全国ツアー『GET ON THE BOAT』で各地のファンを熱狂させた3人組プロジェクト・DURDN。Michael JacksonやB’zへのオマージュを取り入れた緻密なサウンドメイキング、会場ごとに変化を加えた歌詞、観客との心温まるやり取り。SHINTAを中心に築き上げたダイナミックなサウンドスケープと、信頼するサポートメンバーとの息の合った演奏が生み出したのは、DURDNらしい遊び心と探求心に満ちたパフォーマンスだった。
ツアーで披露された新曲“idealistic”と“Hearth Place”は、それぞれ異なるアプローチで制作され、DURDNの新たな挑戦と進化を象徴する楽曲だ。SHINTAの洗練されたトラック、Bakuの感情豊かな歌声、yaccoの繊細かつリアルな歌詞が絡み合い、これまでのDURDNらしさを残しつつも新たな地平を切り開いている。
ツアーや新曲制作を通じて見えたDURDNの現在地と未来。その裏側にある想いや制作のこだわりについて、3人にたっぷり語ってもらった。
Interview & Text by Takanori Kuroda
Header Photo by Kanta Nakano(SMS)

カバー曲に対するこだわり。過去最大規模のツアーを振り返って
――まずは先日ファイナルを迎えたツアー『GET ON THE BOAT』の手応えをお聞かせください。
SHINTA:今回はエンタメ性をより強調したツアーを目指しました。タイトル自体がMichael Jacksonの楽曲“Get on The Floor”へのオマージュでもあったので、たとえばセットリストの組み方や曲間の繋ぎにこだわり、オマージュ的な要素を多く取り入れるなど仕掛けをたくさん用意して、お客さんに驚いたり楽しんだりしてもらえるような、これまで以上に「ライブ映え」のするアレンジになったと思っています。
yacco:いい意味でお客さんとの距離感がとても近く感じられるツアーになったのかなと。会場自体は前回より大きくなっていたんですけど、メンバーとお客さんとのやり取りがとても自然体で、それが前回のツアーとの大きな違いだと思いました。
私は基本的にステージの後ろで観ていたのですが、「今この瞬間を楽しんでいるんだな」という雰囲気がナチュラルに伝わってきて。サポートメンバーも含め、チーム全員が一体感を持って挑めたという手応えを感じています。
Baku:ツアー中、いろんな会場で何度もライブを観に来てくれるお客さんがいて、それが本当にありがたかったですね。
yacco:今回、Bakuが“忘れたいね”の歌詞を公演ごとに少しアレンジして、会場の地名を入れていたんですよ。たとえば香川だったら《何しよう映画観ちゃおう》の部分を《何しよう高松来ちゃおう》に変えて歌ったり。どの会場でもすごく盛り上がっていましたね。こういう親密な距離感が生まれるのって、本当に嬉しいなと思いながら観ていました。

――今回、カバー曲を3曲用意して、公演毎にお客さんの声で選ぶ形にしたんですよね。その3曲はどのように選ばれたのでしょうか?
