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特別対談 / Niia × showmore


LAのSSW・Niiaと、彼女を敬愛するshowmoreによる対談が実現。2組の共通点、そして近作で起こった変化とは

2021.09.06

6月上旬、LAを拠点とするSSW/マルチ・インストゥルメンタリストのNiiaが、新作EP『If I Should Die』をリリースした。初のセルフ・プロデュースを試みた新作で、仄暗くも妖艶な音色はそのままに、よりナチュラルな彼女の心情が反映された作品と言えるだろう。今回は新作の背景を伺うべく、アメリカにいる彼女にZoomを繋ぎ、Niiaの大ファンだというshowmoreとの対談を試みた。

showmoreが作る楽曲の、孤独の夜にそっと溶けていくようなしっとりとした音色からは、確かにNiiaからの影響を感じるだろう。自身らのライブのSEでNiiaの楽曲をかけるなど、リスペクトたっぷりのふたりである。予想以上に波長の合う対話となったこともあり、コロナ禍が解決したときには、もしかしたらここ日本でライブの共演が見れるかもしれない。

Interview & Text by Ryutaro Kuroda
Photo by Official


Niiaとshowmore・根津の共通点

――showmoreのおふたりは、ライブのSEでNiiaさんの楽曲を流しているんですよね。

井上:ずっと大ファンです。僕らはそんなに英語が得意ではないので、海外の音楽はサウンド・ファーストで聴くことが多いんですけど、Niiaの音楽はメロディやサウンドがすごくクールで惹き込まれました。サウンドからはとてもエモーショナルな人間性も感じていたので、今回対談できるのが嬉しいです。

Niia:私もすごく嬉しい。日本に行ける状態になったら、すぐにでもショーをやりたいくらい。

井上:『If I Should Die』も最高ですね。

Niia:作るのがすごく大変なレコードだったから、自分でもでき上がって嬉しい。私はとてもエモーショナルになるタイプなので、それがクリエイティブに良く作用するときもあれば、感情にハマって抜け出すのが大変なときもあるんですけど。自分が考えていることを、素直に書くのが良いんですよね。

根津:今の話はとても共感します。

井上:僕らも2019年に出した『too close to know』というアルバムの制作が、地獄の苦しみで。根津がエモーショナルになり過ぎちゃったんです。

根津:それで歌詞を書けなくなってしまって。いろいろ狙い過ぎたり、考えてしまうんですけど、ありのまま書く方が良い曲になるんですよね。

Niia:今回のEPで私が学んだことも、無理矢理作ろうとはしないってことだった。それで数ヶ月寝かしておいてから書いた曲もありますね。自分が抱えていることがすごくヘヴィなときもあるし、それをどう表現するか見つけるのはとても大変なことだと思う。

井上:こういう言い方はおこがましいんですけど、話を聞いているとNiiaと根津は同じタイプだなと思いました。根津もすごくエモーショナルですし、言葉を大切にするんですよね。“仕事だから再生される曲を作りたい”とか、“今回はこういうテンポの曲を作りたい”というようなイメージがあっても、結局その中に自分の表現したいことがないと上手くいかない。僕はそれを上手く掬い上げて、その衝動を殺さないようにアレンジするようにしています。Niiaはどのように作詞作曲をしていますか?

Niia:以前はスタジオに入って、セッションしながらプロデューサーやライターと一緒に書くことが多かったんですけど、最近は家にいるときに自分が良いと思ったものをメモしておいて、そこから広げていくように作ってます。たとえば郵便局に行ったときにも、何か思いついたらその場でメモして、それが悲しいバイヴを感じるものなら、歌詞も悲しいものを乗せようって連想していきます。曲のアイデアはピクチャーやビジュアル・イメージから浮かぶこともあれば、セラピストと話している中でインスピレーションを得ることもありますね。


「『If I Should Die』は不安や恐れを越えた段階の作品」

――新作『If I Should Die』は、初のセルフ・プロデュース作ですね。

Niia:なぜセルフ・プロデュースを選んだかと言うと、自分にとって新たな挑戦だったから。やってみるとビデオを撮るためのメイクに3時間もかかることを思い出したし、ディレクションを自分でやりながら曲を作る大変さも実感しました。でも、そこからいろいろ学ぶことができたので、やって良かったです。

――一方showmoreのおふたりは、毎回セルフ・プロデュースで作品を作っています。

根津:そうですね、私たちは結成からずっとセルフ・プロデュースです。

Niia:アメイジング……。やることがいっぱいあって、すごく大変じゃないですか?

