フレンズのメイン・ボーカルでありながら、2014年からソロ活動をスタートし、2019年には1st EP『gappy』をリリースしたおかもとえみが、3年ぶりの新作EP『wwavess』(ウェイブス)をリリースした。
今作では盟友PARKGOLFをはじめ、人気曲「Room Vacation」でもタッグを組んだDJ HASEBE、iriやchelmicoなどを手がけるサウンド・プロデューサーのESME MORI、福岡を拠点とする新鋭ビートメイカー・Joint Beauty、そして注目のシンガー・さらさの楽曲などを手がけるKota Matsukawa(w.a.u)といった気鋭のプロデューサー陣が参加。R&Bやヒップホップの要素は健在でありながらも、前作より一層ポップ・ミュージックらしさが色濃く反映された仕上がりとなった。
『wwavess』という作品を「この3年間が詰まったEP」と捉えるおかもと。2020年から2022年にかけた3年間といえば、アーティストに限らずあらゆる人々が新型コロナウイルスの影響を受け、外出自粛を経験した期間でもあった。
外からの情報が遮断され、家での生活を送るなかで、おかもとは何を考え、音楽とどう向き合っていたのだろうか。また、3年間を経て生まれた楽曲たちを昇華させるべく、アレンジャーたちとはどのように曲を生み出していったのだろうか。
2022年の12月末、我々はおかもとへインタビューを行い、EPに込めた想いについて話を伺った。
Interview & Text by Nozomi Takagi
Photo by Keigo Sugiyama
「波の揺らめきは感情の浮き沈みに似ている」――3年間を集約した作品
――2nd EPの制作はいつ頃から構想されていたんですか?
おかもと:実は、前作の『gappy』(2019年)をリリースした直後には考えていました。本当は間髪入れずに出したかったんです。ただ、ちょうどコロナ禍に入ってしまったんですよね。
2020年はスタジオに入るのすら大変な時期でしたし、2021年は私自身がコロナに感染し、入院してしまいました。もちろんバンドのリリースもあったし、ソロ活動の時間を確保しにくい3年間で。なかなかEP制作にも取り掛かれなかったんです。
――2020年はライブもなかなか実施できない年でしたよね。どのように過ごしていましたか?
おかもと:「燃え尽き症候群」の一言につきます(笑)。それまではライブをたくさんしていて、ずっと外で動き回っていたのに、それが突然できなくなりましたから。未曾有の事態を前に「違う世界に来たのでは」という感覚がありましたね。日常が崩れる感じ。
ただ外に出られなくなったからこそ、家での生活を充実させようとは思いました。大阪のFLAKE RECORDSやdiskunionで買ったレコードを聴き返して「カッケェ……」ってなったり。昔の感覚を呼び起こす、いい機会になったと思います。
――コロナ禍で“家掘り”に励む人は多かったですよね。特に夢中になって聴いていた曲などはありますか?
おかもと:Frank Sinatraが頭角を現しましたね。クリスマス以外の時期でも「Santa Claus Is Coming To Town」を聴いていました(笑)。自分の部屋が一気にクラシカルでおしゃれになる感じが私的に大ヒット。別に、それまで取り立ててシナトラが好きなわけではなかったんですけどね。
――通年でクリスマス・ソングを(笑)。そのステイホーム期間にも曲作りは?
おかもと:1年目は正直あまり手がつけられませんでした。以前は外の景色を眺めたり、散歩したりしながら外で歌詞を書くことが多かったんです。だから家の中で曲作りすることに慣れなくて。
ただ、時間が経つと「今までにないアプローチで作ってみよう」という気持ちになれました。そして自分の生活のなかで生まれたお気に入りのデモ曲を集約したのが、今回の『wwavess』なんです。
「ANSWER」のようにコロナ禍の前から原案があった曲も入っていますが、純粋に「これを出したい」と思った曲をピックアップして出来上がりました。この3年間での生活が詰まったEPだと思います。
――それぞれの楽曲はどういった順番で出来上がっていったんですか?
おかもと:「ANSWER」「ILY IMY」「Fall」「MOTEL」「seaside/cafeteria」、最後に「生活」です。「ILY IMY」は2021年頃のライブでも披露していたのですが、今回改めてリリースしよう、と。
EP全体で統一感があるわけではないのですが、それぞれ心情が一定ではなくて。一曲一曲に波のような揺らめきがあるのが気に入っています。
――その“揺らめき”がEPのタイトルにも繋がっている?
