、彼女は元々小学校時代の知り合いで、実は家族ぐるみでの付き合いもあったんです。なので、そういう元々の繋がりもあり、人間的にも信頼できるなと思って、お招きした次第ですね。

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—eurekaさんはそれ以前までも何か音楽活動を?

eureka:バンドは一切やったことがなかったです。ミュージカルとか合唱とかは部活でやってたんですけど、音楽的な活動は本当にそれだけですね。しかも、私が入るまでのフォトハイがすごすぎて、「私なんかでいいのかな?」っていう気持ちが半分と、「でも、やってみたい」っていう気持ちが半分で……。勇気を振り絞って一歩踏み出しました。

—先ほどRadioheadとPredawnが好きだとおっしゃってたんですけど、趣味としてはずっと色々な音楽を聴いてきたのでしょうか?

eureka:Radioheadはうちのお父さんが好きで、一緒に聴いたりして好きになったんです。ちょっと暗めなロックが好きで。

―では、バンドに誘われて、フォトハイのそれまでの楽曲を聴いた時、どう思いましたか?

eureka:実はRadioheadとかPredawnとか聴くようになる前、小学校の5〜6年くらいの頃とかはキラキラしたアニソンとか、「もはや電波?」みたいな音楽が好きで、中学校の時もずっとそういうのを聴いてたんです。でも、何が理由かよくわからないんですけど、高校くらいになったらさっき言ったような暗い音楽に急にハマるようになって。

U-1:思春期か(笑)。

eureka:そうかもしれない(笑)。でも、そういう音楽は、さっき言ったようなキラキラした音楽とは全く別の次元に存在している音楽だと思っていたんです。だからどっちも聴いてたけど、自分の中でもハッキリと区別していて。だから、フォトハイの音楽を聴いた時、その両方の要素がひとつになってるって思って、すごい驚いたんです。本当に……「こんな音楽があるなんて、世の中ってすごい」ってくらい(笑)。
私は本当に音楽詳しくないので、このバンドに入ってからはメンバーに色々教えてもらってます。

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—個人的な感想として、ラブリーサマーちゃん在籍時の時のフォトハイは、彼女のウィスパー・ボイスを惹き立てつつも、サウンド的にはネオアコやシューゲイザー、いわゆるインディ・ポップなどの様式美にわりと真っ当に沿っていた印象があるのですが、eurekaさん加入後はそういった要素を残しつつも、よりオリジナリティ溢れる方向性に振り切れたように思います。これはやはり彼女のボーカルの魅力に牽引されていったっていうのが大きいのでしょうか?

夏bot:実はボーカルとして加入する前に、オーディション的なノリで私とMav.とeurekaの3人でカラオケに一回行ったんです。その時に彼女の歌唱力にも驚いたんですけど、それと同時にラブリーサマーちゃんとは全く性質の異なるタイプの人だなっていうのも認識できて。それがあったからか、その頃から自分が作る曲も、自然とこれまでよりも曲調に幅が出てくるようになったんですよね。
例えば、リード曲の「Favourite Blue」とか、アルバム後半に収録されてる「あたたかくて甘い海」とか、ああいうタイプの曲はたぶんラブリーサマーちゃんがボーカルだった頃の私には作れないだろうなっていう感じの曲で。あと、今はもうセカンドに向けて新曲も作ってる状態なんですけど、その新曲とかも全体としてエウレカの声を活かしていくような意識で作っていますね。逆に「After」とかはラブリーサマーちゃんを想定して作った曲だったんですけど、そういう曲も彼女が歌うことで一気に印象が変わって、結果としてそれがかなり良い方向に作用してるなっていう実感もあります。

U-1:うんうん。歌って……すごいよね。

夏bot:コメントが雑(笑)。もっと、こう、eurekaさんのボーカルとしての資質についてとか話してよ。

U-1:う〜ん、まぁ、それこそシューゲイザーだったりインディ・ポップって言われるようなバンドにおける女性ボーカルの弱点を克服した、っていうのはTwitterでも言われてるし、それはホンマにそう思いますね。僕たちってJ-POPとかアニソンに対してかなり肯定的で……まぁ好きなバンドがいっぱいいるわけではないけど、僕らが目指すところっていうのはそこなのかな、とは思いますね。そしてそこに辿り着くためには、eurekaのボーカルはすごい向いているんじゃないかなって。

夏bot:そうですね。一気にアニソン感が増したというか、やっぱり僕らは根がオタクなので、これは「よっしゃー!」という感じなんですよね。

—曲だけでなく、歌詞の方にも影響はあったりしますか?

