沖縄県・那覇市を拠点に活動するSSW・TOSHが同郷のソングライター/ビートメイカー・EijiHarrisonとの共作曲「Magic Feeling」を2月26日(金)にリリースした。
2019年夏より活動開始したTOSHは、翌年2020年に初のEP『In My Room』をリリース。作詞・作曲はもちろん、ミックスやマスタリングまでiPhoneやiPadを用いてDIYで手がけており、幅広い音楽性を消化した色鮮やかなその音世界は、ストリーミングを通じて耳の早いリスナーから注目を集めるほか、国内メディアをはじめ海外のラジオ番組でも次々と紹介され認知を広げている。
また、積極的に海外のミュージシャンやリスナーとのコミュニケーションを取り、海外のトレンドを意識しアップデートしていく速さは、SNS世代のSSWならではの手法と言えるだろう。沖縄を超えて海外へ飛び立つ日もそう遠くはないようだ。
ヒップホップ・シーンの盛り上がりに比べまだまだスポットが当たっていない沖縄のバンドやSSWシーンだが、近年ではHARAHELLSやLilly drop、紅茶フーフーなど沖縄を拠点に活動する個性豊かなアーティストが台頭しており、すでに東京で活躍するAnlyやNazに続き、国内外の幅広い規模での活動を熱望するばかりだ。
近年は、音楽フェス『Music Lane Festival Okinawa』、『Sakurazaka ASYLUM』をはじめ、アジア各国のミュージシャンや業界人と繋がり交流する機会が増えている。そのイベントを仕掛ける桜坂劇場のレーベル〈Music From Okinawa〉を中心に、沖縄音楽シーン全体に海外志向の動きが活発に見られておりとても興味深い。
また、コロナ禍で沖縄でもライブハウスが打撃を受ける中、那覇のライブハウス・OutputとG-Shelterは早くから配信という新たなライブの形に挑戦し変革を起こした。そんな変わりゆく沖縄音楽シーンの中で独自の道を突き進むTOSHは今、何を思っているのだろうか。
今回はTOSHにメール・インタビューを敢行。独自のスタイルの土台にある音楽的ルーツや、海外を意識し積極的に交流を持つ姿勢、そして最後に沖縄の音楽シーンと彼の今後の展望について訊いた。
Interview & Text by Izumi Gibo(BUZZY ROOTS)
「マインドがロックなのは間違いない」
――テレビで観たLed Zeppelinが音楽を始めるきっかけになったそうですが、米軍キャンプやライブハウスなど、沖縄では海外の音楽も身近な印象があります。そういったものに幼少期から触れる機会は多かったのでしょうか?
TOSH:Led Zeppelinはフェイバリットのひとつで、何かと聴いていて。最近は『House of the Holy』(邦題:聖なる館)の「The Rain Song」を聴き直していました(笑)。幼少期は母がThe BeatlesからQueenまでロック・レジェンドたちを家で流してくれてたので、触れる機会は頻繁にありました。金曜の夜に「A Hard Day’s Night」(The Beatles)が流れてたりとか。TOSHとしての音楽性は基本的にこだわりはないのですが、マインドがロックなのは間違いないです。
キャンプのあるコザ(現沖縄市)周辺にはいわゆるハード・ロック界隈があり、那覇生まれ那覇育ちの僕はあまり関わりはなかったのですが、遊びに行くと「おもしろいな〜」と感じてましたね。最近は昔のように盛り上がってないそうで少し寂しいです。昔、国際通り(那覇)にも「Rock In Okinawa」というすごいアメリカンなライブハウスがあって、そこが僕の初ステージでした。内装の大部分をKISSが占めていて最高でしたよ。沖縄のライブハウス界隈の歴史は掘るとかなりおもしろいので、もっと勉強したいですね。
――「GarageBand」で楽曲を制作し始めた経緯について教えてください。
TOSH:元々組んでいたバンドが解散した後、どうしようかなと悩んでた時期に、Steve LacyなどDIYで表現するアーティストを色々聴いていて、「これだ!」と思ったんです。そこで、まずはGarageBandで制作を始めてみました。初めは遊び半分だったのですが、やってみると奥が深いことがわかりやめられなくなりましたね。ただ、今後の作品は「Logic pro」などにも手を出そうと思っています。
――曲のアイディアの種はどういったところから生まれ、どのようにして膨らませていくことが多いですか?
