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INTERVIEW / Suhm


内省、破壊衝動、自由、妖怪――塔本圭祐によるソロ・プロジェクト、Suhm。その足取りとクリエイティブの核に迫る

2022.02.07

SuhmはKidori Kidoriのフロントマン、マッシュこと塔本圭祐によるソロ・プロジェクトである。2017年にバンドが解散し、その年の末に本名義での活動をスタート。それまでのイメージとは一転、ラップトップでトラックメイクを行い、現行のオルタナティブR&Bなどから影響を受けた楽曲を制作。ミュージシャンとして新たな一面を開拓してきたのが、このプロジェクトである。

マイペースに年1作のリリースを続けてきた彼が、いよいよその創作ペースを上げいきそうな気配を漂わせているのが、ここ最近のリリースである。昨年11月に初のアルバム『Suhm1』を発表し、年明けの1月19日(水)には新曲の「スローダウン」をリリース。チルウェイヴを思わせるドリーミーな音色に、ラップと歌の狭間をいくような歌、そして焦りや憤りを和らげるようなリリック……都会の夜をあてどなく彷徨うような、物寂しさを感じる昨年リリースのアルバムと併せて聴くことで、ここ1年ほどの彼のモードが窺い知れるのではないだろうか。

さて、おおよそベッドルームポップと言えるだろう、今の彼が奏でるしっとりとした音楽の根底には、変わらずトゲトゲしい感性が漲っている。ここ4年の足取りをざっと振り返りつつ、新曲「スローダウン」で試みたアイデアと、今後のクリエイティヴについて話を聞いた。

Interview & Text by Kuroda Ryutaro
Photo by Keigo Sugiyama


「真逆なことをやっている戸惑いは、今でもちょっとあります」

――2017年にKidori Kidoriが解散し、その年の12月に本プロジェクト最初の楽曲、「Solitude」をリリースしています。当時はどういう心境でSuhmをスタートさせたんでしょうか。

バンドが終わった時に、音楽をやめるかどうかまで考えたんですけど、まあやればいいかなってことで始めました。最初に出した「Solitude」は「孤立」や「孤高」を意味する言葉で、ひとりぼっち的な意味なんですけど。Suhmって名前も僕のあだ名のマッシュ(Mush)のアナグラムなので、再構築みたいな意味でこのプロジェクトを始めました。

――活動に関するビジョンはありましたか?

最初の頃は結構DIY的な感じで、マイペースにできたらいいかなと思っていました。バンドの頃もずっとインディで、なんでも自分たちで調達するようなスタンスに慣れちゃっているので、今回もまずは自分だけでできればいいかなって考えていました。

――トラックメイクをご自身で行い、歌も歌うという創作にもしっくりきていたんですか?

いや、バンド畑出身ですし、なんならバンドをやっていた頃は同期も使いたくなくて。バンドは生じゃないとよくないと思っていたから、真逆なことをやっている戸惑いは、今でもちょっとありますね。でも、せっかくもう1回音楽をやるなら、新しい形態でできたらおもしろいかなって思っていました。

――翌年に2曲目の「Heartbeat」を出されていますね。

「Solitude」はトラックだけ僕が作って、あとはバンドの頃のエンジニアさんに全部丸投げみたいな感じで作ったんですけど、やっぱり自分でできるようになった方がいいなとはずっと思っていて。で、僕はバンドで飯を食っていたとはいえ、めっちゃ貧乏だったのでパソコンを持っていなかったんですよ。Suhmを始める上でパソコンを買うってところから始めて、2017年の始まり頃からトラックメイクを始めたので、年1くらいじゃないとスキルが追いつかないところが最初の頃はありました(笑)。

――2019年には『29』という4曲入りの作品をリリースし、Helsinki Lambda Clubの橋本薫さんと、D.A.U.G.H.T.E.Rというプロジェクトも発足されています。

とにかくスキルを磨きたくて、色々やりたかった時期ですね。薫くんとコレクティヴみたいなものを作りたいって話をして、とりあえず何かやってみようって言って始めたんですけど……見事にみんなマイペースだったから(笑)。活動を止めたとは宣言していないんですけど、冬眠中です。

