Dedekind Cut(デデキントカット)は、カリフォルニア州サクラメント出身の本名Fred Welton Warmsley(フレッド・ウィーズリー)の新たなプロジェクト。Lee Bannon(リー・バノン)名義ではヒップホップやジャングルを手がけ、First Person Shootr(ファースト・パーソン・シューター)としてはチルウェイヴなアルバム『Mobility For Gods』まで制作するなど、彼はさまざまな角度で音楽的実験を続けてきました。
ただ、”新たな”と言っても(2015年のデビュー作から数えて)Dedekind Cutのカタログ上にはすでに5枚の作品が並んでいます。先ほど列挙したジャンル群と以下の音源を聴き比べてみて(そうするまでもなく)すぐに分かるのは、彼が今もなお、ひとりのプロデューサーとして、作曲家として未知の領域へ挑み続けているということ。また、盤名に付された”ded”の符号は、(ノイズやニューエイジ、アンビエントへの近代的なアプローチで)インダストリアル・サウンドに潜む”平静”を引き出すことを表している、とのことです。
最新アルバム『Tahoe(ded007)』は〈Kranky〉より来年2月23日(金)にリリースされる予定で、その表題曲が先行公開されています。
*ded006は欠番のようです。
漆黒のストリングスが醸し出す静謐なムードに、私たちは疑いや抵抗を忘れ、粛々と進んでゆくセレモニーをただただ見守るほかありません。そこでは”境界”が終わりを告げます。それが意味するのは、虚しさが透けて見えるこの人間社会を品定めする、ひとつの問いかけです。戦争やあらゆる差別の元凶に、私たち人類がトドメを刺すのはいつになるのか――という、ものすごくシンプルで重要なテーマ。何も迷う必要はないのに。
そこで、楽曲中の(フィールド・レコーディングによる)川のせせらぎと草木のざわめきとが、我々に手本を示してくれている訳です。それぞれの音が溶け合うイメージの中に見えてくるのはきっと、生を紡ぐものすべてに共通する本質。進歩を目指す生態系の、基本にして究極のメソッド。私たちは調和を学ぶべきです。
となると、自然が執り行う”儀式(のようなアンビエント・ミュージック)”、というのは正確な表現ではありませんでした。なぜなら、彼らは融和することそのものに帰属が認められるから。時に、自らの死を以ってさえエコシステムを補完するというのは残酷ですが、なんら特別なことではないでしょうし、その営みの前では人間のくだらない論争など無に等しいのです(暴力よりはマシというだけで)。
実は、この「Tahoe」*という楽曲に私は宇宙を思い浮かべました(だからこうして少し大げさな解釈を)。緩やかにリフレインする擦弦楽器のフレーズが流転を表しているようで。
*「タホ」とは、カリフォルニア付近に位置する湖の名前。また、その辺りの先住民族の言葉で「大きな水」を意味します。
真理を窺い知ることができるほど美しいアンビエントの傍ら、社会の現状は余裕のないところまで来ていて。とにかくそれを打破するということを第一にせねばなりませんし、Individuality(個性)とDiversity(多様性)がその手段だと私は思います。
前作のEP『The Expanding Domain(ded005)』は、冒頭で説明したような”ded”の精神が大いに感じられるインダストリアル盤でした。だから、Dedekind Cutは今回もバリエーションに富んだ表現を聴かせてくれると期待していますし、そこから穏やかな世界へアプローチすることもできるはず。新たに。
『The Expanding Domain(ded005)』では、次の2曲が特にオススメです。M1「Cold Bloom」はノイズを伴うエクスペリメンタルですが、怪しげなベースの一音一音の残響が連なることで、ある種のドローンとしても聴くことができました。
M3「Fear in reverse Ⅱ (feat. Dirch Heather & Jesse Osborne-Lanthier)」では、スパークの飛び散る光景や工業機械を連想させる金属的な音色で駆り立てるようなビートが刻まれ、これぞポスト・インダストリアルという攻撃性とミステリーが備わっています。
来年2月、実際にはどんなサウンド・エクスペリエンスが待っているのでしょうか。とりあえずアートワークがかっこいい。
【リリース情報】
Dedekind Cut 『Tahoe(ded007)』
Release Date:2018.2.23 (Fri.)
Label:Kranky
Tracklist:
1. Equity
2. The Crossing Guard
3. Tahoe
4. MMXIX
5. De-Civilization
6. Spiral
7. Hollow Earth
8. Virtues