おかもと:ライブを再開し、いろんな土地を巡る中でも海を見に行くことが増えて。海面を眺めているうちに「波の揺らめきは感情の浮き沈みに似ている」と思うようになりました。自然と人間が一体になる様子が頭に浮かんだんです。
今まではあまり自然に興味を持たなかったのですが、最近になり「月ってこんなに大きかったんだ」「星ってなんで光るんだろう」って目を向けるようになりました。「自然って、フッシギー!」とよく思ってます(笑)。
――アートワークも、非現実と現実の狭間にあるような雰囲気の写真ですよね。
おかもと:普段からアー写を撮ってくださっている山内聡美さんの作品です。いくつかの候補写真から、特に“生活に寄り添っている”と感じる写真を選びました。
実はアメリカのモーテルで撮った写真らしいんです。写真を選んだときは知らなかったんですよ。だから「統一感がない」と言いつつも、運命に導かれてこの6曲にまとまったんだなあ、という気はしています。
5人のプロデューサーとのコラボレーション
――今回のEPでは5人のプロデューサーが参加していますが、どのように人選を固めていったんですか?
おかもと:「この曲はこの人にお願いするのがいいだろう」という感覚をベースにお声がけしていきました。自分のアレンジにはまだ自信がなくて。「歌やベースをこうしたい」という楽曲のコアとなる部分は表現できるけど、アレンジメントは脳内のイメージを音に変換できなくて。だったら任せちゃおう、という気持ちで人にオファーしています。
――「この曲ならこの人にお願いしよう」と決めるのは、デモが完成した段階から?
おかもと:作っている途中から、ですかね。パーゴルちゃん(PARKGOLF)は普段からプライベートでも仲良くさせていただいていて、すごく安心できる存在なんです。(PARKGOLFが参加した)「fall」は客演として参加した「Daylight」をリリースした直後にTVアニメ『闇芝居』のタイアップのお話を頂き作り始めたのですが、デモを作っている段階で「これはパーゴルちゃんの音で聴きたいな」って。
おかもと:ESME MORIさんも「これはESMEさんの音が必要だ!」っていう感覚が起点です。視界が開けるような心地よさを求めてお願いしたのですが、「これこれ! これを聴きたかったんだ!」と絶妙なツボを押さえてくれます(笑)。
「ANSWER」と「seaside/cafeteria」はいずれもポップで軽快な仕上がりですよね。特に「ANSWER」は「この曲はちゃんと出してあげたいよね」とデモを大事に取っておいた曲。Ben Foldsのような気持ちが華やぐピアノで昇華したかったので、本当にぴったりの音を作っていただけて嬉しかったです。
――DJ HASEBEさんは2017年にリリースされた「ROOM VACATION」や2020年の「I Like It」に続き、3度目のフィーチャリングとなります。他のプロデューサー同様「この楽曲を活かすならDJ HASEBEの音だ!」という決め方だったんですか?
おかもと:決め手はそうだったのですが、「ROOM VACATION」「I Like it」と、いずれも昼の匂いがする明るい曲で。だからこそ、夜の曲を一緒に作ってみたかったんですよね。子どもの頃に歌っていたけど、歌詞を思い返すとドキッとしちゃうような曲ってあるじゃないですか。
曲作り自体では歌詞の流れや、サンプリングしてほしい声ネタのイメージについてやりとりした程度だったのですが、今回は初めてHASEBEさんの自宅でベースのレコーディングをしました。偶然イベントでご一緒する機会も多くて。2022年の12月頭は、一番一緒に飲んでいた人ですね(笑)。
――DJ HASEBEさんやPARKGOLFさんのように気心知れた人と共作する一方、Joint BeautyさんやKota Matsukawaさんのような新進気鋭のアーティストが参加しているのも印象的でした。彼らのことはどうやって知ったんですか?
おかもと:Joint Beautyくんは以前からトラックを送ってくれていたんです。「いつかアレンジをお願いしたいな」と思っていたものの、コロナに突入しちゃって。ただ、ステイホームの時期に、前に送ってくれたトラックへ試しに歌を乗せてみたら、めちゃくちゃよかったんです。それが「生活」という曲が生まれるきっかけになっています。
――じゃあ、今作に収録されている「生活」のトラックは、当時Joint Beautyさんがおかもとさんに送ったものなのでしょうか?
