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INTERVIEW / 甲田まひる


SUNNY BOY、yung xanseiとタッグを組んだ新作で新たな一面を披露した甲田まひるの“理想像”

2022.12.21

甲田まひるというアーティストを語るうえで、彼女の楽曲性をひとつのジャンルにはっきりと当てはめることは難しい。

2018年に“甲田まひる a.k.a Mappy”名義でリリースした『PLANKTON』では、ジャズ・ピアニストとして華やかな表現から数多のジャズ・リスナーを魅了。2021年11月の1st EP『California』ではヒップホップやロック、K-POPといったあらゆるジャンルが洪水のように押し寄せる組曲的キラー・チューンをリリース。“ジャズ・ピアニスト”というキャリアから一変し、ジャンルを横断する多面的なSSWとしてのキャラクターを印象づけた。

2ndEP『夢うらら』を経て12月23日(金)、新たにリリースされるのは3rd EP『Snowdome』。ジャンルを横断し“音で遊ぶ”ことに長けており、カオティックな世界観を作ってきた甲田だからこそ、今回もグルーヴィな展開を予想していた。

しかし、届いた表題曲は我々の予想の斜め上をいく王道の“J-POP”だった。なぜ彼女はシンガーとしての三作目に、良い意味で我々の予想を裏切るトラックを用意したのだろうか。また、彼女自身は今後“甲田まひる”像をどのように作ろうとしているのか。

タイトル曲「Snowdome」のプロデューサーとしてSUNNY BOY、カップリング曲である「SECM (Sausage Egg & Cheese Muffin)」のアレンジャーとしてビートメイカー・yung xanseiとタッグを組んだ経緯とともに、話を伺った。

Interview & Text Nozomi Takagi
Photo by Ryo Sato


「ポップ・ソングを作りたい」とずっと考えていた

――まずは「Snowdome」について、SUNNY BOYさんにプロデュースをオファーした経緯を教えてください。

甲田:SUNNY BOYさんとは『夢うらら』がリリースされる前の2022年8月頃に初めてお会いしました。そのときに「次の作品でご一緒したい」というお話をしていたので、今回は満を辞してお願いできたという感じです。

もともと1st EP『California』の制作時点で「これからはもっと楽器ができる人や歌える人など、幅広いアーティストと一緒にやりたい」と思っていました。そのなかで、実は個人的に「ポップ・ソングを作りたい」という考えも以前からあって。SUNNY BOYさんは安室奈美恵さんやBTSさんの楽曲に携わっていて、国内外でご活躍されています。私自身がやりたい楽曲の方向性に、SUNNY BOYさんのセンスが近い気がしたんです。

――そもそもポップスへの意識は、具体的にいつ頃からあったんですか?

甲田:「歌を歌いたい」と思ったときから、頭の中にはありました。その一方で奇抜な展開やサウンドも好きだし、ヒップホップも好きです。『California』と『夢うらら』は、自分の中にある音楽的な要素をとりあえず一気に全部出してみた感じ。特に『California』は自己紹介的な作品に仕上がったと思います。

そしてこの2作品をリリースできたからこそ「次、いきなりポップスを出したらおもしろいかも」と感じることができたというか。今回リリース3作目にして、やっとご一緒するチャンスが訪れた感じです。

もともとSUNNY BOYさんにも「今はこんな感じだけど、ゆくゆくはもっとポップな曲を作りたい」とご相談はしていたんですよ。その考えを汲み取っていただき「Snowdome」という形でアウトプットできて嬉しいです。

――SUNNY BOYさんとはどのようにレコーディングを進めたのでしょうか?

甲田:今までの楽曲は、基本的に私のなかでデモ曲をある程度固めてからレコーディングに挑んでいたんです。ただ今回はデモを用意せず、SUNNY BOYさんとその場でセッションしながら進めました。

その代わり、せっかくなのでテーマを先に決めちゃおうと思って。SUNNY BOYさんには“冬の曲”、“恋愛ソング”、“切ない”、“車デート”といういくつかの要素や詩みたいなものをお伝えしていました。

「夢うらら」も然り、季節ネタが好きなんです(笑)。普段から情景に合わせて感情がリンクする曲を聴くことも多くて。「この時期ならこういう曲が聴きたい」という感覚を持っている人は自分だけじゃないと思うので、リリース・タイミングに合わせたテーマを選んでみました。

――楽曲の雰囲気やニュアンスについては、SUNNY BOYさんにどのように伝えましたか?