TOSH:多いのはメロディ先行ですが、ギター・リフやドラム・パターン先行の時もあります。思い浮かんだメロディをひたすらボイス・メモに溜めて、そのメロディの断片が出てきたときにどういう気持ちだったかをボイス・メモの題名にして残しています。そこから歌詞や曲調に繋がることもよくありますね。歌詞はまだまだ表現しきれてないことばかりですが、実体験を元に作ってます。でも、フィクションを混ぜることもあるので、最終的にどうなるのかは組み立ててからですね。
――インディペンデントで活躍する中で、SNSは重要なツールになっているかと思います。SNSでの印象的な出会いや交流があれば教えて下さい。
TOSH:UKのアーティストにいつのまにかフォローされていたり、アメリカのアーティストが紹介してくれたり、そういったことがちょいちょいあるので嬉しいですね。あと、Spotify公式プレイリストに載るのが大きいと思います。「Summer’s Gone」をリリースした時期にイギリスの方から「めっちゃCOOL!!」みたいなDMがきたり、「Lost Boy」の時はエジプトの方が「1:30~のギター・ソロやばい」ってコメントくれたり。海外の方はダイレクトに言ってくれるので最高です。
もちろん国内のアーティストともたくさん繋がることができました。uamiさん、Skyraくん、碧海祐人くん、yonkeyさん、Hanah Springさん、むぎ(猫)さんなどなど。SNSはこれからもっと駆使していくつもりです。
「新しいサウンドを聴いた時の刺激はインプットすべき」
――SNSでは海外の音楽トレンドについてもコメントされていますが、制作時も意識していますか?
TOSH:ジャンル問わず色々な音楽が好きなので、トレンドは常に追っています。トレンドを意識しすぎると何者でもなくなってしまうのですが、やっぱり新しいサウンドを聴いたときの刺激はインプットすべきだとは思います。ミックス作業をしていて、海外のあの楽曲はどうやってサウンド・メイクしているんだろうといつも頭抱えていますね。最近だとTame Impala、Frank Ocean、Childish Gambino、HAIM、Lana Del Reyの作品には毎回やられています。あと、アジアのインディ勢もサウンド・メイクの点ですごいなって思います。Sunset Rollercoasterの新譜『SOFT STORM』はとても響きました。
――台湾の3ピース・バンド、Four PensのBiboさんとThe Beatlesの「Yesterday」をカバーしていましたよね。どのような経緯で出会ったのでしょうか?
TOSH:彼らとの出会いは2019年の夏です。那覇の桜坂劇場で行われたFour Pensの初沖縄公演の前座に出させて頂きました。まだ曲数が少なかったのですが、桜坂劇場で一時期働いていた経緯もあり、ブッキングの野田さんにお声がけ頂いたのがきっかけです。そこで意気投合し、台湾まで遊びに行く仲になりました。本当にいい思い出がたくさんあります。「Yesterday」の動画は、Biboの家に遊びに行ったときにノリで撮ったものです(笑)。Four Pensは台湾の最高なインディ・バンドのひとつだと思います。新曲の「世界末日前的浪漫」は素晴らしいです。
――台湾に遊びに行った際、現地の音楽シーンに触れる機会はありましたか?
TOSH:ちょうどその時にThe Wallという会場で林以樂(リン・イーラー)と青葉市子のライブがあったので、Four Pensと観に行きました。また、台北101タワー近くの信義区では小さなお祭りのようなイベントでフリー・ライブが行われていたのですが、みんな自由で音楽愛が溢れていてすごく良かったです。
台湾の音楽シーンはビジュアル、色彩面、光度が特に好きですね。曲ももちろん最高なんですが、9m88やSunset Rollercoasterなどは台湾のカラーが隅々まで染み渡ってるように感じます。音と色合いのマッチ度が深いというか……。
余談なんですが、Edward Yang(エドワード・ヤン)という台湾の映画監督の作品は去年コロナ禍で自粛中にめちゃくちゃハマりました。
――一昨年はタイ最大の音楽フェス『CAT EXPO』の沖縄ブースに参加されたそうですね。フェスやリスナーの雰囲気などはいかがでしたか?