Baku:最初は、僕が知っている曲から選ぼうというところから始まりました。
SHINTA:選んだのは、久保田利伸さんの“LA・LA・LA LOVE SONG”、松原みきさんの“真夜中のドア〜Stay with me”、それから宇多田ヒカルさんの“Distance”。この中から各会場で1曲を演奏する形にしました。カバー曲をやるときは、基本的にオリジナルと同じスタイルにはしないことを自分の中でルールにしています。前回の作品でもそうでしたが、今回のツアーは特にオマージュ要素が多かったので、アレンジのリファレンスをしっかり決めてからアレンジしました。
――どのような楽曲をリファレンスにしたのでしょうか。
SHINTA:“LA・LA・LA LOVE SONG”はTom Misch風にアレンジして、“真夜中のドア〜Stay with me”はDaft Punk風に仕上げました。“Distance”に関しては、以前J-WAVEさんの企画でマッシュアップのワンコーラス版を作ったことがあったのですが、それをそのままフルコーラスにするのはおもしろくないなと思って、さらに工夫を加えています。
昨年の夏に宇多田ヒカルさんのライブを観に行ったとき、“Distance”をm-floリミックスのガラージ風アレンジで披露していて。それにインスパイアされ、ワンコーラス目はオリジナルの“Distance”に近いテンポ感で演奏しつつ、最後のコーラスではUKガラージ風にテンポアップするアレンジに仕上げました。
――曲の繋げ方も秀逸でしたね。特にファイナル公演では、“真夜中のドア〜stay with me”から“Palm”へ繋ぐ部分で、BPMを揃えた演出が印象的でした。
SHINTA:2曲のBPMが偶然同じだったので、「じゃあ繋げてみよう」と軽いノリでやってみたんです。上手くハマってよかったですね。僕自身、普段からZeddやThe ChainsmokersのようなDJとしても活躍するアーティストをよく聴いているので、そういった影響が自然と体に染み付いているのかもしれません。
――他の曲でも、B’zやMichael Jacksonなどのフレーズが散りばめられていましたよね。その辺りのこだわりについても聞かせてください。
SHINTA:B’zに関しては、間違いなく年末に『紅白歌合戦』を見てテンションが上がったのがきっかけですね(笑)。B’zのオマージュ自体は前回のツアーでもやっていたのですが、年明けの名古屋公演と東京公演からさらに増やしました。
Michael Jacksonに関しては、最初に言ったようにツアータイトル自体がオマージュですし、以前もお話しましたが、ダンスをやっていた頃から、彼の音楽や動きが自然と体に染み込んでいる感覚があって。曲名すら知らなくても「これ、Michaelの曲っぽい」と思えるほど強い影響を受けています。
「自信はあるけど、決して現状に満足しない」
――そういう意味では今回のツアーには、SHINTAさん自身のルーツを再確認する意味もありました?
SHINTA:確実にありましたね。僕がダンスを辞めたタイミングが、ちょうどMichael Jacksonが亡くなった頃と重なっていたんです。そのときに公開された、Michaelのドキュメンタリー映画『THIS IS IT』が強烈に印象に残っていて。その中で、Michaelのツアーに参加する予定だったOrianthi Panagarisというギタリストの演奏が、僕がギタリストを目指す大きなきっかけになったんです。
――DURDNのこれまでの楽曲にも、そういった先人たちのオマージュが随所に散りばめられていましたよね。
SHINTA:そうですね。例えば“Vacation”の最後のアウトロのギターソロは、実はJohn Mayerの“Belief”のオマージュです。それと“Regrets”のビート感は、Michael Jacksonの“Remember The Time”のBPMを参考に作っていきました。
――そういったオマージュには、好きなものを次に繋げる、いわばDNAを受け継いでいくような気持ちもありますか?
SHINTA:ありますね。方向性は違いますけど、B’zもそういったことをずっとしてきたアーティストだと思うんです。B’zがオマージュしていた海外アーティストを遡って聴くうちに、自分の音楽の幅も広がっていった。僭越ながら、そのマインドを受け継ごうという気持ちがあります。
――ライブ後、物販でファンと触れ合う機会があったそうですね。特に印象に残っているエピソードはありますか?
yacco:終演後にお話しさせていただいたファンの方たちの中に、高校で国語の教師をされている方がいらっしゃったんです。その方が授業で“Regrets”の歌詞を取り上げ、生徒たちがそれをきっかけに自分たちの物語を創作するという課題を出されたそうで、その作品をまとめた冊子を持ってきてくださいました。
――へえ! それはすごく嬉しいですね。
yacco:そうなんですよ。それぞれの生徒が自分なりの解釈で初々しいストーリーを作ってくれていて、「曲って、聴く人によってまったく違う意味を持つんだな」と改めて感じました。私は普段、歌詞の解釈を限定しないように意識しているのですが、それが結果的に生徒たちの自由な発想に繋がったのかもしれません。
――ツアーを通じて、3人の間で新たに発見したことや気づきはありましたか?
