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REPORT | ASOUND “Summer Dreams” Release One Man Live


ステージとフロア、ライブとDJ、その境界が溶けていく── 最新曲リリパで提示したバンドの現在地

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2025.09.04

Text by Koichiro Funatsu
Photo by Saeka Shimada

関東猛暑、42℃の危機が迫る。そんな報道と「学芸大学にカニ出現」という謎ニュースが並んだ2025年8月初旬の東京。渋谷WWWでは、もうひとつの熱気が立ち上っていた。いまを羽ばたくスペシャルなユースバンド、ASOUNDの新曲“Summer Dreams”のリリースパーティだ。ASOUNDのライブとその空間は、この楽曲のMVに出てくる、葉山・森戸海岸にある海の家「OASIS」の開放感を思い出す。ASOUNDは最高の夏とともにある。

結成は2020年、コロナ禍のさなか。初ライブは一度目の緊急事態宣言が出た日だった。そんな走り出しでも止まることなく、自由を制限された同世代の希望となり、バンドは運命を突き抜けてきた。そしてASOUNDの活躍は、ここ最近、目まぐるしいスピードで加速している。『FUJI ROCK FESTIVAL』『森、道、市場』といった大型フェスへの出演や、GEZANや田我流といったジャンルを越境したアーティストとの共演。またボーカルのARIWAは、国内最高峰のレゲエバンド、KODAMA AND THE DUB STATION BANDでトロンボーン/ボーカルも担当するほか、藤井風の日産スタジアム公演でコーラスに抜擢されるなどメインストリームでも注目を集めている。

他メンバーもそれぞれ多方面で活躍し、ライブハウスとクラブ、世代とジャンルの境界線を越えて活動する唯一無二のバンドと言っていい。その上、みな20代前半。それでいて、すでにハイコンテクストな現場で存在感を発揮できるだけの実力がある。中心にレゲエの体温を持ちながら、あらゆるジャンルの音楽性を自然体で受け入れていく。そのしなやかな吸収力と更新力こそが、ASOUNDの現在地を形づくっている。

バンドの編成としては、沖縄を拠点に活動するギタリスト/プロデューサー・Kannon Priceがサポートギターとして参加。さらに本公演ではDJデュオ・凸凹。(デコポコ)としても活動し、思い出野郎Aチームのサポートも務めるYAYA子がコーラスを務めた。鉄壁の布陣であり、新しい試み。ただのパーティではなく、ASOUNDの「最新モード」を体感できる貴重な機会となった。

この日のオープニングを託されたのは、DJのBungo。スレンテンリディムなどレゲエマナーを随所に散りばめつつ、ジャンルの壁を取り払ったさまざまなサマージャムクラシックと最先端のセンスが光るプレイを披露。

会場を見渡すと、老若男女が混在する不思議な風景も広がっている。昨夏のWWW X公演では、ライブは2部制、DJはオープン前・中間・終演後に配置され、ライブとDJがシームレスに混じり合い、まるで「クラブ化したライブハウス」のような場になっていたことが印象的だった。ASOUNDのリスナーはライブにもクラブにも馴染む、いわばハイブリッドな感性を持った人々なのだ。

自身の物語をさり気なく提示するBungoのDJを引き継ぐように、ASOUNDのライブが始まる。


多様なジャンルが柔らかく溶け合うASOUNDの音楽

まずはバンドメンバーがステージに登場。Manaw Kanoのドラムと、SomaのベースにはUKジャズのニュアンスが漂い、CoutaのキーボードとKannon Priceのギターはフュージョン的な滑らかさを描く。そこへ白いケープのような衣装を纏ったARIWAが登場し、会場は一気に色づいていく。