夏bot:歌詞はボーカルに合わせて云々というのはそんなにないですね。やっぱり自分が描きたい情景であったり感情だったりっていうのが、結構一貫してずっと似たようなものなので。……でも、今思えば「Favourite Blue」はその限りでもないような気もしますね。ああいう割と真っ直ぐな感じっていうのはラブリーサマーちゃんを想定しては書かなかったと思います。

―話が変わるんですけど、プロフィールの「21世紀のTeenage Symphony for Godを作り出す」という一文がとても印象的だったのですが、これはVelvet Crushの『Teenage Symphony to God』から?

夏bot:いや、僕らが意識したのはThe Beach Boysの『Pet Sounds』の方ですね。まぁVelvet CrushもThe Beach Boysを元ネタとしているみたいなんで、間違いではないんですが。
あの作品の当初のコンセプトというか説明書きのようなものとしてBrian Wilsonがずっと掲げていたのが、あの「神に捧げるティーンエイジ・シンフォニーを作る」という文章だったんです。幼少期の頃から父が私にThe Beach BoysのCDを買い与えてくれて、それ以降彼らの作品はずっと好きで。なので、やっぱり自分がどういうアルバムを作りたいかなっていうのを考え始めた時に、『Pet Sounds』みたいにすごく精巧に作られていて、かつエモーショナルなものが作りたいなっていう。それこそ人の生活に寄り添っていくというか、人の人生を変え得るようなそういうものを作りたいなっていうことでつけました。

—オマージュ系の話だと、新しいアーティスト写真はPrefab Sprout(プリファブ・スプラウト)の『Steve McQueen』ですよね。

夏bot:はい。おっしゃる通りです。まぁ、そもそも私はオマージュ・ネタ自体が好きっていうのもあって。実は別にPrefab Sproutがすげー好きかというと、そんなことは全くなくて。

U-1:あれってさ、自転車があったからノリでやったんだよね。

夏bot:そうね。ていうか、(カメラマンの)小林君がやりたいって言い出したんだよね。

Mav.:あれって元々そのために準備されてたんじゃないの?

夏bot:あれ、そうだっけ? ……いずれにせよ、写真を撮ってくれた小林君の提案ですね。

For Tracy Hyde2016

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—今作には前々からあった曲と新しく書いた曲がありますが、収録曲はどのようなことを意識しながら決めていったのでしょうか。

夏bot:「今の自分たちにはこう言う引き出しはあるけど、こういうのはまだ表現しきれてないな」とか、そういう風に欠けてるところを補うような形で曲を作っていったり、あとは曲調に幅がありながらも、それをスムーズな流れで繋ぐために、インストを何曲か入れたりとかしましたね。
あと、映画ってどうしてもクライマックスが終わりの方に来るじゃないですか。そういう意味でも、前半はちょっと軽めなポップス色の強い曲で、後半になるにつれてどんどんノイジーになって混沌としていき、最後にスッと「渚にて」で終わるっていう流れも、映画的でいいのかなという風に思っています。

―今作の制作に際して、前からあった曲も全部新たにレコーディングし直しているのでしょうか?

夏bot:以前からあった楽曲のトラックはほとんど当時のものをそのまま使っていますね。他の曲はもちろん新しく録っていますけど。

—アルバムの1曲目「There’s A Story In Your Eyes, And I Will Read Between The Lines」は、まさに映画のイントロダクションというかオープニングみたいですもんね。

夏bot:そうですね。さらに言うと、1曲目のバックに流れてるシンセサイザーのループは、アルバム最後の曲となる「渚にて」のバックでも流れているんです。曲のBPMも全く同じで、これはアルバムが1周して終わったらまた1曲目に戻ってくるっていう、そういうイメージを意識しました。

—なるほど。その後、2曲目に位置する「Her Sarah Records Collection」が実質的なオープニング・ナンバーになります。ここはMVを作った「Favourite Blue」ではないんですね。

夏bot:これは単純に流れとして自然な曲を考えた結果というか。ここに「Favourite Blue」を持ってくると繋がりとしてキレイじゃないなって思ったんですよね。

U-1:あと、これは後付だけど「Her Sarah Records Collection」ってさ、For Tracy Hydeを2012年に組んで一番最初にBoyishとのスプリットで世に出した曲だよね。

