Text by Naoya Koike
Photo by Spotify
Spotifyが主催するイベント『Early Noise Night #15』が3月15日(金)、東京・渋谷Spotify O-EASTにて開催された。
国内の新進気鋭のアーティストをサポートするプログラム『RADAR: Early Noise 2023』の一環として行われる本公演。今回はSkaai、TOMOO、ヤングスキニー、れん、DURDNの5組が登場し、個性の異なる5通りのサウンドが新たな風を吹かせた。
『Early Noise Night』は2017年5月よりスタート。これまでCHAI、あいみょん、SIRUPなど、多数のアーティストがブレイク前に出演したことでも知られ、コロナ禍で惜しくも中止となった2020年3月の『Early Noise Night TYO』には、その後に躍進を遂げる藤井風やVaundyをはじめ、JP THE WAVY、 Momが出演予定だった。そこからおよそ2年半の時を経て、昨年末に第14回が復活開催。今回は2023年第1弾となる。
前回に引き続き、会場にはSpotifyのブランド・カラーを軸とした蛍光灯の装飾などでコンセプチュアルな空間演出が施されていた。今回も開場から早々にフロアは満員御礼。ここから新たな音楽が発信されていることが着々と浸透しつつあるのだろう。
DURDN
最初に登場したのはDURDN。韓国出身のシンガー・Bakuと、トラックメイカーのSHINTA、トップライナーのyaccoによるプロデュース・デュオ、tee teaから成るプロジェクトである。今回はドラムス・Ryohei Harashima、ベース・Akira Nakashima、鍵盤・Jun Tomodaら腕利きサポート陣が脇を固めた。
「皆さんこんばんは、DURDNです」と呼び掛けてから、ドラムの4つ打ちとベースから始まる「WARUNORI」で軽快な演奏がスタート。続く「All of You」では、黒いキャップを深めに被ったBakuがステージ下手前方を動き回りながら、ミックスボイスを響かせた。友田のキーボードからSHINTAのギターに繋がるソロ・リレーも見せ場である。
16分音符で食い込むリズムで80’sの匂いを醸し出す「捨てたらいい」では、サビの1拍目を抜くアレンジが気持ちいい。あえてエンディングの音を長く伸ばさず、クールに終わるのも特徴だと感じた。
MCを務めるのはSHINTA。「『Early Noise』に選んでいただいて、今年は色々なことが決まっています。ここで今年初のライブをできることも感謝」と短く話してから「今日は曲をたくさんやりたい」と告げて再び演奏へ。
先日リリースしたばかりの「My Plan」、儚げな声のサンプルがループするビートの「apart」、タイトなギターカッティングが効いた「忘れたいね」と繋げる。疾走感を保ちつつ、アウトロはギターによる息の長いメロディで締めた。
Skaai
続いては1DJ+1MC体制に転換されたステージに、Skaaiが迷彩のパンツに緑のフーディーとキャップ姿で暗闇の中から登場。
「Say hiphop!」とオーディエンスに投げかけるも反応は渋い。それを受けて「なるほどね。今日はヒップホップを教えてあげます」と語り、アカペラから「BEANIE」を披露。
「Period.」では下を見ながら力強く、時に乱れるような手振りの挙動とともにラップを紡いでいく。次の「Laws of Gravity」は3連符のグリッドで細かく物語を紡ぎ、エンディングで暗転。
「こんなに大勢の人に見てもらえるなんて、テンション上げて来ました。『Early Noise』に選出していただけて光栄です。貴重ですし、僕も必死にアーティスト活動しているので、このラッパー、イカしてるなと思ってもらえたら嬉しい」と、MCを短く済ませて「FLOOR IS MINE」へ。ビートに含まれている自分の声にリアルタイムの声を重ねながら、メロディアスに魅せていく。「HOMEWORK」は青の照明が映え、終盤の細かいフロウもバッチリと決め、メロウなビートの「I TASTE YOU」は音を体全体で楽しむ様子が微笑ましかった。
最後に持ってきた代表曲「Nectar.」はフックをアカペラで歌ってから、DJ uinがビートを投下。最後まで堂々と歌い切り、ヤングスキニーへバトンを繋ぐ。
ヤングスキニー
ステージ上は再びバンド編成に戻る。そして、かやゆー(Gt. & Vo.)、ゴンザレス(Gt.)、りょうと(Ba.)、しおん(Dr.)がスタンバイ。金髪にスーツの、かやゆーがアカペラを披露した後、セットリスト1曲目として披露されたのはエレピが特徴的な「コインランドリー」だ。がかき鳴らされるのは、これまでのアクトとは異なったバンド・サウンドである。
