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INTERVIEW | VINI


3人組エレポップユニットからオーガニックなバンドへ。新体制への移行と今後の展望

2025.08.14

ギター/ボーカルのFhong(フォン)とベース/ボーカルのPly(パーイ)からなるタイの2人組・VINIは、いま新たなフェーズを迎えている。

先日インタビューを公開したbabychairと同じく、6月末に東京・新宿 東急歌舞伎町タワー「KABUKICHO TOWER STAGE」にて開催された『TOKYO PLAYGROUND #1』への出演と、東京・青山 月見ル君想フにておよそ2年ぶりとなる来日公演を開催。3人組のエレポップユニットから新体制へと移行し、軽やかなインディポップを鳴らすバンドへと生まれ変わった姿を見せつけた。

ライブハウス公演の直前に行った本インタビューでは、これまでの歩みを駆け足で振り返りつつ、最新EPの制作背景についても語ってもらった。そこには、新たな体制のもと、自由に音楽を表現する喜びにあふれた2人の姿があった。

なお、VINIが出演した『TOKYO PLAYGROUND』は早くも2回目の開催が決定している。次回はタイの3人組バンド・KIKIが国内の気鋭バントと共にラインナップ。こちらもぜひチェックを。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Interpreted by Hayato Hidaka
Photo by Rintaro Miyawaki

※Plyの発言はFhongが通訳を担当

L→R:Fhong(Gt., Vo.), Ply(Ba., Vo.)

「より“自分たちのバンド”って感じがする」── 新体制でのリスタートについて

――『TOKYO PLAYGROUND #1』でのライブはどうでしたか?

Fhong:とても楽しかったです。日本のオーディエンスは礼儀正しくて優しい。ただ静かに聴いているだけじゃなくて、私たちが伝えたいことをちゃんと受け取ってくれてるなと感じました。

会場の雰囲気も素晴らしかったですね。街のど真ん中で演奏できるなんて思ってもいなかったので、すごく大きな経験になりました。……正直、少し緊張もしたんですけど、ステージに立ったら吹き飛びました(笑)

――Plyさんは元々FEVERというアイドルグループに在籍しており、Fhongさんは以前ソロシンガーとして活動されていたようですね。それぞれアイドル/シンガーを目指すきっかけのようなものはありましたか?

Fhong:私たちはそれぞれ経歴は異なりますが、共通しているのは音楽が大好きだったということ。2人とも高校生時代からそれぞれバンドをやっていました。VINI自体はレーベルのプロジェクトとしてスタートしたものなんですけど、最近では方向性も変わってきています。同じ夢や情熱があったからこそ、ここまで来られたと思っています。

――高校のときから友人だったんですか?

Fhong:いえ、レーベルが声をかけてくれて、そこで知り合いました。でも、Plyの写真を友人に見せたら、みんな「知ってる!」って言っていて。彼女は当時からちょっとした有名人だったんです。

Ply:(笑)。

――影響を受けたアーティストなどはいますか?

Fhong:小さい頃はTaylor Swiftなどを聴いていましたが、成長するにつれて自分の好みは変わっていきました。最近ではClairoなどが好きですね。

Ply:私は多くのバンドを聴いて育ちました。特にArctic Monkeysが大好きで、ベースを弾くのも好きだし、ライブミュージックに夢中です。

――3人組から2人になり、音楽的スタイルも変化してきましたね。

Fhong:レーベルとの契約が終わったタイミングで意識的に方向性を変えることにしたんです。エレクトロ寄りじゃなくて、もっとライブ感のあるポップバンドにしたいと思って。前のスタイルよりも今のサウンドの方が自分たちには合っていると感じています。私たちはどこへ向かっていくべきかをたくさん話し合いました。前の体制より自分たちで決められることが増えたし、より「自分たちのバンド」って感じがしています。

――自分たちで意思決定して進んでいくのは大変な部分もあると思いますが、満足感の方が大きいですか?

Fhong:その通り。関わることが増えて大変なこともありますけど、バンドに対する愛着はもっと深くなりました。


いろんな形の愛を描いた『love chronicles』

――今年は“cyber love”、“lost love”、“messy love”と3曲をリリースしています。全曲のタイトルに“Love”が付いていますが、何かひとつのコンセプトやテーマに沿った作品群なのでしょうか。

Fhong:実はその3曲は、『love chronicles』というEPに収録予定 なんです。“chronicles(物語集)”というタイトル通り、EPではいろんなラブストーリーを集めたいと思ったんです。曲毎に語り手が異なり、それぞれの視点で恋愛を描いています。

※取材日は7月1日、EPリリース前に実施。

――そういったアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。

Fhong:最初に2曲できて、どちらのタイトルにも“Love”が入ってたんです。だから「次はどうする?」ってなって……。

――新たな「Love」を探したんですね(笑)。

Fhong:そうです(笑)。“cyber love”と“messy love”は全然違う物語だから、もっといろんな“Love”を集めようって話して。「じゃあ次はどんなラブストーリーにする?」「もっといろんな形の愛を描こう」って。

――“lost love”はUKロックのようなテイストも感じられます。楽曲制作のプロセスはどのように変化しましたか?