根津:はい、めちゃくちゃ大変です(笑)。

井上:(笑)。最初の作品をセルフ・プロデュースで作ったのは、単純に僕たちと一緒にやってくれる人が見つからなかったからなんですけど、最近は自分たちがやりたいように、自分たちのペースで制作ができるからいいよねってことで、敢えて経済的なパートナーを探さず、セルフ・プロデュースで作ることをポジティブに捉えています。Niiaは前2作(『I』、『II: La Bella Vita』)をプロデューサーと一緒に作っていた中、新作でセルフ・プロデュースを試みたのは何か心境の変化があったからなんですか?

Niia:自分とやってみたいと言ってくれる人がいるのも良いことなんですけど、プロデューサーと一緒にやっていると、自分自身を失ってしまうときがあるんですよね。音楽を作っているときに何か浮かんできても、それを加えることができなかったりする。今回は自分がやりたいことをやろうと思って、セルフ・プロデュースに挑戦しました。

井上:『If I Should Die』はすごくクールな作品だと思う。良い意味で商業的じゃなくて、Niiaの中に何か表現したいことがあるんだなって作品から強く感じました。

Niia:プロデュースされ過ぎていない、デモに近いサウンドのものもあるので、それを感じてもらえたのが嬉しい。でも、逆にコマーシャルになれる方法を知りたいくらいなんですよね。私にはそういう作り方ができないことなので。

――今作はカバー・アートワークも印象的ですね。

Niia:自分じゃないんだけど、自分を思わせるようなアートワークにしたくて。それでイラストレーターのアーカイブを探しているとき、ナカムラセイジという日本のアーティストの作品を見て。エレガントで美しくて、なんてロマンティックなんだろうと思いました。私は今こそビジュアルのイメージが大事だと思いますし、誰もがいろんなものを見れる時代なので、音と同じくらいビジュアルのイメージを大切に思っていいるアーティストは沢山いると思う。

根津:音楽の世界観を補強したり、より高めていくことがありますよね。

Niia:そうですよね、ビジュアル・イメージが音楽を引き上げてくれてると思う。前はビデオに出ることも、写真を撮られるのも好きじゃなかったけど、自分が好きなSadeやFiona Appleのことを考えると、彼女たちのイメージが好きなので。自分もそうなってもいいんじゃないかなと思って、トライしていくうちに抵抗がなくなっていきました。

ーKhruangbinのベーシストであるLaura LeeやSolo Woods、Girl Ultraとのコラボ曲に加え、台北生まれのSSW・9m88と制作したナンバーなど、新作でも複数のミュージシャンが参加されていますね。Niiaさんの周りにはどういうシーンやコミュニティがありますか?

Niia:LAとNYは全然違うんですよね。NYはプレイヤーが多くて、インストの演奏者に囲まれていたんですけど。LAはプロデューサーやライターが多いので、今はそういう人たちと関わることが多いです。実際に共演する人は友人や近しい人が多くて、一緒にいるときに私が自分自身でいられる人とやっています。

井上:『If I Should Die』という作品タイトルも象徴的ですね。

Niia:ダークなんだけどその中にちょっと光が見えるような意味を持たせた、ポエティックなタイトルにしました。たとえば恋愛もそうだけど、これまでの自分はただ恐れて怖がっていただけなんですよね。ハートブレイクすることをただ嘆いて、不安になっているだけだった。でも、そういう不安や恐れを自分の中で分析してみて、なんでそうなるんだろうってことを考えてみて、荷を下ろしたような感覚がありました。『If I Should Die』は不安や恐れを越えた段階の作品で、自分が死んじゃったらどうなるんだろうっていう、そういうことがテーマにありました。今までよりも大きな次元で表現した作品ですね。

根津:私もこれまでの作品では愛だの恋だの歌ってきたけど、今制作している3rdアルバムのテーマは、いよいよ“人生”になってきています。生き方だったり、人生が向かっていく終着点を考えるようになりました。

