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INTERVIEW | CUEW


東京発のショーケースフェスが示す海外進出の道筋、現状の課題と展望

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2025.08.16

「ショーケースフェス」とは、海外の音楽関係者へ向けてアーティストのライブが披露される音楽イベントのことだ。世界各国のブッキングエージェントやフェスティバルオーガナイザーが「デリゲーツ」としてイベントに招待され、各国の音楽業界の現状や課題について議論を交わす“情報交換の場”としても機能する。

アーティストにとっては海外進出のチャンスの場、デリゲーツにとっては国内の才能をいち早く見つけるヘッドハントの場としても機能するショーケースフェス。欧米圏やアジアをはじめ世界各国で同様のフェスが開催されるなか、いよいよ日本・東京発のショーケースフェス『CUEW』が誕生する。記念すべき初回は8月18日(月)、19日(火)の2日間にわたって東京・渋谷にて開催。16組の日本国内の注目アーティストと国内外の音楽業界のキーパーソンが集結する。

「未来のヘッドライナーへと成長できる新しい場を提供していく」ことをステートメントにも掲げる『CUEW』。彼らはなぜ東京を舞台に、日本のアーティストの海外進出を支援するプラットフォームを築いたのだろうか。その活動の狙いとビジョン、そして国外のショーケースフェス事情を紐解くべく、主催メンバーにインタビュー。兵庫県を中心に『ONE MUSIC CAMP』『ARIFUJI WEEKENDERS』『MAGICHOUR』を主催する野村優太、青山・月見ル君想フの店長を経て独立したタカハシコーキ、音楽ディストリビューターで多くのインディペンデントアーティストのサポートを行っている佐藤裕香の3名に話を訊いた。

Interview by Takazumi Hosaka
Text by Nozomi Takagi

L→R:佐藤裕香、野村優太、タカハシコーキ

ショーケースフェス立ち上げにつながる問題意識と課題

――『CUEW』立ち上げの経緯について教えてください。

野村:3年ほど前から海外のショーケースフェスに、デリゲーツとして個人的にお声がけをいただくことが増えたんです。さまざまな現場を見て回り、海外の音楽関係者と交流するうちに「もっと日本のアーティストや音楽関係者が海外に行けるようになればいいのに」と思うようになりました。

そもそも日本にはショーケースフェスと呼ばれるイベントは数えるほどしかありません。ドメスティックな音楽市場が潤っている反面、アーティストが外に踏み出すチャンスは相当限られています。何より東京でほとんど開催されていないのが気になっていて。都心部にこそ海外進出の機会を作るべきだと感じました。その上で、タカハシさんとは香港や台湾、モンゴルなどの海外フェスへ一緒に行ったりもしていて“同じ目線を持つ者同士”だったんですよね。お互いデリゲーツとしての経験があるからこそ「東京でショーケースフェスができないか」という点で意見が重なり、実現に至りました。

タカハシ:実は日本にも沖縄・コザで開催されている『Music Lane Festival Okinawa』(以下、Music Lane)という素晴らしいショーケースフェスがあるんです。国内のアーティストにチャンスが与えられるフェスだからこそ、東京でも同様のショーケースフェスの開催が必要だと感じていました。

僕も野村くん同様、海外で音楽関係者と交流するたびに「日本の音楽って意外と知られてないんだな」とショックを受けることが多々あって。日本の音楽を世界に発信できるようなプラットフォームを作りたいと思いました。

――実際「『Music Lane』の東京版ができないか」という話は、各方面で議題に挙がっていたように感じます。おふたりは海外フェスにゲストとして招聘されていると伺いました。特に影響を受けたイベントなどはありますか?

野村:僕は韓国の『Zandari Festa』ですね。アジアでは珍しく欧米のデリゲーツが多く参加するショーケースで、キャッチフレーズの通り「Listen to music, drink beer, make friends」みたいなフェスなんです(笑)。とりあえずアーティストもデリゲーツも仲良くなることから始めようぜ! っていうノリ。主催者の「エンタメをやっている以上は人を楽しませるべき。ビジネスはそこから」っていうスタンスが刺激になりました。

佐藤:『Zandari Festa』は主催者やデリゲーツだけじゃなくて、アーティストや会場全体でもコンセプトが一貫しているのが気持ちいいですよね。「具体的なビジネスプランはない、音楽をただ好きなだけ」という人でも、その場から何かのきっかけが生まれるようなポテンシャルがあるなって。

