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INTERVIEW | Billyrrom


「迎合するのではなく、自らが信じる表現を」──加速する6人の“妄想と飛躍”

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2023.11.22

都内のライブハウスから頭角を現してきたBillyrromが、早くも次なるステージへと進んでいきそうだ。ソウル、ファンク、ロック、シティポップなど、様々な音楽性をミックスして生まれるポップ・ソングは、結成から3年という時間の中で着実に早耳のリスナーたちの心を射止めている。大阪、東京を回るワンマン・ツアー『Billyrrom First One-Man Tour “noidleap”』も盛況に終えるなど、その勢いは加速の一途を辿っているように思う。

活動のテーマに“Noidleap”(=妄想と飛躍)を掲げ、自身らの音楽を一層広いステージへと送り出すBillyrrom。今回の取材では9月にリリースしたEP『noidleap』と、本日11月22日(水)にリリースされた新曲「Eclipse」について、たっぷりと話を聞いている。彼らの2023年がバンドとしてのアイデンティティを確立した1年だったとしたら、2024年にはどんな成長を見せるのだろう。彼らの地元・町田へと足を運び、その野心を語ってもらった。

Interview & Text by Ryutaro Kuroda
Photo by fukumaru

[L⇒R:Shunsuke(Ds.), Taiseiwatabiki(Ba.), Leno(Key. / Syn.),
Rin(Gt.), Mol(Vo.), Yuta Hara(DJ / VJ)]

“Billyrromの音楽がポップスになっていく”

――渋谷WWW Xでのワンマン公演に始まり、夏のフジロック出演、そしてLIQUIDROOMでのワンマン・ライブなど、充実した1年を過ごしたんじゃないかと思います。

Leno:何よりもフジロックですね。バンド結成当初からの目標だったので、僕はそれしか覚えてないぐらいです。

Shunsuke:価値観変わったくない? 一流のアーティストがたくさん出てて、感じたことないプレッシャーがありつつ、そこに参戦できる楽しさもある。あれだけのミュージシャンやバンドを観て、「これがフジロックのステージに立つってことなんだな」って思いました。

Rin:デカいとこでやりたい気持ちは、ますます大きくなりましたね。今年はその入り口みたいな部分を見れた年だと思います。

――4月にお会いしたときは、ちょうど合宿に行く前でしたよね。『noidleap』はそこで作られた曲が入っているんですか?

Mol:リード・トラックの「Noidleap」はその合宿で作りました。ジャムっぽい感じで演奏しているところから生まれた曲です。

Shunsuke:なので手癖というか、自分の中にあるフレーズが勝手に出ている曲で。

Taiseiwatabiki(以下、Taisei):BPMは104とか106で、自分で聴いてもすごくナチュラルな感じがします。

Mol:みんなのセンスとかプレーが先行してる曲ですし、そういう純粋なものに、自分たちが掲げるテーマを乗せてリード・トラックにしました。

――テーマというのは、「Noidleap」というタイトルのことですか?

Taisei:そうです。WWW X追加公演までがバンドの第一章だと思っていて、そこまでに自分たちの自己紹介はある程度できた気がするんです。それで今年はどういうことをモットーに活動していくか、春頃にみんなで話し合いました。Billyrromはポップスに寄せていくのではなく、自分たちがカッコいいと思うものを追求して、それを大衆に受け入れてもらう。いわば“Billyrromの音楽がポップスになっていく”ということを、僕たちのスタンスにしたいんですよね。

――なるほど。

Taisei:それがEPのテーマにもなっています。“noid”は妄想、“leap”は飛躍するという意味なんですけど、自分たちが思い描いている世界を広げていって、それが浸透していくことで僕らの妄想が飛躍していく、というような意味でつけています。

――「Mayday」と「Noidleap」のリリックには通じるところを感じます。どちらもしがらみを振り払い、自分たちの信念を貫くことを歌っているように思いますが、それはバンドのモチベーションになっていることなんでしょうか。

Leno:そうですね。最近はそれしか考えてないです。

Mol:そうだね。

Leno:早いとこバンドとしてのイデオロギーを確立したい。今年はみんなで考える時間が増えた1年だったんですけど、そこで共有した意思や思想は、サウンドと歌詞の両方に表れているように思います。この先、「Billyrromとはなんぞや?」と振り返ったとき、ここ(“Noidleap”というテーマ)に戻ってくるんじゃないかな。

――ちなみに「Noidleap」を作る上で、何かインスパイアされた楽曲はありますか?