Baku:ライブの後にみんなでご飯を食べに行ったり、リハの合間にその土地を楽しんだりする時間も多かったんです。そういう時間を重ねたことで、メンバー同士はもちろん、サポートメンバーともさらに距離が縮まった気がします。「ひとつのチーム」という感覚がより強くなって、「また一緒にやりたい」と自然に思える雰囲気になったというか。
yacco:今回また一緒にツアーを回ってみて、3人とも理想がすごく高いんだなって改めて感じましたね。ライブが終わった直後は「今日のライブ、よかったね」とみんなで言い合うんですけど、翌日にはそれぞれが映像を見返して、どうすればさらに進化できるかを考えていたのが印象的でした。自信はあるけど、決して現状に満足しない。その姿勢こそが、DURDNの強みなんじゃないかなと。


アフロビーツやアマピアノの要素を取り入れた新曲
――新曲についてもお聞きします。yaccoさんが「3人は理想が高い」とおっしゃいましたが、奇しくも“idealistic”は理想主義や完璧主義をテーマにした楽曲です。どのようにして生まれたのでしょうか?
yacco:これは、SNSなどでよく話題になる「MBTI診断」という性格診断テストがきっかけですね。DURDN内でも一時期流行っていて、ツアー中はサポートメンバーも含めてみんなでやっていました。私は「提唱者」という結果が出たんですけど、そこに「あなたは理想主義者です」と書いてあって。最初は正直ピンと来なかったのですが、メンバーから「確かに、そういう部分あるよね」と言われて、「私って現実主義者じゃなかったんだ!」と気づきました。それに、よく考えたらこの「理想主義」って私だけじゃなくて、3人全員に共通する部分かもしれないなと。そこから“idealistic”が生まれました。
――《不安定な天気の状態 / 傘も持たずに走り出す》というフレーズが印象的で。不満を抱えながら現状を維持するより、不安があっても変えていこう、という思いが込められているように感じました。
yacco:そうですね。今考えていることや、これまでの経験を振り返りながら「このままでは嫌だ」と感じる部分をテーマにしています。おっしゃるように、先は見えないし正解かどうかもわからない。でも、「それでも変わらないことの方が怖い」と思う瞬間ってありますよね。そんな気持ちを込めました。
――トラックにはアフロビーツの要素も取り入れていますよね。
SHINTA:完全にアフロビーツというわけではなく、そのエッセンスを注入した感じです。ちょうど前作『ON THE ISLAND』を制作していた頃に、Tylaにハマっていて。アフロビーツやアマピアノ的な音作りに挑戦してみたいと思ったのがきっかけです。
SHINTA:僕は専門学校でプロミュージシャンコースのギター科を専攻していたのですが、途中からジャズコースの授業も受けていて。ワールドミュージックやジャズを深く研究されている先生から学んだことを思い出し、それを自分の音楽にも取り入れてみようと思いました。
yacco:このトラックはリズムが細かく刻まれていて、全体的に16分音符が基調になっています。普段、こういうタイプのトラックではメロディの音数を減らしてバランスを取ることが多いんですが、今回はそのリズム感に合わせてメロディも16分音符のように細かく刻んで、疾走感を出すアプローチに挑戦しました。
フックも普段はキャッチーさを意識して同じフレーズを繰り返すことが多いのですが、今回はあえてメロディを詰め込んで、より細かい動きをつけることを意識しています。こういったアプローチは久しぶりでしたね。
Baku:この細かく刻まれたメロディは、歌っていてもすごく気持ちよかったです。リズムのノリを楽しみながら歌えましたね。

「これからどんな方向に進むか、全てが自由になった」
――“Hearth Place”はどんなコンセプトやテーマで作られたのでしょうか?
yacco:この曲では、大切な人を失った後の喪失感によって、まるで時間が止まってしまったかのように感じる人をテーマにしています。私自身の実体験に基づいている部分もあって、最近の出来事ではないのですが、その感覚は今でも鮮明に残っているんです。
SHINTAが作ったトラックを初めて聴いたとき、石油ストーブの匂いや焚き火のパチパチと燃える音のような、ノスタルジックで温かい情景が浮かんできました。そうした感覚が、この壮大なテーマにぴったりだと感じ、そこから歌詞を書き始めました。
――音を聴いて匂いを感じるというのは、yaccoさんならではの感性ですよね。《灯油の匂い》や《乾かない靴下》といった言葉選びも、yaccoさんらしいなと思いました。
yacco:ありがとうございます。雪の中を歩く情景を思い浮かべながら、靴下が濡れてなかなか乾かない感覚など、日常のリアルな感触も表現しようと思いました。この曲の主人公は、「生きたいから生きている」というより、「生きなければならない理由があるから、仕方なく生きている」という状況です。大切な人を失い、その存在が自分にとってすべてだったという喪失感を伝えられたらと思いました。
――アレンジ面では、2サビ後の壮大な展開からの大サビがとても印象的でした。あの展開はどのようなアイデアから生まれたのでしょうか?