タカハシ:僕は2018年に北京で開催された『Sound of the Xity』です。デリゲーツとして招待されたのですが、中国のいいアーティストを知れたこと、初めてショーケースフェスに参加して各国のフェス主催者と交流できたことが衝撃的で。その場ではヨーロッパからのデリゲーツもいて、当時の経験が今につながっています。

もうひとつ挙げるとすれば、去年参加したフランスの『MaMA Music & Convention』という大きなショーケースフェス。フランスのアーティストをとにかく世界中の音楽関係者にプレゼンするためのイベントです。

――そういった海外ショーケースフェスにデリゲーツとして招聘される機会は、どのようにして掴んだのでしょうか。

タカハシ:僕の場合は以前務めていた会社・BIG ROMANTIC ENTERTAINMENT / 大浪漫娛樂集團がレーベルを運営していたり、アジアの音楽を日本で紹介したりしていたので、昔からアジア圏と交流があって。その関わりから一度ショーケースフェスに招待されて以降、デリゲーツ同士の交流も増え、徐々に横のつながりが増えていきました。

そのうえで、日本のマーケット事情を知りたい音楽関係者は世界中にいる。英語が話せる日本の音楽関係者もそこまで多くないので、一度デリゲーツとしてイベントに参加すると、そこからすごく重宝されることを知りました(笑)。

野村:僕は2021年、『Music Lane』主催の野田隆司さんに「韓国・京畿道の『Gyeonggi Indie Music Festival』が日本のデリゲーツを探している」と紹介を受けたのが始まりでした。もちろん、僕自身が『ONE MUSIC CAMP』というプラットフォームを持っていたのが大きかったと思います。

実際に行ってみると、『Joyland Festival』(インドネシア)、『LUC fest』(台湾)、『Clockenflap』(香港)の主催の方々や、タイからはなんと行政の人まで参加していて。デリゲーツ同士ですごく仲良くなり、2ヶ月後には「インドネシアに来て喋ってよ」と声をかけてもらったりして、徐々につながりが広がっていきました。


海外進出の戦略を2日間で学ぶプログラム

――『CUEW』では音楽業界のキーパーソンによるトークセッション(Conference)と、国内アーティストによるショーケースライブという2つの構成でプログラムが組まれています。各ラインナップの選定基準について知りたいです。

タカハシ:あくまで今回のイベントは「日本のアーティストを海外のデリゲーツにプレゼンする」ことが目的。そして海外のフェスに日本のアーティストが呼ばれることがゴールなので、先にデリゲーツの選定から始め、後からアーティストのラインナップを決めました。

デリゲーツの人選は国際交流基金(以下、JF)の方々と一緒に検討したのですが、「新しいきっかけを作る」ということに焦点を当て、想像力を掻き立てられるような、おもしろい取り組みをしている方にオファーしました。

野村:それこそチェコで『Colours of Ostrava』を主催しているFillip Kostalek氏は、台湾のアーティストや日本のDJをフックアップしていて、アジアの音楽シーンにもちゃんと目を向けている存在。またインドネシアのDewi Gontha氏は『Java Jazz Festival』という、東南アジア最大級のジャズフェスの主催者です。

実際にラインナップが発表されて以降、国内外からの音楽関係者からもポジティブな反応をもらえたので、改めて自分たちの取り組みのニーズを感じました。カルチャーの生まれる街・東京という立地のおかげもあるかもしれませんが、周囲の期待値は高いと思います。

――カンファレンスの内容についてはどのようなものを想定していますか?

野村:1日目は日本のアーティストが海外に進出するためのきっかけになるようなトークセッションを予定しています。ショーケースフェスにおけるキュレーションの裏側など、日本というローカルからグローバルに羽ばたくための、いわゆるティップスやマインドセットです。

タカハシ:一般的にこういったカンファレンスでは、音楽産業全体をカバーするような幅広いテーマを取り上げることが多いですが、今回はアーティストなら誰もが悩むストラテジーの話に絞りました。そして1日目が「心構えを含む準備の話」だとして、2日目は具体的なケーススタディの紹介などの応用編になります。日本のアーティストがどういったことを準備すべきか、具体例を紹介いただきます。

野村:フェスの規模感や目的が違えば、キュレーションも変わってきます。その意図や狙いがわかれば、アーティストも次のアクションが明確になるはず。あとは台湾の『浪人祭 Vagabond Festival』が日本の『SYNCHRONICITY』とパートナーシップを結び、今年はオーディション企画を開催したので、その裏側について解説してもらったり。各国の戦略についても話してもらいます。