2曲目「ゴミ人間、俺」では拳を挙げるオーディエンスが、「美談」ではビルドアップしていくアレンジとドラムス・しおんのコーラスが入るサビが印象的だった。MCでは、かやゆーが「バンドで唯一選ばれて、貴重な経験をさせてもらっています」とコメント。さらに気だるげにタイトル・コールしてから歌われた「本当はね、」のサビでは合唱が起き、フロアにライブハウスらしい熱気が立ち込めた。
「らしく」では会場にクラップを求めてからジャンプへと誘導。まるでコロナ禍で抑圧された青春を奪還するようであった。そして《僕は僕だ》と繰り返されるリリックは邦ロックの本懐のひとつである“存在証明”に他ならない。荒削りで構築的ではない若さを感じるステージだった。
れん
れんは本企画で唯一、単身で舞台に立った。レザーの細身パンツにシャツという中性的な風貌。マイクスタンドにもたれるような体制で少し間をおいてから歌い始める。
紫のスポットに照らされつつ歌うのは、2021年9月にリリースされたデビュー曲「嫌いになれない」。続く「緋寒桜」でも低音を響かせ、楽曲の世界観とリンクした映像と共に披露。3曲目「空っぽ」はタイトルの通り、リズム・トラックのブランクを満たす儚い声で観客を魅了した。
ここで短くMC。「まさか『Early Noise 2023』に選出されると思っていなかったので嬉しいです」と話す彼は、アーティスト活動を始めて1年半でこの舞台に立ったという。そのスピード感にも驚くばかり。
続いて自身と同世代で、同じく『RADAR:Early Noise 2023』に選出されているアーティスト、なとりの「Overdose」をカバー。前半とは打って変わってファンキーに展開していく。さらに昨年ヴァイラル・ヒットした「最低」ではエレキ・ギターも演奏しながらパフォーマンスし、この日初披露となった「変わりゆく季節」では再び儚い声を聴かせ、その音楽的引き出しの豊かさをプレゼンテーションした。
TOMOO
トリを飾るのはTOMOO。注目すべきはバンドの編成である。脇を固めるサポート・メンバーは大月文太(Gt.)、勝矢匠(Ba.)、関口孝夫(Dr.)、横山知子(Ts.) 小松悠人(Tp.)、前田大輔(Tb.)、永田昴生(Bs.)。ホーン・セクションも入った豪華なサポート・メンバーらがTOMOOの歌声に華を添える。
初手「HONEY BOY」のイントロだけピアノを弾いた後、ハンド・マイクでステージ中央前方へ。間奏のホーン隊のソリなどもポップスみ全開で、あっという間にウキウキとした雰囲気を作り上げる。Chicago「Saturday In The Park」と同じ和声進行の「オセロ」も軽やかに歌唱。オレンジ色のインナーが挿し色の衣装も合わさり、春を感じさせた。
続いて「『Early Noise Night』盛り上がりましたね。憧れだったので選出されて嬉しいです。競演のみんなも初めてで楽しみましたが、全員が新しい出会いが多い時間だったのではないでしょうか?」と呼び掛ける。フロアからは温かい拍手が。
そしてSpotify O-EASTの下の会場にて出演したイベントの思い出が詰まっている、と言って弾き語ったのは「レモン」。黄色の照明に照らされながら、言葉の果汁が滴るような生の感触に酔いしれた。次の「Ginger」はスパイシーなピアノを聴かせてから、2コーラス目をハンド・マイクで歌う。ボブを揺らしながら歌う姿にきゅんときた。
クロージングは「Cinderella」。抑制された冒頭からサビで解放される感情、小さい身体から放たれる歌声の波動で観客の心を鷲掴みにする。最後はワイルドなギター・ソロでフィニッシュ。
出演した5組の新星たちは今後どのように日本のシーンで活躍していくのだろうか。彼らの行く末を引き続き見守っていくと同時に、国内におけるネクスト・アーティストの見本市『Early Noise Night』の次回にも期待したい。
01. WARUNORI
02. All of You
03. 捨てたらいい
04. My Plan
05. apart
06. 忘れたいね
【Skaai】
01. BEANIE
02. Period.
03. Laws of Gravity
04. FLOOR IS MINE
05. HOMEWORK
06. I TASTE YOU
07. Nectar.
【ヤングスキニー】
01. コインランドリー
02. ゴミ人間、俺
03. 美談
04. 本当はね、
05. らしく
【れん】
01. 嫌いになれない
02. 緋寒桜
03. 空っぽ
04. Overdose
05. 最低
06. 変わりゆく季節
【TOMOO】
01. HONEY BOY
02. オセロ
03. レモン
04. Ginger
05. Cinderella