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Best Tracks Of 2018 / Yuya Tamura


キュレーター、Yuya Tamuraの2018年ベスト・トラック!

2018.12.26

Spotifyのおかげで年々聴く音楽の幅が広がっているなーと思いつつも、学生時代の日課でもあった深夜のBamdcampディグから離れてしまった自分がいて、自ら音楽を見つけにいくという行為をもっと大切にしたいなと感じる1年でした。


  5. nothing,nowhere. / ruiner

オルタナやエモのエッセンスを取り入れたヒップホップ、トラップがすっかり市民権を得た近年ですが、完全に今年の僕はこのハードコア譲りの叙情的なトラック・メイクにやられてしまいました。叙情系のハードコア・バンドを思わせる佇まいとヒップホップの化学反応が癖になる楽曲ですが、熱量溢れるライブ・パフォーマンスや偶然Bandcampで見つけた若手のエモ・バンドを思わせるアルバム・アートワークから、自身のルーツが強く伝わってくるところも素晴らしいなと感じます。彼にとって今年は〈Warner〉傘下のレーベルである〈Fueled By Ramen〉とサインを果たし、大きな飛躍を遂げた一年となりました。来年以降もジャンルの垣根を超えた活躍を期待したいですね。

  4. Snail Mail / Heat Wave

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「今年は彼女の年だった」と言っても過言ではないかと思いますが、このローファイなギター・フレーズに乗せた若さゆえの等身大なリリックからは、Lindseyの急激な環境の変化に対する不安や葛藤だけでなく、その中にある前向きな心情も強く伝わってきます。ひとりのエモ・フリークからしますと、彼女の活躍は90’s以降の新しいエモの形をメインストリームに提示したなと感じましたし、そんな等身大なリリックをいい意味でぶっきらぼうに歌い上げるギャップもまた、本楽曲の中毒性の高さを際立たせていますね。昨年のJulien Bakerに続いて〈Matador Records〉とサインを果たし、今年の女性SSWの存在感をより強める存在となりました。見事ソールドアウトした今年の来日公演も素晴らしかったですし、今後も数多くのライブをこなしてより成熟したローファイ・エモを聴かせてほしいところ。

  3. Turnstile / Generator

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Rage Against The MachineやBeastie Boysを彷彿とさせるヒップホップのエッセンスを取り入れたサウンドで、一気にハードコア・シーンのトップに躍り出た彼らですが、今年の彼らはそんなアンダーグラウンドなシーンを飛び越えてメインストリームにまでリーチを果たしました。この「Generator」はこれぞハードコアとも言わんばかりの重たいギター・リフで始まったかと思いきや、ハンド・クラップが入ったりとポップな一面も垣間見せる振り幅の大きい楽曲。なおかつ、なぜか違和感なく一曲のハードコア・トラックとしてまとまっていて、僕はこの楽曲によって彼らがハードコアとポップの架け橋となる唯一の存在になったと言っても過言ではないなと思っています。現に11月に行なわれたTyler, The Creator主催のフェス“Camp Flog Gnaw 2018”への出演も果たしましたし、シーンを飛び越えた今後の活躍も非常に楽しみな存在です。僕自身も足を運んだ9月の来日公演の熱量120%なライブ・ビデオもぜひチェックを。(もうこのキャパで観れることはないでしょうね……)

  2. Courtney Barnett / Charity

前作によってこれでもかと上がりきったハードルを完全に無視するかのような、軽やかでストレートなギター・ロック調の冒頭のギター・リフで思わず心の中でガッツ・ポーズをしたリスナーも多いのではないでしょうか。ブルージーな音作りや、スポークン・ワード風でありながら、気怠くも彼女の根幹にある強いメッセージ性のあるリリックを歌い上げるその姿は、現代のギター・ロック・ヒロインという肩書を確固たるものにしました。直近のライブ・ビデオを観ても、前作のリリース時と比べて骨太なライブ・パフォーマンスで魅せる、インディ・ロック・シーンを背負う者としての風格を感じさせます。来年3月には東名阪でのジャパン・ツアーも決定しており、フィンガー・ピッキングで無邪気にギターをかき鳴らす彼女の姿を観れることが、今から非常に楽しみです。

  1. Basement / Be Here Now

2年前のBest Tracksでも取り上げた彼らの楽曲ですが、今年リリースの新譜からもとてつもないロック・アンセムを生み出しました。この「Be Here Now」からは数多くのライブをこなしてきたロックバンドとしてのプライドであったり、今の音楽シーン全体に対してロックバンドとしての意地を提示したなと感じました。彼らのアイデンティティでもあるパンク上がりのオルタナという立ち位置から、よりメインストリームを意識したロック・サウンドが特徴的であった前作からの流れを引き続ぎつつも、本楽曲の分厚いディストーション・ギターとバンド初期の頃を思わせる、90sエモ直系の泣きメロのコンボは圧巻です。今後はバンドとしてよりメインストリームを意識していくことでしょうし、前述のCourtney Barnett同様、まさにロック復権の狼煙を上げる存在になるはずです。今年が終わる前に是非、彼らが鳴らす音を耳に焼き付けておいて欲しいと思います。

  Comment

今年は昨年に引き続き、女性SSWの動きが活発で一年を通してコンスタントに良盤が生まれていた気がします。特にエモ/インディ・ロックを鳴らすSnail Mailはシーンに新しい風を吹かせてくれましたし、徐々に頭打ちになっていて、いい意味でも悪い意味でも再結成ばかりが話題になってしまうUSインディ/エモ界隈を変えてくれるキッカケになるのではないかと思っています。聴く音楽の幅が広がってもやはり自分にとってはこの辺りのシーンから生まれるロック・サウンドが核となっていて、今作も文句なしの傑作を生み出して活躍の幅を広げたBasementや、リリースを重ねるごとに進化し続けるDeath Cab For Cutie、そしてTitle Fightフォロワーとも言えるパンク/ハードコア要素をたっぷり詰め込んだオルタナ・ロックを鳴らすTeenage Wristのデビュー・アルバムなど、今年も良い作品との出合いが沢山ありました。

  番外編マイ・ベスト

「ベスト・ライブ」

個人的に聴く音楽の幅が広がったきっかけにもなった、台風の中観たフジロックのKendrick Lamarのパフォーマンスは一生忘れないかと思いますが、学生の時にBandcampで見つけてからずっと待ち焦がれていたUSシカゴのポップ・パンク・バンド、 Knuckle Puckの来日公演を観に行けたことは、今年の1月のことですが未だに思い出に残っています。

ライブ自体はパンク・バンドらしく熱量に溢れているのですが、彼らが鳴らす深いリバーブを効かせた切ないギター・フレーズが心を浄化してくれるというか、そんな特別な空間でしたね。大手プロモーターの公演はもちろんですが、やはり個人招聘を続けている人たちがあってこそだなと思いますので、皆さんもぜひ多くのライブやクラブ・イベントに足を運んで、自分が愛するシーンを盛り上げていきましょう。


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