――海外進出を見据えるアーティストにとっては耳寄りな情報が満載になりそうです。

佐藤:「海外進出のストラテジー」というテーマはもちろん、アーティストを対象としたエデュケーションプログラムは、こういった取り組みの中でもでも珍しいと思います。でも、実際に『SXSW』など国外のショーケースフェスに出演経験のあるアーティストとお話しすると「いいパフォーマンスはできたけど、現地の関係者とのコミュニケーションが難しかったと悔しがる声は多くて。『CUEW』では2日間を通して、チャンスを活かせるような知識を提供できればと期待しています。


「日本で今どれだけ成功しているかはあまり重要じゃない」

――今回さまざまな国籍、文化背景をもったデリゲーツが『CUEW』に集結しますが、ショーケースライブに出演するアーティストはどのように決めたのでしょうか。

野村:同時期に愛知県豊田市で行われる『橋の下世界音楽祭』にデリゲーツと共に参加するのですが、『橋の下世界音楽祭』は民族音楽や伝統音楽を中心としたラインナップなのと、『CUEW』はデリゲーツにジャズフェスの主催者やショーケースフェスの主催者など、様々なジャンルの主催者がいるため、どんなジャンルのステージにも立てるアーティストたち、なおかつ、僕らが海外に向けてプッシュしたい方々にお声がけしました。

――「海外に向けてプッシュしたい」という部分について、もう少し具体的にお話いただけますか?

タカハシ:一番は「海外へ行きたい」という意思ですかね。初回だからこそ、より熱量の高いアーティストにオファーしました。そして個人的には、アーティストが海外でも活躍できるようなチームの下支えがあるかどうかも重視しました。インディペンデントだからダメということは全くないです。アーティスト本人の力でそれができるようであれば問題ない。ただ結果としてラインナップを見たときに、サポートチームが強固なアーティストが揃ったな、という印象です。

野村:もちろん熱量さえあればいい、というわけではなくて、アーティストとして海外でも通用するクオリティが担保できていることは大事。僕はシンプルに今回の『CUEW』が「ライブの質で評価される場」になると踏んだので、パフォーマンスが光るアーティストを選びました。

特に僕はフェスを運営する身でもあるので、デリゲーツの立場になったとき「このアーティストは自分のフェスにマッチしそう」「フェス以外にもワンマンを組めそう」といった判断基準でライブを観ることが多くて。状況に合わせてパフォーマンスのアプローチを変えられるような、柔軟性を持ったアーティストって重宝するんですよね。それも人選に表れたかもしれません。

佐藤:私は直接ブッキングに携わったわけではないのですが、いざラインナップを見たときに「パフォーマンス性の高いアーティストが揃った」と感じました。パッとステージを見たときに個性を感じるというか。実際にいち来場者としてフェスに訪れたとき、気になるアーティストというのは他に埋もれないパワーを持っていることが多いんです。そのうえで「海外を目指したい」とSNSで公言しているアーティストもいる。アクティブなプレイヤーが揃っているので、マッチングの場として上手く機能すれば嬉しいです。

――海外進出の手本となりそうな国内アーティストを挙げるとすると?

タカハシ:2018年に『Music Lane』の前身となるショーケースイベントに羊文学が出演していたんです。アジアのフェス関係者はそこで羊文学のライブを観ていて、実際に彼女たちも海外公演をソールドアウトさせるようになりました。チャンスを掴んでいるという意味では、ひとつの理想形かもしれない。

野村:シンガーソングライターのさらさも『Music Lane』から台湾のブッキングエージェントと繋がり、『LUC fest』やフィリピンのフェスにも出演していますね。同じく『Music Lane』繋がりだと、沖縄出身のTOSHや東京拠点のJohnnivanも台湾の9 Kickというブッキングエージェントと契約し、台湾の『野人祭 Savage Festival』に出演している。

動き方でいうと、Billyrromも台湾のバンド・Wendy Wander(溫蒂漫步)とコラボ曲をリリースし、一緒にツアーで回ったりしている。彼らも理想的な交流をしているなと思います。

――特にTOSHさんやJohnnivanの例は夢のある話ですよね。アップカミングな国内アーティストがショーケースフェスを通して海外エージェントと契約し、いち早く海外フェス出演を果たしている。

野村:それくらい日本のアーティストのクオリティは高いということだと思います。だから、あとは「海外へ行くこと」のハードルをどう下げるかなんです。

タカハシ:「日本で売れていない」=「お客さんに刺さっていない」と捉えるアーティストは多いのですが、文化の背景が関わることなので、場所を変えることで突然「刺さる」可能性は全然ある。だから日本で今どれだけ成功しているかは、あまり重要じゃない。まずはマインドセットとして、海外で売れることと切り離して考えてもらいたいです。