夏bot:そうそう、これは私が宅録で活動していた頃にフォトハイとして世に出した最初の曲でもあるんです。そう意味でも、結構自然に1曲目にスッと収まるのかなっていうのがありましたね。

—中盤となる5曲目の「Crystal」は、今までのフォトハイにはなかった感じでとても印象的です。なんというか、いわゆる東京を中心としたインディっぽい流れにも合致しているような気がして。

夏bot:それはありましたね。一応最近のシティー・ポップというか、シティーポップ・リバイバル的な流れも、自分たちとしてはバッチリそこに迎合したくはないけれども、やっぱり意識せざるを得ない部分があって。それを自分たちなりに自然に落とし込める限界がこれかなっていう感じもありつつ。あとは80年代の歌謡曲的なシンセの音使いとかを意識した時に、これが自分たちにとってできる、一番自然なシティー・ポップの形なのかなというのも考えながら作っていました。

U-1:「Crystal」と言えばアレだよね、星のカービィのCMソングとかに使って欲しいよな。……めっちゃぽくない?(笑)

夏bot:あの、もっときちんと説明して差し上げて……。多分コンテクストが複雑すぎて伝わらない(笑)。

—(笑)。その後となる6曲目の「First Regrets」は、ラブリーサマーちゃん在籍時の代表曲とも言える曲でしたよね。この曲は「初めての後悔を君に捧げる」というフレーズなど、歌詞の面でもかなり惹かれる一曲だなと思いました。いつも歌詞はどのようなことをイメージして書かれているのでしょうか?

夏bot:実はそのフレーズも大した意味はなくて。あの曲は最初PCゲーム『Kanon』に由来した別のタイトルが付いていたんですよ。で、そのゲームのオープニング曲が「Last regrets」っていうタイトルなんですけど、「お前らが”Last”なら、うちは”First”でいく」ってことで至極単純な理由で……(笑)。
歌詞はそのタイトルからどんどん膨らませていったっていう感じですね。サビで英語になるってめちゃくちゃダサいじゃないですか? だからタイトルに紐付いた歌詞を考えなきゃなってなった時にスッとそのフレーズが出てきて。
基本的には他の曲も、すごく詳細にというわけではないんですが、既存の小説やアニメを多少下敷きにして、それを自分なりに膨らませていったりして歌詞を書いてます。あるいは、自分の頭の中に理想的なシチュエーションとかストーリーとかキャラクターがまず浮かんできて、それを軸に描いていったりとか、そういう感じですね。

—ちなみにアニメとか小説でいうと、影響を受けたのはどのような作品なのでしょうか?

夏bot:実はアニメに関してはもう5、6年くらいはほとんど観てないんです。高校時代から大学の3年生くらいまでは本当に毎クールその時やっている学園アニメを全部観るっていうのをやっていて。自分がアニメを観なくなったキッカケが、『氷菓』と『あの夏で待っている』と『Another』で。この3作品はどれも結構放映時期が近くて、なおかつ自分的にもとても満足度の高いアニメだったので、「もう私、アニメいらないな」って思ってしまい。それからアニメを観なくなったっていうのがありますね。
あと、小説に関していうと、別に私はそんなに本を読むわけでもなく、ちゃんとした文学は全然通ってないんです。恩田陸とか佐藤多佳子とか豊島ミホとか、そういうすごいポップな青春小説とかが好きで。あとはすごい読んでるわけではないんですけど、多少ラノベとかも読んでて、その辺りの青春感みたいなものは歌詞に結構反映されているような気がしますね。

—アニメにも小説にも、どこか青春的なものを強く渇望しているような印象を受けたのですが、やはりフォトハイにとって、「青春」というものはとても大事な要素のひとつなんでしょうね。

夏bot:そうですね……。結構、そこには気持ち悪いくらいこだわりがありますね(笑)。
私はいわゆる学園もののアニメとか小説に出てくるような青春とは本当に無縁の学生時代を送ってきたんです。なので、そういう幸せな時期が自分も欲しかったなぁっていうのが、コンプレックスのようにずっとつきまとっていて。なので、それをせめて曲の中だけでも形にしたいなっていうのはやっぱりありますね。
あとは自分みたいに悩んでる子はもちろんのことながら、そうでない子も、つまりは若者全般に響くような、シンパシーを抱いてもらえるような音楽を作りたいっていう思いがあって。そのためには、彼らにとってリアリティのあるテーマや世界観が必要なだろうっていうところもあります。

—さっき挙げてもらったようなアニメ作品は、バンド・メンバー内でも共有できているのでしょうか?

