今年4月の『SPIN.DISCOVERY -Vol.1-』に出演し、その後7月にリリースした『LISTEN TO THE MUSIC』は多くのファン、果ては業界関係者や芸能人を巻き込んで話題を呼んだShiggy Jr.。そして、『In My Dreams』、『Looking For The Special』という全国流通盤2枚で一気にインディーリスナーの心を射止めたかと思えば、YUKIの最新アルバム『FLY』にリードトラック「誰でもロンリー」と「君はスーパーラジカル」を提供し、J-POPリスナーにもたちまち認知されたgive me wallets。今回は、『SPIN.DISCOVERY -Vol.2-』の出演者であるこの二組において、ソングライティングを手掛け、バンドの核となっているJess(give me wallets)と原田茂幸(Shiggy Jr.)の対談を実施。それぞれの出自や作曲論、現在のシーンについて思うことなどについて、大いに語ってもらいました。(Intervewer:Takumi Nakamura)
――ではまず、自己紹介を兼ねて、お二人のルーツを教えてください。
Jess:僕が音楽を始めたきっかけは、5歳の頃に習っていたバイオリンです。クラシック音楽が流れているような家だったので、自然な流れといえるかも。でも、バイオリンは続けてたけど熱中したわけではなくて…。いまの活動の原点になっているのは中学時代に出会ったJamiroquaiで、そこからグラミー賞周りの洋楽や、ベストヒットものを聴くようになりました。大きな転機は、大学時代でBloc Partyに出会ったことで、ここからUKバンドなどにハマっていきました。
原田:僕は小さい頃にマレーシアに住んでいて、その時にラジオから流れていたアメリカの音楽がまず原体験として残っています。その後、中学3年生で、当時出てきたばかりのYUIにハマって。彼女がアコギを弾きながら歌う姿に憧れて、僕も弾き語りを始めました。高校で入った軽音部では、みんながエレキギターを持ってたから自分もエレキを手にして、弾いていくうちに歪ませたくなってしまって(笑)。そのうちハードロックやX JAPANを聴くようになり、メロコアバンドをやっていたりしました。大学時代の軽音楽サークルで初めて山下達郎さんや角松敏生さんに出会って、改めてポップスの魅力を認識しました。
――「作曲」自体を本格的に始めるのは、お二人とも高校生~大学生からなんですね。
Jess:そうですね。それくらいの時期からDTMに手を出し、そこから一人でずっと曲を作っていました。Myspaceのムーブメントの渦中にも居たので、当時は海外のバンドをかなりdigしたり、個人名義で楽曲をアップしていましたね。
原田:僕も、音楽で何かしようと思わないまま大学時代は終わるんですけど、就職活動が始まって「このままやると後悔するな」って気付いて。
Jess:わりと近い(笑)。
原田:そこで「どうしたら音楽でメシを食えるんだ」って悩んで、とりあえず今は曲を作るしかないと思い、DTMに入っていきました。そのうちに女の子の歌を入れたくなり、池田(智子)と出会って、今のバンドがあります。
――直近で影響を受けたり、自分がこうなりたいと思ったりするソングライターはいますか。
原田:アゲハスプリングスさんは大好きです。だって、居る人も素晴らしい人たちばかりだし、良質なJ-POPを沢山手掛けているじゃないですか。
――アゲハスプリングスといえば、give me walletsはYUKIさんへの楽曲提供で話題になっていますね。
原田:その話めちゃくちゃ聴きたいです。
Jess:これはこの曲がたまたま、アゲハスプリングスの玉井健二さんを介してがYUKIさんの耳に届いたんです。で、「この曲、YUKIさんが歌うかもしれないよ」というまさかの展開になって。すごく嬉しかったです。
――原田さんも将来的には楽曲提供も…。
原田:将来的にはそうだと思うんですけど、今それをやってしまうと、力が分散しちゃってできないんじゃないかな…。僕、基本的に出せるものになるまで、大量に制作するタイプで。煮詰めるというよりどんどん辞めていくというか。1曲を作るのに10曲くらいデモを捨てているので、この作り方をしている限り、分散はできないと思う。
Jess:僕も、一人で作ると時間が掛かりますね…。鍵盤とかもそんな弾けないから、頭の中で曲を作るのと同時に録音していく感じで作っていて、フレーズは決まっているけど、欲しい音がなくて、探してる間に時間が経過してる…なんてこともありますね。メンバーがオケを作ってくれていたりすると、早く作れる時もあります。原田さんはメロディを弾いているうちに曲ができていくタイプですか?