SHINTA:あそこは途中からハチロク(8分の6拍子)や変拍子を取り入れる構成にしました。このアイデアは、Tigran Hamasyanというピアニストの楽曲から影響を受けています。もともとこの曲は1番までで完成していたんですが、宇多田ヒカルさんのライブを観たことで考えが変わりました。
SHINTA:宇多田さんの“桜流し”が持つ壮大でスケール感のある展開がすごく印象的で、“Hearth Place”にもそうしたダイナミックなアプローチを取り入れたいと思ったんです。そこから「もっと展開を広げる」というアイデアが生まれました。少し強引に繋げた部分もありますが(笑)、結果的にドラマチックな仕上がりになったと思います。
――サウンドの質感も、この部分でガラッと変わりますよね。
SHINTA:この曲は“年の瀬に”と同じくアップライトピアノを使っているんですが、展開部分ではグランドピアノに切り替えて、よりスケール感を出しました。
あと、ドラムのアプローチにもかなりこだわりました。特に2番から入ってくるキックとスネアには、ダブステップ的な要素を取り入れています。参考にしたのは、Cashmere Catというメロディックダブステップ〜フューチャーベース系のプロデューサー。昔から大好きで、彼のサウンドから影響を受け、スネアの質感に反映させました。自分としてもとても満足のいく仕上がりですね。

――Bakuさんの《君が残した優しさに / 何度も振り返ったり》の部分はとてもエモーショナルで、これまでにない表情が感じられました。
Baku:ありがとうございます。これまであまり張り上げるような歌い方はしてこなかったので、今回のレコーディングでは新たな挑戦でしたね。あと、歌い出しのAメロにもこだわりました。雪が降る寒い夜に、ひとり静かに立っているような情景を思い浮かべながら、それがリスナーに伝わるよう、細かいニュアンスを大切にしています。
――この2曲はツアーの最初から披露されていました。実際にライブで演奏してみて、どのような手応えがありましたか?
Baku:“idealistic”は、本当に僕が好きなタイプの楽曲で、歌っていてすごく楽しい曲ですね。一方で“Hearth Place”は、また違った魅力があります。みんなで盛り上がる曲ももちろん好きなんですけど、静かな入りから後半にかけてドラマチックに展開していく。その前後のギャップがあるからこそ、お客さんにDURDNの新しい一面を見せられたんじゃないかなと。
SHINTA:この2曲は、これまでのDURDNの集大成でもあり、新たなスタートのきっかけになった感覚もあります。そういう意味で、これからどんな方向に進むか、全てが自由になったと感じていますね。
――なるほど。
SHINTA:その一方で、リスナーの皆さんがどのような作品を求めているのかも、ある程度わかってきた気がしていて。それを意識しつつも、自分たちが楽しめるものをこれからも届けたいです。基本的にはメインストリームに乗りたいという強い意思がありますし、トップを目指すのを前提に置きながら、これからもいろいろなことに挑戦していきたいですね。
yacco:今回の作品を通して、今後はアコースティックの楽曲や、生ドラムをレコーディングした楽曲など、これまであまりやってこなかったことにも挑戦していきたいと思っています。そして、リスナーの反応を気にしすぎるのではなく、自分たちが本当に作りたいものを自由に表現していく。それが今のDURDNの強みでもあると思っています。

【リリース情報】
DURDN 『idealistic』
Release Date:2025.01.29 (Wed.)
Label:Sony Music Labels Inc.
Tracklist:
1. idealistic
2. Hearth Place