甲田:いわゆる2000年代のJ-POPにあるようなR&Bに挑戦したいことはお伝えしました。当時の楽曲って、洋楽とJ-POPの要素がミックスされていておもしろいんです。ドラムや上音のループは90年代の海外ヒップホップやR&Bの要素を持っているのに、メロディはJ-POPらしいドラマチックさがある。

日本人の心を掴むメロディアスな雰囲気のリファレンスとして、SUNNY BOYさんには「当時の青山テルマさんや清水翔太さんの楽曲が好きです」とお伝えしました。

――なるほど。でもゼロ年代のヒット曲って、2001年生まれの甲田さんにとってはリアルタイムでもないですよね? どのように当時のJ-POPへ触れていたんですか?

甲田:うーん、テレビやカラオケなど、生活圏のどこかしらで耳にしていたので、「掘らなきゃ」という意識もないまま気づいたら……という感じでしょうか。宇多田ヒカルさんがデビュー当時の曲から大好きなので、宇多田さんのリリースから派生して、同時期のJ-POPを聴くようになったのかも。

あと自分で歌を歌うようになったとき、練習曲として90年〜00年代のJ-POPを積極的に歌うようになったんですよね。意識的にシンガーとして聴くようになったことは「ポップ・ソングがやりたい」という考えにも影響しているかもしれません。

――SUNNY BOYさんとテーマに沿った制作を進めるなかで、印象に残っている出来事はありますか?

甲田:印象に残っていること……初めてセッションをする前々日くらいに、SUNNY BOYさんが骨折しちゃいまして(笑)。スタジオに包帯を巻いた状態でいらっしゃったので心配になりました。

ただSUNNY BOYさん、「いつもはもっと作業が早いんだけどごめんね」と言いながら、すごい勢いで曲を作り上げていくんです。とにかく判断が早い! 私ひとりでやっていると迷走することもあるので、作業を間近で見て衝撃的でした。

そして制作中はわざわざ会話をしなくても「こういうことだよね」と汲み取ってもらえる瞬間が多かったです。めちゃくちゃ助かりました。ボーカル・パートを作っている最中にも、本番レコーディング前に「ここはこう歌おう」と歌唱についてもアドバイスを頂けて。

SUNNY BOYさん自身が歌手であり、作詞作曲もされているし、1st、2nd EPとはまた異なるアプローチで向き合ってくれた気がします。


洋楽のテンションで日本語詞を歌うバランス

――先ほど「Snowdome」はデモを用意せずに作ったとおっしゃっていましたが、「SECM(Sausage Egg & Cheese Muffin)」(以下「SECM」)も同様の作り方をされたんですか?

甲田:「SECM」についてはいつものやり方で、自宅でデモを作りました。ヒップホップがやっぱり好きなんです。でも、こういうがっつりとラップの入った曲を出すのは初めてです。

今回はシンプルにリズムで遊びたくなるような曲が作りたかった。今はどういったビートが流行っているのか、どういうのがダサいかということをあまり意識せず、今の気分のラップがハマるタイプのビートを考えて準備していました。

――トラックメイクの観点で、新たに挑戦してみたことはありますか?

甲田:フロウを作っていくうちに、隙間がある感じがいいなと思ったんですよね。その流れで作った《Bop, Bop》というブリッジ部分がシンプルなのも、そういう意識があったからだと思います。ただ、制作時期に言葉を詰め込むタイプのフロウが好きだったというのもあって、フックに関しては文字数が多めで息継ぎが難しくなってはいます(笑)。

――そもそも歌詞とタイトルにも入っている「ソーセージエッグ & チーズマフィン」ってどういった意味が込められているんですか?