原田:ギター弾きながらメロと詞を書くとか、「四つ打ちの曲を作ろう」って決めて、四つ打ってから鍵盤でコードを決めて、それで適当な歌を乗せて最後までできるものもありますね。「LISTEN TO THE MUSIC」は、最初から「四つ打ちの曲を作ろう」って決めていたのと、シングルっぽい曲を作りたいと思っていたので、それっぽいコード進行を入れました。そこからメロディを入れて「LISTEN TO THE MUSIC」ってハマりそうな言葉を歌っていたら曲になりました。言葉の方が良かったので。
あと、「Baby I Love You」は“「just the two of us」進行”を使いたいなって弾きながら作っていった曲です。そうやって考えると、コードから作る曲の方が多いかもしれません。
それから、自分は「いつ出るか」っていうのが決まってないと曲ができないんです。その季節感とかが自分にとってはとても大事で。コンセプトとかお題目ありきじゃないと中々…。
Jess:僕らは、『In My Dreams』、『Looking For The Special』という直近の2枚と、自主制作の『Those Dancing Days』と『Breathless』では作り方が違って。後者はフレーズを思いついたものから録音していって、前後のリフを付けていくというやり方で作りました。
――確かに、この時期の2枚はフレーズが異様に立っているなと思いました。
Jess:「Heartbreaker」という曲は、メロディとそれに対するリフとサビが両方一緒に思いつきました。メジャーな洋楽を聴いていたことが大きいと思っているんですが、歌とオケの役割が同じだという感覚で捉えていて、本来は僕はオケと歌を分けないタイプなんです。イントロからアウトロまで、歌じゃなかったとしても口ずさめるリフやフレーズが必ず入るように作っている。今は、DJをやってるメンバーがいるので彼らがオケを作ってくることが往々にしてあって、オケに歌をのせる作り方も多くなってきました。
――今、“口ずさめるリフやフレーズが必ず入るように”という言葉がありましたが、ほかにも明確な「自分ルール」のようなものってあったりしますか。
原田:Shiggy Jr.は歌が一番大事で、他は楽曲を支えるものにならないとダメだと思っているから、バンド的な音作りはしたくない。みんなそれぞれ好きなことをやって、歌の邪魔をすることが嫌なので。
Jess:そうですね…。色々なトラックが来たとしても、聴いた人がgive me walletsのサウンドだなって認識できるような曲にしたいから、味や節だったりとか、自然に出るものを意識はしない。あと、歌はキャッチーで、オケに歌えるリフが絶対に入っているという条件は守りますね。
原田:give me walletsさんはDJ的なエディットが上手くて羨ましいです。僕、DJとか分からないので。
Jess:あれは音の素材をある程度買えば当てはめれますよ(笑)。DJトラックって割と単調だし、複雑なテクニックは必要ないから、打ち込みじゃない曲を作る方が難しいと思うし、僕はコードがあまりわからないから、原田君みたいな作り方ができることが羨ましい。曲を作る時に特定のアーティストを意識したりします?
原田:ありますね。僕、Katy PerryとかTaylor Swiftのリズムの感じーー特にDr. Lukeが作った曲の感じが好きで。それは音作りの部分で参考にしました。
Jess:メロディ制作の段階からリズムは意識する?
原田:そうですね、それは初めから想定して。エンジニアさんがやってくれるともっと良くなるんですけど、自分ができる範囲内で良い音にしようとは思いますね。結局、聴く人って音が大事だと思うんですよ。聴いた瞬間に音がグワッと入ってくる曲って、自分自身も含めて聴き続けると思うので。だから、できるだけ音にはこだわりたいですね。
――Shiggy Jr.のキャッチーさは、どこにポイントがあると思っていますか?