おかもと:いえ、実はトラックは別物で。というのも、私が送ったタイミングではすでにJoint Beautyくんが他の方とやりとりを進めていたので。とはいえ、彼のトラックを起点に紡がれた自分の歌詞が、等身大の私自身を的確に表現できていて。そこでボーカル・トラックをもとに、新しくトラックを作ってもらいました。
ボイトレの先生に聴かせたら「ミュージカルみたい」と言われたのですが(笑)、生活のなかで突如湧き上がるような、日常に馴染むメロディが出てきたのは嬉しかった。Joint Beautyくんのトラックありきで生まれた曲だと思っています。
そしてkotaさんなのですが、実は「MOTEL」だけはアレンジャーを誰にしようか悩んでいて、何人かにお願いをしていたんです。その中でもkotaさんのアレンジがいい意味で“裏切り”のある曲で。自分が思っていた「MOTEL」像とは違うアプローチをしていたのが印象的で、すぐ虜になりました。
――最初はどんな「MOTEL」像だったんですか?
おかもと:最初はもっとギターのリフのオマージュがあって、軽い感じというか……男女何人かがオープン・カーを運転し、缶チューハイを飲みながら海へ遊びに行く……みたいな(笑)。シティ・ポップよりもっと若々しい、2010年代のニュアンスを想像していたんです。
いくつかそのイメージに合わせたオーダーもしていたのですが、kotaさんの四つ打ちは想定外でした。リードのシンセも耳に残るし「こんなアプローチがあるのか」って。特に「MOTEL」は車でモーテルに向かうまでの一瞬を切り取った曲なので、曲中での時間が他の曲よりも短いんですけど、そのドキドキ感をちゃんと表したトラックでした。
“生まれた年=デビュー年”
――先ほど「作曲はできるがアレンジが苦手」といった話をされていましたが、楽曲のなかで“おかもとえみらしさ”を残すために、プロデューサーとのコミュニケーションで意識することはありますか?
おかもと:トラックを作れないなりにも「この音源は生かして欲しい」「このビート以外は好きにやって」という自分なりの核はあるんです。だから、その核となる要素をちゃんと伝えつつ、生かしてもらった上で再構築してもらおうとはしています。
――じゃあ完成したトラックからさらに歌詞を変える、ということはあまりせず?
おかもと:デモ段階からほとんど変わってないですね。「seaside/cafeteria」だけは最初からワンコーラス分しか作っていなかったので、2番はESMEさんのトラックを聴いてから足しました。
――前作の『gappy』から3年を経て、作詞におけるご自身の変化は感じますか?
おかもと:『gappy』では電車の中でバーっと書き、そのまま世に出す感じだったのですが、今作は何度も練り直す瞬間があった。じっくり悩むことが多かったけど、苦しむことはありませんでした。歌詞を書くのがもっと好きになった気がします。
あとは“ストレートだけど奥が深い表現”を意識するようになりましたね。特に「ILY IMY」や「ANSWER」は“わかりやすいけれど、恥ずかしくなったりダサくなったりしない”というギリギリのラインの言葉を攻めてます。
――そういった表現を求めるようになったきっかけは?
おかもと:阿久悠さんや松本隆さんのような素晴らしい作詞家の歌詞を読んだことは関係していそうです。彼らの歌詞はわかりやすいけれど、ひとつの言葉にいくつもの意味を内包しているじゃないですか。そういった奥行きを感じさせる表現を目指すようになりました。
そういえばこの3年間で“歌詞における言葉選びのルーツ”を考えたことがあったのですが、もしかしたら家の本棚に集約されているんじゃないかな……という気づきはありました!
――何か特定の作品が楽曲の元ネタになっているとか?
