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[Interview] bo en


「表面的なイメージではなく本質的なコンテンツの部分を気に入ってくれて、僕のファンになってくれる人を集めたい。」ーbo en インタビュー

2015.04.27

2013年に『Fogpak #6』への参加、同年9月にはマルチネより『Pale Machine』をリリースしたイギリスはロンドン在住のトラックメイカー/プロデューサー、bo en(ボー・エン)。
昨年リリースされたYun*chiの2ndシングル「Wonderful Wonder World*」にカップリングとして収録された「Dancing」のプロデュースも手掛けたり、前述の『Pale Machine』ではAvec AvecCOR!Sといった日本人トラックメイカーとの共作も行うなどして、日本と密接な繋がりを築いてきた。
イギリスに生まれイギリスで育った彼が日本に惹かれた理由。そしてカラフルかつキュートなサウンドの奥に隠された真意などなど……。今月再びの来日を果たし、大阪を含む複数の公演を行った彼をキャッチし、たっぷりと語ってもらった。

bo en Interview

Interviewer: Takazumi Hosaka
Interpreter: Tsukasa Tanimoto
Photo: Spincoaster

-bo enとしては3度目の来日となりますが、満喫していますか?

毎回半分アーティストとして、半分観光目的で来てるんだ。今回は花見をしにきたよ。笑

-あなたは親日家として知られていますが、そもそも日本に惹かれようになったキッカケはなんだったのでしょう?

幼い頃にやったゲームやゲーム・ミュージックからの影響が大きいんだ。「塊魂」っていうすごい有名なゲームがあるんだけど、それにすごいハマったよ。それを通して日本という国自体だったり音楽に対しても興味を持ったんだ。

-最初に日本という国を意識した時は、エキゾチックな印象という感じでした?

やっぱりイギリス人にとって日本という国は、とても離れているし文化もかけ離れているから深く理解したりフィットインするのは難しいという印象を抱いている人は多いと思う。でも、とても難しいが故に、逆に興味を持っちゃうっていう僕のような人も少なくはないと思うんだよね。(日本のことを好きになったのは)個人的なチャレンジといっても過言ではないかもしれないね。

-ゲームを通じて日本に興味を持ち始めた幼少の頃、そういった興味を共有できる友達はいましたか?

僕ほど深く興味を持った人は身近な友達にはいなかったね。でも、もちろん昔も今も僕と同じかそれ以上に日本のことが好きな人たちが(イギリスに)いっぱいいるのも知ってる。中田ヤスタカみたいなJ-Popに影響を受けていそうなミュージシャンも最近は出てきてるよね。イギリスじゃないけどRyan HemsworthとかSpazzkidPorter Robinsonとか。

-今言ったようなミュージシャンたちが出てきた時、どう感じました?

正直言って彼らを最初に知った時、ぼくは既にマルチネから『Pale Machine』をリリースしていたので、日本からの目線で彼らを見ていたような感じだったんだ。だからそんなにビックリしなかったな。彼らは欧米の音楽に日本的な要素を後付けしている感じがするけど、ぼくの音楽は……ちょっと言い過ぎかもしれないけど既にマルチネと関わっていたし、日本からリリースされて、日本に所属しているような気分だったから、ちょっと彼らとは世界が違うなって思っていたよ。

-なるほど。そういえば日本語がとてもお上手ですよね。どうやって勉強をしているのでしょうか?

18歳の頃からずっと独学で勉強してるんだ。例えば日本人とかを街中やカフェで見つけたら話しかけたりしてね。
最近、母親と恋人が誕生日プレゼント代わりに授業料を払ってくれて、SOASっていうイギリスの大学で10週間の日本語学習のコースに通ってるんだけど、自分のこれまでの勉強方法がいかに効率悪かったかを改めて思い知ったよ。笑

-大学では作曲を勉強していたらしいですね。Yes/No Musicのインタビューでは、そういった音楽について勉強する道を進むことを決断したのは、周囲の友人たちからの影響が大きかったと語っていましたが、その友人たちとは現在も繋がりがありますか?
また、彼らとは好きな音楽や、作っていた音楽も共通していたのでしょうか?