原田:すぐ歌えること、歌詞とメロがハマっていること。あと、キャッチーにしたい曲のサビって、頭は英語を歌ってるんですよ、「LISTEN TO THE MUSIC」も「Saturday night to Sunday morning」も。そこでぐっと掴んじゃう。
Jess:原理は一緒だ(笑)。メロディを作る時って、デタラメに歌ったりします?
原田:歌いますね。デタラメ英語もデタラメ日本語も。英語の方が全然ノリが良いんですよね。
Jess:英語は発音の種類が何百何千あるから、口ずさんでたメロディを崩さず乗せれたりとか、“音として強い“と思いますね。リズム感があるように聴こえる。日本人への楽曲提供を意識すると、デタラメ英語が難しいんです。イメージがそっちじゃないから、まずは日本語で作ってしまうんですが、いざ提出するとデタラメ英語の方が良いって言われたり。そこから「日本語がハマっているのに英語に直すのか…」みたいな葛藤があるので、音には日本語向きの音と英語向きの音があると実感させられますね。
原田:そういう意味でもK-POPがすごく好きなんですよ。韓国語って言葉のノリが良いんですよね。僕は基本的に流行りものが好きで、たとえば今だと打ち込みが流行ってるからやってみたりするわけなんですが、これからも基本的には流行っている方向へ行き続けたい。そのなかで、歌が中心にあってメロディがキャッチーという部分だけ変えずにやっていきたいです。
――2バンドとも、これからの時代を担うバンドとして、さらに活躍していくことになるだろうと思うのですが、特にShiggy Jr.はJ-POPのメインフィールドにバンドとして挑戦するわけですよね。いわゆる第一線の歌モノPOPとどうやって戦おうみたいなビジョンはありますか?
原田:そうですね…。大人の方に色々言われるのは大事だけど、やりたくないことをやるつもりはないです。でも、メジャーにいけば、やりたくないことをやらなきゃいけない環境には絶対なると思います…「生活をしなくちゃいけない」というものは絶対にあるので…ただ自分の芯の部分--歌と詞を大事にして、編曲が今っぽい感じさえ守れれば、音楽は大丈夫な気はしていますが…うーん。
Jess:そういう葛藤が無くなったら、自分が作品を作る意味が無くなると思いますよ。すでに著名な作家さんや、売れる曲を書けるクリエイターが沢山いればJ-POPシーンは安泰だと思います。でもその中にわざわざ加わっていく理由って、「(シーンに向けて)先人たちと別のこと・自分がやりたいことがある」からじゃないですかね。自分より明らかにすごい人たちと同じことをやって二番煎じになるのなら「僕以外でも良いじゃん」と思います。90年台に今のJ-POPの基礎が確立されたと僕は勝手に思っているんですけど、それはその時代の人たちが葛藤しながら、例えば小室哲哉さんだったらユーロビートなどといった新しいことを取り入れて、鉄板とされているものを作り上げた。彼らが作り上げたものから学ぶことは大事だけど、同じことをみんながやっていたらシーンは絶対に衰退して、「新しいエッセンスはどこだろう?」って海外に新しさを求める。“新しいものは海外の人が作ってくれる“という状態になってしまったら、日本の音楽の文化としても成長が止まってしまう気がします。だから自分がそこ(J-POP)に加わるのであれば、何か新しいものや、別のものを織り交ぜていきたいです。
原田:僕はそこまで深くは考えていませんでした(笑)もっと単純で、いわゆる“サブカル層”といわれるところと王道の境目、ギリギリを行きたい。そのためには、目指すところは目指す、行くところまで行くつもりでやって、結果、丁度いいところに落ち着くんじゃないかと思っています。だから、まずはとことんJ-POPのシーンを突き進みたいですね。
――他にお互いに聞きたいことはないですか?
原田:ってうか今度、普通に飲みに行きましょうよ!
Jess:ぜひ! 僕、バンド界隈にいたわけじゃないから、あんまり友達いなくて(笑)
原田:僕もです。バンド以外はずっと引きこもってるんで(笑)
――最後にイベントへの意気込みや読者に向けてメッセージをお願いします。
原田:前回はアコースティックセットで、今回はバンドセットなので、是非見て欲しいです。
Jess:ラインナップは、若手と言うか、面白い音楽をやっているアーティストが沢山出ているので、それに負けないように頑張りたいです。