FEATURE

Elephant Gym 『Dreams』


9m88、chilldspot・比喩根、林生祥ら参加、toeサンプリング曲含む最新アルバムをメンバー自身が解説

2022.06.01

Text & Translation by Sho Yoshimoto
Photo by Official

台湾・高雄出身のスリーピース・バンド、Elephant Gymがフル・アルバムとしては2018年以来となる3rdアルバム『Dreams』をリリースした。

本作はその名の通り、“夢”をコンセプトに掲げた作品。制作時に夢にまつわる話や研究に多く触れ、そのインスピレーションが楽曲に反映されている。そのコンセプトはやはりCOVID-19による影響もあり、まるで夢の中にいたようなこの2年間。楽曲制作に集中した結果、自分たちの音楽を通して、人々が意識できない領域にまで深くアプローチすることを考えるようになったという。

本作では管楽器や民族楽器、台湾の語り部などを取り入れることで、幻想的な“夢”の世界を表現している。加えて、chilldspotのボーカル・比喩根や、台湾で近年最も注目されているソウル・シンガー9m88、そして、台湾を代表する客家(民族のひとつ)のシンガー・林生祥(Lin Sheng Xiang)をフィーチャリングした楽曲も収録。

そんなアルバムについて、メンバーであるTell Chang(Gt. / Pf.)が語ってくれた内容をセルフ・ライナーノーツとしてお届けする。


Elephant Gym 『Dreams』セルフ・ライナーノーツ

1. Anima

“Anima”(アニマ)は、心理学者カール・グスタフ・ユングの提唱した“完璧な女性”という概念。これは、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」や今敏監督によるアニメーション映画『パプリカ』などでも表現されている。この曲ではElephant Gymとしてのアニマを表現したもの。最初のイメージでは軽やかで可愛らしい響きだが、よくよく聴いてみると、複雑なリズムで構成しており、深みを持たせている。自由と喜びを表現し、アルバムのオープニングに相応しい楽曲にした。

2. Go Through The Night

「Go Through The Night」は、日本のインストバンド・toeの楽曲「Two Moons」をサンプリングしたところから始まった。Elephant Gymは音楽を始めた当初、toeに大きな影響を受けていて、2021年にはオンライン対バン・イベントで共演することになって、この楽曲の制作を思いついた。「Two Moons」を優しいピアノと印象的なビートで再構築したが、この曲でリスナーを立ちこめた霧で包み、夢の中へ誘うようなイメージ。

3. Shadow feat. hiyune from chilldspot

日本盤限定で収録された、chilldspotの比喩根さんに日本語作詞と歌唱をお願いした楽曲。台湾で有名なソウル・シンガー9m88が歌っている中国語曲が最初にでき、それを日本語に再構築してもらった。作詞は翻訳ではなく、コンセプトを元にイチから作詞してもらった。

この曲は心理学者ユングのシャドウ理論を派生させて制作した曲。人々が生きていく中で抱く不適切な性欲や暴力、妄想などのネガティブな感情は、社会的規範や道徳によって抑圧され、皆はそれらの感情が存在していなかったかのように振る舞う。しかし、そういった感情は“シャドウ”として無意識化には残っていく。それは不安や喪失感を心のどこかで生んでいるのだ。そしていつしか夢の中でそんな“シャドウ”と出会うことになる。人々はこの“シャドウ”を認め、解放したときにこそ自分自身が統合されて、成熟していくことができる。そこでやっと、あなたの魂は本当の旅路に着くことができる。

4. Witch

Elephant Gymが作詞したものとしては初の英詞作品。とはいえ、その歌詞は劇作家ウィリアム・シェイクスピアの『マクベス』という劇作から発想したものだ。主人公マクベスは魔女の占いに従い、国王を暗殺して王位を奪い取ったが、それから悪夢にうなされ続ける。楽曲中で度々聴かれるサウンド・エフェクトは、シーンの転換を表現しており、生命の衝突と虚無を感じさせている。

5. Dreamlike

KTのソロ・ピアノは、現実と夢の間に境界線を描こうとしている。夢とは現実の端々を拾い集めたもので、一方、現実は夢を映し出したものとも言える。サウンド・エフェクトがピアノのメロディに織り込まれて、SFとクラシックがミックスされている。夢も、そして命さえも、いつかは終わる。何も残らない。私たちは誰のために生きているのか? 何のために、生きているのか?