Mol:音の入れ方ではMac Millerの「What’s the Use?」。あと、Tom Misch「Losing My Way」の裏乗りの感じは意識しましたね。

――ジャムから生まれたのは「Noidleap」だけですか?

Leno:そうですね。あとはパソコンと戦う系の曲が増えました。

Mol:「Mayday」と「Flower Garden」はずっと画面とにらめっこです。

――「Mayday」は冒頭のレトロフューチャー感のあるシンセがカッコいいですね。

Mol:あのフレーズいいですよね。

Leno:直感でつけたらバチッとハマりました。シンセの感じは初期のOPN(Oneohtrix Point Never)を参考にしているんですけど、俺らの持ち味のファンキーなところと、フューチャー感が上手い具合にマッチしたのはよかったです。

――Haraさんは「Mayday」で意識したことはありますか?

Yuta Hara(以下、Yuta):Billyrromらしさが出ている楽曲なので、そこにどう新しいものをつけ加えるかを考えました。それで機械的な要素を混ぜてみようと思ったんですけど、ルーツが似ているアーティストもいる中で、自分たちの楽曲を新鮮なものに感じさせる要素ってどこにあるのかなって考えるんです。今回は機械的な質感を混ぜることで、新しい形になっていくんじゃないかなと思いました。

――途中のトラップっぽいセクションは、どういう発想から生まれたんですか?

Taisei:Friday Night Plansさんの「HONDA」という曲が序盤はブラック・ミュージックっぽいんですけど、終盤で急にトラップに変わるんです。それがカッコいいなと思って、構成を話してるときに提案したらハマりましたね。


「全員のエゴを出すと爆発する」──多様なリファレンスと制作プロセス

――「Flower Garden」は何よりも、Rinさんのラップが特徴です。

Rin:実は自分のソロ・プロジェクト(aint lindy)ではボーカルとラップをやってるので、「Billyrromでもラップの曲をやりたい」っていう話は前からしてて。それで合宿のときに色々やってみたんですけど……。

Leno:ラップと歌を混ぜるのが難しくて、一度ボツになりました。でも、合宿から帰ってきてポチポチ遊んでたら、ラップの曲にできそうなフレーズが浮かんできて。それで適当にシンセを弾いて、ビートを打ち込んでいきました。

Rin:そこからさらに試行錯誤したよね。やっぱりパソコンで作ったが故に、音が多くなり過ぎちゃったんですよ。

Leno:最後は引き算地獄みたいな感じだったよね。もう2度とやりたくないです。

Shunsuke:(笑)。

Leno:全員のエゴを出すと爆発するということを学びました。喧嘩みたいな感じになってたもん。

Taisei:RECが1回終わったんですけど、どうしてもギターの音が嫌で。Rinに「もう1回録り直してくれ」って言ったんです。そしたら、「お前がいないのが悪いんだろ」って怒られました(笑)。

Rin:最後はLenoとふたりでスタジオで作ったんです。そうしたら来なかった奴らが「変えたい」って言い出して。

――(笑)。

Taisei:ギターにはワウがかかっているし、ベースもシンセになっていたので、綺麗に抜けている音色が1個必要だなって思ったんです。それで「ギターはクリーンで録り直してくれ」ってお願いして、結果的にはめっちゃ好きな音になりましたね。

――ベースはまさにシンべっぽい音ですね。

Taisei:HONNEの「Me & You」から着想を得ています。めちゃくちゃシンプルなんだけど、やたら印象に残るシンセベースが好きで。音色に関してはそういうイメージで作りました。

――ドラムで意識したことは?

Shunsuke:ドラムも打ち込みなんですけど、実はMac Millerの曲から音符の位置をサンプリングして作っているんです。

――というのは?