甲田:先ほども言った通り、がっつりラップ曲を作るのは初めて。とにかく自分のことを強く主張したリリックにしようというテーマは、作る前からあったんです。「他の誰がなんと言おうと、私にとって大事な存在」を考えたときに出てきたのが「ソーセージエッグ & チーズマフィン」でした(笑)。

スタバのようなカフェでよく売っているメニューなのですが、大好きなんですよね。本当にそればっかり食べていた時期があって。他の人から見たら地味な存在に見えるかもしれないけれど、自分にとっては好きなものってありますよね。私にとって、「ソーセージエッグ & チーズマフィン」はそういう存在なんです。

――今回のEP『Snowdome』は両曲ともテーマありきで始まった、という共通点があるんですね。「SECM」のテーマである“自分らしさ”にはどのようにたどり着いたんですか?

甲田:デモを作るとき、いつも最初にビートを作ってから、英語のような響きのある宇宙語のようなものを使ってメロディを入れるんです。「SECM」に関してはその宇宙語の中に《MY STYLE》といった歌詞のテーマになるキーワードがすでに混ざっていたんです。その言葉を軸に、歌詞を組み立てていきました。

――「California」のデモ制作時にも、英語っぽい“宇宙語”でメロディの骨組みを作られていらっしゃいましたよね。なぜ英語のニュアンスを起点に作曲をされるのでしょうか?

甲田:J-POPという枠の中で作曲をしつつも、メロディを洋楽っぽいテンションに据えることが好きなんです。メロディを日本語ありきで作ってしまうと平坦になってしまうので、デモの段階で英語詞の雰囲気をつけ、そこに日本語を当てはめることでJ-POP要素を加えるというか。

「California」も最初にデモを作っているとき、適当に歌って自分から出てきた言葉が《I was born in California》で「ヤバいな!」と感じたのが起点でした。そうやって直感的に出てきた言葉を紐解いていき、完成させていく作り方が今は馴染んでいます。

私自身が言葉と向き合うことが好きなんです。日本人であるからこそ、せっかくなら日本語の響きを活かせる曲にしたい。そのうえで「日本語で歌っているのに、トラックは洋楽っぽい」というミクスチャーを楽しみたいなと、常に思っています。

――「SECM」でyung xansei(以下xansei)さんがアレンジャーとして参加されていますよね。xanseiさんとタッグを組んだ経緯というのは?

甲田:「SECM」のデモを作っているなかで「誰かにアレンジをお願いしたいな」と考えていたら、偶然Kid Cudiのライブで初めてご挨拶できたんです。アトランタに住んでいらっしゃる方で、なかなか日本には来られないと思うのでびっくりしました。

後日ふと、「SECM」のデモの感じがxanseiさんにピッタリだなと思ったのでダメ元でお願いしました。引き受けて頂いて嬉しかったです。

――Kid Cudiの来日って、めちゃくちゃ最近ですよね?

甲田:10月中旬でしたね(※取材時は11月末)。お会いして、やりとりを始めてから本当に数週間しか経っていないんですよ! それで今現在すでに最終調整の段階に入っているので。今までのリリースの中では制作期間が最短かもしれません(笑)。

xanseiさんとはZoomで打ち合わせしたのですが、とにかくデモアップが早かったです。2往復程度でまとまったんです。私がDTMで作成した簡単なビートの軸に変化はなく、ブリッジやフックのフロウもデモのまま。ただ、上で鳴っている中東っぽいメロはxanseiさんのアイディア。印象的なループが欲しいとお伝えしての戻しだったんですが、細かいニュアンスまで仕掛けが多くて感激しましたね……。


シンガーとしての理想像

――『夢うらら』がリリースされたときのインタビューでは「ボーカルとしての理想像をクリアしたかった」とおっしゃっていましたが、今回の2曲を通し、歌手として挑戦したかった目標はあるのでしょうか?

