まるでアジア版・音楽特化型の『SXSW』のようなコンベンション & ショーケースフェスティバルが、台湾にて2024年より毎年開催されている。舞台は台北の巨大複合施設・Taipei Music Center(台北流行音楽センター / 以下、TMC)。ここで毎年8月に開かれる『TRENDY TAIPEI Series TMEX & JAM JAM ASIA』は、台湾と世界をつなぐ役割を果たしている。
注目すべきは、その「会場」そのものだ。ここ日本において大規模なライブ会場といえば、スポーツなどにも使われる多目的アリーナが主流だ。しかし、TMCは台湾政府が国家プロジェクトとして建設した、ポップミュージックの「ためだけ」に設計された複合施設である。これほどの規模で音楽専用の拠点を行政が用意した例は日本にはなく、「音楽の街」という構想のもと、人材育成・産業連携・国際交流のすべてを一箇所に集約する、かなり野心的な試みだ。
都市型フェス『JAM JAM ASIA 2026』では、台湾のベテラン〜新鋭ミュージシャンはもちろん、HYUKOH(韓国)、Woo Huijun(韓国)、H 3 F(タイ)、((( O )))(フィリピン)、1300(オーストラリア)、そして日本からは大貫妙子、新しい学校のリーダーズ、んoon、DJ KRUSHといった国境、世代、ジャンル、シーンを越えたアーティストがラインナップ。一方、大規模コンベンション『TAIPEI MUSIC EXPO / TMEX(台北音楽博覧会)』ではアジア圏を中心に集った音楽業界人のビジネスマッチングをはじめ、Netflixの世界的ヒットアニメ『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』制作チームの登壇や、グラミー受賞のマスタリングエンジニアによるトークセッション、ワークショップなども行われた。
Spincoasterでは『TMEX』および『JAM JAM ASIA』へ招聘してもらったことをきっかけに、同コンベンション & ショーケースフェスを主催するTMCの第3期董事長(理事長)・Eric Liang(梁序倫)にインタビュー。台北と世界をつなぐ「窓」のように機能するTMCの成り立ちから今後の展望まで、じっくりと話を訊いた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Official

音楽の街・TMCが有する機能と役割
――まずは台北流行音楽センターについて教えてください。構想から開館(2020年)まで17年ほどかかったとお聞きしました。当時の狙いや課題意識はどのようなものだったのでしょうか。
梁序倫:始まりは2003年、台湾行政院による「新十大建設政策(大型インフラ整備計画)」です。国際的な芸術文化の発信拠点を整備する必要から、台北・高雄それぞれにポップミュージックの拠点を作る計画が2004年に固まりました。2010年の国際コンペを経て、NYと台湾の建築事務所が設計を担当する形で2013年6月に着工し、2020年4月にパフォーマンスホールが、続いて文化館、産業エリアと段階的に開館しました。ちょうどコロナ禍と重なっていたので、大変な道のりでしたね。
TMCは単なるコンサート会場ではありません。27,000坪以上の敷地に、3,000人収容の屋外ステージや25の店舗、12の音楽オフィス、4棟のライブハウスなどが集まる複合的な「音楽の街」です。3つの棟で台湾ポップスの過去・現在・未来をつなぐ構成になっていて、1933年からの歴史を紹介する文化館が「過去」、人材育成拠点の産業エリアが「現在」、約5,000人収容のパフォーマンスホールが「未来」を担っています。
――「人材育成プログラム」について、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。また、現在の台湾の音楽業界には、どのような人材が特に不足していると感じますか?
