INTERVIEW & REPORT

8K☓3D☓22.2ch立体音響による映像作品『Aoi ─碧─ サカナクション』

8K☓3D☓22.2chの最先端のMVの体験レポート&プロデューサー・インタビュー!

NHKメディアテクノロジー主催の技術展「2015 MEDIA TECHNOLOGY!」内の目玉コンテンツとして今回作成された『Aoi ─碧─ サカナクション』、8K☓3D☓22.2ch立体音響による世界初のエンターテインメントコンテンツだ。

8Kの解像度はハイビジョンの16倍。人間の網膜の密度に迫る画素数と言われている。8Kの映像を3D化し、さらに音響はNHK放送技術研究所が開発した22.2マルチチャンネル音響システムを導入。そして楽曲及び出演はサカナクション。映像・音響における最先端のテクノロジーを盛り込んだ、ミュージック・ビデオだ。

バイノーラルレコーディングで映像を制作したり、新しい技術を導入したサービス開発に取り組んだりと、音楽の新しい楽しみ方にも取り組んでいるSpincoasterとしてはこのアトラクションを体験しないわけにはいかない。

ということで今回、この体験を文章で表現するということ自体、野暮な試みであるなと思いつつ、体験レビュー及び、本企画の演出・プロデュースを担当した田邊 浩介氏と立花 達史氏(NHKエンタープライズ デジタル・映像イノベーション)にインタビューを行った。(Text By Nojima / Photo by NHKメディアテクノロジー)

 Report


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初めに今回の音響システムについて簡単に説明する。22.2chマルチチャンネル音響とは、天井も含め22個のスピーカーと2つのサブウーハーを同一空間に配置した360°のサラウンド音響システムのことだ。通常のホームシアターでは5.1chが標準だが、今回は22.2ch。それぞれのスピーカーに対して最適なミキシングが施されており、前後左右だけでなく上下からもより立体感のある音響体験を得ることが出来る。

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22.2chの詳しい解説はこちらから。

今回選ばれた楽曲はサカナクションの「Aoi」。この楽曲は男女混声の分厚いコーラスと生音によるバンド・サウンド、さらにそこにエレクトロニックなサウンドを加えた綿密な構成となっており、高音質な環境であればあるほど魅力を感じられる楽曲だ。事実、SONYのハイレゾウォークマンの店頭試聴機にも「Aoi」が使用されている。

今回はNHKメディアテクノロジーの技術陣とevalaがタッグを組み、22.2chスピーカーシステム向けに新たにリミキシング、さらにサウンド・エフェクトや音像効果を加え、今回のコンテンツ用に特別Ver.が制作された。また、映像のアートディレクションにはRhizomatiks Designの木村浩康、レーザーの照明演出には女性レーザー・アーティストのMIUが参加。会場内にはステージが設置されており、3D映像に実在のレーザーの照明演出が組み合わさることで、よりライブ感のあるアトラクションに仕上がっている。

全体を通して、技術のポイントを要所要所で分かり易く見せつつ、楽曲の魅力が引き立つ内容であった。
まず、本編映像の前に暗転した会場でレーザーによるオープニング演出が行われる中、サウンド・エフェクトが上下左右、さらには前後へと動き回ることで、22.2chがどういうものなのかをしっかりと体験させてくれた。そしてサカナクションのライブではお馴染みの雨の音に包まれる中、楽曲と映像がスタートとする。

初っ端からこの楽曲で最も印象的なパートである壮大な男女混声のコーラスに包まれる。筆者はサカナクションが幕張メッセで行った6.1chのサラウンドライブも体験しているが、空間の広さが適切なため、よりコーラスの解像度が高く、自分を中心に、スタジアムで合唱されているかのような感覚に陥った。

そして、サカナクションのメンバーがひとりずつ立体映像で登場するのだが、8K×3Dの美しさに驚かされる。本当にメンバーがそこに浮いているかのようなリアルさだ。

途中で映像が海の中に潜るのだが、そこでも8K×3D×22.2chのサラウンド効果をしっかりと体験することができる。水中の独特な音の流れとリアルな映像で、思わず息を止めてしまった人もいるかもしれない。

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転調するポイントでCGグラフィックによる巨大な地球の球体と歌詞が登場するのだが、そこでは3D映像の立体感をしっかりと感じさせるものとなっていた。

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ラストのサビでは歓声の中、メンバーのステージでの演奏をバックから眺めるシーンになるのだが、ここが1番の鳥肌ポイントであろう。先日の大阪城ホール公演で3D撮影された、ステージからの客席映像と合成され、メンバーが普段見ているであろうステージからの光景を体験することができる。オーディエンス一人ひとりの表情までしっかりと確認することできたのは8K映像ならではだろう。

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今回は、コーラスやシンセサイザーの電子音で立体感を出しつつも、原曲の良さやライブ感を活かすために基本的な出音は前方のLRが中心となっていた。しかし、ボーカルや楽器の音などがそれぞれのスピーカーに適切にミキシングされていたため「360° 演奏に包まれる感覚」があり、それは全く新しい音楽体験であった。欲を言えばライブと比較するためにも、もう少しボリュームを上げて体験してみたかったが、映像・音響テクノロジーの最先端を提示するには十分すぎる内容であった。

 Interview

「頭の中でこれまでイメージした音楽が初めて実現した」

体験後に8K☓3D☓22.2ch立体音響『Aoi ─碧─ サカナクション』を企画したNHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサー田邊 浩介氏とチーフプロデューサー立花 達史氏に、このプロジェクトについてインタビューを行った。

