世界的にR&Bやソウル、ファンク、ヒップホップの潮流が広がりを見せているなか、国内シーンでもシティ・ポップを中心にブラック・ミュージック・が大きな盛り上がりをみせている昨今。そんなムーヴメントのなか、国内で新世代のトラックメイカーとして注目を集めるのがKan Sanoだ。
昨年リリースしたアルバム『k is s』がシーンで大きな話題となり、今年は全国ツアーを敢行するなど多岐にわたる活躍をみせている。そんな彼のルーツを探るべく、今回はRootscoasterに登場してもらった。楽曲の嗜好性の影響を受けやすいという幼少期から20代にかけて、彼自身の音楽体験を形づくったという3曲を是非とも味わってみてください。
(Text By Takato Ishikawa)
1. The Beatles / I Want You (She’s So Heavy)
小5の夏に突然音楽に目覚め、その年のクリスマスに親からもらったのがThe Beatlesの『Abbey Road』でした。自分から能動的に聴いた初めての洋楽ですね。
その後中学を出るまでの4年間、毎日The Beatlesを聴いていました。
10代の頃聴いていた音楽ってその後の人生にずっと影響していきますよね。
20代、30代に同じ作品を聴いたとしても、吸収する密度がまったく違う。出会い方や出会う時期って重要です。
そういう意味で早い時期にThe Beatlesに出会えたのはラッキーでした。
全作品に影響を受けたので一つのアルバムや曲を選ぶのはとても難しいですが、「I Want You」はここ数年妙に好きな曲です。
10代当時はあまりピンと来なくて、正直よく分からなかった。同じ曲でも自分が成長すると聴こえ方が変わってきますね。
ある日急に感動が押し寄せて来たりする。これから10年後、この曲がどういう風に聴こえるのか楽しみです。
昔から聴いている曲は自分の成長や変化の物差しになりますね。
2. Donny Hathaway / The Ghetto
The BeatlesからBob Dylan、Eric Clapton、Rod Stewartなど洋楽のクラシックスを聴くようになり、その後Stevie Wonder辺りからブラック・ミュージックの魅力に心奪われ、高校時代はDonny Hathaway、Marvin Gaye、Curtis Mayfield、D’angelo、Maxwell、Erykah Baduなどを良く聴いていました。
この頃はJポップ、ジャズ、フュージョン、ジャム・バンド、R&B、現代音楽やアバンギャルドなど、とにかく手当たり次第聴いていて、新しい音楽との出会いを求めて、何でもスポンジのように吸収していました。
当時地元金沢の大学のジャズ研や美大の軽音部の人たちとバンドをやっていて、この曲はライブでよく演奏していました。簡単なリフの繰り返しだけどかっこ良くて、黒人のファンク・グルーヴに雷が落ちたような衝撃を受けました。セッションがとにかく楽しくて、この頃のライブ活動で経験したワクワク&ドキドキの高揚感はミュージシャンの自分にとっての財産です。
3. 長谷川健一 / 夜明け前
ハセケンさんは20代最後に受けた衝撃でした。
金沢のギタリスト・石川征樹とライブをした後、車で移動中に聴かせてもらったのが最初でした。
最初はよく分からなくて、でもずっと印象に残っていて。その半年後に初めてお会いしてライブを観ました。
マイクを使わない歌とギターだけの素朴な演奏だったけど、そこにはとてもたくさんのものが含まれていて、何にも代えられない至福の時間でした。ライブを見て涙が止まらなくなったのは後にも先にもこの時だけです。
ハセケンさんとの出会いをきっかけに徐々に日本語に戻って来たというか、また言葉と向き合うようになってきました。
最近は10代の頃のようにまた自分の言葉で歌うようになってきて、新作「k is s」にもその影響は続いています。
昔に比べるとずいぶんサウンドは変わったけど、一番根っこの部分はずっと変わってないんだと思います。
Message
手塚治虫が残した「一流の漫画家になりたいなら漫画だけ読んでいてもダメ。一流の音楽や映画、絵画、あらゆるジャンルの一流に触れろ」という言葉があって、自分はその教えを忠実に守ってきたのかもしれない。
ジャズならMiles Davis、映画ならStanley Kubrick(スタンリー・キューブリック)や黒澤明、アニメーションなら宮崎駿、それぞれの世界にはその道を究めたマスターがいます。広く浅くでもいいからそういうものに一度は触れておいた方がいいと思います。たとえそこで何も得るものがなかったとしても。
アートって出会い方が重要で、例えば同じ音楽をiPhoneで聴くのとレコードで聴くのでは経験できる情報量がまったく違う。
ちょっと手間がかかるけど、レコードに針を落として良いスピーカーで聴いてみると、そこに新たな発見があったりする。
なんでも簡単に手に入る時代だからこそ、なにか自分なりにこだわりを決めて、意図的に出会い方を演出してみると楽しいと思います。
Profile
Kan Sano
キーボーディスト、トラックメイカー、プロデューサー。バークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲科卒業。
リリースした3枚のソロ・アルバムや、メンバーとして参加している松浦俊夫 presents HEXは国内のみならずアジア、ヨーロッパでもリリースされ話題となり、”FUJI ROCK FESTIVAL”、”RISING SUN ROCK FESTIVAL”、”朝霧JAM”、”Monterey Jazz Festival”、”World Wide Festival”(フランス)など国内外の大型フェスに出演。
キーボーディスト、プロデューサーとしてもChara、UA、大橋トリオ、藤原さくら、RHYMESTER、青葉市子、Seiho、須永辰緒、佐藤竹善、Madlib、Shing02、いであやか、Ovall、mabanua、Eric Lau、七尾旅人、Monday Michiruなどのライブやレコーディングに参加。
また国内外のコンピレーションに多数参加する他、LION、カルピス、CASIO、ジョンソン、NTT、日本管理センターのCMやJ-WAVEのジングルなど各所に楽曲を提供。
新世代のトラックメイカーとしてビート・ミュージック・シーンを牽引する存在である一方、ピアノ一本での即興演奏ライブも展開。ジャズとクラシックを融合したような独自のスタイルが話題となる。
またリミックスやオリジナル楽曲をコンスタントに発表しているSoundCloudにも多くのフォロワーが付き、累計40万再生を記録するなど多方面で活躍中。
2016年、『C’est la vie feat. 七尾旅人』を7inchで発売、発売直後に早くも希少アイテムとなっている。
また七尾旅人に加え、Maylee Todd、Michael Kaneko、島村智才を迎え、自身のボーカル曲も多数収録した 3rdアルバム『k is s』を発売。
2017年、約3年振りの全国ツアー”Magical kiss tour 2017″を敢行。
【リリース情報】
Kan Sano 『k is s』
Release Date:2016.12.7 (Wed)
Label:oigami PRODUCTIONS
Cat.No.:OPCA-1031
Price:¥2,300 + Tax [CD]
Tracklist:
1. Penny Lane
2. Magic!
3. Reasons feat. Michael Kaneko
4. C’est la vie feat. 七尾旅人
5. lovechild
6. Can’t Stay Away feat. Maylee Todd
7. Momma Says feat. 島村智才
8. LAMP
9. と び ら
10. Awake Your Mind
11. Let It Flow