もちろん。とても身近な友人たちだから、今も繋がっているよ。
彼らとは10代の頃からの幼馴染みたいな存在で、小さい頃は好きな音楽をお互い共有してたよ。でも、ゲーム・ミュージックやそこから辿り着いた日本の音楽に対して興味を抱いたのはぼくだけだった。
その友人たちとはメタルやエレクトロニックなサウンド、ラウンジっぽいのとかジャズとか、色々なスタイルのバンドを組んだりしていたんだけど、その時の影響は今のぼくの音楽にも表れていると思う。いつかぼくの音楽をオーケストラを従えたライブ・バンドで再現したいと思っているんだ。それが実現する時は、必ず最初に彼らに声をかけるよ。

-ゲーム音楽や日本の音楽に対して、幼馴染たちと共有できなかったことに対して、寂しさを感じたりすることはなかったのでしょうか?

それはなかったね。あの頃は若かったから、ひとりで聴いてるだけでも幸せだったし、今と違ってその頃はそれがぼくの絶対的なアイデンティティだとも思っていなかった。だから、人に押し付けようとかそういう気持ちはなかったよ。

-いわゆる「渋谷系」の音楽にとても影響を受けたらしいですね。最初に聴いたアーティストは誰だったのでしょうか?

確かLast.fmだったと思うんだけど、自分が好きなアーティストと類似のアーティストを自動でオススメしてくれる機能を辿ってCymbalsを見つけたんだ。それが渋谷系との出会いだね。
元々学校でジャズとかを勉強していたから、そういった要素の取り込み方と、ぼくがハマっていたゲーム音楽と共通する日本的なセンス、その組み合わせがぼくにとっての渋谷系のイメージ。
個人的趣向の話なんだけど、渋谷系のテンポが早くてサウンドやストラクチャーがどんどん変わっていくところにすごい惹かれたんだ。エクストリーム・ポップとでも呼びたくなるような。例えば、Plus-Tech Squeeze Boxみたいな感じ。彼らのやっていたようなことをぼくが真似しているっていうのは、渋谷系に詳しい人ならすぐにわかるはずだよ。

—自国のポップ・ミュージックに興味を抱くといったようなことはなかったのでしょうか?

うーん……。きっと誰かしらはいたと思うけど、何か考えても思いつかないな。笑
イギリスよりかはアメリカや日本、あとはラテン系の国の音楽の方が親しんできたよ。なぜかはわからないけど、イギリスのポップ・ミュージックは今挙げた国のよりも、ジャズの影響が少ないように思えるんだよね。だからあまりコミットできなかったのかもしれない。

Photo by Tsukasa Tanimoto

Photo by Tsukasa Tanimoto

—日本の音楽ブログ、Yes, Yes, Youngが行ったインタビューでは、あなたのiTunesには「perfect pop disco chords」というプレイリストがあると語っていましたね。このプレイリストに最近入った曲を教えてください。

ハハハ! よく調べてるね。
うーん、思い出せないな。ここ1年くらいは何も入れてないかもしれない。プレイリストが増えすぎてちょっと管理できなくなってきてるんだよね。笑

-bo enの作り出すサウンドは、”Cool”というよりは”Cute”な感じが強いですよね。幼い頃からそういったcuteなモノ好んできたのでしょうか?

きっとそうだったんだと思う。小さい頃からテディベアをたくさん集めてたり宇宙人のぬいぐるみもいっぱい持っていたからね。笑
音楽的な部分で言うと、音楽とかに楽しさを求めた結果、そういった印象を与えるんだと思うよ。別に意識して可愛さを狙っているわけではないんだけど、僕はシリアスだったりダウナーな音楽とは距離を置いておきたいから、その反対の性質を求めたいんだ。

-では、そういったシリアスな音楽などがある一方で、あなたが音楽にひたすら楽しさを求める理由はなんなのでしょう?