――そして「まずはアクションすること」と「次に繋げること」が大事、ということですよね。国内から出ない限りは、使える運も逃してしまう、と。

佐藤:それこそ海外でブレイクしたCHAIやおとぼけビ〜バ〜も、チームでチャンスを掴み、次に繋げるメソッドを考えていたと思うんです。ただアーティストや業界人の間でも、そういったメソッドが共有される機会は少ない。先々の構想としては、海外進出を果たした日本のアーティストをお呼びし、成功例を聞きながらメソッドを体形立てていきたいです。

どこまで話してもらえるかはわからないですが、チャンスの掴み方はみんなも聞きたいはず。どんなケースであれ共通する部分はあると思うので、カンファレンスを通して再現性を高めていければ理想ですよね。


アジア各国との連携、東京がムーヴメントの一端を担う未来を目指して

――『CUEW』に向けて実際に動き出したのはいつ頃からですか?

タカハシ:実は意外と直近で、今年の4月なんです。元々は来年2026年4月に第1弾開催を検討していたのですが、JFのサポートが決まったことで状況が変わりました。資金面がクリアされたからこそ、早く動くに越したことはないと判断しました。ショーケースフェスは興行ではない分、ファイナンスが厳しく、どの国の主催も頭を抱えているんです。予算の面から泣く泣く中止の判断を下すケースも珍しくありません。僕らは運が良かった。だからこそ「動けるなら早めに動いちゃおう」と。

――JFのサポートが決まったのはどういった流れだったのでしょうか。

タカハシ:JFはさまざまな芸術を世界へ発信しているのですが、その一環として海外の専門家を招聘し、『橋の下世界音楽祭』に視察に行こうという話が決まったそうなんです。そして、せっかくだから東京でも何かできないかと、『橋の下世界音楽祭』主催の根木龍一さんから連絡をいただきまして。JFの方々とお会いしていろいろとお話を聞くうちに、考えていることやビジョンがかなり近いということもわかり、東京発のショーケースイベントを共催しようという流れになりました。

――『CUEW』が現時点で目指すビジョンについて教えてください。

野村:日本人がもっと海外で活躍できるようになって欲しいです。世界的に見てもかなり大きな音楽産業のマーケットがある一方で、国内で評価されず、アーティスト活動を辞める人も多い。国外に目を向けるだけで変わることはあると思うので、『CUEW』がジャンプ台のような立ち位置になればと思っています。

タカハシ:カンファレンスを通して戦略や成功体験を聞く機会があれば、何をすべきかが明確になる。インディペンデントなアーティストもそういった動きができる時代になればいいですよね。

同時に、僕らは日本だけでなくアジアのアーティストが世界で活躍できるようになれば、というビジョンがあります。彼らが日本を訪れやすくなることもひとつのゴール。世界中でアジアの音楽が評価されるなか、日本、あるいは東京がムーヴメントの一端を担っているような状態を、ぼんやりと理想像として描いています。

佐藤:その考え方は、まさにサイトにもステートメントとして記載した「未来のヘッドライナーへと成長できる場」という言葉に集約できると思っていて。今、海外のフェスではまだまだアジア人のヘッドライナーが少ないという現状があります。インディペンデントシーンの底上げを行い、ヘッドライナーを張れる才能を、東京経由で送り出したいです。

野村:そういったビジョンを実現するためにも、日本のアーティストを送り込むだけじゃなく、海外のアーティストも見てもらうような場は定期的に提供したいと思っています。「チャンスが誰にでも訪れる」ことのマインドセットを広めるには、定期的な座学の開催が一番だと思っていて。来年の春には東京の都市型フェスとの共同開催で、規模を拡大する予定です。よりアーティストとデリゲーツに多くの繋がりが生まれ、情報交換できるような仕掛けを画策中です。

そして、海外のショーケースフェスにデリゲーツとして招待される日本の音楽関係者も増やしたい。「日本の雰囲気が変わってきたね」と評価してもらうために、一部の人だけが呼ばれるような現状を打破したい。音楽業界を語れて、より外との交流を活性化できるような人が増えれば嬉しいです。


【イベント情報】


『CUEW Showcase & Conference Tokyo 2025 Summer』
日程:2025年8月18日(月)、19日(火)
時間:
カンファレンス 13:00 – 17:00
ショーケースライブ OPEN 17:30 / START 18:30

会場:
カンファレンス SHIBUYA XXI
ショーケースライブ SHIBUYA FOWS & SHIBUYA XXI

主催:独立行政法人国際交流基金、CUEW実行委員会(合同会社KOKICIK / 株式会社SHIN)
協力:microAction

CUEW オフィシャルサイト


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