TOSH:『CAT EXPO』はとても刺激的でした。開催場所が毎回変わるようなのですが僕が参加した2019年は遊園地が会場で、隣でジェットコースターが走ってる中、ロック・バンドやアイドルがライブしていたり、シティ・ポップが聴こえてきてカオスでした(笑)。タイではそもそもライブハウスという箱があまりなく、自分が好きなアーティストのライブを観る機会が少ないらしいです。なので、特に若い世代が熱狂的に集まってる感じでした。
各参加アーティストの物販ブースが設けられていて、先程紹介した桜坂劇場のレーベル〈Music From Okinawa〉の沖縄ブースにお手伝いで参加しました。想像以上にお客さんの物販熱がすごく、バンドTを買い漁りまくってました。知らない音楽への関心も高いのか結構立ち止まってくれて、僕のSoundCloundの音源を気軽に聴いてすぐにインスタをフォローしてくれたり、そのフレンドリーさが新鮮でしたね。フォローしてくれたタイの方は未だに新曲を出すとコメントくれるのでありがたいです。
――その翌年は沖縄の『Sakurazaka ASYLUM 2020』に出演されました。アジア各国のミュージシャンや業界人が集まった当日はどういった交流がありましたか?
TOSH:ライブと並行して公開ミーティングや交流会が開催されていたのですが、滅多に関わることができないアジアのイベント制作者と親交を持てました。その繋がりで僕のライブを観て頂き、結局はコロナ禍参加できなくなりましたが、タイの『CAT EXPO』に誘ってもらったり、大きなチャンスを感じました
参加アーティストの中ではタイのPyraのパフォーマンスがすごくよくて、オーディエンスとの一体感が抜きん出ていました。こういった国際色の強いフェスが沖縄で開催されることに驚きでしたし、もっと認知を高めて、大きくなってほしいなと思います。
――コロンビアのラジオ番組にも出演されたそうですね。これはどういった経緯で?
TOSH:コロンビアのラジオはBunka Waveというアジア圏のエンタメを紹介する媒体から伝手で繋がり紹介してもらいました。今はどこで誰が聴いてもおかしくない時代なのでとてもありがたいですね。
「沖縄を拠点に東京、海外でも通用するアーティストに」
――沖縄のミュージシャンとの交流についてお聞きしたいです。ビートメイカーのEijiharrisonさんとの共作「Wish you」以降にリリースされた「RUSTY」「Ashes」では、ビートがよりエレクトロニックなサウンドへとシフトしたように感じました。これは、Eijiharrisonから影響を受けたから?
TOSH:いえ、全くないですね(笑)。「wish you」に関しては彼がビートを持ってきてくれて、メロディと歌詞を僕が乗せて、構成を一緒に作るといった流れだったので、“EijiHarrisonの持ち味”が効いてると思います。「RUSTY」「Ashes」はシンセをひとつ使ってるくらいなので、ビートでそう感じてくれたのは嬉しい発見ですね。基本的にアレンジはギターのみだったので、そろそろシンセや他の楽器にも手を出す予定です。
――注目している同世代の沖縄のアーティストはいますか?
TOSH:Nazは今後の活動も本当に楽しみにしています。あの世界観を出せるアーティストって日本じゃまだ少ないと思うので。沖縄はヒップホップ勢が結構強いのですが、切刃さんはもっと注目されてほしいですね。自身でリリック展を開催したり沖縄のヒップホップ勢の中でも異彩を放ってると思います。あと、共作したりサポートDJも担当してくれてるEijiHarrisonも年内にEPを出すと言っているので、楽しみですね。
――那覇の音楽シーンにはどのような特徴があると思いますか? また“那覇のミュージシャンの拠点“を挙げるならどこでしょうか。
TOSH:那覇は圧倒的にヒップホップ勢が強いですね。集客力が全然違いますし、若い世代も多い印象です。バンド界隈は正直シーンとしては少し弱いかなと思います。HARAHELLS、Lilly drop、シシノオドシなど素敵なバンドはたくさんいるし、ライブハウスも多いのですが、どうしても界隈で凝り固まってるように感じますね。ジャンルも少し偏っているというか、オルタナティブやインディ・ポップをやっているアーティストはほとんどいないです。都会ならではの閉鎖的な空気もあると思います。僕は始めたばかりでまだまだですが、その垣根を崩したいですね。“那覇のミュージシャンの拠点”と呼ぶならジャンルにもよりますが総合的にはOutputかな? と思います。
ちなみに他の地域でいうと、那覇から車で30分くらいの北谷というエリアは音楽的に健全な場所だと思います。平日でも日本人から外国人まで賑わう海沿いの商業エリア、アメリカン・ビレッジでサンセット越しに路上ライブが盛んに行われていて、この空気感は日本ではここだけなんじゃないかと思います。SSWの佐久間龍星くんやFukumoto Naoさん、ギタリストのkannonくんなど、才能あるアーティストがたくさんいます。
