毎年の恒例行事となった、ミツメによる主催イベント“WWMM”(わくわくミツメまつり)が今年も開催された。東京・恵比寿LIQUIDROOMのステージには旧友・スカートや台湾からdeca joins、そして意外にも初共演となるLampが出演した(KATAにはnakayaanバンド、Satoshi & Makoto、水中図鑑、Johnnivanが出演)。
そこには一定してミツメらしい穏やかな温度がありながらも、フードの出店やプリント・ワークショップの開催などもあって、まさに“お祭り”の楽しさ溢れる一日となった。彼らのプロフィール写真やアートワークを手がけるトヤマタクロウの写真とともに、その様子をお届けしよう。
Text by hikrrr
Photo by Takuroh Toyama
昼下がりのKATA・ライブ・スペースにて、nakayaanバンドのセッションが口火を切る(この日はPunPun Circleがサポート・ギタリストとして参加)。独・ポストパンク〜ニューウェイヴを継承したストイックなそのビートに、いきなり興奮を抑え切れない。続いて、アラブの薫り高きリード・ギターが支配するプログレッシヴな流れに。そこにうねりを生み出すベースと躍動感あるカッティング・ギター、不断のドラムが壮大な御殿を造り上げていくようだった。
「ケルト音楽が大好きで作ってみた曲です」と最後に始めたのは、ベース・ラインに山のイメージが浮かぶ一曲。海とはまた違うけれども、安心して身を委ねられるような展開がなされていた。nakayaanバンドはボーカルの抜き挿しが絶妙だなと思う。
LIQUIDROOMにて先鋒を務めるスカートの澤部渡は、なんとミツメのVo.川辺素とともに登場した。「信じられないかもしれませんがスカートです(笑)」との挨拶に、オーディエンスの表情もほころぶ。そして2人がミツメ「タイムマシン」を演奏し始めると、一瞬にして会場がグッと引き込まれるのが分かった。ハリのある声で澤部が歌い上げるメロディ・ラインに合わせ、川辺がコーラスを担当する5分間はかなり貴重なものだったのではないだろうか。
その後ステージにひとり残った澤部は、いくつか自身の楽曲を弾き語る。1月にリリースとなった、メジャー2ndシングル「君がいるなら」もその内のひとつ。豪勢なバンド・セットを背に、ギターを手にして歌う孤独な様にはなんとも風格が感じられた。
そこにKATAより到着したミツメのリズム隊、須田洋次郎とnakayaanが加わり、初期の名曲「ストーリー」を。須田のドラムが普段よりもどこか力強く聞こえたのは、澤部のボーカルに呼応してのことだろうか。「この曲を(今はもう)こういうノリでやらないんですよ、ミツメと出会った下北沢SHELTER時代を思い出しますね」と彼は語る。そのタイミングでミツメが全員集合し、彼らがカバーしたスカートの楽曲「どうしてこんなに晴れているのに」をともに披露。
「静かな夜がいい」では、同曲のギターを担当したというトリプルファイヤーの鳥居真道が出演し――“東京インディー三銃士”が揃った瞬間である――素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれた。続く「CALL」はジョン・カーニー(代表作に『シング・ストリート』、『はじまりのうた』など)の映画のようだった。あれくらい出来すぎた“音楽の幸福感”が現にそこに在り、(バンドの姿が目に映るだけでなく)喜びのイメージまでもが視界で弾けていた。
気分は高揚したまま、ミツメ「Disco」のカバーへ。スカート流の大胆なアレンジがお馴染みの曲をいきいきとさせ、いつもとは異なるスタイルでの演奏に本人たちも楽しげだった。とりわけ、大竹雅生のギター・ソロはがらりと印象を変え、それはまるで舞台を跳ねる踊り子のよう。カバーとは、こうでなくてはと強く思う。
余談だが、一時期ミツメが演っていた「20」のライブ・アレンジが個人的にとても好きだ。また、三銃士による“月光密造の夜”の開催も示唆されていたので、実現を期待しよう。
次に現れるはdeca joins。ミツメの台湾ツアーで共演したり、須田が彼らのMVに出演していたりするなど縁のあるバンドだ。4人が奏でる音は“青緑”の色をしていると感じた。限りなくブルーに近いところで緑が緑としての境界を保っている気がして、どこか切なさがある。そしてやはり、ふっと意識を失ってしまうこともあって、青に溶け込む瞬間のなめらかな感触にもそそられる。
――いつのまにか、夜空の下にいた。星と星とを結ぶようなロマンティックな三拍子。ベテルギウス、シリウス、プロキオンが軽快かつゆったりとした足取りでワルツを踊る。その音景を耳にして、私はMild High Clubを観たときの感覚を思い出した。かと思えば、ラストは眩い光のなかでギターを掻き鳴らし、これまでの幻想を忘れさせて“くれる”。「こんな一面もあるんだ」との驚き、すなわち意外性はもしかしたら一番重要なのかもしれない。
