コロナ禍の最中に生まれ、まだ5年に満たない活動歴ながらライブシーンで注目の的となっている東京都町田市出身のバンド・Billyrrom。キーボーディストとDJを含む6人組で、ブラックミュージックのエッセンスを感じさせる音楽性は、国内のみならず海外のリスナーの心も掴みはじめている。
フジロックをはじめとした各種大型フェス & イベントへの出演、大手企業タイアップと、急速に活動の規模を拡大している彼らが、満を持して1stアルバム『WiND』を9月25日(水)にリリース。目まぐるしく周囲の環境が変わり、今まさに大衆に名が知れ渡る直前のタイミングといえる。
今回はアルバムの制作背景とともに、メンバーそれぞれの音楽的ルーツについても個々に深堀りしていく。
Interview & Text by ヒラギノ游ゴ
Photo by fukumaru
アルバム完成のきっかけになった「京都での2時間」
――1stアルバムの発表おめでとうございます。構想はいつ頃から練り始めましたか?
Mol:去年『noidleap』っていうEPを出した頃から「来年アルバム出したいよね」って話はしてたんですけど、そのときはまだ「絶対作らなくちゃ」っていう感じではなかったですね。
Leno:今年、“DUNE”をリリースするときに、自分たちとしては「Billyrrom第2章」って感じていて。そろそろ自分らの名刺代わりになる1枚を作れる自信がついてきてたので、その頃からアルバム制作を始めました。
Mol:無理して作るのも違うなっていうのがずっとあったので、本当に今、然るべきタイミングで出せたなって思ってます。
――コンセプトやテーマはどのように決めていったんでしょうか?
Mol:最初からこういうのを作ろうってのを決め打ちしてたわけじゃなく、ナチュラルに出てくるものの中からメンバー同士で「それいいじゃん」って言い合えるものが今一番やりたいことなんじゃないかって。
デモが出揃ってきて、そろそろタイトルやコンセプトを決めていこうかって話になったのが京都にいるときで、2時間くらいみんなでじっくり話し合ったんですけど……あれ、なんで京都にいたんだっけ?
Leno:Wendy Wanderのツアーに帯同したときだよ。
Mol:そうだそうだ。台湾のバンドのツアーに帯同していたんです。もう家族みたいな感じで仲良くなって、この間も一緒に遊んでたんですけど。その京都での2時間が今回のアルバム制作にとってキーポイントになりました。
Leno:めちゃくちゃ大事な時間だったよね。
Taiseiwatabiki:大事だった。
Leno:大事だったのに、おれだけ違う喫茶店を待ち合わせ場所に指定されて。
全員:(笑)。
Shunsuke:あれなんでなんだったっけ?
Taiseiwatabiki:たしか待ち合わせ場所が変更になったとき、ちょうどLenoだけ出掛けてて伝え漏れしたんだよ。
Leno:欲しいラー油があって。
Taiseiwatabiki:知らねえよ(笑)。
――いいラー油見つかりました?
Leno:ありました。でも買ってすぐには合流しなかったです。むかつくからちょっと美術館に寄って1時間くらいぶらぶらしてから向かいました。
ディスコから邦ロック、Suchmosまで
――アルバムについては追って詳しく伺いますが、ここで改めて皆さんそれぞれの音楽的なルーツについて聞かせていただきたいです。
Rin:子供の頃親の車の中でかかっていたのは槇原敬之、平井堅、あとはRIP SLYME。中学生になって自分で音楽を選んで聴き始めた頃は、韓国の音楽にハマってましたね。BIGBANG、EXO、ガールズグループだとEXID。
――いわゆる第2〜3世代のK-POPですね。
Shunsuke:中学の頃、RinとBIGBANGのライブに行きましたね。
Taiseiwatabiki:俺はShunsukeとEXILE TRIBEのライブに一緒に行きました。
――本当に幼馴染って感じですね。
Shunsuke:ここ3人(Rin、Taiseiwatabiki)はもうずっと一緒にいるんで、聴いてるものの変遷も全部知ってますね。
Rin:BIGBANGもそうだけど、昔好きだった曲を今聴くとコード感に若干共通するものを感じることがあって。それってたぶん親の車で聴いてた音楽で育まれたツボみたいなものなのかなって思います。進行の切り替わり方、ここからこうなると気持ちいいみたいな。
Mol:僕の家でかかってたのは00年代までの洋楽ポップス。中でもEarth, Wind & FireやFleetwood Macとかの7〜80年代の曲にハマってました。ディスコっぽいものというか。あとはKylie Minogueなどの00年代ポップスも。