おかもと:そういったオマージュ的な引用ではないんです。たとえば、たまに「おかもとえみの曲はキュンキュンする」と言っていただけることがあるんですよ。今までは「なんでキュンキュンするんだろう?」って不思議だったのですが、最近になってようやく「昔の少女マンガから影響を受けているのかも」と。
私の本棚って、竹宮惠子先生をはじめとする縦ロール & ツインテールな少女マンガの世界で構成されているんです。小説も純文学が好き。そういったところから無意識にも言葉を吸収している気がするんです。
――それは自分自身の生活を見直すことで得られる気づきですよね。たしかに「Fall」のサビで出てくる《うーわぁ 暗い》もマンガのセリフっぽいです。
おかもと:楳図かずお感がありますね(笑)。パーゴルちゃんにも「このフレーズでサビが始まる曲はなかなかない!」って言われて嬉しかったです。
――メロディ作りでも、そういった“無意識下で影響を受けている存在”はいますか? たとえばシナトラとか……。
おかもと:うーん、特に特定の誰か、というのはなさそうです。『wwavess』の制作へ突入した時期はJO1から「GOKU VIBES」(DJ CHARI & DJ TATSUKI)、韓国ドラマの挿入歌まで、バラバラな音楽を聴いていたので。
ただ今後、時間差でインプットがアウトプットに影響を与える可能性はありますよね。最近はUMIさんがすごく好きで、ずっとUMIさんの曲しか聴いていないんですよ。2023年以降、ふとした瞬間に影響を垣間見る楽曲が生まれるかもしれません。
――すごく幅広く音楽を聴いていらっしゃるからこそ、おかもとさんの楽曲にはひとつのジャンルにカテゴライズできない魅力があると思います。ご自身はどのフィールドに属している、と捉えていらっしゃるんですか?
おかもと:難しい! そもそもジャンルで括られること自体にしっくりきていないんです。もちろん自分の居場所を“R&B”、“ヒップホップ”のように定義することは大事だと思います。でもあらゆる音楽の要素を取り込んでいるし、いろんなジャンルの音楽が好きなので。
こと私の音楽でいうと、R&BだけじゃなくヒップホップやJ-POPの要素もあるから……強いて言えば、おかもとえみは“J-POP”なんじゃないかなぁ。J-POPが全てのジャンルを内包していると思うし。何より、いろんな人に私の音楽を聴いてもらいたいです。
――今後のアーティスト・おかもとえみとしての活動がどう広がっていくかも期待しています。ソロ活動におけるこれからの目標を教えてください。
おかもと:次はもっと間を空けずにリリースしたいです! あと、もっとオリエンタルな曲に挑戦したくなってきました。というのも、先日フォトグラファーの友だちと作品撮りをしたんですよ。かなりバリバリに決まった見た目にしてもらったので、「björkみたいに前衛的なヘッド・アクセサリーとかを着けてライブしてみたいなぁ」と夢が広がりました。
ジャンルの話に通じますが、何かに囚われずやっていきたい気持ちは強いです。個人的におかもとえみは“生まれた年=デビュー年”だと思っているので(笑)。私自身の生き様がクリエイティブ。だからこそ、やりたいことも絞らず、あらゆることに挑戦していきたいです。
そしておかもとえみ自体はひとりだけど、もっと仲間を増やし、拡張していければと思います。関われば関わるほど、みんながおかもとえみになっていってほしい(笑)。2023年は人に頼りながら、ネクスト・ステージに上がれる年にしたいです。
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— Spincoaster/スピンコースター (@Spincoaster_2nd) January 20, 2023
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※発送先は国内のみとさせて頂きます。
※フリマサイトなどでの転売は固く禁じます
【リリース情報】
おかもとえみ 『wwavess』
Release Date:2022.12.14 (Wed.)
Label:HiTPOP
Tracklist:
1. ANSWER
prod. by ESME MORI
2. ILY IMY
prod. by DJ HASEBE
3. Motel
prod. by Kota Matsukawa(w.a.u)
4. seaside/cafeteria
prod. by ESME MORI
5.生活
prod. by Joint Beauty
[BONUS TRACK]
6. fall
prod. by PARKGOLF
[CD ONLY BONUS]
1. ANSWER(instrumental)
2. ILY IMY(instrumental)
3. Motel(instrumental)
4. seaside/cafeteria(instrumental)
5. 生活(instrumental)
※CD/デジタル
【イベント情報】
『おかもとえみ wwaves TOUR』
日時:2023年3月16日(木) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京・渋谷WWW
日時:2023年3月29日(水) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪・梅田Shangri-La