6. Wings feat. Kaohsiung City Wind Orchestra

台湾・高雄のブラス・バンド、Kaohsiung City Wind Orchestraとのコラボ作。Elephant Gymのロックに吹奏楽の要素を混ぜ合わせた。僕は度々、高いところから落ちてしまう夢を見るが、もしあなたもそうだったら、羽を広げてみたらいい。羽ばたくことができるはずだ。

7. Happy but Sad

僕の祖母が長い闘病生活を終え、亡くなってしまった。それは悲報だったが、同時に父が長い介護生活を終えることができるという、安心を与えた知らせでもあった。何事にも裏表があるということを理解し始めてから、全ての嬉しさの中には必ず、わずかな悲しみが混ざっていることもわかるようになった。

8. Shadow feat. 9m88

コンセプトは3曲目の方を参照。ちなみに、日本語曲も中国語曲も、両方とも素晴らしいシンガーをフィーチャリングした楽曲であり、且つ、その両方の曲をアルバムの途中途中で収録することで、夢の中で今いる国や言語さえも混ざり合っている様子を感じてほしかった。どちらかをボーナス・トラックとすることはしたくなかった。

9. Deities’ Party feat. Chio Tian Folk Drums And Art Troupe

この曲は台湾の伝統民族楽器楽団・九天民俗技芸団とのコラボレーション。アジアの民族楽器とElephant Gymの音楽の融合は、カーニバルのような悪夢。神様は、人間の地球への破壊行為に対して怒り、人類を絶滅させ、不幸を拡散させるためのカーニバルが始まる。

10. Dear Humans -Japanese ver.-

元々この楽曲は中国語で歌っており、cinema staffの三島想平さんに作詞をしてもらって日本語詞も作って、KT Changが歌ったが、この曲に関しては台湾盤や欧米盤も含め、日本語詞のバージョンを収録した。

人類は地球環境の悪化に伴い、スペースシャトルで新しい惑星へ脱出をしようとした。しかし、様々な障壁を乗り越えることはできず、移住計画は失敗に終わり地球に戻ってくる。人類のいない地球はかつてないほどに繁栄していた。以前、人間に飼われていたであろう犬がスペースシャトルの近くに駆け寄ってきて、人間が出てくる様子を見ている。

11. Gaze at Blue -Album ver.-

自分の晩年の夢を見た。時が皮膚の上に、ジワジワと皺をつけていた。私の皺は、時間の詩である。静かに目を凝らすと、自分が夢の中にいるのを気がついて、過去の怒りがスッと消えていくのを感じた。

12. Fable

この曲は、会長、シェフ、老父、老婆の夢の物語を、台湾の昔ながらの民謡を引用しながら伝えている。本当の夢は、この競争社会の中で成し遂げた実績なのか、それとも憂愁のない天国へ行くことなのか? さあ、夢の中へ行こう。夢の中で、ゆっくり話そう。

13. Dream of You feat. Lin Sheng Xiang

この曲は台湾を代表する客家のシンガー、林生祥(Lin Sheng Xiang)とコラボした楽曲だ。タイトルにもなっている“夢の中に現れる”ということは台湾の文化的意味合いとして、様々な神や先祖が夢の中で、何らかのメッセージを伝えに来ることを意味する。林生祥氏は夢の中で、畑にいる亡くした父親の後ろ姿を見た。その父は、彼がかつて歌っていたあの歌を、まだ歌っているだろうか?

■アルバム・アートワークについて

『Dreams』のアートワークはこれまでの2Dデザインを超え、非現実的な夢の世界を表現すべく3Dグラフィックを導入した。

台湾のアーティスト、曾建穎(Tseng Chien-ying)とコラボで、曾氏の陶芸作品「横向き人面花器」を3Dスキャンして、その上に蓮や様々な花を挿し、神秘的な雰囲気を作った。その雰囲気は、アルバムに収録されている楽曲の幅広く多様な音楽性を表現しているよう。アートワーク自体には静謐さと落ち着きと感じられるかもしれないが、その中にも圧倒的なパワーが感じられると思う。


【リリース情報】

Elephant Gym 『Dreams』
Release Date:2022.05.11 (Wed.)
Label:WORDS Recordings
Tracklist:
1. Anima
2. Go Through The Night
3. Shadow feat. hiyune from chilldspot
4. Witches
5. Dreamlike
6. Wings feat. Kaohsiung City Wind Orchestra
7. Happy but Sad
8. Shadow feat. 9m88
9. Deities’ Party feat. Chio Tian Folk Drums And Art Troupe
10. Dear Humans -Japanese ver.-
11. Gaze At Blue -Album ver.-
12. Fable
13. Dream of You feat. Lin Sheng Xiang

Elephant Gym オフィシャル・サイト

Elephant Gym 日本レーベル・サイト


Spincoaster SNS