この世には色々なタイプのアーティストがいるけど、すごい真面目なイメージを出していながら、音楽的なコンテンツの部分では表面的なことしかやっていないアーティストが多いなって感じるんだ。僕が一番聴きたいって思う音楽は、すごい短いにもかかわらず最大のコンテンツが凝縮されているような音楽。
僕の音楽から“楽しい”っていう印象を受けるのは、きっと曲に含まれているコンテンツの部分をとてもわかりやすく示しているからなんじゃないかな。
日本の音楽に興味を抱いたり親近感を抱くのも、同じような理由からだと思う。僕にとってはアメリカがミニマリストで、日本はマキシマリストっていうイメージなんだ。

Pitchforkでは、あなたのデビュー作『Pale Machine』は「Michel Gondryの映画のような雰囲気がある」と評されていましたが、どう思います?

えーと、実は観たことないんだ。ぼくの恋人は大ファンらしいけどね。笑

(しばらくの間、同席していた恋人からMichel Gondryの映画について説明を受ける)

……なんかよくわからないけど、面白そうだね。笑

-ではそのMichel Gondryはひとまず置いておくとして、その他の映画やアニメといった映像作品からインスピレーションを受けることはありますか?

映像からの影響はないね。映画もそんなに観ないし、音楽の表現力と映像の表現力っていうのは全くの別物だと思っているんだ。ビデオ・ゲームには少しだけ影響されたかもしれないけどね。

-個人的にあなたの音楽を聴いていると映像というか風景を想起させられることが多いので、今の返答は少し意外でした。

ぼくは完全に真っ白なイメージ。もちろん無意識下でものすごい色々なものからの影響が出ているんだとは思うけど、意識して何かイメージを込めているつもりは全くないんだ。

-真っ白なキャンパスのような音楽だからこそ、リスナーがそれぞれ思い思いのイメージを描けるのかもしれませんね。

うん、そうだと思う。でも、自分の音楽に対する視覚的なイメージを定義づけることができないから、MVを作るのがとても困難なんだ。笑

-つい先日、あなたの「miss you」を使って、細金卓矢氏やスケブリさんたちによって「UGUISU」という東京紹介ムービーが公開されましたよね。

うん、とても素敵な映像だったと思うし、よくできていると思う。でも、あれをオフィシャルのMVにしたいかって言われると、それは違うなって思うし、自分でもどういったモノを作ればいいのかわからないんだ。きっとぼくは理想のハードルがとんでもなく高い上に、自分が絶対的に信頼できて、かつスキルもある人を見つけるまでは、オフィシャルのMVを作ることはないかな。

UGUISU from Takuya Hosogane on Vimeo.

※よく観てみるとスカート澤部氏と思われる人物の入浴シーンも。笑

-では、また音楽の中身の話に入りますが、あなたはJukeやJersey Club、またはTrapやWavyと呼ばれるようなネットを中心に盛り上がっているサウンドの細かい要素を、自らの楽曲に取り込むのがとても上手いと思うのですが、そういったシーンやトレンドに対してはどう感じていますか?

ぼくの音楽的なイデオロギーとして、自分の楽曲の中にあるコンテンツの本質を理解してほしいからこそ、敢えてスタイルは常に変化させていたい、という考えがあるんだ。
一曲のうちの10秒くらいを聴いて「あーこの人はこういうスタイルだね」っていう風に判断されないために、さっきいったJukeやJersey Clubとかもそうだけど、それこそボサノバとかジャズなんかも、多種多様な要素を一曲の中に散りばめることにより、リスナーが既成のスタイルに頼れないようにしたいんだ。「この曲はこういうスタイルだね」とか、そういう風に言えないようにしたい。
例えるなら、テーブルクロス引きってあるよね? ああいう感じ。テーブルクロスを素早く引くと、上に乗っている食器は残るけどクロスだけ無くなるよね。それをぼくの音楽に例えるなら、テーブルクロスがスタイルで食器がコンテンツ。テーブルクロスは何度も変えるけど、食器自体は変えたくない。
で、君の質問に戻ると、そういったわかりやすいスタイルはもちろん好きなものは多いけど、あくまでそれは表面的なものだと思っているから、そこまで深く考えたりしたことはないな。「ああ、これは良いテーブルクロスだね」って思うくらいかな。

-今はネットが発達したせいで、リスナーも日々膨大な量の音源に触れることができます。そのため、ここ最近の日本のトラックメイカーたちも“出だし5〜10秒でリスナーを掴むこと”について意識的な発言をしているように思います。こういった状況についてはどう思います?