梁序倫:学校教育の現場では、独自のドラム指導プログラム『フィンガードラミング』を毎年台湾の約20校に展開しています。台湾の教育部(日本の文部科学省にあたる)とは6年にわたり提携し、音楽教員向けの研修を実施していて、これまでに1,800人以上が受講しました。
アーティスト育成では、毎年10組の学生バンドを選出する単独公演公募プロジェクト『OPEN LAB(人才培育計畫)』や、若手バンドのコンペティション『TAIPEI MUSIC NON-STOP(臺北音樂不斷電))』を展開し、優秀なバンドは海外の音楽祭や『JAM JAM ASIA』への出演機会を得ます。
そして『TMC Concert Academy(北流演唱会学院)』では、ディレクターや音響、照明など裏方の人材を育成しています。台湾で一番不足しているのは「裏方」の人材なんです。この学院を通して育ったエンジニアたちが、将来、台湾のバンドの海外公演に同行できる体制を目指しています。

「台湾はどこへ向かうべきか」という問いから生まれた『TMEX』『JAM JAM ASIA』
――台北流行音楽センターは、台北初の行政法人だそうですね。台北市は、台湾の音楽産業をどのような形で成長させたいと考えているのでしょうか。
梁序倫:かつて私の上司だった〈Rock Records〉時代の先輩、シンガーソングライターのJonathan Lee(李宗盛)はこう言っていました。「台北流行音楽センターは『窓』のような存在であってほしい。台湾の音楽はこの窓を通して世界へ届き、世界の音楽もこの窓を通して台湾に入ってくる」と。この「窓」という発想は、初代董事長・黄韻玲(Kay Huang)が掲げた「音楽の街」という構想とも重なります。
台湾は島国で市場の規模に限りがあるからこそ、常に国外に目を向ける必要がある。これは日本のJ-POPも韓国のK-POPも同じだと思います。私自身、かつて韓国に駐在した経験もありますが、台湾も韓国も、もともとは日本の音楽から多くを学んできました。今、日本はJ-POP、韓国はK-POPでそれぞれ独自の強さを確立しています。では台湾はどこへ向かうべきか――私たちが出した答えのひとつが、個性豊かなインディバンドです。だからこそ、『TMEX』というプラットフォームから、その熱量を世界に発信するステージ――『JAM JAM ASIA』を立ち上げたんです。
――まずは『TMEX』について教えてください。具体的にどのようなことが行われているのでしょうか。
梁序倫:『TMEX』は文化館の1階・2階に展示ブースを構え、4日間で開催しています。前半2日間は業界関係者向け、後半2日間は一般向けの「BtoC」のプログラムとなり、同時に『JAM JAM ASIA』の開催期間になります。

梁序倫:初日の国際フォーラムでは毎年Keynoteセッションを用意していて、昨年は日本の『THE FIRST TAKE』を招きました。今年は2本立てで、ひとつはNetflixで話題になったアニメ『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の制作チーム。もうひとつは、9,000枚超ものアルバムを手がけてきたグラミー受賞のマスタリングエンジニア・Howie Weinbergで、台湾の若手プロデューサー30名向けのワークショップも開催しました。ほかに5つのパネルセッションがあり、『Coachella』のチームを招いたセッションも組んでいます。
2日目はビジネスマッチングの『BIZ MATCHING』。海外から100名超のデリゲートを招き、約500件のマッチングが行われました。週末は『JAM JAM ASIA』のライブも行われ、会場全体で計7ステージ(うち2つは無料)。市民大道を通行止めにした屋外ステージも今年の見どころです。徒歩10分圏内にすべてが集約されていて、暑い台湾の夏でも、冷房の効いた屋内ステージで涼みながらライブを楽しめます。
台湾、アジアの音楽の「今」を映し出す『JAM JAM ASIA』
――先ほど、『JAM JAM ASIA』の立ち上げについて少し触れましたが、もう少し具体的に教えてもらえますか?