1曲目は“Midnight Drive”。涼しげで余裕を感じさせる始まりから“Get Down”へと続く。ダンスチューンながらクールな演奏とコール & レスポンスで観客を巻き込み、フロアの熱が少しずつ高まっていく。「“Summer Dreams”のリリースパーティに来てくれてありがとう」と、リラックスした口調で語りかけるARIWA。続く“恋はカゲロウ”は、ラヴァーズロックの名コンピレーション『RELAXIN’ WITH JAPANESE LOVERS』にも選曲された珠玉のナンバー。昭和歌謡のムードが漂い、妖艶なピンクの照明のなか、そのイントロで歓声が響く。

レゲエを核にしながら、UKジャズ、昭和歌謡、シティポップ、ドラムンベース、ソウルなどが柔らかく溶け合うASOUNDの音楽。その多彩さは「ジャンルを超える」というより、「ジャンルが自然と混ざっている」という感覚に近い。ライブとクラブのあいだ、演奏と「鳴らし」のあいだ。そのどちらでもあるような立ち位置に、いまのASOUNDは確かに立っている。

さらに“Moni Moni”では観客を大いに踊らせ、バンドは前半から飛ばす。「踊ってますかー!」というARIWAのMC。“Moni Moni”に続き、ふだんはライブの終わりに演奏されてる1st EPの楽曲“Feel It”も、今回はライブ前半に披露。そこにバンドの新指針と余裕を感じた。同じく初期曲“Nature”では芯の通ったメッセージとキャッチーなフックで、観客との一体感を築き上げた。

アップテンポなソロが光る“Gorgeous”、鍵盤ハーモニカの音色が響く“Itsunohika”、インストのジャムからこの日のタイトル曲“Summer Dreams”へと流れる時間は、まるで夏の長い一日をそのまま切り取ったかのよう。さらに“Lovely Freak”、“Meditation”、“オリジナル”と畳み掛け、ARIWAのMCでは温かな観客への感謝と、新作制作中の報告も。

アンコールでは未発表の新曲を初披露。“恋はカゲロウ”の路線を引き継いだ、大人びた歌謡曲をASOUND流にアップデートしたサウンドで、柔らかな余韻を残す。最後は“GOOD VIBRATION”。《君のためにダンスフロアは空けておくよ》《グッドバイブレーション 必要なのはただそれだけ》。そんな言葉とともに、最後はMCで「みんなアリワトウ!」と笑顔を残し、真夏の夜は幸福感に包まれて締めくくられた。


ステージとフロアをつなぐやさしい磁力

1時間半ほどのライブの中に、音楽的な成熟、構成力、演奏の柔らかさ、そして何より、ステージとフロアをつなぐやさしい磁力があった。昨年のワンマンからの成長と、余裕すら漂うパフォーマンスに、バンドの確かな現在地と未来が垣間見えた。しかし、夜はまだ終わらない。ステージが暗転すると、DJのBungoが再びブースへ。バンドとの組み合わせでありがちな「転換DJ」ではなく、フロアの熱をさらに引き上げる。イベントの余韻を名残惜しむように、老若男女がドリンク片手に身体を揺らす。ステージとフロア、ライブとDJ、その境界が溶けていく。音が止むまで、誰も夜を手放そうとはしなかった。

改めてASOUNDのディスコグラフィーを見返すと、バンドはまだアルバムを一作も出していないことに驚く。これだけの熱と文脈をもったライブを展開できるバンドは、そう多くない。カルチャーをただ輸入するのではなく、身体を通じて現実として鳴らすこと。そしてその音楽を確かな現実として自然に享受するリスナーの感覚、そして葉山・OASISのようなスローで多幸感のある空気感、それらすべてを体現しているのがASOUNDだ。


【イベント情報】


『ASOUND “Summer Dreams” Release One Man Live』
日時:2025年8月5日(火)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・渋谷 WWW
出演:
ASOUND

[Guest DJ]
Bungo


【リリース情報】


ASOUND 『Summer Dreams』
Release Date:2025.07.02 (Wed.)
Tracklist:
1. Summer Dreams

配信リンク

ASOUND オフィシャルサイト


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