夏bot:全員が観ている、共有できてるものって意外と少ないんですよね。『氷菓』観てない人いる?

まーしーさん:すいません、観てません。

夏bot:てめーは日本国民失格だ。

U-1:あの、僕と夏botは好きな作品は被るんですけど、好きなヒロインのタイプが絶望的にズレてて。

夏bot:ねー。あんたはえるたそだもんねー。私、摩耶花。

U-1:はい、終了ー!

夏bot:はい、バンド解散しよう! 解散だ解散!

U-1:……と、大体いつもこんな感じなんです(笑)。

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—な、なるほど(笑)。

夏bot:あと、アニメに関して言うと、『あの夏で待ってる』は大きいかもしれません。大筋としては高校の友達同士で8ミリフィルムで映画を撮るっていうストーリーなんですけど、ちょうどあの作品が放送されていた頃って、カセット・テープが流行り出したり、チルウェイヴが出てきて、音楽的にもそうですけど映像的にもノスタルジックなものを切り貼りしたりっていう文化がインディ・ロックのシーンで盛り上がっていて。なので、ある意味ではあの時代の音楽とリンクしていた作品なのかなって。
アニメとインディ・ロックの結びつきを強く意識し始めたのって、あの作品がキッカケだったのかもしれません。

—そういう青春性やノスタルジックな感覚というのは、これからもフォトハイの音楽性の核であり続けると思いますか?

夏bot:もちろんそこは追求し続けたいなとは思ってるんですけど、一方で歌詞の方は少し変えていきたいと思っているところもあって。今までの歌詞は良くも悪くも自分の人生とか実体験とかとはかけ離れたファンタジックな内容だったので、今後はもうちょっと自分の人生に寄り添った詩を書いてもいいのかなって思っていて。内省的であまり社交的ではない10代の子とかにももっと訴えかけていく曲があってもいいのかなと。

U-1:うんうん。まぁ、そんなこといいながらも次に向けての新曲1発目はめちゃくちゃアニソンみたいな感じになっちゃってるけどな(笑)。

夏bot:そうそう。めっちゃ爽やかな曲作っちゃったよね。

U-1:だから、結局そこは呪縛みたいなものなんじゃないかって思うけどね。

夏bot:確かに。逃れられぬ呪縛、みたいなところはあるのかもなー。良くも悪くも。

―アニソンっていう点で言うと、MVもUPされた「Favourite Blue」の途中でハンドクラップが入る部分とかモロにアニソン的ですよね。個人的にはこういうサウンドにこういうアイディアが乗っかるのかっていう意味で、すごく新鮮に感じられました。

夏bot:あれはエウはんが加入してから私が作った曲なんですけど、とてもアニソンっぽいですよね(笑)。クラップがあって、あんま聴こえないんですけど、バイオリンのピッチカートも一緒に入れてリズムを強調しているんです。そこに4つ打ちでライドが裏打ちしてて、ああいう〈Captured Tracks〉っぽいサウンドの流れで、突然アニソンっぽい展開になったらめっちゃおもろいやんってことで、ああいう感じにしたんですけど。意外とうまくハマったなって思っています。

Mav.:ミックスの時にさ、クラップの音量ですごく揉めたよね。

夏bot:そうなんですよ。クラップとピッチカートの音量をどうするかでめちゃくちゃ揉めたんですよ。

Mav.:この2人(夏bot、Mav.)がすごいアニソン思考なので、「ガンガン出していこうや」っていう感じだったんですけど、ミックスのエンジニアの人とか、レーベルのA&Rの人からは「これはやり過ぎるとちょっと変じゃないの?」みたいなことを言われてて。2人で「違うんですよ! これは「スケッチスイッチ」なんですよ!」ってそこに反論して。アニメ『ひだまりスケッチ』のオープニング曲なんですけど、それを絶叫してしまって……あの、気持ち悪かったねっていう(笑)。

夏bot:ただ、「スケッチスイッチ」を後で聴き直したら、クラップもあるしピッチカートもあるけど、一緒のタイミングではなってなかったっていうね(笑)。

—なるほど(笑)。あとは10曲目の「Emma」なんですが、この曲のラストでサックスが入ってくるところがすごいハッとさせられたというか。

夏bot:自分で言うのもあれなんですけど、衝撃の展開ですよね。私が元々ご覧の通り……いや、ご覧の通りじゃないわ(笑)。The 1975の狂信者的なところがあるので、サックスのあるエモい曲を作りたいなって思ってたんです。そこでU-1が元々ジャズ研の後輩にサックスが吹ける子がいるってことで、その人を連れてきてもらって。

—M83にも似てると思ったんですけど、最後の展開がサックスとかメロディーで壮大な感じで終わらせるみたいな。

夏bot:そうですね。あと自分の中ではCocteau Twinsっぽいコーラスのかかったディレイ・ギターとドラム・マシーン、そこに安いピアノのループが乗る……みたいなのも結構意識してたりします。

—ライブではサックスは同期させて?