Fhong:今回のEPは全曲テイストが異なるんですけど、基本はポップスです。それぞれに少しずつ違うカラーを入れていて。生ドラムやアンプを使ってレコーディングもするし、DTM(パソコン)で作った部分もあります。

正直に言うと、3人組時代の曲のほとんどはプロデューサーが作っていました。Plyがベースラインを考えたり、私たちも意見を言いますが、基本的にはプロデューサーの意向が強かったです。

でも今は、まず私たちがデモを作り、それをプロデューサーに渡して仕上げてもらっています。

――最初のデモはどのようにして生まれるのでしょうか。

Fhong:“lost love”は最初はギターでコードを弾いて、メロディを口ずさんだだけでした。曲によってはスタジオでパソコンの前に座って、2人で一緒にアイデアを出し合うこともあります。Plyが「こんなこと考えたんだけど、どう思う?」って送ってくれたり、それを受けて私が「じゃあこうしようか」って意見を交換したり。歌詞は私が書くことが多いんですけど、全体のストーリーはPlyと相談して「こういう話にしようか」って一緒に考えます。以前よりも自由ですし、それはパフォーマンスにも表れていると思います。

――自分たちに適した形を見つけたと。

Fhong:そうです! 3人組時代の曲も大好きですけど、今回は新しいスタイルに挑戦して、オーディエンスがどんな曲を気に入ってくれるのか探ってみたかったんです。

――歌詞の内容は実体験からくることが多いですか?

Fhong:例えば“cyber love”はPlyが「デジタル世界の恋愛を歌おう」っていうアイデアを出してくれたんです。彼女が誰かとやりとりして、返事を何時間も待たなきゃいけなかった経験から来ています(笑)。だからコンセプト自体は実体験ですが、それを基に私が歌詞を書きました。

――おふたりで意見が分かれることはありますか?

Fhong:もちろんあります。私がAプラン、PlyがBプランってなるときも。でも最終的にはスタッフやチームと一緒に決めます。


「私たちはさらに成長する必要があるし、もっと多くの人に私たちの音楽を届けたい」

――ライブでは3人時代の曲もやっていますよね。アレンジについてはどのように話し合って決めましたか?

Fhong:かなりアレンジを変えました。今は完全にライブバンドなので、サポートでドラマーとギタリストを入れて演奏しています。

――今後のビジョンを教えて下さい。

Fhong:『love chronicle』を完成させる前に話したんですけど、私たちはさらに成長する必要があるし、もっと多くの人に私たちの音楽を届けたいんです。タイだけじゃなく、世界中でツアーをしてみたい。以前から英語で曲を作っていますし、私たちは全てのリスナーを大切に思ってきました。

――新作EP『love chronicle』はどのような作品になりそうですか?

Fhong:新しいEPはすでに完成していて、このツアーが終わったらすぐに、明日バンコクに帰ったらリリースします。以前の作品よりも自分たちの色が濃く出ていて、音楽だけじゃなくてアートワークなども自分たちで決めました。シンプルさが私たち2人の共通点なので、それを大切にしています。今回のEPはドライブしながら気軽に聴ける曲を入れたいと思っていたんです。前の作品はドライブには合わない複雑な曲も多かったので(笑)。

――今後コラボしてみたい、もしくは共演してみたいアーティストはいますか?

Fhong:たくさんいます!

Ply:Red Hot Chili PeppersやArctic Monkeysと共演できたら泣いて喜びます。同じフェスに出られたら嬉しいですね。

Fhong:あと、これまであまりコラボしてこなかったタイのアーティストとももっと共作してみたいです。たとえば、WIMとコラボできたら最高です。彼は本当に素晴らしいアーティストです。

――個人的には日本のアーティストとのコラボにも期待したいです。

Fhong:もちろん! そのために、私たちはもっと日本のアーティストをチェックする必要がありますね。


■VINI:Instagram / X


【イベント情報】


『TOKYO PLAYGROUND #2』
日程:2025年9月27日(土)
会場:東京・新宿 東急歌舞伎町タワー1階 KABUKICHO TOWER STAGE
出演:
KIKI
Billyrrom
S.A.R.

……and more!

TOKYO PLAYGROUND オフィシャルサイト


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