Niia:こんなに共通点があるのが不思議(笑)。私も自分は一体どこに向かっているんだろうって考えるようになった。自分が成長するに従って、自分自身のことを考えるようになって、自分の中で起こっている変化が初めて歌詞に表れてきたんだと思う。なんで自分を悲しめるような選択をしてしまうんだろうとか、人生とは? って考えるようになったんですよね。そういう歌を書けるようになったのは、私の考え方が変わってきたことだけではなくて、この時代になって女性がそういうことを語りやすくなったってことだと思う。前は女性が歌うときにはセクシーなことや、悲しいことを期待されていたけど、今は自分が抱く疑問や不安を語っていい世の中になった。それも理由のひとつだと思います。

井上:個人的に、リード・トラック「Macaroni Salad」という楽曲に特に好きです。歌詞を読み込んでみたのですが、詞の内容とタイトルがどういう風にリンクしているのかが気になりました。

Niia:あの曲を書いたとき、お酒を飲みながらホロスコープ(西洋占星術)の本を読んでいて。自分にとって何が間違いか、何が合っているのか葛藤するようなリリックになっているのはそのせいです。そして、そのときに食べていたのがマカロニ・サラダだったんです(笑)。この曲は少しシリアスな内容だったから、バランスを取るためにもジョークっぽいタイトルにしようと思って。

井上:最高です(笑)。


「人が繋がりを感じられるような音楽を」

――showmoreの音楽は、ひとりの夜にしっとりと聴けるような響きがありますね。

井上:僕らはふたりとも明るく外交的なタイプではないし、特に僕は内向的なタイプで、“みんなで仲良く世界をひとつにしよう”みたいな表現はあんまり得意ではないので。孤独を感じている人を救いあげたいというか、そういう人たちと繋がりにいく音楽。“僕たちがいて、あなたもいる”っていうように、点々とした存在を感じて、その間に音楽があればいいかなっていう気持ちでで音楽を作っています。

Niia:ポップ・ミュージックには人を癒す力があるから、だからこそ上手に歌詞を選ばないとダメですよね。私はおふたりの音楽がリスナーを癒していると思う。

――Niiaさんもそうしたことを意識することはありますか?

Niia:私も人が繋がりを感じられるような音楽を作れたらいいなって思います。それは自分の中で当たり前のことになってきているので、半分意識していて、半分意識していないような状態ですね。ただ、逆に自分が繋がりを感じるものから、全く違う場所に連れていってくれるのも良いなと思っていて、それで今はアンビエントのレコードを作っています。パーソナルなことを歌うわけでもなく、もっと大きいテーマで曲を書けるので、聴く人はそのサウンドスケープの中で自分が繋がりたいように音楽に繋がることができると思う。あと2、3週間で仕上げたいと思っているので、近いうちにリリースできるんじゃないかな。

――リリース楽しみにしています。

Niia:ありがとう。今日お話しできて嬉しかったですし、showmoreとコラボレーションできたらおもしろいですね。

根津:うわぁ、嬉しい。一緒に歌いたい。

Niia:絶対やりましょう。

――一緒に曲を作るとしたら、どんな曲がいいですか?

根津:クールなトラック?

井上:例えば、僕がピアノでワンフレーズ弾いて、そこから思い浮かんだワードを掬い上げながら、ボーカリスト同士で世界観を膨らませていくようにキャッチボールできたらいいですね。コロナが落ち着いて来日の機会があったら、ぜひ共演させて頂きたいです。

Niia:ぜひぜひ。これからもコンタクトを取り続けていきましょう

Niia

showmore


【リリース情報】

Niia 『If I Should Die』
Release Date:2021.06.04 (Fri.)
Label:NIIAROCCO LLC
Tracklist:
1. Not Up For Discussion ft. Laura Lee
2. Macaroni Salad
3. We Were Never Friends ft. Solo Wood
4. Oh Girl ft. 9m88
5. If I Should Die ft. Girl Ultra
6. Ace Hotel

Niia オフィシャル・サイト

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showmore 『seek』
Release Date:2021.10.06 (Wed.)
Label:newscope records
Tracklist:
1. marble
2. swipe
3. style
4. strobo
5. devilgirl
6. snowflakes
7. scope
8. 37°C
9. I love you

showmore オフィシャル・サイト


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