夏bot:ライブは一回だけ生のサックスありでやってみたんですけど、それがライブだとあんまり上手くいかなかったので、普通にギターでノイズを出して、ベースも歪ませてっていう感じで、ちょっとロキノンに寄せるような展開の仕方にしています。
元々リード・ギターの音作りはTHE NOVEMBERSの「Misstopia」を意識してたので、それはそれで趣きがあっていいかなって。

U-1:本当はテナー・サックスで吹いてほしかったなぁっていう思いもあるんですけどね。あれ、アルト・サックスなんですよ。Galileo Galileiも「Sea and The Darkness II」はテナーで吹いてるから、絶対テナーがよかったなって。でも、本人に連絡したら「アルトしか持ってないです……」って言われたので、「じゃあ、それでいいよ(ニッコリ)」って(笑)。

夏bot:優しい(笑)。

—最後の2曲「After」と「渚にて」はよりJ-POP的な要素が強いというか、スピッツとかに近いものを感じました。

夏bot:スピッツはめちゃくちゃ聴いてたり、意識していたりするわけではないですけど、もちろん好きなバンドなので、知らず知らずのうちにそういうところは出てきているのかもしれません。やっぱり根がJ-POPとかアニソンにあるので、Aメロ→Bメロ→サビみたいな、わかりやすく盛り上がり構成とかは意識しています。

—「After」の早口になる部分とかはこれまたいわゆるアニソン的ですよね。

夏bot:そうですそうです。一時期高速4つ打ちで、ボーカルも早口ハイトーンでまくし立てる、みたいな感じが流行ったじゃないですか。そのボーカルの部分だけ抽出して、それを高速4つ打ちっていう文脈からは外れたところに組み込んでみたらおもしろいかなっていうことで。あれはおもろいよね?

U-1:いや、あれはよかったよかった。いいアイディアやった。

夏bot:発想の勝利(笑)。

—eurekaさんはあそこの部分、結構大変だったんじゃないでしょうか?

eureka:そうですね、3回くらい噛みました(笑)。

夏bot:噛みまみた(笑)。

U-1:噛みまみた(笑)。

—(笑)。「渚にて」は先程もおっしゃっていたように、1曲目の「There’s A Story In Your Eyes, And I Will Read Between The Lines」と同じシンセのループを使っているということで、やはりエンドロール的な意味合いの強い曲となっていますよね。

夏bot:色々な伏線……っていうほどのものでもないですけど、そういったものを全部回収しつつ、物語がそこでスーッと終わっていくみたいな。歌詞も終わりを意識して書きました。

—では、そろそろまとめということで、今回のアルバムはフォトハイにとっては新体制になって初の作品であり、正規流通に乗せた初めての作品ということになりますが、完成させてから既にある程度時間が経ったであろう今振り返ると、全体としてどのような印象を抱いていますか? また、リスナーには今作をどのように聴いてほしいですか?

夏bot:最後の〆っぽいので、無言勢のみなさんからお願いします。じゃあまーしーさんから。

まーしーさん:……。

夏bot:わかった。じゃあまーしーさん最後でいいです(笑)。

U-1:じゃあ僕からいこうか。まぁ2016年の締め括りみたいな、「コレ聴かないで何聴くの?」的な。そういう作品になったんじゃないかなって。「いっぱい世の中にいい音楽有るけど、とりあえず今はFor Tracy Hyde聴こうよ。話はそれからだ」って。

夏bot:いいねいいね。じゃあ、次はエウはん。

eureka:え〜。何か重い話になりそう(笑)。……好きなものは好きなままでいいから、是非今のFor Tracy Hydeも聴いてみてね。……って、こんな感じでいい?