-今回のこのプロジェクトにサカナクションを起用、そして楽曲が「Aoi」に決まった経緯を教えて下さい。

田邊:まずはこの展示会で“8K☓3Dシアター”という目玉企画があり、アーティストを起用して最先端のメディアテクノロジーを駆使したミュージック・ビデオを作ろう、というアイデアからスタートしています。企画が決まった後に「どのアーティストにお願いしよう?」と考えた時に、私が担当した「ロックの学園」に出ていただいたり、今年の1月にNHKで放送した「NEXT WORLD 私たちの未来」で関わったりしたというご縁もあり、HIP LAND MUSICの野村さん(サカナクションのプロデューサー)に相談しました。相談した時にはツアーやパリコレも決まっていたので、かなりスケジュール的に難しいかもということだったんですが、「絶対にやってみたい」ということで、みなさんのご協力のおかげで、タイトなスケジュール(企画が立ち上がったのは2015年8月だという)の中でなんとか実現することができました。

楽曲の選定にはいくつか条件があったんですが、1つめは22.2chのサラウンド感を活かせる楽曲であること、2つめは以前にサカナクションが幕張メッセにて行ったサラウンド・ライブでも演奏した楽曲であること、3つめは今回のツアーでもやっている曲であること。で、これらの条件で絞り込むと自ずと7、8曲しかなくて。さらに、サカナクションはどれもミュージック・ビデオがユニークで素晴らしいので、ミュージック・ビデオの印象がないものが良いなと思いました。選出した7、8曲の中で、ミュージック・ビデオがない曲は「Aoi」しかなかったんです(笑)。
ライブでもすごく盛り上る曲ですし、ファンの支持も高く、展開やメリハリもある。さらに尺もちょうど良いので、やっぱり「Aoi」が一番いいんじゃないかなと。後付ですけど、NHKのサッカー放送のテーマ曲ということもあり。

-evalaさんの関わり方、22.2chのミックスはどんな過程で行われたのでしょうか?

田邊:evalaさんにはどちらかというと、楽曲に乗せていくサウンド・エフェクト(音響効果)や本編前のオープニングをメインにお手伝いいただきました。
立花:楽曲「Aoi」の22.2chのミックスはNHKメディアテクノロジーのサウンドエンジニアが行いました。彼らは10年も前から22.2chをやってきていて、どうやったら効果的に使えるか? を考えてきたんです。今回、その溜め込んできたノウハウを注ぎ込んでくれました。

田邊:既存の2chの曲を22.2chに広げることってあんまりなくて、それはそれで新しい試みだったみたいです。普通は22.2chで最初から音楽を収録してしまうので。2chから膨らませるのってかなり難しいみたいですけど、今回ビクターエンタテインメントさんからパラの(トラック毎に音源が細かく別れた)音源データをご提供いただいて。その22.2ch楽曲とevalaさんが組み立てた音源を合わせて、実際に鳴らしながら細かく調整しました。

立花:サカナクションのメンバーにも体験してもらいました(ボーカル山口一郎さんは体調不良で欠席)。草刈愛美さん(ベース)は「私の頭のなかだけで響いてた音楽が、はじめて実現した」と。過去に5.1chで頭のなかの音のイメージを再現しようと試みたことがあったそうですが、5.1chではスピーカー台数の密度が足りず、必ずしも満足いかなかったそうです。「これだけスピーカーがあり、天井からも音が降ってくると、頭のなかでイメージしていた音がちゃんと再現されて耳に届いてる」と、感動していました。

-今後このテクノロジーは日常レベルまで普及すると思われますか?

田邊:それを見極めるための開発ではあるんですけど、そこまでは中々難しいですね。コンテンツを作るのもかなり労力が掛かりますし、22.2chをミックスできる環境も、本当に限られています。上映できる機材も世界に数台しかないものだったりしますし、すぐに普及するとは考えられませんが、今回こういうことができるんだということを世の中に提示して、次のエンターテインメントのヒントになると良いな思っています。

立花:この技術で「何を見たいか?」という企画が大切だと思います。例えばチケットが手に入らない、世界的なスポーツ・イベントを完璧な臨場感で再現するためにテクノロジーを使うことが1つ考えられます。あるいはコンサートを収録して実際のライブ会場に行った気にさせるという使い方も可能でしょう。でも重要なことは、体験としては生のライブの方が上だということです。再現はホンモノには、勝てません。なので、今回は何かをリアルに再現するという発想をやめて、その代わりに「どこにもない空間を創る」ということを意識しました。「このテクノロジーを使った空間でしか体験できないものをどう創るか?」という発想が多くのクリエーターにあれば広まっていく気がします。

田邊:今回は映像を作ったというよりはアトラクションを作ったって感じですよね。ディズニーランドに“キャプテンEO”ってあったじゃないですか?(Michael Jacksonの3Dアトラクション)あれを今の技術とサカナクションで表現するみたいな。ただ単に立体映像があるだけじゃなくて、実際のステージがあって、その上にメンバーが3Dで登場したり、レーザー照明と組み合わせたり、実空間にあるものを複合させることで、映像だけじゃなくて空間の表現として分かり易く伝えることができたと思います。今回それをフルスペックで全部やらせてもらったって感じで…… 演出していて楽しくて仕方なかったです。スタッフはみんな苦労していましたが(笑)。

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