ただ、一番衝撃を受けたのはMichael Jackson。子供の頃に追悼番組で知ったのがきっかけです。バーッと矢継ぎ早に流れるMVやライブ映像を一気に浴びて「こんなにカッコいい人がいるのか」って。それまでは映像として音楽を経験していなかったんですけど、音楽の見せ方の部分を意識するようになりました。
Shunsuke:うちも比較的Molと近くて、父親が70年代ソウル、ファンク、ディスコが好きで、家でずっとかかってました。でも、家の外では周りが聴いてるような音楽を聴いてて。個人的に一番喰らったのはBruno Marsです。高校生の頃に『24K Magic』(2016年)が出て、懐かしいっていうか、安心感みたいなものがあって。
――Brunoがリファレンスにしているものと近い音楽を聴いて育ったわけですもんね。
Shunsuke:すごく馴染んだんですよね。そこからは『24K Magic』と、それこそApple MusicにあったBrunoが影響を受けた音楽をまとめたプレイリストなどを参考に、自発的にディグって聴くようになりました。
――TaiseiさんとLenoさんは高校時代、軽音部だったそうですね。当時はやっぱりロック中心でしたか?
Taiseiwatabiki:高校ではゴリゴリに邦ロックでしたね。ELLEGARDEN、MAN WITH A MISSION、ONE OK ROCK、04 Limited Sazabysとか。
Leno:自分はメタルにどっぷりでした。Linkin Park、Slipknotとか。子供の頃からピアノを習ってたんですけど、そのときは別にクラシックも音楽も好きではなくて。中学生になってONE OK ROCKの“Nicheシンドローム”を聴いて電撃が走って、えっぐ! 絶対ドラムやろう! って思いました。
――ボーカルやギターじゃなかったんですね。
Leno:ドラムでした。それで中学は吹奏楽部でパーカッションをやって、高校では軽音でドラム。
――おふたりとも、今のところいわゆるブラックミュージックからはかけ離れたところにいますね。何か聴くものが変わるきっかけがあったんでしょうか。
Leno:メタルばっか聴いてたらあまりにも友だちができなくて(笑)。もうちょいポップスを聴こうと思ったんですけど、その頃にはポップスがどこで知れるのかもわかんなくなってて。いろいろ彷徨ってBBC(イギリスの公共放送局)のラジオアプリを見つけて、そこで改めてポップスを聴くようになりました。
……でも、その頃EDMがきてた時期だったから、同時にEDMキッズになりかけもしたんですけど。
――ヘヴィなロックからのEDM、順当な流れですよね。Skrillexとかそうなわけですし。
Leno:でも、同時期にKendrick Lamarを知って、そっちの方が「おもしろ!」ってなったんです。それまで全く通ってきてない音楽だったんで。Kendrickからの流れでRobert Glasperを知れたのもピアニストとして大きかったです。その頃にちょうどBillyrromの前身バンドに誘われました。
Taiseiwatabiki:自分もバンドに誘われたときにちょうどRed Hot Chili Peppersを経由して、ファンクっぽい音楽がおもしろくなってた時期だったんです。あと、同時期にハマってたのがSuchmos。
Yuta Hara:自分もSuchmosの存在は大きいです。中学の頃はベースを弾いてたんですけど、元々Jamiroquaiが好きで。ボーカルのJay Kayに影響されてアディダスのATPっていうトラックジャケットを着てたら、ベース教室の先生から「Jamiroquai好きなの? 知り合いでそういうバンドやってる人がいるんだよ」って教えてもらったのがSuchmosでした。本当に初期の頃です。
Mol:『Essence』(2015年リリースの1st EP)くらい?
Yuta Hara:それくらい。それでめちゃめちゃカッコいいなって衝撃受けて。
――思春期にSuchmosを聴いていた世代がもう作り手に回る時代なのか、というのがこう、隔世の感があります。
Yuta Hara:今自分が同じようにバンドでDJとしてやっていて、影響は受けていると思います。
曲ごとに違う「風」
――改めて待望の1stアルバム『WiND』について伺っていきます。例の「京都での2時間」ではどんなことが話し合われたんでしょうか?