――そして2020年、『3 SONGS』とDLコード付ZINE『Pia Rosa』を発表しました。

結構尖ったZINEを出したんですよね。コロナ禍で色々言っちゃいけない空気を感じていたので、自ら検閲した文章を出版したいと思って。元の文章はひどい悪口が書いてあるんですけど、悪口に当たる部分に黒い線を引いていて、読んだ人が勝手に脳内でえげつない文章をそこに入れるっていうZINEなんですけど(笑)。『3 SONGS』の世界観に関連づいてた作品にもなっているので、多角的に攻めたいという思いでリリースしました。

――収録されている「Science Fiction」は、CGで作られたMVも印象的です。

最近は自分でも作ってみてるんですが、CGに出会ったのがあの曲でした。海外のスキルを売り買いするサイトから、CGを安く作ってくれる人を見つけてお願いしたんですけど、思ったよりも安くて。それなら自分でもできるんじゃね? と思い始めたんですよね。そういう意味でも「Science Fiction」は、今の形になったきっかけの曲かなと思います。


「長いとマジで落ちる」――内省的な1stアルバム『Suhm1』

――そして昨年11月に出されたアルバム(『Suhm1』)ですが、内省的な作風になりましたね。

そうですね。意図せずなんですけど、作るもの作るもの暗くなっていく。どこか憂いを帯びているというか、いい言い方をするとメランコリックですね。もう少しパカっと明るい感じの人になれたらよかったんですけど(笑)、しっとりした作品になりました。

――ご時世的なムードも関係しているんでしょうか。

僕はコロナに罹っちゃったんですけど、後遺症的なもので爪垢が黄色くなったり、気持ちがめっちゃ落ちたんですよね。で、こういうときにこそ曲を書くもんじゃないの? と思って書いた曲が躁過ぎたんです。タイトルが「セロトニン」って曲なんですけど(笑)、これはちょっと違うなと思って。

――収録されなかったと。

いつか出すかもしれないですけど。

――ただ、結構滅入っていたんですね。

僕は心身共に鉄人かってくらい丈夫だと思っているので、初めてくらいの落ち込みを感じて、寝れなくなっちゃったりもしてました。そういうものに寄り添うものを作ろうと思い、内省的なアルバムになっていった感じです。

――作品に関して、何か意識していたことはありますか。

曲の短さは意図的に作りました。カニエ(Kanye West)が『ye』っていう作品を出したじゃないですか。すげぇ短くて、これでアルバムなんだってっていう。そこも一押しになって、僕もそういうものをアルバムという形式で出したいと思いました。

――20分にも満たない作品でしたね。そのくらいの尺がしっくりきたのは、なんでだと思いますか?

長いとマジで落ちるから。パンパン次に進んでほしいと思ったんです。ああいう内省的な曲って、長くしようと思ったらいくらでも長くできるんですけど。実際ダウンテンポの音楽って、たとえばMassive Attackとかもそうですけど、長いじゃないですか。それで成り立っているところもあると思うんですけど、そういうものを短くして、パンパン切り替わっていく感じの方が自分っぽいなと思いました。

――少し話題は変わりますが、リスナーとしてはここ最近どんな音楽に惹かれていますか。

古いものを聴かなくなって、新しいものを積極的に聴くようになりました。

――それはなぜ?

古いものから踏襲するのは、バンドの頃からやっていたから。僕は70年代の音楽が大好きで、そこから影響を受けて音楽を作っていたし、聴く必要がないと思って当時流行っていたEDMとかは、一切聴いてこなかったんです。でも、バンドが終わって聴いてみたら、それはそれですごいなと思って、発見もあったりしたんですよね。そこからいろいろ遡って、聴いたりもしました。

――では、この半年ほどで、特によく聴いていた作品を挙げるとしたら?

去年一番良かったのは、〈Warp〉から出たジャズ・ミュージシャン。ベルギー人のNala Sinephroかな。Robert Glasperが好きなんですけど、それ以降の人で、なおかつモジュラー・シンセをすごく使うんですよ。ハープとモジュラー・シンセ、時々鍵盤みたいな音楽で……トゲトゲかよと(笑)。『Suhm1』を作り終えてから聴いた音楽なんですけど、これが目指すところというか、自分も多分こういうものがやりたかったんだなと思った作品でした。


自由とは“妖怪になること”

――今ご自身が創作する上で、キーになっているものはありますか?