Leno:ビートを持ってきて、その波形を参考にしながら打ち込んでいきました。イメージとしては、グルーヴを拝借した感じです。

Shunsuke:音色やフレーズではなく、“ノリをサンプリングする”という発想ですね。

Mol:ストレートなのと比べて、ラップの映え方が全然違うんです。

Shunsuke:ただ、その方法でビートを作ったので、生ドラムで演奏する上ではすごく悩まされています。

――マシーンに追いつくための特訓が必要だと。

Shunsuke:そうです(笑)。それで90年代のSoulquariansの、J Dillaビートのモタる感じを参考にしたり、あの年代のドラマーさんのインタビューや演奏動画を観たり、理論を学んでいます。

――そして「Eyes to the Mirror」です。こちらは初のバラードですね。

Mol:こういう曲もやりたいって話はずっとしていて、この曲も実は1年前ぐらいからあったんです。

Rin:「Solotrip」のケツについていたアレンジから曲にしました。

――リリックはスムーズに書けましたか?

Mol:歌詞を書いたときには色々思ってることがあって、それが出ていると思います。

Leno:結構落ちてたんじゃなかったっけ?

Mol:超スランプみたいな感じだったわけではないんですけど、日々感じていたり、伝えたいことを曲だからこそ言えるっていうのはあるかもしれないです。

――スウィートな曲調や声のトーンもあって、ラブソングだと思っていました。

Mol:ラブソングと捉える人が多いと思いますし、それもある種間違ってはないです。聴く人それぞれの色んな解釈があっていいのかなと思います。

――ドラムはBillyrromの中でもゆったりしていますね。

Shunsuke:70年代ソウルの温かくて分厚い感じにしようと思いました。それで深胴のスネアを使ったり、木の温かい音が出るようにして、割とクラシックなソウルに寄せてレコーディングしてたんです。この曲も最初はパソコンで作ったので、デモは打ち込みの正確なリズムの曲だったんですよね。最初はそこに近づけるように練習してみたんですけど、人間が叩くと多少の揺れが出てきますよね。それを編集して正確にすることもできたんですけど、最終的にはあまり直さず、ゆるい人間味のある音でまとめました。

――「Flower Garden」と「Eyes to the Mirror」は、サウス・ロンドンの音楽シーンからの影響を感じました。

Leno:Cosmo Pykeの音色を参考にしていたので、ちょっと滲み出てたのかな。

Mol:「Flower Garden」はTom Mischの「Crazy Dream (feat. Loyle Carner) 」とか、Steve Lacyもイメージにあったかも。

Taisei:あとはPuma Blue。

――Steve Lacy以外は、まさしくロンドンのアーティストですね。

Leno:(「Flower Garden」の)コード進行はRinが考えたんだよね。

Rin:自分はノルウェーのBoy Pabloをリファレンスに挙げたんです。

Taisei:Sunset Rollercoaster(落日飛車)のような、アジアの独特な雰囲気も出せたらいいなって思っていました。なのでリファレンスは結構多かったですね。


「日常に馴染むものではなく、カオスなものを」

――そして「すき家」のCMソングとしてオンエアされている、「Eclipse」もリリースされました。

Mol:バンドのエゴとCMソングとして求められることのバランスを、どう取っていくかですごく悩みました。最終的にはみんなが納得のいく曲を作れたんですけど、Billyrrom内でも喧嘩するぐらい意見が割れて。まず、最初にイメージとしていくつか参考楽曲が送られてきたんです。で、その感じは僕らとしてもやりたい方向性だったんですけど、歌詞や音色のオーダーもあって。そこは僕らだけで作っていたら絶対に起こり得ないものだったんですよね。

――そこで迷いが生じたと。

Mol:試行錯誤した結果、リリースする音源とCMで流れている音源では歌詞と音色を少し変えています。歌詞はみんなで話し合いながら作りました。パッと見はラブソングに聴こえると思うんですけど、それとは真逆の意味を込めています。

――最後の1行、《あなたを沈めてただその在り方を問う》というラインが意味深です。

Mol:それまではツルっと聴けるんだけど、最後に「うん?」ってなるポイントが欲しいと思って書きました。歌い出しの《パールのネックレスを纏う意味》という箇所も、様々な意味を持つ隠語でもあって。社会的にはタブーとされていることがアーティストの個性を抑圧しているパターンも見かけるんですけど、僕らはあくまでもそれを打開していきたいと強く思いますし、「Eclipse」は詞に1番こだわりました。