U-1:……うわぁ。重い(笑)。

Mav.:じゃあ次は僕が。えっと、我々が好きなものを詰め込めるだけ詰め込めた作品だと思うので、そういうのが伝わってくれれば嬉しいです。あとは、僕らがオマージュしている過去の音楽とか、同時代の音楽に対する入り口みたいな役割を果たせたらって思います。特に若い子の入口になりたいねって話は常々バンド内でも話していて。だから今回もできるだけ価格を安くしたくて、レーベルの担当さんにもすごい無理なお願いをしたっていうのもあるので。

夏bot:うんうん。じゃあ、次は私か。……ノスタルジックだけど新しいし、バラエティに富んでいるけど統一感もある。すごいマニアックな部分もあるけど、全体としては全然難解じゃなく、どちらかというとすごいポップな作品になっていると思うんです。色々な文脈の中で語ることはできるけど、そのどれにも集約されない、すごいアルバムになったのではないかっていう思いが自分の中にはあるので、多くの人に届いてほしいです。あとは、たぶん10代とか大学生くらいの若い子が聴けば、きっと何かしら感じることがあると思うので……本当に、違法ダウンロードでも万引きでもいいから聴いて欲しいなって(笑)。

U-1:それ、大事(笑)。僕、昔レコ屋でFlipper’s Guitarの『ヘッド博士の世界塔』の初回盤CDを3800円で見つけた時、一瞬店員さんの方見てしまったからな。お金がなくて(笑)。
その後冷静になって銀行でお金落としてきたけど。マジで人生で最初で最後よ、万引きが頭をよぎったの(笑)。

夏bot:Flipper’sも自分たちの作品、万引きしたいとか言ってたもんね(笑)。実際、1000枚売るのと1万枚盗まれるのだったら後者のほうが断然嬉しい。

U-1:まぁそれは大げさな話ですけど、でも、本当にそれくらいの衝動を持ってくれたら嬉しいなって。

夏bot:本当にそうだよね。……じゃあ、待望のまーしーさん、最後に〆を。

まーしーさん:……自分は地元にいた時からずっとバンドやってたんですけど、その時はシューゲイザーとかUSインディとかギター・ポップとか、そういう自分が好きな音楽を共有できる人が周りにすごい少なかったんですね。それで東京に出てきて、この人たちと知り合って、気付いたら自分もそういう音楽を発信するバンドに入っていて。シューゲイザーとかギター・ポップとか、そういう自分の好きな音楽を、「こういう形だったら世の中の多くの人に届けられるな」って思える作品を作ることができて……なんていうか、純粋にすごい嬉しいです(笑)。

U-1:おぉ……めっちゃいいこと言うやん(笑)。

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【リリース情報】

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For Tracy Hyde 『Film Bleu』
Release Date:2016.12.02 (Fri.)
Price:¥2,000 + Tax
Label:P-Vine
Cat.No.:PCD−20371
Tracklist:
1. There’s A Story In Your Eyes, And I Will Read Between The Lines
2. Her Sarah Records Collection
3. SnoWish; Lemonade
4. Outcider
5. Crystal
6. First Regrets
7. Overexposure
8. Favourite Blue
9. Shady Lane Sherbet
10. Emma
11. あたたかくて甘い海
12. fallingasleepinthepassengerseat
13. After
14. 渚にて

■『Film Bleu』特設サイト:http://fortracyhyde.com/FilmBleu/

■For Tracy Hyde オフィシャル・サイト:http://fortracyhyde.com/

■Twitterアカウント:https://twitter.com/fortracyhyde


【イベント情報】

For Tracy Hyde『Film Bleu』リリース・パーティ
BLUE4U IN TOKYO

2017/1/9(月・祝)
会場:渋谷 TSUTAYA O-NEST
Open 18:00 Start 18:30
Ticket:adv.2500円 / door.3000円(1Drink別途)

Live:
For Tracy Hyde
Special Favorite Music
・・・・・・・・・
nakanoise

and more……!

ご予約方法:
・11/10(木)から各プレイガイドにてチケット発売開始
・メール予約:fortracyhyde+ticket@gmail.com
公演日時、お名前(フルネーム)、ご予約枚数をご明記下さい。

■For Tracy Hyde『Film Bleu』リリース・パーティ
BLUE4U IN OSAKA

2017/01/22(日)
会場:大阪 NOON + CAFE
Open 18:00 Start 18:30
Ticket:adv.2000円 / door.2500円(1Drink別途)

Live:
For Tracy Hyde
LADY FLASH
Balloon at dawn

DJ bghs (boyfriend’s dead)

and more……!

ご予約方法:
公演日時、お名前(フルネーム)、ご予約枚数をご明記の上、下記メールアドレスにご連絡下さい。
[ fortracyhyde+ticket@gmail.com ]

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