突然、ラテンのリズムに華やぐステージ。3組目に登場したLampには、“サウダージ”という言葉がぴったりだと思う。郷愁、憧憬、思慕、切なさ……すべてが詰まっている。その響きの端々に、溢れんばかりのときめきを感じざるを得ない。もしかすると“夢心地”とはこのことを言うのかもしれない。確かなやさしさのある音色が、きらきら輝く水面を彷彿とさせて。そしてその夢をほどいてみれば、色々な楽器の鳴りが見えてくる。実際にそれを眼前にしているときの、なんと贅沢なことか。
ボーカル、フルートなどを務める榊原が「ミツメはすごく気になっていたバンドで、今回呼んでいただけて嬉しいです」と謝辞を述べると、会場は暖かい拍手に包まれた。ところで直観だけれども、Lampという存在には変わらない良さがある気がしている(バンドに変化がないとの意味合いではなく)。人生を通して聴き続けたい、本質的な良さである。それに対する自分の感じ方がどう変容してゆくのかを楽しめたら素敵じゃないか。
「さち子」、涙が。
さて、いよいよ主役の出番だ。客席にはもはや安心感すら漂うLIQUIDROOMで、ミツメの4人のパフォーマンスは「あこがれ」から始まる。彼らの音楽の魅力のひとつに、川辺と大竹のギターの掛け合いがあるけれども、まさにこの曲はその点でおもしろい。そして続くは「忘れる」。中盤まではミドル・テンポのポップ・ソングという感じで、と言ってしまえば平凡に聞こえるかもしれないが実際はそうじゃない。飄々として独特。そのニュアンスを匂わすだけでも尋常でないのに、終盤に押し寄せる音の大波はなんて迫力なのだろう。何度も聴いているはずなのに、気持ちがたかぶる。
この日の「オブジェ」は一音一音がクリアで、それでいて4つの楽器が絡み合っているという、謂わば幾何学的な様相を呈していた。それから久しぶりの「towers」、昨年7月にリリースされた「セダン」に続き、新曲「なめらかな日々」を披露する。サビではそのタイトルが歌われ、全体として虚無感と充足感との半ばにある暮らしを想起させた。こちらが収録される5thアルバム『Ghosts』は、4月3日(水)リリース予定となっているので楽しみに待とう。
日常のなかで、彼らの曲を聴くと心が落ち着くのを感じる。もちろん、ライブへ足を運び直に体感するとそれはなおのことだけれども、“カッコよさ”のほうが勝る瞬間がある。先ほどの「忘れる」と同じく、ハートに火をつけるような展開の巧さと熱量は圧巻のひと言に尽きる。かっこいい曲だ、「Alaska」。
ところで、ミツメの不朽の名曲と言えばみなさんは一体何を思い浮かべるだろう。色々挙がるなかでも、やはり「煙突」を外すことはできない。川辺が「オイルにまみれて泥だらけ」と歌い出した途端、この日一番の歓声が上がる。こういう曲を音楽だけの領域に留めておくのは何だかもったいないとすら思う。他の文化から解釈したり、他の媒体でリメイクしたりしてほしい。
サウンド・プロダクションの方向性は違えど、「ささやき」から「天気予報」への流れはとても緩やかだ。思わぬ発見だった。特に後者は、“こういう風に生きたい”と思わせてくれる楽曲で、Lampとミツメには通ずるところがあると再確認。だからまた共演する日が来てほしいと切に願う。
そして最後は大人気「エスパー」。その後味は爽快で、あっという間に終わりを迎えた賑やかな一日を総括する。そうして甘くさわやかなムードで空間をいっぱいにした彼らは、観客、出演者、会場に感謝してステージを後にしていった。
アンコールに応えて再び楽器を手にした4人は、先日の福岡、熊本のライブを共にしたシャムキャッツの「渚」をカバー。ミツメの空気を介して再構築された、焦がれるようなその情景にLIQUIDROOMは没入していた。また、それだけではなく彼ら自身の勢いも増していたように思う。
「今日は本当にありがとうございました」という言葉とともに聞こえてきたのは“まさか”の「Disco」。2度目ではあっても、青や水色や黄色、橙の光が踊るステージでさすが本家本元と言わしめるプレイを披露し、きっちりとWWMM 2019を締めくくった。
早くも来年のラインナップが気になってしまう。それくらい充実した時間を過ごすことができた。
【ミツメ セットリスト】
1. あこがれ
2. 忘れる
3. オブジェ
4. towers
5. セダン
6. なめらかな日々(新曲)
7. Alaska
8. 煙突
9. ささやき
10. 天気予報
11. エスパー
En.1. 渚(シャムキャッツcover)
En.2. Disco
【リリース情報】
ミツメ 『Ghosts』
Release Date:2019.04.03 (Wed.)
Label:mitsume
Tracklist:
1. ディレイ
2. エスパー
3. ゴーストダンス
4. エックス
5. ふたり
6. セダン
7. なめらかな日々
8. クロール
9. タイム
10. ターミナル
11. モーメント
※CD、LP同時リリース