Text by Takazumi Hosaka
DTMや映像編集ソフトなどの発達・普及に伴い、作詞・作曲だけでなくトラック制作やアレンジ、果ては映像制作〜アートワークまで手がける、セルフ・プロデュース型のアーティストの活躍も目覚ましい昨今。本稿ではまさしくそんなマルチな才能を発揮する新鋭アーティストであり、今後ダークホースとなりそうな逸材、idom(イドム)を紹介したい。
まずは音楽制作を始めてちょうど1年目にリリースしたという最新シングル「二人」を聴いてほしい。
友人のyeeraと共に手がけた楽曲となっているが、センチメンタルな感情を刺激するギターの音色が印象的な跳ねるようなビートに、歌謡曲を想起させるようなメロディックなフックから軽快なラップまで、音楽活動を始めて1年とは思えないほどのスキルを感じさせるナンバーだ。大切な友人を想って書いたというリリックの世界観を拡張するようなMVは、友人と共に育った岡山で撮影。そのクオリティも含め、これまでの作品以上に大きな注目を集めている。
果たして、コロナ禍の2020年、どこからともなく彗星のように現れたidomとは何者なのか。
昨年4月より自ら手がけた映像と共に作品を発表し始めたidom(当初の表記はidm)は、兵庫県神戸市生まれ、岡山県在住の23歳。大学時代にはデザインを専攻し、何と本来であれば2020年4月からイタリアのデザイナー事務所に就職予定であったという。しかし、この度の世界的なパンデミックによりその計画も断念。その後の外出自粛期間中に、以前から興味があったという楽曲制作に挑戦することに。
音楽素人がコロナ自粛中に曲作りだした話。
— idom (@baedongk) July 3, 2020
「DAWもMIXもマスタリングも何も分からぬまま作った1曲」と本人が説明する処女作「neoki」は、チルなトラックに肩の力の抜けたラップを乗せた1曲だが、薄っすらと掛けられたオートチューンやローファイな質感、そのバランス感覚が素晴らしい。
続いて第2弾シングルにして音楽制作を始めて3ヶ月で発表した「soap」は、ソーシャル・クリエイター・レーベル〈Be〉所属・青いトマトとのコラボMVの完成度も手伝い、idomの認知をより拡大させるに至った1曲。軽快かつミニマルなビートに、小気味良いラップといったオントレンドなスタイル。さらにシルキーな高音から色気を感じさせる低音まで使い分ける、ボーカリスト/ラッパーとしてのスキルの高さにも唸らされる。
先述の「二人」と同様に、友人のyeeraがトラックを担当した「DOLL」では、重心の低いダークなサウンドを展開。ときに攻撃的な言葉も用いながら、「操り人形にはならない」「自分自身の道を行く」――そんな強い意思を感じさせるリリックや、自身が監督を務めたドラマチックなMVなど、作品全体でこれまで以上に作り込まれた世界観を提示した。
また、音楽家として、アーティストとしてのアイデンティティの確立を感じさせる一方で、関西弁も自然に飛び出す実の母への感謝の想いを綴った「Mommy」や、Tamiaの「Officially Missing You」をリミックス/アレンジし、チルなラップを乗せた「Maria」など、アンオフィシャルな作品群もぜひチェックしてほしい。まるでライフ・ワークのように、楽しみながら音楽を作っている姿がありありと浮かび上がってくるようだ。
ベッドルーム発の宅録系アーティストは、ローカルなシーンとの繋がりが希薄なことも多いが、idomはこれまでにコラボを果たしているyeong won、Solemn T、KABUKI Labelといったラッパーを始め、地元・岡山のバンド、KIZAMIのMVやアートワークも手がけるなど、様々な音楽的人脈があるようだ。なお、昨年12月には岡山にて初のライブも行っている。ソロ・アーティストとしての活躍することで、ローカルなシーンを盛り上げる存在にもなり得るのかも知れない。
また、現状ではヒップホップ/ラップ・ミュージックやR&Bな方向性の作品が多いが、彼の創作活動を見ていると何か特定のジャンルやサウンド・スタイルに固執する気はないように思える。音楽制作だけでなく、イラスト、アニメーション制作まで自身で手がける器用さを武器に、今後も我々の想像を超えるクリエイションを見せてくれることだろう。その才能はまだまだ未知数。idomの今後の歩みからも目が離せない。
HiphopもRnBもFunkもJazzもやりたい。
— idom (@baedongk) August 15, 2020
【リリース情報】
idom 『二人』
Release Date:2021.04.11 (Sun.)
Label:sambafree.inc
Tracklist:
1. 二人
■idom:Twitter / Instagram / SoundCloud