カリフォルニア州サンノゼを拠点とするミュージック・コレクティブ、Peach Tree Rascalsが2nd EP『Does A Fish Knows it’s Wet?』を7月にリリースした。
プロデューサー/ミキサーのDom、ラッパー/シンガーのIssac、Tarrek、Joseph、そしてクリエイティブ・ディレクターのJorgeの5人から成るPeach Tree Rascalsはメンバーのほとんどが移民二世で、地元で働きながら音楽活動を行いつつ、2020年にはシングル「Mariposa」がTikTokで大きなヒットを記録。パートナーを想う切ないリリックがパンデミックにおける自粛隔離の期間において多くの若者の共感を集め、軽快なサウンドに合わせた数多くのダンス動画が投稿された。
今作『Does A Fish Knows it’s Wet?』には去年からリリースされてきたシングルを含めた全5曲を収録。オーガニックかつ小気味良いグルーヴを湛えた「Song From Hell」、夏の終わりを想起させるメロウなR&B「Moped」、軽快な早口ラップも飛び出す「Let U Go」と、今作もナチュラルにジャンルを越境しながらも、エヴァーグリーンなポップネスを湛えた作品に仕上がっている。
今回はそんなPeach Tree Rascalsのメンバーにメール・インタビューを敢行。EPについて、そして先述のTikTokでのヒットについてなど、様々な質問を投げかけてみた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
――2020年に「Mariposa」がTikTokで大きなヒットを記録しました。この出来事はあなたたちにどのような影響を与えましたか?
Issac:当初の予想よりも早く、私たちの生活が変わりました。ショーがソールドアウトになったり、有名な人と仕事をすることができたり、私たちが快適な生活を送ることができている理由のひとつです。また、音楽以外でも私たちの周りの全てを活気づけました。あの曲に共感してくれた世界中のファンに感謝します。
――「Mariposa」のヒット以降、プレッシャーなどは感じていましたか?
Issac:はい。正直なことを言うと、プレッシャーのほとんどは自分たちのチームからくるものでした。クリエイティブにおいて、自身に投げかけられた批判やアドバイスに心を支配されてはいけません。今年のほとんどの期間、協業する全ての人と素晴らしい関係を維持しながら、自分たちのアートに関しての言葉が届かないようにする方法を学んできました。私たちは皆チームであり、最善を尽くしたいと考えていますが、健全で自由なダイナミクスを生み出す最善の方法はまだ模索中です。
――今回のEPのタイトル『Does A Fish Knows it’s Wet?』はどこか哲学的です。これはどういった意味や考えが込められているのでしょうか
Jorge:この名前を思い付いたのは、自分たちが実際にどのような状況にあるのかを理解し始めたからです。このプロジェクトのサウンドは、私たち自身のひねりを加えつつ、より“ポップ”なサウンドに重きを置いています。音楽業界から多くの注目を集めた「Mariposa」の成功例もありますが、私たちのキャリアはまだ始まったばかりです。それは魚がボウルの中で感じるのと同じような状況であると考えました。彼らはそこが無限の海であると信じていますが、実際は特定の範囲に閉じ込められ、他人に左右され、見られ、判断されています。私たちも同じように、音楽業界(=海)に存在するこの経験全体が、現在および長期的に見たとき、自分たちにどのような影響をもたらすのかを常に考えています。
自分たちがどう変わるのかはわからない、この環境が自分たちにどう影響するのかもわからない。そして何年も先の自分がどうなっているのかは、誰にもわかりません。魚は濡れていることを知っていますか? 私たちは業界で溺れているのか、それともただ水を漕いでいるだけなのでしょうか。わかっているのは、顔を水上にキープするために最善を尽くすということだけです。
――今回のEPで何か新しい試みはありましたか?
Issac:このプロジェクトではたくさんの新しいことを試しました。コラボレーターの数も増えましたし、曲の隅々に至るまで、これまで以上にこだわりをもって制作しました。多くのフィードバックを受け入れ、より戦略的なアプローチも取り入れました。このプロジェクトは私たちにとって新しいステップであり、世界でもトップ・レベルの作品にしたかったんです。
――今回のEPも多様なジャンルが混ざり合った作品になっています。音楽的なテーマや方向性などはどのように考えたのでしょうか。
Dom:グループとして幅広いジャンルからインスピレーションを得ているので、作品を作るときは全てのサウンドが混ざり合っています。私たちは何年にもわたってサウンドに磨きをかけてきて、それを私たちは“ラスカル・ポップ”(Rascal-Pop)と呼んでいます。ファンク、R&B、オルタナティブなビートの上にラスカル・メロディを乗せたものがそれに当たります。🙂
――多様なバックラグランドを持つメンバーと、多様な楽曲を生み出す過程が気になります。普段から楽曲制作はどのように進めるのでしょうか?
Dom:90%くらいはピアノかギターのコードから始まります。普段はJo、Jasper、または私がコードを書いて、メンバーがビートに合わせて作曲しているのを、私がプロデュースします。ほとんどの場合、それぞれメンバーと私がボーカルを録音して、それをひとりずつ、2人か3人全員が曲に参加するまで重ねていきます。Tarrekは車でリリックを書くのが好きだから、グループ・チャットでオープン・ヴァースver.を送ることもあります。たいていは制作に取り組んだ初日に全てのアイデアを出すのですが、1日で曲を仕上げるときもあれば、丸1年、もしくはそれ以上かかることもあります。
――Peach Tree Rascalsの曲作りにルールや制限はありますか?
Jorge, Dom & Issac:ルールは一切ありません。唯一守っていることは、最終的にメンバー全員が楽曲に参加するということだけです。
――あなたたち自身はPeach Tree Rascalsのアイデンティティについて、どう考えていますか?
Jorge:私たちのアイデンティティは純粋で、誠実で、リアル。オーセンティックでタイムレスでもあり、そして子供時代のノスタルジアが少しあります。人々が私たちの作品に触れたとき、童心を取り戻したような気持ちになるように、私たちの作品には自分たちの幼少期の感情などを多く投影しています。私たちが大事にしていることは、誰もがそのようの気持ちを多少なりとも感じられる作品にするということ。今の時代、大人になることは楽しいことだけではないですよね。そういった気持ちを必要としてくれている人々にとって、私たちの作品が現実逃避となることを願っています。
――今年の目標を挙げるとすると?
Issac:北米ツアーをソールドアウトさせたいですね。苦労して稼いだお金を払ってライブ会場に来てくれる人たちに会うことは、どれほどのストリーミング回数、どんな協賛よりも意味があることですし、それらとは全く別の現象です。もちろん、今後の音楽面についてのヴィジョンもすでに見えているので、とてもエキサイトしています。
【リリース情報】
Peach Tree Rascals 『Does A Fish Knows it’s Wet?』
Release Date:2022.07.22 (Fri.)
Label:10K Projects
Tracklist:
1. Let U Go
2. Moped
3. Good Advice
4. Song From Hell
5. TINYA