曽我部恵一が昨年8月に開催した1stソロ・アルバム『曽我部恵一』再演ライブの様子が公開された。
2002年9月にリリースされた『曽我部恵一』には「ギター」、「おとなになんかならないで」など、現在もライブで歌い続けている楽曲なども収録。曽我部恵一のソロにおける出発点となった作品となっている。同作のリリースから20年を経たことを記念して行われた再演ライブでは、アルバムを曲順通りに演奏。最もパーソナルなアルバムであるこのアルバムを、弾き語りで内面に語りかけるようにたどり直す50分のライブとなった。
【曽我部恵一 コメント】
「20年後の世界」
いつもライブ映像を撮ってくれている誌村くんが楽屋で、「今月、ファーストからちょうど20年ですよ」と言う。ぼくは「へえ! そうなんだ〜」と返した。でも、本当のことを言うと、20周年ということに特に感慨はなかったのだけど。
「全曲、やりましょうよ」彼はそう言うのだった。リハを終えて、今日のセットリストも既に決まっている。「いやいや」と笑ってごまかすが、彼はもう一度言う。全曲やりましょうよ、と。今日を逃したらソカさんもうやらないでしょう、と。ぼくは「え〜〜」なんてヘラヘラ笑っていたが、まあ彼が主張することももっともで、ぼくはこの先このアルバムを全曲通して歌うなんてことはしないだろうな、と思った。
このアルバムは自分に初めて家族ができたそのドキュメンタリーでもあった。バンドを一時解散し、結婚して子どもが生まれ、夫として父親として家族の一員として歩み始めた自分のささやかな記録であった。そしてその結婚生活はいつの間にか終わっていて、当時夢見ていた人生の色合いもぼくの中ですっかり褪色してしまった。でもそこにはまだ甘い残り香が漂っていて、その場所にぼくは戻りたいと思っていなかった。振り返って眺めてみたいとも。そんなふうな心当たりが、たしかに自分にあった。
「やろっか」とぼくは言って、楽屋で大急ぎで練習し始めた。もう何年も思い出してもいない曲が、たくさんあった。自分がひとりで音楽をやってみようと決意して、初めて取り組んだのがここに収められた曲たちで、いろんなスタイルを試行錯誤しながら結局はシンプルな世界観に落ち着いたのだった。現在と違って、一曲を形にするのがひと苦労だったことなどを、練習していて思い出した。
照れ臭いような、びびってるような感じで、このライブは始まる。辿り着いたのが、とても穏やかな場所だったので、やって良かったと思った。誌村くんがアルバムの発売日をひと月間違えていたのが判明するのは、それからしばらく経ってからである。
曽我部恵一