Mol:キーワードになったのはLenoが持ってきた《Walk in New Directions》っていうフレーズ。アルバムの1曲目のタイトルにもなってます。
Leno:待ち合わせ場所に1人で向かう途中、むかつきながら絶対なんかいい案出すぞと思っていろいろ調べて見つけたフレーズです。新しい方向へ進む、みたいなニュアンス。
Rin:具体的な事物としては風っていうのをテーマに置いてるんですけど、曲によって風ってものの捉え方が違うというか。追い風だったり向かい風だったり。
シングルの“DUNE”、“Windy You”、“Once Upon a Night”を僕らは3部作って呼んでて、“DUNE”は決意、“Windy You”は誰かに助けを求めたり援護してもらったりってことを、“Once Upon a Night”は何かを打ち破っていく、決行するっていうことをテーマにしてます。3部作はどれも風のイメージで繋がってる感じがあるんですよね。“DUNE”は向かい風、“Windy You”はライブで行った沖縄の暖かい風、“Once Upon a Night”は自分たちが風に乗っていくイメージ。
作詞の面で気に入ってる曲は“Windy You”。メンバーみんなで観た沖縄の景色に着想を得てるんですけど、みんなで観た景色を歌詞に落とし込むってことが初めてできた。その景色が音にも反映されていると思います。純粋に好きですね。
――お話を伺っていると、皆さんは思考のヒントになるフレーズを持ち寄ったり、コンセプトの言語化やすり合わせに時間をかけたりと、意思疎通を丁寧にされている印象です。質の高い会議をしているなと。そういう部分は作るものにも反映されていると思いました。
Mol:いい風に思ってもらってる(笑)。メンバーで飲みに行くと延々と馬鹿話してたりしますよ。
――結構飲みに行かれるんですね? 同世代の方はコロナ禍の影響で飲み会の文化自体あまり馴染みのない人も多いといいますが。
Leno:地方行ったときとかはだいたいみんなで飲みに行くよね。そこで大事な話になったりもするし。
Mol:バンドの改善点とか、お前のここがよくない! みたいな話をがっつりしたりもするね。それかずっと下ネタ。
Yuta Hara:0か100かですね。
Mol:でも共通言語は意識してるかも。性格が本当に全員違うから、全員が同じ熱量で同じように解釈できるものを設定しないとなって。ちょっとの認識のズレも生まれてほしくない。
――みなさんそれぞれにアルバムの聴きどころを伺っていきたいです。
Rin:個人的には“SERENADE for Brahma”です。これは全員同じ部屋で同時に録るっていう、初めてのやり方で録音した曲です。これまでのシングルの感じで録りたくはなかったんです。メンバー同士の音を感じあって一緒に鳴らす中で生まれるものを大事にしたかったというか。
Taiseiwatabiki:自分も“SERENADE for Brahma”ですね。自分は結構叙情的な、感情にくるものが好きで。Lenoが入れたストリングスやRinのギターソロのお陰でドラマチックな曲になってると思います。自分も純粋で嘘のないプレイができました。
Mol:自分は“Sun shower”。これもみんなで同じ部屋で録った曲です。理由はRinとほとんど一緒で、事前打ち合わせなく、各々自由にやってる感じを音源にできたらいいなって。Billyrromのナチュラルなよさが出たんじゃないかと思います。
ボーカルとしては、突き詰めていえば自由に歌っただけなんですけど、耳馴染みとか聴き取りやすさとか、世間一般的に重要視されてるようなことを一旦忘れて、ナチュラルにソウルを歌いたかった。そういうところは聴いてもらったら伝わるんじゃないかなって思います。
Shunsuke:自分も“Sun shower”。全員がひとつの点に向かって合わせていくんじゃなく、何にもない空間にそれぞれが陣取って、お互いに作用し合いながらバランスを探っていくみたいなやり方でできた曲で。
全然まだまだ勉強中ですけど、今の自分たちのグルーヴが録音できたと思います。作品としてというのとはまた別の捉え方で、ひとつの録音物として見たときに、今の自分たちを記録して残せたっていう実感があるんです。
Yuta Hara:自分として特にこだわったのは“Once Upon a Night”。バンドにおけるDJってやっぱり特殊で、他のみんなとはまた違ったことを考えなきゃいけない。どこの隙間にどれくらい入れるのか、足し引きを試行錯誤してます。この曲は一番自分が前に出ていて、普段がスパイスくらいだとしたら、この曲は……マヨネーズとか。
全員:(笑)。
Taiseiwatabiki:なんか違う。
Mol:肉じゃがの「じゃが」の部分くらい、とかの方がいいんじゃない?
