どうも昨今の西海岸のラッパーたちのスタンスは様々、というよりはみんな複雑だ。Kendrick Lamarのそれはむしろかなり明快な方だろう。ギャングの暴力もドラッグも当たり前のように蔓延る街、コンプトンで生まれながらも、それらとは距離を置き、いまやアフロ・アメリカンたちに「自分たちについてもっとポジティブに―」と奮い立たせる。
少年期からギャングの一員として育ちながらも、その抗争で多くの仲間を無くし全てが変わってしまった2006年の「喪失の夏」をモチーフにしたことで、内面の傷や闇を前面に押し出した-というよりは、そうするしかなかったVince Staplesは、それでも反ギャングスタ的な立ち位置に向かうわけはないし、一貫して無気力なトーンも、音楽的参照点の少なさもKendrickとは対照的。絶望に浸ったままのラップは独特のものがある。
こちら、本日長らく待たれた新作からの先行シングルを発表したSchoolboy Qは、かつてはドラッグ・ディーラーだったし元々はギャングスタ・ラップの出自を持つラッパー。しかし、娘を授かったことも相まってますますドラッグとの距離感と葛藤することとなる。
新曲「Groovy Tony」はそのシリアスな部分がより深くなった感じの曲だが、未だに彼は冒頭のフックではドラッグ(前作のタイトルでもかけられている「オキシコチン」というドラッグを売っていたことで有名だ)で儲けていた自分をあのビル・ゲイツと同列に並べてしまっているし、ドラッグのみならず銃への変わらぬ愛も垣間見れるし、ギャングに属していた過去ももちろん悔いちゃいない。そもそもタイトルの「Tony」も、どうやらヒップホップでは盛んに題材にされる映画、『スカーフェイス』でお馴染み、アル・パチーノが演じるトニー・モンタナに言及しているようだ。「これでいいのか?」と自分に問いかけてしまうときも無くはないのだが、ギャングスタやそのカルチャーについては肯定し続けてしまう。闇や自身を巻き込む悪循環からの救いを求めるような部分と、捨てきれないギャングスタ精神が交錯し合うのがQなのだ。(安心してください、そこは変わっちゃいないので…!)
一か月ほど前に所属するレーベルTDE(Top Dawg Entertainment)のボスによって既に予告されていた、2年ぶりの新作からの新曲となる「Groovy Tony」は、Kendrick Lamar, Jay Rock, Ab-Soulらも属するTDEではお馴染み、The Beastによるプロデュース。トラックのトーンはダークで、これまたVince Staplesのそれを想起させる。
そしてトラック同様に同じく本日公開されたビデオはもはや凄まじい…。あらゆる死体が登場しクレーンで吊り上げられる。そして、銃を打つ男は女性のコーラスが痛快なトーンで繰り返す通り “Blank Face” だ。それらを体現するかのように中盤で登場するQもまた死と隣り合わせ。息絶え重力を感じられなくなってしまった男たち、最後には首を吊った男が登場する結末にはVince Staplesの「Lift Me Up」やKendrick Lamarの「Alright」のビデオと重なる部分がないとは口が裂けてもいえないだろう。それぞれ異なった、それでいて複雑なスタンスを持つ西海岸の個性派MCたちが、奇妙な(いや、ここではぞっとするような)空気を受け継いでいる。
Schoolboy Qの前作『Oxymoron』からの「Collard Green」
(Text By Daichi Yamamoto)