そういった出だし数秒で楽曲に入り込ませるためのアクセシビリティと、一曲の中に様々な要素を組み込んで、最後まで聴いてもらえるようにする複雑性(Conplexity)。その2つのバランスが重要だと思ってるんだ。
キャッチーでわかりやすいけど、聴き込むたびに新たな発見ができないような、複雑性のない楽曲や、逆にものすごく複雑だけど、全然楽しめない楽曲っていうのは簡単に作れる。だからその2つをどこまで共存させることができるか、っていうのがぼくの目指しているところだし、ぼく自身のチャレンジでもある。
きっとぼくが渋谷系の音楽に強く惹かれたのは、そういった点からなんだと思うよ。

-そういえば今年の3月には、ロンドンにマルチネ界隈のアーティストを招聘して開催された「Poko」というイベントに出演していましたよね。ロンドンにああいったイベントは他にあるのでしょうか?

全くないね。日本に関連したイベントだとオタクっぽいのやコスプレ系とか、あとはハイパー・ジャパンみたいなのしかないね。

-そのイベントで共演していたKero Kero BonitoAugustusとは『Pale Machine』でも共作していましたよね。彼らとはいつ頃から交流が?

ぼくがbo enを始める前、たぶん3年くらい前かな? そのくらいにネット上で彼らの存在を知って、後にガスとは南ロンドンの同じエリアに住んでることもわかって、すぐに友達になったよ。一時期は彼ら3人と廃学校を改造したシェア・ハウスに住んでたこともあるんだ。彼らはそのシェア・ハウスのガレージをスタジオのように使っていたこともあるんだよ。
きっと幼少の頃からガスが身近にいたら、お互いの日本に対する興味を共有できたと思うから、すぐに親友になれたと思う。

-では、ロンドンにはそのKero Kero Bonitoとも交流のある、最近話題のPC Musicというレーベル/コミュニティがありますよね。彼らにはシンパシーは抱きますか?

Kero Kero BonitoPC Musicの人たちも、確実に僕と同じような音楽的なイデオロギーを持っているように思えるから、そういった意味ではとても親近感を抱いているよ。それぞれサウンドは違うけど、面白いポップ・ミュージックを作るっていう大きな目標はみんな同じだと思うしね。

-彼らによって、今はネット上で盛り上がっているそういったシーンが、今後リアルな現場を生み出すと思いますか?

ぼくはあまりイベントとかに顔を出さないんだけど、JACK댄스が様々なシーンの橋渡し的な存在になっていて、多くの人々を繋げているんだ。だから、そこから何かが生まれるかもしれないね。

-今後のbo enとしての展望や予定などがあれば教えて下さい。

自主リリースするか、どこかのレーベルから出すかといった具体的な話はまだ決まっていないんだけど、実は新しいアルバムは既に作り始めているんだ。まだ2曲だけだけどね。
今の時点で言えることは、これまでのぼくのサウンドを知っている人たちが聴いたら、きっとbo enの音楽だとわからないようなモノになると思う。(前作で多用していた)ドロップとかもなくなるし、ダンス・ミュージックでもなくなる。これまでのぼくのサウンドを特徴付けていた「カワイさ」や「日本っぽさ」とは距離を置きたいと思っているんだ。
これまでも表面的なイメージではなくてもっと音楽上の本質的なコンテンツを楽しんでもらいたいと思って色々努力してきたけど、正直まだまだ表面上のイメージで評価されることも多いなって感じてる。だから、作品を出す度にそういったイメージを何度となく変えていくことで、最終的には表面的なイメージではなく本質的なコンテンツの部分を気に入ってくれて、僕のファンになってくれる人を集めたい。それがなによりの目標かな。

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