漠然とした話なんですけど、最近の流れとしてはメロウでアーバンなものがあるのかなと思いつつ……一方で2000年代のリバイバルがちらほら言われる中で、もう一発関西ゼロ世代のようなものが来ないかなって思います。

――というと?

たとえばオシリペンペンズ。あと、ミドリとか、ボアダムスとか。

――エネルギッシュですね。

そう。漠然としたパワー、エネルギーのあるものを作りたい。小綺麗じゃないものを作りたいんですよね。

――例えば幡ヶ谷のForestlimitなど、東京のアングラなところでは、そういう機運があるかもしれないですね。

やっぱりほんのり来てるんですね。綺麗なものはもういいってなっちゃってるというか。汚いものを聴きたい、ジャンクフードを食べたい気分なんだと思います。

――引きこもっていた反動もあるんですかね。

それもあるかもしれないですね。元々エネルギー感っていうは、僕がやっていたバンドの中でも言っていたタームがあるんですけど。言うならば石井岳龍の映画に感じるもので、彼の作品に『狂い咲きサンダーロード』というものがありまして、日本版『さらば青春の光』みたいな映画なんですよ。そういう石井岳龍の映画とか、塚本さん(塚本晋也)の『鉄男』とか、とにかくグチャっとしているパワーが僕は好きで、今また汚い方向に行きたいなって考えています。

――ただ、新曲の「スローダウン」は……。

言っていること真逆ですね(笑)。

――うっとりするような音で、イントロはチルウェイヴっぽいとも思いました。

ああ、確かに。広く言うと、チルウェイヴなのかもしれない。ただ、ジャンルとしてはちょっと破綻しているというか、機能していないのかなとも思います。オルタナティブR&Bみたいな、ざっくりしたところかなあとも思うけど、それを言ってもパッと連想できなくて。R&Bと言うにはパワーが足りないというか、色気が足りないというか。まあ、ベッドルームポップやチルウェイヴ……そういうざっくりと部屋で作っている感じですね。

――リリックにはSuhmさんのアティテュードが表れているように感じます。

たまたまこれを書く前に、イラストレーターの人と「天才とは」みたいな話をしてたんです。秀才だっているだろうし、天才じゃないと音楽をやっちゃだめってこともないだろうと思うんですけど、そういう抽象的なものにすごく囚われがちというか。他人の目云々ではないよねってことが、この曲で言いたいところです。

――それで《イノセンス返して》と歌っているんですね。

人間ずっとそうだと思うんですけど、他人と比較してしまいますよね。やりたいようにやればいいって思うんですけど、なかなかそうはならない。それに対して自分もね、コントロールできないとわかりつつも、憤りを感じるところはあって。そういうどこに矢印を向けていいのかわからない感情に対して、落ち着こうって歌っているのが「スローダウン」です。

――音楽的に意識したことはありますか?

今はメロディを崩したい周期に入っています。前回のアルバムは、割とはっぴいえんどみたいなメロディからきている曲たちだと思っているんですけど、そういうところを崩そうかなって。いわゆるグッド・メロディみたいなものではなくて、リズムとしての言葉を意識しました。詩である以上は破綻はしたくないんですけど、ややラップっぽいっていうのが、この曲のちょっとしたおもしろポイントかなと思います。

――なるほど。

『Suhm1』の音も実はノイズまみれで、全部歪ませていたんですけど。そこをもう少しわかりやすく崩していく感じが今の気分です。たぶん、破壊衝動なんでしょうね。

――デストロイな気分が出ていると。

そうそう。いつだってそうですよ。

――音楽やるならいつだって? それともご自身の人生は、そういうもの?

割と生き様からデストロイなのかもしれないです。僕、人生の目的は自由になることなんですけど、それは無責任であることとは少し違っていて。しがらみから開放されること、みたいなものを目指しているんですよ。それが生涯のテーマなのかなと思います。

――Suhmさんにとって、自由とはどういう概念だと思いますか。

妖怪になることです。

――え、妖怪?