梁序倫:起源は、TMCが約3年前に発足させた「国際顧問団」です。世界8カ国から集まった16名の国際顧問と3カ月に一度会議を重ね、台湾の主要なレコード会社やマネジメント会社、音楽フェスが集まって商談できるプラットフォームを作ろうとしました。それがやがて『TMEX』というエキスポに結実します。
ただ、プラットフォームを機能させるには、アジアの音楽人たちが実際に交わる「舞台」が必要でした。そこから派生する形で生まれたのが『JAM JAM ASIA』です。将来的には、『JAM JAM America』や『JAM JAM Europe』のような形に広がってもいいと思っています。立ち上げの過程では、Zeppや『FUJI ROCK FESTIVAL』、AKB48の海外展開チームなど、日本の音楽関係者からも数多くの協力がありました。
――音楽業界の第一線で活動する複数のアーティスト・業界人がキュレーターとなり、出演者を選定するそうですね。このような体制となったのはどうしてなのでしょうか。
梁序倫:私たちは行政法人です。だからこそ、チケット販売を目的とした民間の音楽フェスとは違う軸を持ちたかった。特定の運営者の好みに偏るのではなく、複数の視点を重ねることで、台湾の、そしてアジアの音楽の「今」を映し出したかったんです。
昨年は台湾の主要音楽フェスの運営者たちが、今年はロックバンド・Mayday(五月天)のメンバーや、シンガーソングライターのMavis Fan(范曉萱)をはじめ、レーベルやライブ演出・制作会社、ショーケースイベントの主催者などがキュレーターを務めています。半年かけて会議を重ね、それぞれが招きたいアーティストの「ドリームリスト」を持ち寄るところから始まります。見方を変えれば、キュレーターたちが「この先10年でアジア太平洋地域から現れるであろう才能」を選んでいるとも言えるかもしれません。
――キュレーションの自由度とフェスとしての集客力のバランスについては、どのように考えていますか?
梁序倫:私たちが考えているのは、これからアジア全体の音楽市場がどうなっていくのか、ということです。有料フェスである以上、収益を上げることは期待していますが、IPを確立するには長い時間が必要です。『Megaport Festival 大港開唱』は20年近い歴史、『FIREBALL Fest. 火球祭』も10年以上続く中で、『JAM JAM ASIA』はまだ3年目です。私たちが最も重視しているのは損益分岐点を達成することではなく、台湾とアジアのポップミュージックをこの場所でしっかり見せていくこと。それがより重要だと考えています。
――『JAM JAM ASIA』は今年で3回目を迎えますが、初開催からどのように変化、改善してきましたか?
梁序倫:一番大きな変化は、ステージ数が増えたこと。過去2回は屋内4ステージのみで、約5,000人収容のパフォーマンスホール(表演廳)の次が2,000人規模のLegacy TERAと、キャパシティに大きな開きがありました。そこで今年は約3,000〜4,000人収容の屋外ステージを新設し、5つのステージの収容人数を段階的につなげられるようになりました。会場全体には合計7つのステージがあり、残り2つは無料で楽しめるステージです。今年は総勢99組が出演し、カザフスタンなど中央アジアからの参加者もいます。アジア太平洋地域における非常にユニークな音楽の祭典になっていると思います。
――『JAM JAM ASIA』には毎年、日本からも多くのアーティストが参加しています。台湾やアジアのオーディエンス、音楽関係者は、今の日本の音楽をどう見ていますか?
梁序倫:最初にもお話したように、日本の音楽が台湾に与えてきた影響は非常に大きいです。J-POPはもちろん、シティポップやアイドル、アニメ音楽まで、台湾には日本の音楽を聴くリスナーが本当にたくさんいて、日本のアーティストが台湾で公演をすればほとんど宣伝なしでチケットが完売することも珍しくありません。TMCでは過去にMISIAやKing Gnuも公演を行っています。11月には木村拓哉さんの公演もパフォーマンスホールで予定していて、チケットはすでに完売しています。
だからこそ、日本とのコラボレーションはこれからも積極的に進めたいと考えています。『FUJI ROCK FESTIVAL』との連携もその一例で、来年は「ROOKIE A GO-GO」のステージに『TMEX』と『JAM JAM ASIA』が推薦する台湾のバンドが出演する予定です。
また、現在『MURO FESTIVAL』(日本)、『Busan International Rock Festival』や『Zandari Festa』(ともに韓国)など、海外の音楽フェスティバルやイベント主催・企画団体との緊密な交流・協力関係を築いています。今後も国際的な連携をさらに深め、台湾のミュージシャンが海外のステージで活躍する機会をより一層創出していきたいです。
【イベント情報】

『JAM JAM ASIA 亞洲音樂節 2026』
日程:2026年8月29日(土)、8月30日(日)
会場:台湾・台北流行音楽センター
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『TAIPEI MUSIC EXPO / TMEX(台北音楽博覧会)』
日程:2026年8月27日(木)〜8月30日(日)
会場:台湾・台北流行音楽センター
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