――コロナ禍で沖縄のライブハウスも打撃を受ける中、早くにライブ配信をスタートさせたOutputとスタジオ型店舗の形態に切り替えたG-Shelterなど、2020年は沖縄の音楽シーンにとっても大きな挑戦になった年だと思います。TOSHさんにとって地元・那覇のライブハウスであり、初のリリース・イベントやワンマン・ライブを行ったOutput、そして『Club Online Japan』の撮影を行ったG-Shelter、それぞれへの思いについて聞かせてください。
TOSH:Outputでの『IN MY ROOM.』リリース・イベントは感染拡大を考慮し無観客生配信に切り替えたのですが、その意向を汲んで頂いたことに感謝しています。その後もコロナの状況を見ながら有観客のイベントも実施してシーンを保っていて、素晴らしいアクションだと思います。店長の上江洲さんの繋がりで東京の有名なバンドもライブをしたり、東京と沖縄の架け橋的な位置だと思っています。
G-Shelterは1番ハイブリットな立ち振舞いをしていますよね。店長の黒澤さん曰く、コロナ禍になる前からスタジオ型に変える構想はあったそうなんですが、この状況で実際に変化に振り切れたのはすごく勇気があるなと思います。スタジオ型になってから『COLORS』や『Tiny Desk Concert』みたいなことをやるならG-Shelerと思っていたので、『Club Online Japan』の話がきたのはとても嬉しかったですし、完成した作品もすごくよかったです。
ちなみに『Club Online Japan』の参加は、新人アーティストを紹介する媒体「STREE..T」との共作です。リリースしたての頃から僕を取り上げて頂いていつか映像作品を一緒に作りたいと話していたのですが、まさか年内に実現するとは思ってなかったです。
「2020年はデモ試行錯誤的な段階」
――コロナ禍における活動の変化について教えて下さい。
TOSH:『In My Room.』を出した時、コロナが流行し始めた時期で国内外のイベントが全てなくなって、リリースの計画も一旦白紙になりました。ただ、そこまで落ち込むこともなく、2020年はデモ試行錯誤的な段階に変更したので、逆に自分が本当に表現したいことや、見落としていたことを見つめ直す時間を持ちながら、マイペースでリリースしていけたのことが大きかったです。と言っても、2021年もどうなるかわからないのでしっかり向き合ってやっていこうとは思います。
――そのような中で公開された『In My Room』の“VIDEO EP”はとても斬新でした。これはどのような経緯で撮影されたのでしょうか?
TOSH:盛大に行う予定だったリリース・イベントも無観客生配信に変更したり、ライブもできなくなったり、作品が可哀想だなと思ったので作りました。ちょうど予定が白紙になっていたこともあり、ジャケット制作をお願いしている親友と遊びながら進めましたね。こういう日記的な作品を残しておくと、「2020年ってこういう年だったな」って後から思い返せるきっかけにもなるだろうと思ってます。3年後に見返したいですね。
――最後に、今後の展望を教えてください。
TOSH:今後の展望は沖縄を拠点に東京、海外でも通用するアーティストの一例になりたいですね。今年はまずビートメイカー・EijiHarrisonと作った新曲「Magic Feeling」をリリースします。音楽愛を込めたレトロフューチャーなポップ・ナンバーで、2021年にまずこの曲がリリースできることを嬉しく思います。その後は年内に音楽面、ビジュアル面共に名刺になるような完全新作のEP、もしくはアルバムを出す予定です。今年はYouTubeも精力的に楽しんでやっていこうと思いますので、期待して頂けたらと思います。
【リリース情報】
TOSH, EijiHarrison 『Magic Feeling』
Release Date:2021.02.26 (Fri.)
Label:COOL GUY Record
Tracklist:
1. Magic Feeling
■EijiHarrison:Twitter / Instagram
【イベント情報】
DYGL OKINAWA ONEMAN LIVE @ 那覇Output
日時:2021年3月22日(月) OPEN 19:00 / START 19:30
会場:沖縄・那覇 Output
料金:前売 ¥3,500 (1D代別途)
出演:
DYGL
[Guest]
TOSH
チケット:e+ / Output メール予約 outputop@gmail.com