Yuta Hara:そうだね、それくらい。今までにないくらい前に出た曲です。
Leno:自分は“CALL, CALL”。普段は全員がブワッと全力投球する曲が多いけど、この曲はミニマリズムを意識して作った曲です。おもしろいトラックだし、Rinのラップも、いろいろ吸収して進化してるなって思う。
――今回のアルバムにはインタールードが2曲収録されていますが、これはどういった経緯で入れることになったんでしょうか?
Leno:僕がインタールードめっちゃ好きな人間で、“DUNE”と“SERENADE for Brahma”ができたあたりで「これは必要でしょ」ってなって作り始めました。この2曲はどっちもスケールがデカいので、手前でわくわく感を盛り上げるインタールードを入れたかったんです。
Mol:この2曲はいかに非日常に持っていくかっていう意識が6人ともあって。
――インタールード好きということですが、影響を受けた作品などはありますか?
Leno:King Gnuも次の曲を引き立てるようなインタールードの入れ方をしてるし、Bring Me the Horizonの『amo』(2019年)ってアルバムも2曲インタールード的な曲が入ってて、影響受けてると思います。
曲としてこういうものにしたいっていうのは、Oneohtrix Point Neverの雰囲気とAphex Twinの激ヤバなドラムの感じ。1曲目の“Walk in New Directions”ではそういうのを目指してます。
もうひとつのインタールード“Devenir”では、Radioheadの“Treefingers”っていうインストの曲を参照して作りました。“SERENADE for Brahma”に合いそうだなと思って。
――では最後に、この先のことを伺います。日々活動の規模がどんどん大きくなっている最中かと思いますが、直近で叶えたいことや、今後こういう存在になりたいといった将来像があれば教えてください。
Rin:とにかくアルバムを聴いてもらいたいです。そしていろんな場所で演奏していきたい。自然と広まってくれるって自信があるし、今はこれをやっていくだけだっていう感覚です。
Leno:ライブで完成されていく気がするよね。
Mol:あと、Billyrromは結成当初から同世代の仲間を巻き込んでいきたいっていう思いがあって。今回のアートワークも日頃僕らの写真を撮ってくれてる新谷隼人っていうフォトグラファーと、ロゴなんかのデザインをしてくれてるPigbankっていうグラフィックデザイナーの共作なんです。今後もそういう風に、仲間と一緒に作品を作っていきたいですね。
【リリース情報】
Billyrrom 『WiND』
Release Date:2024.09.25 (Wed.)
Label:SPYGLASS AGENT
Tracklist:
01. Walk in New Directions
02. DUNE
03. Apollo
04. Windy You
05. Once Upon a Night
06. CALL, CALL
07. Devenir
08. SERENADE for Brahma
09. Soulbloom
10. Sun shower
11. Clock Hands
【イベント情報】
『Billyrrom Oneman Tour 2025 WiND』
2025年2月9日(日) at 愛知・新栄シャングリラ
2025年2月15日(土) at 宮城・仙台 MACANA
2025年2月22日(土) at 福岡 BEAT STATION
2025年2月24日(月・祝) at 大阪 Music Club JANUS
2025年3月1日(土) at 北海道・札幌 SPiCE
2025年3月9日(日) at 東京 Zepp Shinjuku(TOKYO)
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『MIND TRAVEL 2024 – TOKYU KABUKICHO TOWER EDITION -』
日時:2024年10月26日(土) 12:00〜23:00
会場:東京・新宿 東急歌舞伎町タワー(B2F – B4F ZEPP SHINJUKU、1F 野外エリア、17F SPACE WEST)
出演:
ADOY(from Korea)
Ace Hashimoto(from US)
?te (from Taiwan)
Billyrrom
BREIMEN
CHIANZ
どんぐりず
HOME
luvis
Sala
SIRUP
SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO)
VivaOla
w.a.u(DJ set) feat. MÖSHI & MK woop
YonYon
YOSA&TAAR
+ 1 act
主催:Spincoaster inc. / TST inc.