人間ってやっぱり欲求があるじゃないですか。たとえば朝起きてコーヒーを飲みたいとか、ご飯を食べたいとか、トイレに行きたいとか。そういう欲求がある中で、音楽を作っているときはそれを忘れられるんですよね。ご飯食べるの忘れちゃったとか、気づいたら夕方になっちゃってたとか。

――忘我ということなんですね。

そうですね。その集中力が途切れる瞬間が、人間に戻る瞬間なので、そういう人間的な欲求を超越している瞬間は、人間ではないのかなと。で、そういう時間を1日8時間、12時間、16時間と増やすことができたら、それはもう妖怪だろうと。そういう人間が決めたしがらみから開放されることが、自由なんじゃないかなって思っています。

――最後に、2022年の活動でイメージしていることがあれば教えてください。

すでに作っている曲があるので、それを出したいなっていうのがひとつと……あとは物質的なものを作りたいです。今はラップトップの中で音楽を作って、ラップトップの中でMVを作るので、何か物質的なものを出したいんですよね。ただ、それで去年レコードを作ったんですけど、その在庫が家の中でえげつないことになっていて(笑)。もっとコンパクトなものがいいなと思い、今は10インチが一番熱いなと考えています。

――いいですね。

他におもしろいと思ったのはCDなんですけど、どっちも銀盤になっていて、パカって開けたら自分の顔が映るようになってるとか。あとは3Dプリンターとレーザー彫刻を買いたくて、既製品にロゴを彫刻できたら熱いですよね。もしくは何かまたえげつないものというか、killieがやってるCDをコンクリ詰めにして売るっていうのがあるんですよ。

――コンクリ?

割らないと聴けないっていう。

――またとんがったものを(笑)。ZINEを作った時のメンタリティがずっとあるんですね。

ZINEは出過ぎましたけどね(笑)。

――モノを作りたいという気持ちのほかに、コラボとかはどうですか? アルバムでは橋本さんをフィーチャリング・ゲストで招いていました。

そうですね、今後も超やりたいです。だから楽屋で会う人、全員をナンパしてます(笑)。薫くんが書いたリリックって、僕が絶対に書かないタイプのものなんですけど、それでいて曲の中で僕が言いたいテーマに沿って作ってくれたので、バッチリだったんですよ。それに自分の声の音域は決まっているので、人によって違う音域が出るところにおもしろみがあると思います。最近のヒップホップを聴いていても、特定の誰かがラップし続けるより、バンバン人が入ってくるような作品が当たり前になっていますよね。

――確かにそうですね。

なので人がガンガン入る方がいいとは思っていて、でも友達は少ないっていう(笑)。そこで声をかけやすい薫くんに一発目をやっていただいたんですけど、今後どんどん他の方ともやっていきたいです。

――たとえば、海外アーティストとのコラボはどうですか?

うーん……普通にツレならいいんですが、お金払って人気アーティストに「お願いします」ってやったりとか、しっくりこないんですよね(笑)。僕は海外の人とやるのが目的ではなくて、「海外にいる僕の友達のボブとやる」っていうのであれば理解ができます。

――ヤーマンの精神なんですね。

割とそうですね。だって、嘘じゃないですか。お金のためにやる音楽も当然存在しますし、音楽産業が豊かになる上では重要なものなので、一概にそれがダメだと言うつもりは毛頭ないのですが……自分はそういう人間ではないので。だったらせめて、正直でありたいなと思います。


【リリース情報】

Suhm 『スローダウン』
Release Date:2022.01.19 (Wed.)
Label:Bideo Records
Tracklist:
1. スローダウン

Suhm オフィシャル・サイト


【イベント情報】

『early Depts』
日時:2022年2月19日(土) OPEN 17:00 / START 17:30
会場:東京・下北沢ろくでもない夜に
料金:¥2,000 (1D代別途)
出演:
kim taehoon
Suhm
Ariji Joe

・チケット
会場メール予約:69demonai46@gmail.com

問い合わせ:earlyreflection@ponycanyon.co.jp

※新型コロナウィルス感染対策のためマスクの着用、入口での体温測定・手指消毒をお願いしております。また観覧中の歓声はお控えいただいております。
※新型コロナウィルス感染状況によってはイベントが中止となる可能性がございます。詳細情報は逐次early Reflectionの公式HPとTwitterにて発信いたします。

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