甲田:前回のリリースからあまり日も経っていないので大きく目標は変わっていないのですが、「Snowdome」はテンポがいつもより遅く、歌唱力が求められたと思います。「California」から掲げている“洋楽っぽく歌う”というテーマにより集中した楽曲になった気がしています。

特にメロディの作り方はいつにも増して洋楽的だったからこそ、日本語を当てはめた時でも、音を伸ばすニュアンスは重視していました。洋楽特有の“余裕がある歌い方”を意識していましたね。

――具体的にロール・モデルがいらっしゃるのですか?

甲田:Ariana Grandeの歌い方が大好きです。彼女は私の素で出る声との対極で、息が多めの柔らかい歌声なんですよね。それに頑張って寄せていくことだけでも雰囲気が変わります。コーラスをレコーディングするときも、彼女のような存在をイメージしますね。「Snowdome」はその意識が、前作以上に出たように思います。

――メロディだけではなく、ラップ部分でも理想としている存在がいるのでは、と思いました。

甲田:Nicki Minajの滑舌のよさは、意識的に近づけようとすることもあります。あとBhad Bhabieは、必ず自分がラップする前に聴きますね。

基本的には男性ラッパーを聴くのが好きで、Q-TipやNasといった90年代のヒップホップが好きなんです。ただ自分で歌うとなると、やっぱりフィメール・ラッパーの声の出し方を意識することが多いです。

――あまり日本語圏のラップは聴かないんですか?

甲田:日本語も同じくらい聴きますよ! 特にKREVAさんが大好きで、普段から聴いています。ただ、日本語ラップと海外のラップは別モノのような気がしていて。両方を吸収しようと思いながら聴いてます。

――ジャンルの構成要素という面では、今回、EP『California』『夢うらら』には収録されていたジャズ・ピアノver.がなかったことも気になりました。

甲田:今回はもともとの楽曲が“どポップ”だったので、あまり自分の中でアレンジのイメージが湧きませんでした。制作過程でここだけメジャーにしようかな、など細かいところでのピアノ的な考えはあったんですけど。

「California」のように展開が多い曲であれば、ジャズ・アレンジした時にダイナミックさが生まれるのですが、今回は同じコードを繰り返しているからこそ、そこまで意味がないなと思いました。

何より、今回は“歌を届けたい”という気持ちがありました。なるべく強く、曲本来のメッセージが残ってほしくて。だから『California』から続くジャズ・アレンジのトラックを用意しませんでした。

――今作で自身がやりたかったポップス面を全面に打ち出しましたが、今後はシンガーとしてどういった存在を目指していきたいですか?

甲田:歌って踊れて、華やかなポップ・シンガー。そこは自分の中の目標として揺るぎないです。ただ、アウトプットの面では“今の自分”にしかできない世界観を作り続けていきたい。自分の表現したいことをちゃんと表現するためにも、技術力を上げていこうと思います。

『California』『夢うらら』とそれぞれ作詞・作曲で苦しんだ場面がありつつ“どうしたら正解にたどり着けるのか”は常に模索していました。同時に“ミュージシャンと一緒にやる”ことのよさにも気づいたんです。

今回SUNNY BOYさん、xanseiさんと『Snowdome』でご一緒して、会話をしながら「ミュージシャンって本当に最高だな」って思いましたし、新たな発見もありました。次は生楽器を取り入れた曲を作りたいかも。国内外、ジャンル問わずいろんな人とご一緒したいです。


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【リリース情報】


甲田まひる 『Snowdome』
Release Date:2022.12.23 (Fri.)
Tracklist:
1. Snowdome
作詞作曲:甲田まひる、SUNNY BOY
編曲:SUNNY BOY for TinyVoice, Production
Produced by SUNNY BOY for TinyVoice, Production

2. SECM (Sausage Egg & Cheese Muffin)
作詞作曲:甲田まひる
編曲:yung xansei

3. Snowdome (Instrumental)
作曲:甲田まひる、SUNNY BOY
編曲:SUNNY BOY for TinyVoice, Production
Produced by SUNNY BOY for TinyVoice, Production

『Snowdome』特設サイト

甲田まひる オフィシャル・サイト


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