Taisei:それこそイギリスやアメリカでは顕著ですけど、LGBTの問題を歌ったような曲にスポットライトが当たることも多いじゃないですか。日本だとやっぱりアニソン、CMソング、ドラマの主題歌は、クライアントのリクエスト通り作るものが多い気がするんですよね。

そこから生まれる素晴らしい作品が多いのは間違いないですけど、道徳的な正しさよりも“間違えないことが正しい”という空気がすごくある気がするんです。それって本当に自分たちがやるべきことなのかな、と思うんですよね。本来は聴いた人の思想や生活を変えるのが芸術家の立場だと思うので、そういうところはめちゃめちゃ考えた気がします。

――サウンドは温かくまろやかなものになっていますが、音作りではどんなことを意識しましたか。

Leno:80年代渋谷系の、アシットジャズを日本的に消化した部分を意識しつつ、配信バージョンではもうちょいシンセサイザーを効かせて、今風にアップデートしました。

Yuta:自分はどっちかと言うと、ルーツ的な部分を意識しましたね。シティポップはみんなのルーツにあるものですし、タイアップとなると大衆に聴かれるものだと思ったので、パーカッションでクラベスを入れたり、自分の愛してる古き良き音楽のエッセンスをどうやって注入するかを考えていました。

――ギターはどうですか?

Rin:最初に送ってもらったリファレンスの曲は、どれもなんとなくギターに共通してる雰囲気があったんです。

Taisei:Spinners「It’s a Shame」とかね。

Rin:そういう70年代のソウルなどギターのリズム感やフレーズを捉えて、曲に落とし込むような作業でした。

Taisei:ベースも70年代の温かいプレベ(プレシジョン・ベース)っぽいサウンドをイメージして、James Jamersonみたいな音を浮かべて弾きました。

Mol:あと、この曲は初の片手16(ビート)なんです。Shunsukeはレコーディングのとき、本当に楽しそうでした(笑)。

Shunsuke:16ビートを片手ハイハットで刻むビートが好きで、バンドの結成当初から、作曲する2人(MolとRin)に「そういう曲を作ってくれ」って言ってたんです。で、一度は作ってみたものの、結局これまでやらずにきていて。それが今回タイアップの話を頂いたときに、「あの曲が行けるんじゃない?」ってなって、まだ4人だった頃に作ったデモを引っ張り出して曲にしたんです。なので俺としては本望でしたね。

――最後に今後の展望についても聞かせてください。来年はBillyrromにとってどういう年になると思いますか?

Taisei:個人的にはもうちょい尖っていきたいです。

Leno:いいね。

Taisei:日常に馴染むものではなく、カオスなものを大衆の前でやりたい。

Leno:どこまで行っても体制に飲み込まれるというか、自分らが音楽をやる上で、どうあがいても資本主義には加担してしまう。そういうリアリズムの中で、芸術家として内側から何ができるのか、というところを考えなきゃいけないのが、俺たちの世代なのかなと思います。

Mol:あとは海外もあるね。

Taisei:そう、海外に行く。

Mol:『Music Lane Festival Okinawa』という、世界中のインディ・バンドが集まるフェスに出るんですけど。フィリピンとかインドネシア、イスラエルのバンドもいて、すごく楽しみで。日本から生まれたBillyrromというバンドのエゴを、世界に向けて発信していきたいです。


【リリース情報】


Billyrrom 『Eclipse』
Release Date:2023.11.21 (Wed.)
Label:SPYGLASS AGENT
Tracklist:
1. Eclipse

Music:Billyrrom
Lyrics:Mol, TaiseiWatabiki
Recording Engineer:Masayuki Yoshii, Miyuki Nakamura (Aobadai Studio Inc.)
Mixing & Mastering Engineer:Masayuki Yoshii
Instrumental Technician:Ryum (YKTV)
Sound Director:Ethan Augustin (Power Box)

配信リンク

Billyrrom オフィシャル・サイト


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